労働委員会命令データベース

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概要情報
事件番号・通称事件名  福岡県労委令和元年(不)第5号
九州福山通運不当労働行為審査事件 
申立人  X(個人) 
被申立人  Y会社(「会社」) 
命令年月日  令和2年6月2日 
命令区分  一部救済 
重要度   
事件概要   本件は、①会社の企業内組合であるC1組合のB2支店内の平成 30年の組合代議員選挙において、Xが選挙公約を配布したところ、会社がXに対し、30年6月15日、同月21日及び同月 27日に勤務改善指導書を交付したことが、労働組合法7条1号に、②30年のB2支店内の組合代議員選挙において、会社が、 立候補届出を支店長に対して行わせたこと、選挙の方法についてのXの改善申入れに応じなかったこと、及びXの選挙公約を記し た文書の配布を許可しなかったことが、いずれも労組法7条3号に該当するとして、X本人が救済を申し立てたものである。
 福岡県労働委員会は、会社に対し、①について労組法第7条第1号及び②の一部について同条第3号に該当する不当労働行為で あるとして、①について不利益取扱いの撤回及び②の一部について支配介入の禁止とともに、文書の掲示を命じ、その他の申立て を棄却した。 
命令主文  1 被申立人会社は、申立人Xに対する平成3 0年6月15日付け、同月21日付け及び同月27日付け勤務改善指導書をいずれも撤回しなければならない。
2 被申立人会社は、組合代議員選挙において立候補届出をB2支店長に対して行わせるなどして、C1組合の運営に支配介入してはならない。
3 被申立人会社は、本命令書写しの交付の日から10日以内に、A2判の大きさの自紙(縦約60センチメートル、横約42センチメートル)全面に次の文書を明瞭に記載し、被申 立人会社B2支店内の従業員の見やすい場所に14日間掲示しなければならない。
令和  年  月  日 
  X 殿
会社           
代表取締役 B1
   会社が行った下記の行為は、福岡県労働委員会によって労働組合法第7条に該当する不当労働行為と認定されました。
   今後はこのようなことを行わないよう留意します。
  1 X氏に対し、平成30年6月15日付け、同月21日付け及び同月27日付け勤務改善指導書を交付したこと。
  2 平成30年のB2支店内におけるC1組合の組合代議員選挙において、立候補届出を支店長に対して行わせたこと、及び X氏の選挙公約を記した文書の配布を許可しなかったこと。
4 その余の申立てを棄却する。 
判断の要旨  1 会社がXに対し、30年6月15日、同月21日及び同月27日 に勤務改善指導書を交付したことは、労組法7条1号に該当するか。(争点1)
ア 労働組合の正当な行為について
 本件選挙公約の配布には、選挙公約の内容、配布の態様等に照らして、その配布が会社内の職場規律を乱すおそれがない特別の 事情が認められるもので、就業規則第44条13号及び同条15号の遵守事項の違反になるとはいえず、組合活動としての正当性 は否定されるものではないと解される。
イ 「不利益な取扱い」の存否について
 B2支店長がXに対して勤務改善指導書を交付したことは、就業規則に基づく懲戒処分そのものではないが、それ以降懲戒処分 を受ける可能性が高まると考えられることなどから、実質的には不利益なものとなり得る。
 そして、本件においては、B2支店長は3度も勤務改善指導書を交付しており、Xが勤務改善指導書に従わないという理由で懲 戒処分を受ける可能性もあったといえる。
 また、勤務改善指導書において、懲戒解雇を示唆することにより、Xに解雇されるとの不安を与えるものであると同時に、Xの 言い分の聴取に仮託して会社の意に沿う回答を求め続けるものであって、精神的にも不利益なものといえる。
 さらに、Xの本件選挙公約の配布は、組合活動としての正当性を否定されるものではなく、組合代議員の選挙を公正に実施する ことは、労働組合の民主的な運営において不可欠なものであって、かかる選挙における組合活動上の利益は特に尊重すべきものと いえる。
 そうすると、B2支店長が、Xの本件選挙公約の配布を認めず、勤務改善指導書を交付してかかる行為を強く制限したことは、 Xの組合活動上において不利益を与えるものと解される。
 したがって、会社がXに対して勤務改善指導書を交付したことは、「不利益な取扱い」であったと認められる。
ウ 不当労働行為意思について
 Xは、会社が任意保険に加入しておらず、事故が起きた際、無期限の乗務停止処分となることを恐れ、運転手が自分で弁償して いる状況があるため、それを改めるべきであるとし、さらに、本件選挙公約において、10年以上無事故の従業員には、原則とし て事故負担金の支払いが猶予されることが会社と組合との間で取り決められているにもかかわらず、組合員には知らされていない などとして、会社を批判していた。会社は事故弁償基準を従業員に周知しておらず、本件審査手続においても明らかにしていない ことに鑑みれば、事故弁償基準に関する取り決めを明らかにしようとするXの姿勢と対立し、そうした行為を嫌悪していたことが 伺える。
 また、会社は、Xに交付した最初の勤務改善指導書である6.15勤務改善指導書において、会社の許可のない文書を構内でわ ずか1 枚配布したことに対して「最悪の場合は懲戒解雇処分になる」とまで警告している。
