労働委員会命令データベース

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概要情報
事件番号・通称事件名  沖縄県労委平成31年(不)第2号
日本コンセントリスク(株)、あいおいニッセイ同和損害保険(株)不当労働行為審査事件 
申立人  X組合(「組合」) 
被申立人  Y1会社・Y2会社 
命令年月日  令和2年7月9日 
命令区分  却下・棄却 
重要度   
事件概要   本件は、Y1会社が労働者派遣契約に基づきY2会社に対して労働 者を派遺していたとごろ、Y1会社の労働者らで組識される組合が、組合の執行委員長であるAの雇止めにつき、Y1会社及び Y2会社による労働組合法第7条第1号の不利益取扱いに該当するとして、また組合結成時からの組合による団体交渉申入れに対 するY1会社の対応が労組法第7条第2号の団体交渉拒否に該当するとして、救済を申し立てた事案である。
 沖縄県労働委員会は、申立ての一部を却下し、その余の申立てを棄却した。 
命令主文  1 申立人の申立てのうち、平成30年3月26目以前の団体交渉申入れに係る申立てについては却下する。
2 申立人のその余の申立てを、いずれも棄却する。 
判断の要旨  1 本件雇止めについてのY2会社の労組法第7条の使用者該当性(争点1)について
 Y2会社は、Y1会社との間の労働者派遣契約に基づき、Y1会社からAを含む派遣労働者らの派遣を受けている派遣先事業主 である。
 労組法第7条の使用者は、一般に労働契約上の雇用主をいうところ、雇用主以外の事業主であっても、雇用主から労働者の派遺 を受けて自己の業務に従事させ、その労働者の基本的な労働条件等について、雇用主と部分的とはいえ同視できる程度に現実的か つ具体的に支配、決定することができる地位にある場合には、その限りにおいて、当該事業主は労組法第7条の使用者に当たると 解される。
 本件においては、Aとの有期労働契約の締結、各更新手続及び本件雇止めの通知等の雇用管理は、雇用主であるY1会社が行っ ており、また、本件雇止めの理由となった限定正社員制度の導入、同制度の導入についての労働者らに対する説明、限定社員登用 試験の実施及び同試験不合格を理由とする本件雇止めの判断のいずれもY1会社が行っていることが認められ、本件雇止めについ て、派遣先事業主であるY2会社が現実的かつ具体的に支配、決定していたことを窺わせる証拠は全くない。
 したがって、本件雇止めについて、Y2会社は労組法第7条の使用者に該当するとは認められないので、本件申立てのうちY2 会社に対する申立てには理由がない。
2  本件雇止めの労組法第7条第1号該当性(争点2)について
(1) Y1会社が、限定正社員登用試験に合格しなかったことを理由にAにつき本件雇止めをしたことが、労働契約法第19条に抵触するか。
 AとY1会社との間の労働契約については、有期労働契約が反復して更新されている事実が認められる。他方、各労働契約の契 約期間満了に先立ち、Y1会社は、Aとの間で面談を実施し、更新後の契約内容を説明して、労働契約書を取り交わして労働契約 が締結されている。また、雇用主であるY1会社において、Aに対し、継続雇用を期待させるような言動がなされていたことを窺 わせる事情はない。その上で、平成29年1月、Y1会社は、Aを含むY2会社のC事業所の従業員に対し、限定正社員制度の導 入を説明し、同年2月、Y1会社は、Aに対し、労働契約の更新には、限定正社員登用試験への合格が条件であることを明確に伝 えた上で、本件労働契約を締結している。
 これらによれば、AとY1会社の間で、労働契約法第19条第1号に規定するような期間の定めのない労働契約が存在する場合 と実質的に異ならない関係が生じていたとは認められず、また、同条第2号に規定するような契約更新についての合理的期待が生 じていたものとは認められない。
