労働委員会命令データベース

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概要情報
事件番号・通称事件名  宮城県労委平成30年(不)第2号
佐田不当労働行為審査事件 
申立人  X組合{「組合」) 
被申立人  Y1会社・Y2会社 
命令年月日  令和2年9月26日 
命令区分  一部救済 
重要度   
事件概要   本件は、Y1会社(令和元年8月1日に商号をY2会社からY1会 社に変更するとともに、同日以降、Y1会社の100%子会社として設立された会社がY2会社に商号変更し、C1工場の従業員 の雇用を引き継いだ。)C1工場の施設内において、①Y1会社とアドバイザリー業務契約を締結しているC2会社の代表取締役 社長であり、また、企業外ハラスメント等防止共済組合代表でもあるC3社会保険労務士が、組合の組合員に組合脱退届用紙を配 付したこと、②組合が組合の臨時大会を開催するために申し入れた社内施設の利用をY1会社が拒否したことが労働組合法第7条 第3号に、③組合が申し入れた団体交渉にY1会社が応じなかったことが同条第2号に該当する不当労働行為であるとして、平成 30年6月19日に当委員会に対して救済が申し立てられた事案である。さらに、④Y1会社が、脱退届用紙に署名した組合員の チェック・オフを停止したことが同条第3号に、⑤組合のA執行委員長の平成30年夏季賞与を不支給としたことが同条第1号及 び第4号に該当する不当労働行為であるとして、平成31年4月17日に救済の追加申立てがなされた事案である。
 宮城県労働委員会は、Y1会社及びY2会社に対し、①、②及び④について労組法第7条第3号、③について同条第2号並びに ⑤について労組法第7条第1号及び第4号、にそれぞれ該当する不当労働行為であるとして、支配介入の禁止、誠実な団交応諾、 チェック・オフに関する誠実な協議及び賞与の支給とともに、文書の交付を命じ、その他の申立てを棄却した。 
命令主文  1 被申立人Y1会社及び同Y2会社は、申立人の組合員に組合脱退通知書の用紙を配付すること、組合員を他の労働組合に加入させようとすること、組合の団結を維持するために加 入継続の意思確認を行う申立人の行為に対して抗議する文書を作成し、申立人に配付するなどして組合員の脱退を既成事実化する ための活動をすること、正当な理由なく組合の施設利用を拒否することにより、申立人の運営に支配介入してはならない。
2 被申立人Y1会社及び同Y2会社は、申立人が平成30年3月30日、4月9日、5月14日及び5月24日に申し入れた団体交渉に、速やかに、かつ、誠実に応じなければなら ない。
3 被申立人Y1会社及び同Y2会社は、本命令書写しの交付の日以後、速やかに、チェック・オフに関して申立人と誠実に協議しなければならない。
4 被申立人Y1会社及び同Y2会社は、A組合執行委員長に対する平成30年夏季賞与について、公正かつ妥当に査定を行い、それに基づき支給しなければならない。
5 被申立人Y1会社及び同Y2会社は、本命令書写しの交付の日から10日以内に、日本産業規格A列4番以上の大きさの白紙に下記の文書を記載し、押印の上、申立人に対して、 交付しなければならない。

令和 年 月 日 
  組合
  執行委員長 A 殿
 令和元年8月1日の商号変更前のY2会社(現在はY1会社及びY2会社。以下「当社ら」という。)が行った下記の行為は、 宮城県労働委員会により、労働組合法第7条第1号、第2号、第3号及び第4号に該当する不当労働行為であると認定されまし た。
 よって、今後、当社らは、このような行為を繰り返さないようにいたします。
 1 平成30年3月29日及び同年4月3日、C3社会保険労務士を通じて貴組合員に組合脱退届用紙を配付したこと。
 2 貴組合員をC4労働組合に加入させようとしたこと。
 3 貴組合からの脱退を既成事実化するための活動を行ったこと。
 4 平成30年3月30日、4月9日、5月14日及び5月24日に貴組合から申入れがあった団体交渉に応じなかったこと。
 5 平成30年5月24日に貴組合から申入れがあったC1工場2階食堂の利用を拒否したこと。
 6 貴組合員による組合脱退の申出が真意に基づくものであるかを確認せず、また、貴組合に対し連絡・確認を行うことなく同 年6月5日の給与からA執行委員長以外の貴組合員のチェック・オフを停止したこと。
 7 A執行委員長の平成30年夏季賞与を不支給としたこと。
Y1会社        
代表取締役 B1
Y2会社        
代表取締役 B1
