労働委員会命令データベース

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概要情報
事件番号・通称事件名  北海道労委平成30年(不)第20号
不当労働行為審査事件 
申立人  X組合(「組合」) 
被申立人  Y会社(「会社」) 
命令年月日  令和2年8月21日 
命令区分  棄却 
重要度   
事件概要   本件は、組合が、会社が、寒冷地手当及び有資格者への資格手当の支給を要求した団体交渉において、会社が上記手当を支給しない根拠や地場企業への調査結果を示さず、団体交渉を一方的に打ち切ったことが労働組合法第7条第2号に該当する不当労働行為であるとして、救済申立てがなされた事案である。
 北海道労働委員会は、申立てを棄却した。  
命令主文  本件申立てを棄却する。 
判断の要旨  (争点)平成29年11月14日の組合による申入れ以降に開催された寒冷地手当等の新設を議題とする団体交渉における会社の対応は、労組法第7条第2号の不当労働行為に該当するか。
1 団体交渉における会社の対応の不誠実性について
(1)会社側の団体交渉出席者の交渉権限について
 組合は、会社が団体交渉に応じてはいるが、決定権のない「団交チーム」と、決定権のある代表取締役及び取締役会との二重構造の下で対応していることを不誠実であると主張する。
 これに対し会社は、団体交渉の出席者が取締役会や代表取締役に報告し、内部において審議した上で意思決定を行っていると主張する。
 一般に、団体交渉に関して、使用者側の交渉担当者の人選は、原則として使用者が自由に決定できるものであり、特定の交渉事項について決定権限がない場合でも、当該交渉担当者が交渉事項について実質的に回答し、説明を行い、あるいは協議をする等の対応をする権限を与えられている限りは、当該交渉担当者による団体交渉が直ちに不誠実になるものではない。
 また、会社の場合、代表者以外の者が団体交渉の担当者として、当該企業内の管理・決定権限の配分に応じて団体交渉権限を付与されていれば、当該交渉担当者は付与された権限に応じて、当該事項につき処理権限(妥結権限)がなくとも、交渉に応じた上、妥結に関しては権限者と諮って適宜の措置がとれるものである。
 両当事者が主張するとおり、会社の経営上の決定権を有するのは、取締役会であるが、会社側の団体交渉出席者には人事担当の常務取締役のほか会社から代理権を付与された弁護士が含まれており、団体交渉の結果や、組合の要求事項等については、会社の取締役会に報告し、対応を協議することとされていた。
 実際、会社側出席者は、取締役会の結果を踏まえ、寒冷地手当等について支給できないことやその理由を団体交渉において説明していたことが認められるだけではなく、組合の要求に応じ労働分配率の資料を提示するといった対応もしており、会社側出席者に交渉権限がなかったとすることはできない。
 したがって、会社側出席者の交渉権限及び経営上の決定権について、組合が「二重構造」と称し、そのことをもって不誠実な対応であるとする主張は採用できない。
(2)団体交渉における会社の説明等の不誠実性について
 組合は、団体交渉において会社が、根拠となる具体的な資料等も一切開示しない中で交渉を打ち切ったと主張する。
 これに対し会社は、組合が自らの意に沿わない回答を会社が行ってことをもって団体交渉拒否、不誠実団交と言っているのにすぎないと主張する。
 一般に、団体交渉において使用者は、誠意をもって団体交渉に当たらなけれぱならず、労働組合の要求や主張に対する回答や自己の主張の根拠を具体的に説明したり、必要な資料を提示するなどし、また、結局において労働組合の要求に対し譲歩することができないとしても、その論拠を示して反論するなどの努力をすべき義務を有する。
 そこで、本件における会社の誠実交渉義務違反の有無を判断するに当たり、組合の要求や主張の内容に係る会社の対応について、以下検討する。
ア はじめに、組合の会社が交渉を打ち切ったとする主張に関しては、寒冷地手当等について協議した団体交渉において、会社から寒冷地手当等に関する交渉を打ち切ったとする発言はなく、会社は、「今シーズンの寒冷地手当の支給は見送る」と回答しているにすぎない。
イ 会社は、一連の団体交渉等において、寒冷地手当等の支給を見送るとの取締役会での結論について回答するに当たり、その理由の説明や資料の提示をしている。
 なお、平成80年10月27日の団体交渉においてB1人事部長が、寒冷地手当等の不支給について、北海道内の状況を調査した上での判断であると説明したものの、調査結果を組合に提示していないが、提示しない理由をB2弁護士は「今、そういう資料をもってきてない」ためと説明しており、会社が一方的に団体交渉を打ち切ったとはいえないことを踏まえると、会社が資料の提示を拒否したとまでは判断できない。
2 不当労働行為の成否
 以上のとおり、本件寒冷地手当等に係る団体交渉について、会社側出席者に交渉権限がなかったとすることはできないし、会社が団体交渉を一方的に打ち切ったとする事実もない。
 また、組合が寒冷地手当等を要求するに当たり、団体交渉の場で、関係する資料を会社に提示したり、会社に資料を求めたことに対して、会社は、寒冷地手当等を支給しないとする取締役会の決定を伝えるのみでなく、その理由についても具体的に説明していることや、組合が、団体交渉の場で、会社に対し労働分配率の資料の提示を求めたことに対しても、次の団体交渉時に資料を提示し説明しており、一方的に回答のみを伝えるといった対応ではなかった。
 さらに、平成30年10月27日の団体交渉において、組合が、寒冷地手当等の不支給について北海道内の状況に関する会社の調査結果の資料を要求したことについても、会社がそれを拒んだとまでは認められないことを勘案すると、本件における会社の対応を不誠実な対応であると認めることはできない。
 したがって、本件団体交渉における会社の対応は、労組法第7条第2号の不当労働行為に該当するとはいえない。 
掲載文献   

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