 なお、組合は、Y1会社が限定正社員制度を導入し、本件労働契約の契約更新事由として限定正社員登用試験の合格を新たに加 えたことが、労働契約法第19条第1号及び同条第2号に違反するとも主張する。しかしながら、契約社員に対する評価の方法や その評価を契約更新の判断に反映させるかどうかはY1会社の経営判断に属する事項であって、原則としてY1会社の裁量に委ね られている。Y1会社が本件労働契約の更新事由として限定正社員登用試験の合格を追加したことは、Y1会社の上記裁量を逸脱 するものとはいえず、労働契約法第19条に抵触するものでもない。
 以上からすれば、本件雇止めは、労働契約法第19条には抵触しない。
(2) Y1会社が限定正社員制度を導入したことは、労働契約法第18条に違反するか。
 Y1会社は、平成25年4月1日にいわゆる無期転換ルールを定めた改正労働契約法第18条が施行されたことを受けて、契約 社員又はバートタイム社員のうち次回の労働契約更新時に勤続5年超が見込まれる者を対象に限定正社員登用試験を実施し、同試 験に合格した者を動務地や職務内容を限定した正社員として登用するという限定正社員制度を導入したものである。
 労働契約法第18条は、使用者がいかなる正社員登用制度をとるかについて規制するものではなく、Y1会社が上記限定正社員 制度を導入したことをもって、労働契約法第18条に違反するとか、同条を潜脱する意図によるものであるとはいえない。
(3) 限定正社員登用試験への抗議を目的として、指名ストライキを試験日に行ったAについては、本件労働契約の更新事由の 一つである「限定正社員登用試験による判断」がなされていないものとして、本件雇止めが不当なものといえるか。
 Aは、Y1会社による限定正社員登用試験の実施を確知しながら同試験を受けることなく、さらにY1会社から再試験を希望す るか尋ねられた際にも、その希望を示さなかったというのである。
 そうだとすると、Y1会社が、自らの意思で受験しなかったといえるAについては、合格の判定がされた事実が存在しない以 上、同試験に合格したときと規定する本件労働契約の更新事由を充足しないと判断したことには、何ら不当・不合理という余地は ない。
(4) 限定正社員制度の導入は組合を排除する意思に基づくものか、あるいは、本件雇止めはストライキに対する報復である か。
 限定正社員制度は、組合員と非組合員とを問わず、契約社員又はバートタイム社員のうち、次回の労働契約更新時に勤続5年超 が見込まれる者を登用試験対象者とするものであり、限定正社員登用試験の実施やその結果に基づく契約更新の判断において、組 合員に対して恣意的な運用が行われたことを窺わせる証拠はない。
 したがって、Y1会社には組合を排除する意思をもって限定正社員制度を導入したとはいえないし、本件雇止めがストライキに 対する報復ともいえない。
(5) 以上のとおり、本件雇止めは、労組法第7条第1号の不利益取扱いには該当しない。
3 組合からの団体交渉申入れに対するY1会社の対応の労組法第7条第2号該当性(争点3)について
(1) 平成30年3月26日以前の団体交渉申入れに係る申立てについて
 本件申立ては、組合結成時からの団体交渉申入れを対象とするものである。このうち、本件申立てより1年以上前になされた団 体交渉申入れ、すなわち、組合が結成された平成24年2月12日から平成30年3月26日までの間になされた団体交渉申入れ に係る救済申立てについては、労組法第27条第2項の申立期間を経過している。この間における最後の申立ては、平成29年 10月10日付けの団体交渉申入れであるところ、同団体交渉申入れに対する回答は同月中になされており、その後組合と会社と の間で同申入れに係る協議等を行ったような事情もないことから、上記申入れが平成30年3月27日以降に継続する行為とは認 められない。
 したがって、本件申立てのうち、平成30年3月26日以前の団体交渉申入れに係る申立てについては、却下するのが相当であ る。
(2) 平成30年3月30日付け団体交渉申入れについて
