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概要情報
事件番号・通称事件名  大阪府労委平成29年(不)第29号
不当労働行為審査事件 
申立人  X組合(「組合」) 
被申立人  Y法人(「法人」) 
命令年月日  令和2年6月26日 
命令区分  一部救済 
重要度   
事件概要   本件は、法人が、①組合の16回の団体交渉申入れに対して、労働 委員会での和解協定書の規定に反して、おおむね3週間程度での団体交渉開催に応じなかったこと、②組合の5回の団体交渉申入れに、 正当な理由なく応じなかったこと、③団体交渉において5つの不誠実な対応をしたこと、④組合が要求するキャンパス内において組合事務所を貸与しなかったこと、 ⑤組合に対し複数の組合掲示板の設置を認めなかったこと、⑥組合に対し組合ニュース等の配布を禁止したこと、 ⑦組合との間で年次有給休暇買上げの労使協定を締結しなかったこと、⑧組合と協議することなく入試手当を支給したこと、 がそれぞれ不当労働行為に当たるとして申し立てられた事件である。
 大阪府労働委員会は、法人に対し、②及び③の一部について労組法第7条第2号及び第3号並びに④、⑤及び⑧について同条第3号に該当する不当労働行為であるとして、 誠実な団交応諾並びに組合事務所の貸与及び複数の組合掲示板の設置の受諾とともに、文書の手交を命じ、その他の申立てを棄却した。 
命令主文  1 被申立人は、申立人の以下の団体交渉申入れについて、速やかに団体交渉に応じなければならない。
(1)平成28年7月14日付け団体交渉要求書のうち、申立人組合員A2の実験器具等の保管場所の使用に係る申入れ
(2)平成28年12月7日付け及び同月22日付け団体交渉要求書のうち、申立人組合員の経歴年数換算表の写しの交付に係る申入れ
(3)平成28年12月19日付け団体交渉要求書のうち、申立人組合員A4の平成27年度教員業績評価の理由の説明及び評価の訂正並びに同組合員の配置転換に係る申入れ
2 被申立人は、申立人が平成29年4月10日付け団体交渉要求書及び同年5月24日付け団体交渉要求書で申し入れた、労働者過半数代表者の選出方法についての要求に係る団体交渉に、 資料を示して説明するなどして、誠実に応じなければならない。
3 被申立人は、申立人に対し、奈良キャンパス内に組合事務所を速やかに貸与しなければならない。 なお、貸与する場所等具体的条件については当事者間で協議して決定するものとする。
4 被申立人は、申立人に対し、複数の組合掲示板の設置を速やかに認めなければならない。なお、設置する場所等具体的条件については当事者間で協議して決定するものとする。
5 被申立人は、申立人に対し、下記文書を速やかに手交しなければならない。
 年 月 日
組合
執行委員長 A1 様
法人       
理事長 B
 当法人が行った下記の行為は、大阪府労働委員会において、労働組合法第7条に該当する不当労働行為であると認められました。 今後、このようなことを繰り返さないようにいたします。
(1)貴組合の以下の団体交渉申入れについて、団体交渉に応じなかったこと(2号及び3号該当)
ア 平成28年7月14日付け団体交渉要求書のうち、貴組合員A2氏の実験器具等の保管場所の使用に係る申入れ
イ 平成28年12月7日付け及び同月22日付け団体交渉要求書のうち、貴組合員の経歴年数換算表の写しの交付に係る申入れ
ウ 平成28年12月19日付け団体交渉要求書のうち、貴組合員A4氏の平成27年度教員業績評価の理由の説明及び評価の訂正並びに同氏の配置転換に係る申入れ
(2)貴組合が平成29年4月10日付け団体交渉要求書及び同年5月24日付け団体交渉要求書で申し入れた、労働者過半数代表者の選出方法についての要求に係る団体交渉に、 誠実に応じなかったこと(2号及び3号該当)
(3)貴組合に対し、奈良キャンパス内に組合事務所を貸与しなかったこと(3号該当)
(4)貴組合に対し、複数の組合掲示板の設置を認めなかったこと(3号該当)
(5)貴組合の組合員を含む教職員に対し、貴組合との団体交渉を行うことなく、平成28年7月29日に入試手当を支給したこと(3号該当)
6 申立人のその余の申立てを棄却する。 
判断の要旨  1 法人が、組合の平成28年7月14日から同29年5月24日の間の16回の団交等申入れに対し、一部を除き、団交等申入れ後、おおむね3週間程度で団交を開催しなかったこ とは、本件和解協定書第6項に反し、正当な理由のない団交拒否に当たるとともに、組合に対する支配介入に当たるか。(争点 1)
