労働委員会命令データベース

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概要情報
事件番号・通称事件名  三重県労委平成29年(不)第6号
ライフ・テクノサービス不当労働行為審査事件 
申立人  X組合(「組合」) 
被申立人  Y会社(「会社」) 
命令年月日  令和2年4月21日 
命令区分  棄却・却下 
重要度   
事件概要   本件は、①A組合員が、会社が運営するサービス付き高齢者向け住宅で機能訓練指導員として就労していたところ、会社が機能訓練室を移転させ、これに反対したA組合員に出勤停止及び始末書の提出を求めたが、A組合員は、始末書を提出せず、また会社の方針に従わなかったことから、平成29年11月14日会社がA組合員を解雇したこと、が労働組合法第7条第1号及び第3号に、②組合と会社が同年10月2日、13日及び31日に開催した団体交渉における会社の対応が不誠実であること、及び、③会社が組合からの同年11月15日及び21日付けの団体交渉申入れに正当な理由なく応じなかったこと、がそれぞれ労働組合法第7条第2号に該当するとして、救済申立てがあった事案である。
 更に、組合は、④会社が組合及びA組合員に対し文書を手交ないし送付した(しようとした)ことが労働組合法第7条第2号に該当するとして救済を求めている。
 三重県労働委員会は、①、②及び③について申立てを棄却し、その余の申立てを却下した。 
命令主文  1 本件救済申立てのうち,①A組合員の懲戒解雇が労働組合法第7条第1号及び第3号に該当する、②平成29年10月2日、同月13日及び同月31日に開催された団体交渉が不誠実であり労働組合法第7条第2号に該当する、③申立人が被申立人に対し平成29年11月15日付け及び同月21日付けで申し入れた団体交渉に被申立人が応じなかったことが労働組合法第7条第2号に該当するとして救済を求めた部分を棄却する。
2 申立人のその余の申立てを却下する。 
判断の要旨  (争点1)平成29年10月2日の第1回団体交渉について、会社の「平成29年8月14日付け及び9月5日付け懲戒処分」(「懲戒処分」)、「機能訓練室の移転」及び「資料の提供」に関する対応は、不誠実な団体交渉に当たるか。
 会社は、第1回団体交渉において、組合に対し、①機能訓練室移転の経緯、②懲戒処分の経緯及び理由を述べ、また、A組合員から同人の機能訓練及び機能訓練室に対する考え方も聞き、そのうえで、懲戒処分を再検討するとしており、会社は、組合に対し、組合の求めに応じて、組合の要求や主張に対する回答や自己の主張の根拠を回答しているのであって、A組合員にかかるはじめての団体交渉であることも鑑みれば、会社の対応は、不誠実であるとまでは認められず、労働組合法第7条第2号には該当しない。
 また、会社は、組合の求める資料の提供には応じているといえ、労働組合法第7条第2号には該当しない。
(争点2)同月13日の第2回団体交渉について、会社の「懲戒処分」、「機能訓練室の移転」及び「資料の提供」に関する対応は、不誠実な団体交渉に当たるか。
 第2回団体交渉においで、会社は、組合に対し、①機能訓練室の移転、②懲戒処分につき、A組合員から提出された書面を踏まえて、文書又は口頭により具体的に回答をしており、また、そのうえで、懲戒処分を再々検討するとしている。
 もっとも、会社が、どのような観点からA組合員への懲戒処分を再検討したのかは明確ではなかったが、組合からさらなる質問もなく、第2回団体交渉の議題の中心が「機能訓練室の移転」であり、組合の求めに応じ、懲戒処分を再々検討することとしたことからすれば、不誠実であるとまではいえず、労働組合法第7条第2号には該当しない。
 また、組合は、会社に対し、資料の提供を求めておらず、労働組合法第7条第2号には該当しない。
(争点3)同月31日の第3回団体交渉について、会社の「懲戒処分」、「機能訓練室の移転」、「資料の提供」及び「障害者差別禁止指針及び合理的配慮指針についての実施状況」に関する対応は、不誠実な団体交渉に当たるか。