 (注:年月日は、文書の交付の日を記載すること)
6 申立人のその余の申立てを棄却する。 
判断の要旨  1 組合員による脱退届提出に係るY1会社とアドバイザリー業務契約を締結しているC2会社代表取締役社長のC3社会保険労務士及び企業外ハラスメント等防止共済組合の一連の 行為はY1会社による労働組合法第7条第3号の支配介入と認められるか。(争点1)
 Y1会社は、平成29年9月26日の段階から共済組合と協調して行動しており、平成30年3月29日に、共済組合の代表で あり、また、Y1会社とアドバイザリー業務契約を締結しているC2会社代表取締役社長のC3氏を通じ、組合員に脱退届用紙を 配付するという行為を行い、A執行委員長を除くC1工場の全組合員が脱退届を提出するという状況を招いたことが認められる。 さらに、組合員がC4労働組合に加入したという形態を取ることによりユニオン・ショップ協定に基づく組合員の解雇を回避する ため、C3氏を介して組合員をC4労働組合に加入させようとしたと認められる。その後もY1会社は、C4労働組合と労働協約 を締結し、団結を維持するための組合の行為に対して抗議する文書を出すなど組合員の脱退を既成事実化するための活動を、共済 組合及びC4労働組合と協調して行っていることが認められる。よって、C3氏及び共済組合によりなされた一連の行為は、これ らの者がY1会社と無関係に行ったものではなく、組合の弱体化を目的としてY1会社と一体的に行われた行為と認められるか ら、Y1会社による労働組合法第7条第3号の支配介入に該当する。
2 平成30年3月30日、4月9日、5月14日及び5月24日に組合が行った4回の団体交渉申入れに対するY1会社の対応は、労働組合法第7条第2号の団体交渉拒否と認めら れるか。(争点2)
ア 平成30年3月30日の団体交渉申入れに対するY1会社の対応について
 平成30年3月30日の組合らの団体交渉申入れに対して、Y1会社は、共済組合に関する交渉事項は労使関係に関する事項で はない等と回答し、団体交渉に応じていないことが認められる。しかし、同月29日に、Y1会社が、共済組合と共同で開催した 共済組合の説明会において配付された脱退届の用紙は、労働組合と使用者の関係性(団体的労使関係)に関わるものであるから、 この説明会に関する事項が、団体的労使関係の運営に関わる事項であることは明らかである。そして、この脱退届用紙の配付は、 組合の内部運営事項に介入する行為であり、団体的労使関係に影響を及ぼしていることが認められる。したがって、共済組合に関 する事項は労使関係に関する事項ではないとして、共済組合に係る団体交渉の開催を正当な理由なく拒んでいるY1会社の対応 は、労働組合法第7条第2号の団体交渉拒否に該当する。
イ 平成30年4月9日の団体交渉申入れに対するY1会社の対応について
 平成30年4月9日に組合らは、前記アの交渉事項にY1会社による組織介入の有無という事項を加えて、団体交渉開催を申し 入れている。この交渉事項は、前記アと同様に、団体的労使関係の運営に関わる事項であり、義務的団交事項に該当する。それに もかかわらず、Y1会社は、同月17日付けの文書でも義務的団交事項ではない旨を回答し、団体交渉開催を拒んでいると認めら れるから、Y1会社の対応は、労働組合法第7条第2号の団体交渉拒否に該当する。
ウ 平成30年5月14日の団体交渉申入れに対するY1会社の対応について
 平成30年5月14日に組合らは、前記イの交渉事項のうち、組織介入の有無という事項を交渉事項として、Y1会社に団体交 渉開催を申し入れているが、前記イと同様に、Y1会社は、同月21日付けの文書でも義務的団交事項ではない旨を回答し、団体 交渉開催を拒んでいる。しかし、同交渉事項は前記イのとおり義務的団交事項と認められるから、Y1会社の対応は、労働組合法 第7条第2号の団体交渉拒否に該当する。
エ 平成30年5月24日の団体交渉申入れに対するY1会社の対応について
