労働委員会命令データベース

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概要情報
事件番号・通称事件名  東京都労委平成29年(不)第70号
東京空港交通不当労働行為審査事件 
申立人  X組合(「組合」) 
被申立人  Y会社(「会社」) 
命令年月日  令和2年7月7日 
命令区分  一部救済 
重要度   
事件概要   組合と会社とは、平成26年12月12日付けで、組合員の業務負 担を軽減することなどを内容とする「確認書」(「本件合意A」)を締結した。また、組合と会社とは、輸送人員明細表(リムジ ン・バスの運転手が乗降客数と到着時刻を記録する書類)の取扱い、事務職員が休日出勤する場合の取扱いなどについて、27年 11月27日付「確認書」(本件合意B)及び同月30日付「合意メモ」(「本件合意C」)により合意した。
 以後、会社は、一部路線について、輸送人員明細表における乗降客数の記載をやめたり、同明細表の作成自体を廃止したりした が、それ以外の路線において、従来どおり輸送人員明細表の記載を継続している。
 29年9月27日、組合は、当委員会に対し、輸送人員明細表に係る合意を履行することなどを求めて本件不当労働行為救済申 立てを行った。
 また、組合は、10月17日、組合員の労働条件について団体交渉の申入れがあったときは誠実に応ずること、12月13日、 本件合意B及び本件合意Cにおける事務職員の休日出勤に係る合意を履行することなどを求めて本件の追加申立てを行った。
 本件は、①本件合意A、本件合意B及び本件合意Cで合意した業務負担に関する妥結内容の履行に係る会社の対応は、組合活動 に対する支配介入に当たるか(争点1)、②輸送人員明細表の廃止をめぐる団体交渉における会社の交渉態度は、不誠実な団体交 渉に当たるか(争点2)、③本件合意B及び本件合意Cで合意した休日出動の振替休日等に係る会社の対応は、組合活動に対する 支配介入に当たるか(争点3)が争われた事案である。
 東京都労働委員会は、会社に対し、③について労組法第7条第3号の支配介入に該当する不当労働行為であるとして、文書の交 付を命じ、その他の申立てを棄却した。  
命令主文  1 被申立人会社は、本命令書受領の日から 1週間以内に下記内容の文書を申立人組合に交付しなければならない。
 年 月 日
組合
執行委員長 A 殿
会社       
代表取締役 B
 当社が、貴組合との平成27年11月27日付「確認書」第3項及び同月30日付「合意メモ」第3項(2)で合意した休日出 勤の振替休日等に係る事項を遵守していなかったことは、東京都労働委員会において不当労働行為であると認定されました。
 今後、このような行為を繰り返さないよう留意します。
 (注:年月日は、文書を交付した日を記載すること。)
2 被申立人会社は、前項を履行したときは、速やかに当委員会に文書で報告しなければならない。
3 その余の申立てを棄却する。 
判断の要旨  1 本件合意A、本件合意B及び本件合意Cで合意した業務負担に関 する妥結内容の履行に係る会社の対応は、組合活動に対する支配介入に当たるか(争点1)
ア 輸送人員明細表の取扱いについての合意内容
(1)26年12月12日付けの本件合意Aは、「個々の具体的内容について状況を調査し、必要なものは改善する。」というも のであり、具体的な履行内容を合意したものとは認められない。
(2)本件合意Cの趣旨は、本件合意Bの内容を改めて確認したものとみるのが相当である。
(3)したがって、本件における輸送人員明細表に係る合意は、本件合意Bに規定されているとおり、廃止可能なものについては 準備が整い次第実施することとし、課題として残っているものについても速やかに解決に向け継続して協議することであると解さ れる。
イ 合意の不履行があったか
(1)会社は、本件合意Bの締結翌日である27年12月16日に、1路線について輸送人員明細表における乗降客数の記載をや めている。また、28年9月1日及び10月1日には、一部の路線の輸送人員明細表を廃止し、29年4月1日にも一部の路線の 輸送入員明細表における乗降客数の記載をやめている。また、輸送人員明細表廃止に向けて乗降客カウントセンサなどの導入を検 討していた。
 さらに、27年度が終了する前である28年2月23日及び3月9日には、会社は、労使会議において、引き続き輸送人員明細 表を作成する必要があると考えていることを組合に説明している。
 このように、会社は、輸送人員明細表について、廃止が可能なものは順次廃止しており、また、廃止できないものについても組 合と協議を行っており、合意に従った対応をしているということができる。
(2)以上のとおり、会社は、輸送人員明細表について、廃止が可能なものについては順次廃止し、廃止できないものについては 組合と協議を行うなど、組合との合意に沿った対応をしており、本件合意AないしCに係る会社の対応は、組合活動に対する支配 介入には当たらない。
2 輸送人員明細表の廃止をめぐる団体交渉における会社の交渉態度は、不誠実な団体交渉に当たるか(争点2)
 輸送人員明細表の廃止に係る団体交渉での会社の対応が不誠実であったとまでは認められない。
3 本件合意B及び本件合意Cで合意した休日出動の振替休日等に係る会社の対応は、組合活動に対する支配介入に当たるか(争 点3)
(1)会社は、本件合意B第3項及び本件合意C第3項(2)で合意した事項を遵守したとはいえず、また合意を遵守する努力も 怠っていたといえる。そして、休日の振替休日等が厳格に管理されていなかったことを踏まえ、本件合意Bでその改善を図ること を労使間で確認した上、本件合意Cでは、「必ず事前に振替休日を設定して実施し」、「3か月以内に必ず代休を取得させる」、 「責任を持って説明する。」など強い文言で実施の徹底等を図ることが労使間で合意された経緯を考えれば、本件合意B及び本件 合意Cがあるにもかかわらず、事前の振替休日の設定をせず、3か月以内に代休を取得させることもせず、その理由も説明せず、 同一給与計算期間の精算も行わなかった会社の対応は、労使間で懸案事項となっていた振替休日等の管理の改善と実施の徹底を 図った組合との合意を軽視するものであるといわざるを得ない。このような会社の対応は、組合との合意を軽視することにより、 組合員や従業員の組合に対する信頼を損ない、組合を弱体化させるものであるから、組合の運営に対する支配介入に当たるといえ る。
(2)なお、会社は、現時点では合意違反がないとして救済利益がない旨の主張もしている。しかし、令和元年9月時点では、本 件合意Cに沿った運用がなされるようになっていたとしても、上記(1)のとおり、会社には組合との合意を軽視する姿勢がみら れるのであり、今後、会社が同様の行為を繰り返すおそれがないとはいえないことから、救済利益が失われたということはできな い。 
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