ア そこで、組合が平成30年3月30日付け団体交渉申入れにおいて就業時間内・就業施設内での団体交渉を求めた(「本件団体交渉申入れ」)のに対し、Y1会社が就業時間内・ 就業施設内での団体交渉には応じられないこと、就業時間外・就業施設外の適切な場所における団体交渉には応じる用意があると 回答したことが、団体交渉拒否に該当するか検討する。
イ 前回事件においても、当委員会は、組合が就業時間内・就業施設内の団体交渉を求めたのに対し、Y1会社が就業時間内・就 業施設内での団体交渉には応じられないとし、就業時間外・就業施設外の適切な場所における団体交渉には応じる用意があると回 答したことは、団体交渉拒否には該当しないと判断している。その要点は、使用者が負う団体交渉応諾義務としては、労働組合が 指定する日時及び場所での団体交渉に応じなければならない義務までを負うものではなく、支障があるときは、別の日時及び場所 を示すなど誠意をもって対応し、団体交渉の開催に向けて努力すべきものであること、就業時間内・就業施設内の団体交渉につい ては、慣行上許されている場合や使用者の許諾がある場合は格別、そのような事情が認められない場合には使用者がこれに当然に 応諾しなければならないものではないことを踏まえ、組合の団体交渉申入れに対し、就業時間外・就業施設外での団体交渉を提案 したY1会社の対応は、団体交渉拒否とはいえないとするものであった。
ウ 組合は、Y1会社が導入した本件限定正社員制度の撒廃を求めて、平成29年4月24日及び同年10月10日にそれぞれ団 体交渉を申し入れ、その際、いずれも就業時間内・就業施設内での団体交渉を求め、これに対し、Y1会社はいずれの申入れに対 しても、組合が設定した回答期限内に、就業時間内・就業施設内では応じられないとした上で、就業時間外・就業施設外であれば 団体交渉には応じると回答した。
 また、本件団体交渉申入れにおいて、組合は、Aに対する本件雇止めの撤回を始めとする複数の要求事項を掲げて団体交渉を要 求するとともに、就業時間内・就業施設内での団体交渉を求めたのに対し、Y1会社は、期限の猶予を求めた上で速やかに回答 し、就業時間内・就業施設内では応じられないとした上で、就業時間外・就業施設外であれば団体交渉には応じる旨回答した。こ れに対し、組合は、Y1会社に対し更なる対応をしていない。
 これらの事情については、前回事件に対する当委員会の前記判断がそのまま妥当するものであって、就業時間内・就業施設内に おける団体交渉の開催を求める組合の団体交渉申入れに対し、Y1会社の対応は、就業時間外・就業施設外での団体交渉には応諾 する旨回答していることからすれば、前回事件と同標に、これを団体交渉拒否ということはできない。
 これに加えて、本件においては、Y1会社は、組合に対し、「団体交渉のルール作りのための事前調整」という目的の範囲であ れば、就業時間外・就業施設内において委員長との間で協議に応じる用意があるとし、具体的な日時を提案するよう組合に求める こともしていたところ、組合は、Y1会社の提案にかかる団体交渉のための事前調整・協議には何ら対応しなかったというのであ る。このような事実からすると、従前の姿勢に固執することなく組合との協議・調整の機会を設けることを試みていたY1会社の 姿勢とは相反して、Y1会社の提案に対し一顧だにしない組合側の態度からは、自ら申し入れた団体交渉の実現に向けて努力する 姿勢は全くみられないというほかはない。
エ そうすると、組合からの本件団体交渉申入れに対し、Y1会社は就業時間外及び就業施設外であれば応じる旨回答していたこ と、Y1会社は事前調整であれば就業施設内での協議に応じると回答し、組合との団体交渉の実現に向けて誠実に努力していたと 評価できることからすると、組合からの本件団体交渉申入れに対し、Y1会社がその時間及び場所について組合の要求する内容に て団体交渉を持つことはできないと回答したからといって、組合との団体交渉そのものを拒否したということはできず、労組法第 7条第2号の団体交渉拒否には当たらないというべきである。 
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