 さらに、27年4月以降、B2支店で勤務改善指導書が交付された事例13件についてみると、いずれも業務上の過失等を理由 としたものであり、会社内での組合活動や文書配布を理由としたものはないばかりか、従業員がC1組合の 執行委員長の教宣に参加するという組合活動に対しては、これを勤務扱いとしている。
 これらの事実に加え、勤務改善指導書の交付について合理的な理由がないことを併せ考えると、Xの本件選挙公約の配布を認め ず、Xに対して勤務改善指導書を交付したことは、会社が同人を嫌悪し、組合活動を困難にさせることを企図して行われたものと 推認できる。
エ 不当労働行為の成否について
 以上のとおり、Xに対する勤務改善指導書の交付は、同人が正当な組合活動を行ったこと故の不利益取扱いであり、労組法7条 1号に該当する不当労働行為である。
2 30年のB2支店内の組合代議員選挙における会社の次の行為は、労組法7条3号に該当するか。(争点2)
(1)立候補届出を支店長に対して行わせたこと。
 B2支店長は、組合代議員であるC2総合班長及びC3班長から、同支店長が非組合員であり、就業時間中に立候補届を受理す ることが可能であるとして、立候補届の受理を要請され、その要請に応じた。
 また、B2支店長は、C4班長から、組合代議員選挙の投票日が30年6月14日及び同月15日である旨、Xに対して電話で 連絡するよう依頼され、同人への連絡を行った。
 本来、組合の役員選挙は組合の自主性や独立性を確保したうえで行われなければならず、会社が組合代議員選挙に対して支配介 入に当たるような関与を行って組合活動を萎縮させることは許されない。
 本件で会社事務を行う組合員が立候補届を受理することも不可能ではなく、現に勤務改善指導書を発出する権限を有するなど、 B2支店において、労務管理上、会社を代表して一定の行為を行う立場にあるB2支店長が立候補届を受理し、また、組合代議員 選挙の投票日について、あえてXに対して電話で連絡していること、会社がXの選挙活動を嫌悪していることが推認されることを 併せ考えると、同支店長の行動は、会社が組合の運営に介入し、組合活動を萎縮させる効果を与えるものと評価せざるを得ない。
 したがって、B2支店長が、代議員選挙という組合の重要な活動において、立候補届を受理する行為は、組合活動に対する支配 介入となるものであって、労組法7条3号に該当する不当労働行為であり、会社は使用者としてその責任を負う。
(2)選挙の方法についてのXの改善申入れに応じなかったこと。
 30年6月14日、Xは、会社とC1組合に対し、組合代議員選挙の実施について、選挙管理委員会を設置すること、告示日と 投票日との間に1週間程度の期間を設けること等を申し入れた。
 しかし、支店長が立候補の届出を受理することが、会社が組合代議員選挙に介入するものであることは上記(1)で判断のとお りであり、このことは、会社が選挙管理委員会の設置や、告示日と投票日との間の期間の設定等に関与することにも当てはまるも のであって、これらの組合代議員選挙の実施に関することについては、組合が自主的に決定すべきものであり、会社が関与すべき ものではない。
 したがって、会社が選挙の方法についてのXの改善申入れに応じなかったことは、労組法7条3号には該当しない。
(3)Xの選挙公約を記した文書の配布を許可しなかったこと。
ア 会社内での組合活動については、使用者の施設管理権に基づく規律や制約に服することとなるが、これらの規律や制約は、事 業 の円滑な遂行のための合理性が認められるものであることを要すると解される。
 組合と会社の間で締結されている労働協約の第8条3項には、組合活動に係る印刷物の会社施設内での配布については、会社の 許可 が必要である旨規定されており、本件選挙公約の配布に対して、B2支店長は、①本件選挙公約の文面に事実と異なる点があ ること、②他の従業員が勤務時間中であることを理由として、配布を許可していない。
 ①については、事故弁償基準や「味フル(注:物品販売業務で「味のふるさと便」の略称)」に関する記載において重大な誤り を含むようなものではないため、このことは配布を許可しない理由として相当とはいえない。
 ②については、他の従業員が社内におり勤務時間中のように見える場合でも、例えば休憩時間中の従業員や出退勤途中の従業員 に対する配布などは許可できる場合があるのであって、C1組合のC5委員長のB2支店の訪問の際、同委員長の教宣を就業時間 中にさせていることと比較すると、B2支店長が他の従業員が勤務時間中であることを配布を許可しない理由としたことには疑問 が残る。
 むしろ、会社が事故弁償基準を社内に周知していないことに加え、本件審問手続においても事故弁償基準を明らかにしていない ことを考慮すれば、B2支店長は、Xが本件選挙公約により事故弁償基準の存在を乗務員に知らせることにより、会社が周知して いない事故弁償基準が広く社内に知られることを嫌って、許可しなかったものと考えざるを得ない。
 さらに、会社がXの組合活動を嫌っていたことは、十分推認できる。
イ 以上のことから、B2支店長が本件選挙公約の配布を認めないとした理由には事業の円滑な遂行のための合理性を認めるこ とはできず、B2支店長がXに対して、本件選挙公約の配布を許可しなかったことは、Xの組合活動を阻害し、組合活動に対する 支配介入となるものであって、労組法7条3号に該当する不当労働行為であり、会社は使用者としてその責任を負 う。 
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