ア 組合からの16回の団交等申入れに対する法人の対応が正当な理由のない団交拒否に当たるかどうかは、それぞれの団交等申入れについて、 申入れの具体的な内容、事前の事務折衝その他当事者間のやり取りの状況、団交開催に至るまでの期間、 団交における協議の状況等を総合的に考慮して判断すべきものである。
 この点、本件和解協定書第2項に「団体交渉は、事前に事務折衝において、協議事項、開催日時、開催場所、交渉時聞、交渉人数などを調整して行うものとする。」 と規定されていることが認められるところ、上記16回の団交等申入れについて、事前に事務折衝において労使間で上記調整が行われたかどうかについて、 組合の側からの主張も疎明もない。
 以上の点に、組合の団交申入れが一度に4通や1か月に3通以上提出されることがあったこと、などを併せ考えると、 これら16回の団交等申入れに対して「遅くとも団交申入れの日から30日以内」に団交が開催されていないことを理由に、直ちに、 法人の対応が本件和解協定書第6項に反し、正当な理由のない団交拒否及び組合に対する支配介入に当たるとまでいうことはできず、 この点に係る組合の主張は採用できない。
 なお、申入れから1か月以内に団交等が開催されていない14回の団交等申入れについては、団交等の開催自体がなされていないものがあるが、 組合の主張に従って、6回は争点2において個別に団交拒否の、5回は争点3において個別に不誠実団交の、1回は争点8において支配介入の不当労働行為の成否を、 それぞれ判断することにしており、さらに、残り2回のうち28.10.10諸要求団交要求書については団交申入れから42日で、 29.4.10団交要求書については31日で、それぞれ団交が行われているのであるから、本件和解協定書第6項の、団交を「団体交渉申入れ後、概ね3週間程度で開催する」 との基準に照らして、法人が団交を拒否したものとまで評価することはできない。
イ したがって、組合の平成28年7月14日から同29年5月24日の間の16回の団交等申入れに対する法人の対応は、正当な理由のない団交拒否に当たるとはいえず、 また、組合に対する支配介入に当たるともいえないから、この点に係る組合の申立ては、棄却する。
2 次の組合からの団交等申入れに対する法人の対応は、正当な理由のない団交拒否に当たるとともに、組合に対する支配介入に当たるか。(争点2)
(1)28.7.14保管場所団交要求書による団交申入れ
ア 団交申入れの議題は、法人による雇止めの効力について争っているA2組合員が研究室等で使用していた物品の保管場所についてのものであることが認められ、 組合員の労働環境に係るものということができるから、義務的団交事項である。
イ この団交申入れに対する団交が行われていないことについて、法人は、A2組合員から地位確認等を求める本案訴訟が提起されたことなどを考慮してA2組合員の実験器具等の保管を継続してきた結果、 事前の事務折衝において団交の議題として取り上げられることがなかった経緯から、法人は団交拒否及び支配介入を行っていない旨主張する。
 確かに、この団交申入れについて、組合が事務折衝において団交の議題として取り上げるよう要求したと認めるに足る事実の疎明はない。 しかしながら、一方で、法人は28,6.22通知書において、仮処分の終了を理由としてA2組合員の全私物の持ち出しを求めていることが認められ、 たとえ法人が本案訴訟提起などを考慮してA2組合員の保管物品の保管を継続したとしても、当該保管物品に係るルールや権利義務等について協議する必要性はいまだ消失していないといえるから、 法人の団交応諾義務がなくなったとはいえない。 そうすると、組合の28.7.14保管場所団交要求書による団交申入れについて団交に応じないことに正当な理由はない。
ウ 以上のことからすると、法人は、28,7.14保管場所団交要求書による団交申入れに正当な理由なく応じていないものと言わざるを得ず、 法人のかかる対応は、正当な理由のない団交拒否に当たるとともに、組合の存在を軽視し、 その活動を弱体化させるものとして組合に対する支配介入にも当たり、労働組合第7条第2号及び第3号に該当する不当労働行為である。

(2)28.11.30A3分会交渉要求書のうち、経営学部教授会の運営及び議決方法の適正化に係る申入れ
ア 分会交渉申入れの交渉議題である教授会の運営及び議決方法の適正化については、教授会が人事事項に関して意見することがある点を考慮しても、 労働条件に関連する事項であるとも、労使関係の運営に関する事項であるともいえないから、義務的団交事項であるとはいえない。
