労働委員会命令データベース

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概要情報
事件番号・通称事件名  神奈川県労委平成29年(不)第25号
申立人  X組合(「組合」) 
被申立人  Y会社(「会社」) 
命令年月日  令和2年5月20日 
命令区分  一部救済 
重要度   
事件概要   本件は、①会社が、定年である満65歳以降の組合員の継続雇用に係る団体交渉において、権限のない取締役を出席させて、組合との間で定年後の雇用を約した平成28年4月26日付け労働協約(「本件協約」)の履行について、B1社長の意向であるとして応じず、B1社長を出席させないまま、65歳定年後の雇用を拒否する旨の回答を繰り返したことが、労組法第7条第2号に該当する不当労働行為であるとして、29年10月6日に救済申立てのあった事件である。
 また、組合は、②満65歳に達した者の継続雇用について定めた24年3月16日付け協定書第2項や本件協約第13条に反する会社の言動は、労組法第7条第3号に該当する不当労働行為であるとして、③会社が、組合の分会長A3を、65歳定年後も継続して雇用せずに雇止めとしたことは、同条第1号及び同条第3号に該当する不当労働行為であるとして、30年2月26日、申立事実及び請求する救済内容を追加した。
 神奈川県労働委員会は、会社に対し、①について労組法第7条第2号及び②について同条第3号に該当する不当労働行為であるとして、①について誠実な団交応諾とともに、文書の交付を命じ、その他の申立てを棄却した。 
命令主文  1 被申立人は、定年である満65歳以降の組合員の雇用に係る団体交渉に、誠実に対応しなければならない。
2 被申立人は、本命令受領後、速やかに下記の文書を申立人に交付しなければならない。
 当社による、①定年である満65歳以降の組合員の雇用に係る団体交渉での対応、②平成28年4月26日付け労働協約第13条の解釈に係る労使協議での言動、及び③貴組合のA2分会の分会長A3の定年後雇用に係る労使協議での言動は、①については労働組合法第7条第2号に、②及び③についてはそれぞれ同条第3号に該当する不当労働行為であると神奈川県労働委員会において認定されました。
 今後、このような行為を繰り返さないようにいたします。
  令和  年  月  日
  組合
  執行委員長 A1 殿
会社           
代表取締役 B1
3 その余の申立てを棄却する。 
判断の要旨  1 定年である満65歳に達した組合員の継続雇用に係る団体交渉での会社の対応は、不誠実な交渉態度に当たるか否か。(争点①)
 65歳定年後の雇用問題について、B2取締役は、B1社長の意向であるとして本件協約第13条の解釈やそれに基づく帰結を述べるにすぎず、単なる伝令役でしかなかったといわざるを得ないから、実質的な交渉権限を付与されていたとはいえない。また、B2取締役が、前記のような回答をしながら、B1社長の団体交渉への出席を忽ちに拒否したり、65歳定年後の雇用問題は自分の手を離れた旨発言をしていたことや、本件協約第13条の解釈は法的判断によるしかない旨回答していたことからすれば、B2取締役に団体交渉を通じて組合との間の見解の対立を解消しようとする姿勢はおよそなかったとみるほかない。
 したがって、会社は、65歳定年後の雇用に係る団体交渉に、実質的な交渉権限のある者を出席させ誠実に対応したとは認められないから、同団体交渉における会社の対応は、不誠実な交渉態度として、労組法第7条第2号の不当労働行為に該当する。
2 24.3.16協定書第2項及び本件協約第13条に係る会社の言動は、組合の運営に対する支配介入に当たるか否か。(争点②)
ア 本件協約第13条の解釈に係る協議での言動について
 組合が本件協約第13条を希望者の当然雇用を約したものと解釈するに至ったのは、会社にも原因があったともいえるのに、交渉に当たっていたB2取締役は、会社の見解を伝えるだけで、組合との間の協議を打ち切っている。
 そうであれば、会社は、本件協約の相手方たる組合の立場を軽視し、本件協約第13条を形骸化させ、組合の弱体化を招来するおそれを生じさせたものとして、本件協約第13条の解釈に係る協議での会社の言動は、労組法第7条第3号の支配介入に該当する。
イ A3分会長の定年後雇用に係る協議での言動について
 本件協約第13条の会社解釈によれば、会社は組合との間でA3分会長の雇用の可否を協議すべきであったにもかかわらず、会社の言動は、同人の定年後雇用は認められないとの結論ありきのものといわざるを得ず、労使協議を行ったとはおよそいえないから、会社は、同条を締結した意義を没却させ、組合の弱体化を招来するおそれを生じさせたというべきである。
 したがって、A3分会長の定年後雇用に係る協議での会社の言動は、支配介入として、労組法第7条第3号の不当労働行為に該当する。
3 会社がA3分会長を継続雇用しなかったことは、組合員であることを理由とする不利益取扱い及び組合の運営に対する支配介入に当たるか否か。(争点③)
ア 本件協約第13条により、A3分会長が、65歳定年後も当然に継続して雇用されることになるとはいえない。
 しかし、本件協約第13条は、定年後も雇用される可能性を示唆するものともいえるから、当時の労使関係や雇用の実態、その他事情から、A3分会長が組合員であるが故に雇用されなかったといえる場合には、不利益取扱いの不当労働行為が成立すると解される。
(ア)労使関係
 65歳定年後の雇用問題についてはともかく、29春闘などで組合と協議を行い合意に至っていることに鑑みれば、労使関係に重大な問題が生じていたとまではいえない。
(イ)雇用の実態
 会社就業規則及び定年後継続雇用規程によると、正規従業員は満60歳で定年を迎え、その後に嘱託再雇用されることはあるが、満65歳以降の雇用にっいて言及した定めはない。また、別組合であるC組合と会社との間では、65歳定年制が採用されていたものの、定年後の雇用に関し、本件協約第13条に準じた合意は認められない。そして、定年後も引き続き雇用されていれば最初の該当者となる予定であったA3分会長が定年退職したため、同人の比較対象となる会社従業員の存在は確認できない。
(ウ)その他事情
 会社としては、組合から70歳までの雇用について要求がされた29.3.8団交以降、A3分会長が定年退職する29年10月28日までの間、一貫して、65歳定年後も継続して雇用することや同人の雇用を否定している。
イ 以上のように、労使関係に重大な問題があったとまではいえず、65歳定年後に継続して雇用された会社従業員は確認できない上、A3分会長に継続雇用の期待を抱かせる事情があったともいい難いから、A3分会長は組合員であるが故に定年後も継続して雇用されなかったとまではいえない。
ウ 小括
 したがって、会社が、A3分会長を継続して雇用しなかったことは、労組法第7条第1号の不利益取扱いには当たらない。
 そして、前記のように不利益取扱いに当たらないから、このことを前提とする組合の運営に対する支配介入は認められず、労組法第7条第3号の不当労働行為にも当たらない。 
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