 平成30年5月24日に組合らは、労使関係のルールを交渉事項として、団体交渉開催を申し入れているが、Y1会社は、同月 28日付け文書で団体交渉の要求には応えられないと回答して、団体交渉を拒んでいることが認められる。Y1会社は、団体交渉 を拒んだ理由について、申入書に記されている労使関係のルールという交渉事項等が漠然としていたためである旨を主張してい る。しかし、前記イと同様に、単に漠然としているという理由だけで団体交渉に応じない正当な理由があるとは認められない。ま た、そもそも組合らがこのような交渉を申し入れたのは、前記アからウのとおり、Y1会社が義務的団交事項に該当しない旨を述 べて団体交渉に応じず、一方で組合らは義務的団交事項に当たる旨を述べ、また、Y1会社が組合らの組合活動に対して厳重注意 書を提出する一方で、組合らは労働協約を根拠に許される組合活動であると回答するなど、団体交渉の対象事項や施設内での組合 活動のルールに関して、両者に見解の相違が生じていたためであると考えられる。すなわち、労使関係のルールという交渉事項 は、団体交渉の開催ルールや社内施設における組合活動のルールに関する交渉を指しているものと考えられ、Y1会社も、上記の やり取りを組合らと行っていた以上、その内容について十分推測可能であったといえる。したがって、交渉事項等が漠然としてい るという理由で団体交渉に応じなかったというY1会社の主張は認められず、団体交渉に応じない正当な理由があるとは認められ ないから、Y1会社の対応は、労働組合法第7条第2号の団体交渉拒否に該当する。
オ 結論
 よって、平成30年3月30日、4月9日、5月14日及び5月24日に組合らが行った4回の団体交渉申入れに対するY1会 社の対応は、全て労働組合法第7条第2号の団体交渉拒否に該当する。
3 平成30年5月24日に組合が組合の臨時大会を開催するために申し入れた社内施設の利用に対しY1会社が拒否したことは、労働組合法第7条第3号の支配介入と認められる か。(争点3)
 組合活動のため、社内施設利用の必要性が相当程度認められる一方で、当該組合活動によりY1会社に生ずる支障の程度はさほ ど大きくない中で、Y1会社が反組合的意思及び団結を妨げる意図の下、施設利用を拒否していることが認められることから、 Y1会社が組合らによる社内施設の利用を拒否する行為は、施設管理権の濫用であると認められる。
 よって、Y1会社による社内施設の利用を拒否する行為は、労働組合法第7条第3号の支配介入に該当する。
4 Y1会社が、平成30年6月5日の給与支給日以降、組合の組合費に係るチェック・オフを停止したことは、労働組合法第7条第3号の支配介入と認められるか。(争点4)
ア チェック・オフ停止と支配介入について
 Y1会社は、平成30年6月5日の給与支給から、A執行委員長を除く全組合員の組合費のチェック・オフを停止していること が認められる。
 一般に、チェック・オフは、労働組合にとって簡便かつ確実に組合費を徴収することによりその財政基盤を確固たるものとし、 組合組織の維持強化に資するものであることから、団結権の側面においても重要な行為であるといえる。
 チェック・オフは労使間の協定に基づき行うものであるが、使用者が有効なチェック・オフを行うためには、使用者が個々の組 合員から、賃金から控除した組合費相当分を労働組合に支払うことにつき委任を受けることが必要(エッソ石油事件 最高裁第一 小法廷平成5年3月25日判決)であり、従業員からチェック・オフの停止の申し出を受けた場合は原則としてこれを停止しなけ ればならない。
 しかし、従業員からチェック・オフの停止の申し出があった場合でも、その申し出について会社の何らかの関与があり、それ が、労働組合の弱体化、運営・活動に対する妨害の意味を持つものといえるときには、会社によるチェック・オフの停止は支配介 入に当たると言うべきである。
イ 本件におけるチェック・オフ停止の経緯について
 Y1会社は、組合員からの脱退届を受けてC3氏にチェック・オフを行ってよいか質問したところ、同氏から組合脱退後は組合 費を支払うべきではないとの回答がなされたこと、また、複数の従業員から組合費の控除をしないよう求める声があったことによ り、チェック・オフを停止したと主張している。しかし、Y1会社がチェック・オフ停止の根拠としている脱退届は、争点1で判 断したとおり、Y1会社とC3氏が一体となって脱退届用紙を配付して脱退を勧奨するという支配介入行為によって、A執行委員 長を除く全組合員が署名したものである。
 この不当な支配介入行為によって署名された脱退届においては、組合員は自らの自由な意思で組合を脱退したのか疑わしい状況 であったことが認められる。会社は従業員からチェック・オフ停止の申し出を受けた場合は、原則としてこれを停止すべきもので あるが、本件においては、Y1会社の不当な支配介入行為によって脱退屈が提出されていたという特殊な状況であったことを踏ま えると、Y1会社がチェック・オフの停止を行ったことは、組合の弱体化を意図した一連の行為の一部であると評価でき、組合の 組織運営に支配介入しようとしたものと言わざるを得ない。