イ したがって、法人が28.11.30A3分会交渉要求書による分会交渉申入れに応じていないことには正当な理由があるといえ、 法人のかかる対応が正当な理由のない団交拒否であるとも、組合に対する支配介入であるともいえないから、この点に係る申立ては棄却する。

(3)28.12.7団交要求書及び28.12.22団交要求書のうち、組合員の経歴年数換算表の写しの交付に係る申入れ
ア 経歴年数換算表は、法人が採用する教職員の初任給を決定する資料であることが認められ、組合員の労働条件に深く関わるものであるといえるから、 その交付を求めることは、義務的団交事項である。
イ 28.12.7団交要求書及び28.12.22団交要求書による団交申入れに応じていないことについて、法人は、 経歴年数換算表が教職員個人の初任給の決定に関する内部の事務資料であり、本人以外の者に開示できる資料に当たらないと位置付けており、 事務折衝において、経歴年数換算表について開示できないことを説明した旨主張する。
 しかしながら、たとえ経歴年数換算表が外部に開示できない内部資料で本人以外の者に開示できる資料に当たらないとしても、 法人はそのことを団交において主張すベきであって、それを事務折衝で説明したことが、上記団交申入れに応じないことの正当な 理由とはなり得ない。
ウ 以上のことからすると、法人は、28.12.7団交要求書及び28.12.22団交要求書のうち組合員の経歴年数換算表 の写しの交付に係る団交申入れに正当な理由なく応じていないのであるから、法人のかかる対応は、正当な理由のない団交拒否に 当たるとともに、組合の存在を軽視し、その活動を弱体化させるものとして組合に対する支配介入にも当たり、労働組合法第7条 第2号及び第3号に該当する不当労働行為である。

(4)28.12.19団交要求書のうち、A4組合員の平成27年度教員業績評価の理由の説明及び評価の訂正並びに配置転換に係る申入れ
ア 業績評価は、組合員の賃金、昇進など労働条件を決定する重要な要素とみられるから、その理由の説明及び評価の訂正は労働条件に関する事項であるし、 配置転換も、それにより労働環境が大きく変わる可能性があるのだから、組合員の労働条件に関する事項といえ、 A4組合員の教員業績評価の理由の説明及び評価の訂正並びに配置転換は、いずれも義務的団交事項である。
イ 28.12.19団交要求書のうち、A4組合員の平成27年度教員業績評価の理由の説明及び評価の訂正並びに配置転換に係る団交申入れに応じていないことについて、 法人は、①29.3.10団交で、そもそも教職員の評価理由書は本人以外の第三者への開示を予定しておらず、組合に対しても開示できないことを、 ②29.8.1団交では、(i)A4組合員の業績評価に不服があれば本人が異議申立手続を利用できること、 (ii)A4組合員に対する降格・降職などの効力について訴訟が係属中であり、A4組合員の評価に関連する資料を訴訟手続とは別に団交で開示する予定がないことを、それぞれ説明した旨主張する。
 しかしながら、上記①については、前記(3)イ判断と同様、法人が本人以外の第三者への開示を予定していないことやそれを別の団交において主張したことは、 それに関する団交を拒否する正当な理由にはならない。また、上記②の(i)については、組合員個人による異議申立手続は、組合による団交申入れとは主体を異にする全く別の手続であるし、 (ii)については、団交申入れ議題に関して訴訟が係属中であっても団交による自主的解決の可能性があるのであるから、これらの事情をもって法人の団交応諾義務が免除されるものではない。
 したがって、法人が挙げる上記①及び②の事実はいずれも、上記団交申入れに応じないことの正当な理由とはなり得ない。
ウ 以上のことからすると、法人は、28.12.19団交要求書のうち、A4組合員の平成27年度教員業績評価の理由の説明及び評価の訂正並びに配置転換に係る団交申入れに正当な理由なく応じていないのであるから、 法人のかかる対応は、正当な理由のない団交拒否に当たるとともに、組合の存在を軽視し、その活動を弱体化させるものとして組合に対する支配介入にも当たり、 労働組合法第7条第2号及び第3号に該当する不当労働行為である。

(5)29.3.6団交申入書のうち、C1組合のC2組合員に対するパワハラに係る申入れ
ア 平成29年3月6日付けでC1組合及び組合が連名で法人に対し29.3.6団交申入書を提出し、C2組合員に対するパワハラに関して団交を申し入れたこと、 そして、法人がこの団交申入れについて、組合との団交を行っていないことが認められる。
