労働委員会命令データベース

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概要情報
事件番号・通称事件名  広島県労委令和元年(不)第3号
ラクサス・テクノロジーズ不当労働行為審査事件 
申立人  X組合(「組合」) 
被申立人  Y会社(「会社」) 
命令年月日  令和2年8月7日 
命令区分  全部救済 
重要度   
事件概要   本件は、会社が組合に所属しているA1組合員の退職を団体交渉事 項とした、令和元年10月2日付けの団体交渉要求に応じなかったことは、労働組合法第7条第2号の不当労働行為に該当すると して、12月17日、組合から救済申立てがあった事案である。
 広島県労働委員会は、会社に対し、正当な理由のない団交拒否に当たる不当労働行為であるとして、団交応諾を命じ た。 
命令主文   被申立人会社は、申立人組合からの令和元年10月2日付け文書に よる団体交渉要求に対して、本命令書を受領した日から2週間以内に応じなければならない。 
判断の要旨  (争点)会社が本件団体交渉要求に以下の理由で応じなかったこと は、労働組合法第7条第2号所定の「正当な理由」に該当するか。
(1) 本件退職の手続に問題はなかったこと。
(2) 10月10日の組合の電話における言動は恐怖感を与えるものであり、会社内の安全を守るため、粗暴な言動をする組合 との交渉は難しいこと。
1 本件退職の手続に問題はなかったこと。
(1) 本件団体交渉要求の議題であるA1組合員の「解雇問題」とは、本件退職届の撤回の受理及び同組合員が会社の社員であることの地位確認と解されるところ、これらは、「労働条 件その他の待遇」に関する事項であって「使用者に処分可能なもの」であり、義務的団体交渉事項に当たる。
(2) そして、会社が本件退職の手続に問題がなかったと判断しているとしても、A1組合員及び組合から書面(注:10月2日付け、A1組合員の退職届の撤回通知及び「解雇問題」 などを議題とする団体交渉要求の文書)が届いており、義務的団体交渉事項について組合と会社で見解が異なっているのであるか ら、会社は団体交渉の場で、本件退職の手続に問題がなかったと判断している理由や資料を示して丁寧に組合に説明すべきであ り、一方的に本件団体交渉要求を拒否できる正当な理由には該当しない。
2 10月10日の電話における組合の言動は恐怖感を与えるものであり、会社内の安全を守るため、粗暴な言動をする組合との 交渉は難しいこと。
(1) 団体交渉は、誠実に、平和的かつ秩序ある方法で行われなければならず、暴力の行使が許容されるものではないことは、 労働組合法第1条第2項ただし書の規定を待つまでもなく明らかである。
 しかしながら、会社が主張するように、単に使用者が身の危険と恐怖を感じたというだけで団体交渉を拒否する正当な理由が認 められるとすれば、使用者の主観的な判断によって団体交渉を拒否できることとなり、憲法第28条によって認められた団体交渉 権が保障されないことになる。
 したがって、将来行われる団体交渉の場において、労働組合の代表者等が暴力を行使する蓋然性が高いと認められる場合に、使 用者は、正当な理由があるものとして、労働組合の言動を理由に団体交渉を拒否することができると解される。
 そして、暴力行使の蓋然性が高く団体交渉の拒否に正当な理由があるか否かは、使用者及び労働者双方の従前の団体交渉その他 の折衝の場における態度等諸般の事情を考慮して決するのが相当である(東京地裁昭和58年12月22日判決(労働判例424 号44頁)「マイクロ精機事件」参照)。
(2) A2副委員長はC社員に対し、同意なしに会社に赴く旨を強い口調で通告したことが認められる。
 そこで、上記組合の対応からみて、団体交渉において組合が暴力を行使する蓋然性が高いといえるか、以下検討する。
ア 本件団体交渉要求の後、会社から回答がなく、団体交渉日が10月11日に迫っていたため、同月9日、A2副委員長は会社 に回答を催促したが、同日中に回答はなかった。そして、翌10日に同副委員長は再度回答を催促したが、C社員は、担当者が不 在であるとして、その場で回答しなかった。
 そうすると、組合が同意なしに会社に赴く旨を強い口調で通告したのは、このように組合から本件団体交渉要求について再三に わたり回答を要求されたにもかかわらず、会社が明確に回答しなかったためであり、会社の態度に原因があると解される。
イ A2副委員長とC社員の電話でのやり取りは、わずか数分程度であって、長時間にわたって暴力的な言動を繰り返したという ものではなかったことが認められる。
ウ 「押し掛けるぞ」という趣旨の表現が使われたとしても、本件団体交渉要求に対する回答がないという状況の下では、会社の 同意がなくても出向くという意味合いのものであり、会社の事務所で社員に危害を加えることまで意味するものと解することはで きない。
 以上のことから,組合が暴力を行使する蓋然性が高いとはいい難い。
(3) さらに、本件団体交渉要求に対する会社の対応について、以下検討する。
ア 上記(2)のアのとおり、組合が本件団体交渉要求に対する回答を何度も要求したのに、明確に回答していない。
イ (10月10日18時前に会社が組合に送信した)「ご回答書」において自らが設定した条件に固執し、(会社が設定した 11月14日の)回答期限までは会社に対する一切の連絡を控えることなどを組合に求め、事前の調整すら一切拒否している。
ウ 上記(2)のとおり、組合が暴力を行使する蓋然性が高いとはいい難いのであるから、団体交渉を開催する場所や所要時間、 出席人数、平穏に交渉することなどのルールを事前に定めた上で団体交渉を行うこともできるのに、そのような努力も行っていな い。
 すなわち、会社は、平穏な交渉が実現できるような努力を全く行っておらず、A2副委員長の言動から身の危険と恐怖を感じたと いう主観的な判断のみをもって、組合に保障された団体交渉権を無視するような不誠実な態度に終始していると認められる。
(4) 以上から、会社が本件団体交渉要求に誠実に対応しなかったために組合は、このような態度になったものとみるのが相当 であり、会社の主張に理由はなく、会社が本件団体交渉要求に応じないことはできないというべきである。
3 結論
 以上のことから、会社が本件団体交渉要求に応じなかったことは、その理由が正当なものとは認められず、労働組合法第7条第 2号の不当労働行為に該当する。
 
掲載文献   

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