 また、Y1会社側の提出した5月21日付けの「労働組合費の徴収に関する申し出」は、C3氏が作成した文書にB2工場長が 従業員の署名を集めてまわったものであり、必ずしもこの文書どおりに、各組合員の真意を認定することはできない。仮に、脱退 届や「労働組合費の徴収に関する申し出」を真意に基づき提出した組合員がいたとしても、前述したY1会社による不当な支配介 入行為が行われた状況の下、チェック・オフ規定のある労働協約を締結している組合に対して、チェック・オフ停止に関する連 絡・確認を一切行わず、組合を無視し、一方的にA執行委員長を除く全組合員のチェック・オフを停止した行為は、組合に対して 誠実に手続きを進めたとは言い難く、組合の弱体化を目的とした行為であると認められる。
ウ 結論
 よって、Y1会社が、平成30年6月5日の給与支給日以降、組合の組合費に係るチェック・オフを停止したことは、労働組合 法第7条第3号の支配介入に該当する。
5 Y1会社が、平成30年夏季賞与をA執行委員長に支給しなかったことは、労働組合法第7条第1号の不利益取扱い又は同法 同条第4号の報復的取扱いと認められるか。(争点5)
ア 合理的理由の有無
 不支給が妥当であると決定した基準は示されておらず、Y1会社がA執行委員長について特に問題であったとする言動に関して も、具体的な説明はない。このことについて、Y1会社は、明確な評価基準を設けていないことを認めており、A執行委員長につ いては、直属の上司であるB2工場長が業務評価を行った結果として不支給とせざるを得ないと決定されたと述べている。
 A執行委員長が担当する業務は、出来上がった製品の不備をチェックし、ハンディ型のアイロンで製品のしわを伸ばすといった 製品の仕上げの工程であり、事業年度によって個人の業績に大きな差が生じる業務とは考え難い。Y1会社がA執行委員長の評価 が低かった具体的な理由として述べているのは、仕上げの工程にも関わらず道具を清潔に保てなかったという点のみであり、A執 行委員長の能率が低いことにより仕事が滞ったとか、Y1会社に損害を与えたといった事実は認められない。
 こうした事情に加え、A執行委員長自身は、平成29年から令和元年にかけて自身の業務遂行状況に特に変化は無かったと認識 しているにもかかわらず、夏季賞与は、平成29年は支給、平成30年は不支給、令和元年は支給であったこと、平成30年の上 半期において業務上の指導や注意を受けたことはないこと等の状況を踏まえると、平成30年のA執行委員長の夏季賞与の不支給 が合理的な理由によるものであるとは認められない。
イ 不当労働行為意思の有無
 争点2から争点4まで判断したとおり、平成30年3月29日の共済組合説明会で脱退屈が提出されて以降、Y1会社は、組合 からの団体交渉申入れに応じず、同年5月14日に組合が行ったC1工場における従業員への脱退届に関する聞き取り調査のた め、組合の上部団体であるC5労働組合の職員が工場内に立ち入ったことを不法侵入であると非難し、組合らが申し入れた同月 30日の臨時大会開催のための施設利用を認めず、同年6月の給与支給からチェック・オフを一方的に停止するなど、反組合的態 度を示している。
 組合は、その都度文書で抗議し、平成30年6月19日、Y1会社を被申立人として本件救済申立てを行った。
 本件救済申立て後においても、Y1会社は、平成30年6月28日に、組合との労働協約を同年7月1日以降更新しない旨を通 知し、同月30日付け文書で、A執行委員長が組合の上部団体であるC5労働組合の職員をY1会社敷地内に侵入させ、Y1会社 の許可なく組合員を勧誘し、事実と異なることを流布したとして、A執行委員長の役職を解除し役付手当の支給を停止することを 通知しており、Y1会社の反組合的態度はより顕在化しているといえる。
 こうしたY1会社の対応がなされた時期において、平成30年夏季賞与の支給が同年7月31日に行われ、C1工場内ではA執 行委員長のみが不支給とされた。この不均衡な取扱いについて、前記アのとおり合理的理由は認められず、A執行委員長に係る平 成30年夏季賞与の不支給は、Y1会社が組合及びその代表であるA執行委員長の組合活動を嫌悪し、組合が本件救済申立てを 行ったことで更に嫌悪を深めて不利益な取扱いをしたものと推認せさるを得ない。
ウ 結論
 以上のとおり、A執行委員長に係る平成30年夏季賞与の不支給は、A執行委員長が組合員であること及び組合が本件救済申立 てを行ったことによるものと認められ、労働組合法第7条第1号の不利益取扱い及び第4号の報復的取扱いに該当す る。 
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