イ 団交申入れの議題は、専らC1組合の組合員に関する事項であったことが認められる。
 そうすると、29.3.6団交申入書による団交申入れの議題が、組合との関係で義務的団交事項に当たるかどうかは、疑義のあるところである。
ウ 29.3.6団交申入書には、担当者及び連絡先としてC1組合書記長のみが記載されていたことが認められる。
 法人は、29.3.6団交申入書に関して、指定された連絡先に連絡して団交を行ったのであり、前記イ記載の認定のとおり、 29.3.6団交申入書による団交申入れの議題が専らC1組合の組合員に関する事項のみであったことが認められることを併せ考えると、 C1組合と法人との間で行われた団交に組合が同席するか否かは両組合間の問題であり、法人が団交を拒否した事実は認められない。
エ 以上のことからすると、法人は、29.3.6団交申入書のうち、C2組合員に対するパワハラに係る申入れに正当な理由なく応じていないとまでいうことはできず、 この団交申入れに係る法人の対応は、正当な理由のない団交拒否に当たるとも、組合に対する支配介入に当たるともいえないから、この点に係る組合の申立ては、棄却する。
3 次の団交等における法人の対応は、不誠実団交に当たるとともに、組合に対する支配介入に当たるか。(争点3)
(1) 年休の買上げに係る28.6.14団交における対応
ア 28.6.14団交において、法人は、年休の買上げについての組合の要求について、要求に応じられない理由として、 年休制度の趣旨に係る自らの立場及び現在買上げを実施している医学部での廃止の方向性を挙げており、また、組合も、 年休消化の方向で考えたいとの法人の発言の趣旨は理解している旨発言しているのであるから、 組合が要求する年休の買上げはできないという自らの主張の根拠を一定説明しているといえる。
イ 組合は、年休取得率等の具体的資料を示さずに交渉しようとした法人の対応が不誠実である旨主張するが、法人は、 年休の買上げを廃止する方針を示しているのであるから、その説明のために年休取得率等の資料の提示が必ずしも必要であったとまではいえない。
ウ 以上のことからすると、年休の買上げに係る28.6.14団交における法人の対応は、不誠実であったとまではいえず、この点に係る組合の申立ては、 棄却する。

(2)ベア及び賞与の増額の要求に係る28.6.14団交、28.10.18団交、28.11.21団交及び29.3.10団交における対応
ア 組合は、平成22年の賃下げに遡って、22年財政シミュレーションの人件費の予測と実績との差額を原資とする賃上げを要求し、 その要求を根拠付けるために22年財政シミュレーション及び27年財政シミュレーションを提供するよう求めていたものとみることができる。
イ また、法人が、これら4回の団交において、経営上の資料であるとして22年財政シミュレーションの提出を渋っていたことは確かであるが、 一方で、財政シミュレーションについて、①人件費増加についての現時点での予測との違いについてはいろいろな要素が加味されていること、 ②予測が外れているのではなく、予測を受けて方策を講じてきたために金額の差が出たものであること、 ③経営上の資料という性格上、予想される消極的な可能性を踏まえた予測をしたものであって、実績との差異は単なる結果にすぎないこと、 を説明していることが認められる。
 これらのことからすると、法人は、組合に対し、財政シミュレーションを提供しない理由を、組合の主張に対応して、 一定説明をしているということができる。
ウ しかも、法人は、29.3.10団交において財政シミュレーションについて検討する旨述べた後、 速やかに平成29年3月中に22年財政シミュレーションを組合に開示したことが認められ、 法人は、22年財政シミュレーションの開示に関して、最終的に、組合の要求に応じているということができる。
エ 以上のことを併せ考えると、ベア及び賞与の増額の要求に係る4回の団交における法人の対応について、自己の立場に固執し、 財政シミュレーションの提供をしない点が不誠実団交に当たるとの組合の主張は採用できないから、この点に係る組合の申立ては、棄却する。

(3) 専任教員の最低責任時間の確認要求に係る28.12.20A5分会交渉における対応
ア 平成28年10月19日付けで、①組合が、法人に対し、28.10.19A5分会交渉要求書を提出して、 教職教育部の専任教員に適用される最低責任時間数が10時間であることを確認すること等を交渉事項として分会交渉を申し入れ、 28.12.20A5分会交渉が行われたこと、②同A5分会交渉において、組合が、教職教育部の専任教員に適用される最低責任時間であることを確認するよう求めた10時間 とはどのような性質のものであるのかと尋ねたの対し、法人が、責任時間とはあくまでも増担手当を支給するための基準である旨述べたこと、が認められる。
イ ところで、同A5分会交渉において、組合が、責任時間とされる10時間の性質をはっきりしてもらわなければ、組合としてスト権を確立することまでしなければならないのか、 それとも任意のものであることを理由に拒否すればよいのかが判断できない旨述べ、 就業規則では責任時間とされる10時間を超える時間の授業を担当することが義務であるのかどうか尋ねたのに対し、法人が、 10時間授業を担当すればよくてそれ以上は自由だという考えはない旨回答し、これに対し、組合がそれであれば訴訟における法人代理人の言うことが間違っている旨述べたことが認められる。
 このことからすると、そもそも、組合が責任時間についての説明が民事訴訟や労働委員会の審査手続における主張と異なっている点にこだわったのは、 責任時間を超えた授業の担当を拒否する自由が組合員にあるのかどうかを確認するためであったとみることができる。
 しかし、これに対して、法人は10時間授業を担当すればよくてそれ以上は自由だという考えはないと一定の回答をしたものと みることができ、組合の主張の基になったそもそもの疑問に対して、一定の回答をしたものと評価することができる。
ウ 以上のことからすると、専任教員の最低責任時間確認要求に係る28.12.20A5分会交渉における法人の対応が不誠実 であったとまではいえず、この点に係る組合の申立ては、棄却する。

(4) 能力給制度の廃止要求、 全組合員の評価理由書の写しの交付要求及び附属校教員に対する在外研究制度の導入等の要求に係る29.3.10団交における対応
ア まず、 能力給制度の廃止要求についてみる。
 法人は、29.3.10団交において、能力給制度の廃止要求について、制度導入の根拠を説明した上で、組合の質問に応じた一定の回答をしているのであるから、 かかる法人の対応が不誠実であったとはいえない。
イ 次に、全組合員の評価理由書の写しの交付要求についてみる。
 組合は、29.3.10団交で、法人が個人情報を理由に全組合員の評価理由書の写しの開示を全て拒否した旨主張する。
 しかしながら、29.3.10団交で法人が個人情報である旨述べたのはA評価該当者の評価理由書であって、 29.3.10団交において全組合員の評価理由書の交付についてのやり取りはなかったこ とが認められるのであって、団交において組合の主張するようなやり取りがない以上、それを根拠とする不誠実団交は認められない。
 以上のことからすると、全組合員の評価理由書の写しの交付要求に係る29.3.10団交での法人の対応が不誠実であったとはいえない。
ウ 最後に、附属校教員に対する在外研究制度の導入等の要求に係る29.3.10団交における法人の対応についてみる。
 29,3.10団交において附属校教員に対する在外研究制度の導入等の要求についてのやり取りはなかったことが認められるのであって、 団交においてやり取りがない以上、抽象的な回答を行って無用な引き延ばしを図る法人の行為は不誠実であるとの組合の主張は、採用できない。
 以上のことからすると、附属校教員に対する在外研究制度の導入等の要求に係る29.3.10団交での法人の対応が不誠実であったとはいえない。
エ 以上のとおりであるから、能力給制度の廃止要求、全組合員の評価理由書の写しの交付要求及び附属校教員に対する在外研究制度の導入等の要求に係る 29.3,10団交における法人の対応はいずれも不誠実であったとはいえず、この点に係る組合の申立ては、棄却する。

(5)過半数代表者の選出方法についての要求に係る29.5.11団交及び29.5.29団交における対応
ア 29.5.11団交において、法人は、過半数代表者選挙の公正性を疑問視する組合の質問に対して、一切、資料を提示せず、 明確な回答を回避し、組合の話の途中で時間を理由に協議を終了させようとしているのであり、かかる法人の対応は、 組合との合意を模索するものであったとも、組合の納得を得るべく自らの立場を説明すべく務めたものであったともいうことはできず、 したがって、誠実な交渉態度であったとはいえない。
イ 法人は、29.5.29団交において、組合が過半数代表者との労使協定締結に際しての事前協議を求めたことに関連して、 今回の過半数代表者の選出方法が非民主的であるとの組合の指摘に対し、選挙が終了していることを理由に、それ以上の交渉には 応じないとの態度をとったものとみることができる。しかし、過半数代表者の選挙が一旦終了していたとしても、その選挙の公正 性に疑義がある場合には、交渉次第で、選挙をやり直す選択肢もあり得るのであるから、選挙が終了していることが、過半数代表 者の選出方法についての交渉に応じない正当な理由にはなり得ない。
 そうすると、29.5.29団交における法人の対応は、過半数代表者の選出方法についての更なる交渉に、正当な理由なく応じなかったものであって、 誠実な交渉態度とはいえない。
ウ 以上のとおりであるから、過半数代表者の選出方法についての要求に係る29.5.11団交及び29.5.29団交における法人の対応は、 不誠実であったと言わざるを得ず、労働組合法第7条第2号に該当する不当労働行為である。
 また、かかる法人の対応は、組合の存在を軽視するものであるから、組合に対する支配介入にも当たり、同条第3号に該当する 不当労働行為である。
4 法人が、組合に対し、奈良キャンパス内において組合事務所を貸与しなかったことは、組合に対する支配介入に当たるか。(争点4)
ア 法人は、組合事務所として提供できる場所の有無にかかわらず、既に東大阪キャンパスに組合事務所を貸与している組合に対し、 奈良キャンパスにおいて組合事務所を貸与するつもりはそもそもなかったものとみることができるのであって、 奈良キャンパスに組合事務所を貸与しない理由として法人が挙げる、提供できる場所がないことは、組合に組合事務所を貸与しないための単なる口実であったとみざるを得ない。
 以上のことからすると、法人が教職員組合に組合事務所を貸与しない理由に合理性は認めらない。
イ また、平成29年8月の時点で、①奈良キャンバスに設置された農学部における組合の組合員数は39名であり、農学部の常勤教員に占める組合の組合員の割合は約3割であること、 ②組合の組合員のうち半数以上が農学部の教員であること、が認められる。
 これらのことからすると、組合員数の面からみて、農学部教員における組合の比重も、また、組合における農学部教員の比重 も、相当程度高いものということができるのであって、法人が奈良キャンパス内に組合事務所を貸与しないことは、組合の組合活 動を抑制する効果を持つものであったと言わさるを得ない。
ウ そして、上記イ記載の状況に、法人がC3組合に対して東大阪及び九州の2つのキャンパスに組合事務所を貸与していることを勘案すると、 組合に対して2か所目の組合事務所を貸与しない法人の対応は、別組合であるC3組合に対する取扱いとの均衡を欠くものと言わざるを得ないが、 法人は、その取扱いの違いについて、組合員数や組合事務所貸与をめぐる労使交渉の経緯の違いなどに基づく合理的理由があるとの主張は行っていない。
エ 以上のことからすると、法人が組合に対し奈良キャンパス内において組合事務所を貸与しなかったことは、組合間差別に該当し、 組合の組合活動を抑制し弱体化するものとして、組合に対する支配介入に当たるから、労働組合法第7条第3号に該当する不当労働行為である。

5 法人が、組合に対し、複数の組合掲示板の設置を認めなかったことは、組合に対する支配介入に当たるか。(争点5)
ア 使用者による組合掲示板の設置は、便宜供与の一種であって、使用者は原則として労働組合に対して組合掲示板を設置する義務を負わず、 労働組合も当然にその設置を要求する権利を有するものではない。しかしながら、本件の場合、C4組合に対しては、 3か所に組合掲示板を貸与していることが認められるのであるから、設置済みの1か所以外の組合掲示板の設置要求に応じられない理由の合理性、 労働組合との協議の状況、別組合との取扱いの均衡などを勘案して組合弱体化の意図が明らかである等特段の事情がある場合には、 設置済みの1か所以外に別に組合掲示板を設置しないことが不当労働行為に当たる場合があるので、この点についてみる。
(ア) まず、法人が設置済みの1か所以外に組合掲示板を設置しない理由に合理性があるかについてみる。
 法人は、その理由について、もともと組合員への連絡手段として組合掲示板の設置を認めたものであって、近時、ホームページ やS N Sなど情報伝達ツールが進化して労働組合に掲示板の設置を認める意義が低下していることを挙げる。
 しかしながら、組合掲示板は組合活動のためのものであり、その使用目的や、連絡・情報伝達のためにどのような手段・媒体を 選択するかは労働組合が自主的に決めるべきものであって、それを使用者の側で一方的に決めて、組合掲示板の必要性を判断する 法人の対応は、不合理であるばかりでなく、組合の労働組合としての自主性を否定するものと言わざるを得ない。
 したがって、法人が設置済みの1か所以外に組合掲示板を設置しない理由に合理性は認められない。
(イ) 次に、 組合と法人との間での協議状況についてみる。
 組合による複数の組合掲示板の設置要求に対する法人の対応は、要求への回答を回避し、これを引き延ばしたものと評価せざるを得ない。
イ また、法人は、C4組合に対し、約30年にわたって、C4組合の組合員ではない教職員の目にも触れる機会がそれなりに多いと思われる3か所に組合掲示板を与していることが認められ、 組合には設置済みの1か所以外に新たな組合掲示板の設置を認めない法人の対応は、C4組合に対する取扱いに比べて均衡を欠くものと言わざるを得ない。
ウ 以上のことからすると、法人が、組合に対し、複数の組合掲示板の設置を認めなかったことは、組合の組合活動を抑制する効果を持つものであったと言わざるを得ず、 組合に対する支配介入に当たるから、労働組合法第7条第3号に該当する不当労働行為である。

6 法人が、組合に対し、医学部及び附属病院における組合ニュースやビラの配布を禁止したか。禁止したとすれば、そのことは、法人による組合に対する支配介入に当たるか。(争点6)
 法人が組合に対し医学部及び附属病院における組合ニュースやビラの配布を禁止したとはいえないから、その余について判断するまでもなく、 この点に係る組合の申立ては、棄却する。
7 法人が、組合の組合員に係る年休の残日数の買上げについての労使協定を締結しなかったことは、組合に対する支配介入に当たるか。(争点7)
ア 法人は、組合が28.4.28要求書で時効消減する年休の買取りを要求するより2年以上前から、団交において、年休の買上げについて、 法律の趣旨に反することから、法人としてその是正を図っていたところである旨の主張を自らの立場として説明するとともに、 医学部における年休買上げの取扱いを廃止の方向で見直すことを組合に説明し続けてきたものということができる。
 加えて、法人が実際に平成29年4月以降に付与した年休について、医学部職員に対する残日数の買上げを行っていないことが認められるのであるから、 法人は、組合が28.4.28要求書で時効消滅する年休の買上げを要求するより2年以上前から、法人全体において年休の買取りを廃止する方針を検討していたものとみるのが相当である。
 以上のことからすると、法人が組合の組合員の年休の残日数を買い上げないことには、一定の合理的理由があるというべきである。
イ また、組合が28.4.28要求書で時効消滅する年休の買上げを要求した時点において、法人が組合の組合員について年休の残日数の買上げをしないのは、 既に決定していた方針に沿ったものであって不合理とはいえず、また、組合を、殊更、C4組合に比して不利に取り扱ったものともいえない。
ウ 以上のことを併せ考えると、法人が組合の組合員に係る年休の残日数の買上げについての労使協定を締結しなかったことは、一定の合理性があり、 かつ、組合を、殊更、C4組合に比して不利に取り扱ったものともいえないから、組合に対する支配介入に当たるとはいえず、この点に係る組合の申立ては、棄却する。

8 法人が、組合の組合員を含む教職員に対し、平成28年7月29日に入試手当を支給したことは、組合に対する支配介入に当たるか。(争点8)
ア 入試手当の支給は、組合員の労働条件に関する事項であることが明らかであるから、当然に義務的団交事項である。したがって、 仮に、過去に団交事項として取り扱わずに支給するという労使合意があったとしても、労働組合から団交申入れがあれば、団交に応じなければならない。
イ それにもかかわらず、法人は、組合からの2回にわたる団交申入れ及び団交での入試手当の増額及び入試手当に係る労働協約締結の要求を無視して、 その後の団交に応じぬまま、組合員を含む教職員らに入試手当を支給したのであるから、かかる法人の対応は、組合の存在を無視したものというほかない。
ウ したがって、組合との団交に応じることなく組合の組合員を含む教職員に平成28年7月29日に入試手当を支給した法人の対応は、 組合に対する支配介入に当たり、労働組合法第7条第3号に該当する不当労働行為である。 
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