 会社は、第3回団体交渉において、組合の求めに応じ、必要に応じ、入居者及び当該家族からの要望を踏まえながら、①機能訓練室の移転、②懲戒処分につき回答し、そのうえで、懲戒処分を一旦保留としている。もっとも、会社は、どのような観点からA組合員への懲戒処分を再々検討したのか明確ではないが、入居者及び当該家族からの要望を踏まえ会社の主張を明確にしており、不誠実とまでは認められず、労働組合法第7条第2号には該当しない。
 「障害者差別禁止指針及び合理的配慮指針についての実施状況」については、会社の回答が抽象的であるが、組合が会社に何を求めているのか、具体的ではなく、会社の回答が抽象的であるからといって、そのことのみをもって、不誠実であるとまでは認められず、労働組合法第7条第2号には該当しない。
 また、組合は、会社に対し、資料の提供を求めておらず、労働組合法第7条第2号に該当しない。
(争点4)会社が、①同月20日組合に対し「連絡書」を送付したこと、②同月23日A組合員に対し「懲戒処分通知書(再通告)」を直接手交しようとしたこと及び③「懲戒処分通知書(再通告)」を内容証明郵便で送付したこと、並びに④同年11月14日組合に対し「連絡書」、「懲戒処分通知書」及び「『懲戒処分に関する抗弁書等に係る意見書』に対する抗議に伴う回答」を送付したこと、が不誠実な団体交渉に当たるか。
 労動組合法第7条第2号は、会社が団体交渉に応じないこと、また、会社が団体交渉に応じても、誠実な交渉をしないことを不当労働行為として禁止するものであって、組合が当委員会に審査を求める①ないし④の「不当労働行為を構成する事実」が団体交渉の不誠実性を判断する一要素となりうるとしても、労働組合法第7条第2号の法文上、文書の手交ないし送付自体が労働組合法第7条第2号には該当しえない。
 そうすると、組合が当委員会に審査を求める、①ないし④は、労働委員会規則第33条第5号に規定する「申立人の主張する事実が不当労働行為に該当しないことが明らかなとき」に該当するとして却下すべきものである。
(争点5)組合が同年11月15日に申し入れた団体交渉について
ア 会社が「懲戒解雇の撤回」に関する団体交渉を拒んだことに正当な理由がなかったか。
 第3回団体交渉では、懲戒処分を一旦保留とし、最終的には、A組合員が始末書を提出しなかったことから、同年11月1日に賞罰委員会を開催し、懲戒解雇が適当であると判断したものである。
 そうすると、会社がA組合員に対し、同月14日付けで懲戒解雇を通知した時点では、組合及び会社いずれも譲歩の余地はなかったと認められる。
 また、組合は、第3回団体交渉において、会社に対し、銀行や市役所に詰めかけて宣伝活動をする、社長の息子も犠牲になるという威圧的な言辞をしており、組合及び会社の主張が平行線であったことを踏まえると、会社が、組合からの同月15 日付け団体交渉に応じなかったことに「正当な理由」がないとまではいえない。
 よって、労働組合法第7条第2号に該当しない。
イ 会社が「業務場所変更の妥当性」に関する団体交渉を拒んだことに正当な理由がなかったか。
 「業務場所変更の妥当性」にかかる団体交渉とは「機能訓練室の移転」についてであり、会社が、第1回団体交渉から第3回団体交渉において「機能訓練室の移転」にかかる団体交渉に誠実に対応しており、そのうえで、双方の主張が対立し、それ以上に讓歩の余地がないことが明確となっていれば、その後の団体交渉に応じなかったとしても「正当な理由」がないとまではいえない。
 会社として、組合に対し誠実交渉義務を尽くすべきは、A組合員が「機能訓練室の移転」により、A組合員の労働条件及びその他の待遇にどのような影響を及ぼすかであるが、この点、組合は、機能訓線業務においてA組合員に補助員を配置することを求め、会社は、組合に対し、①当初から補助員を配置する予定はなかったこと、②A組合員のみでできる業務を実施するよう指示していることを述べており、組合及び会社の主張は、平行線であった。
 そうすると、組合が会社に対し、同月15日付けで団体交渉を申し入れた時点では、組合及び会社いずれも讓歩の余地はなかったと認められる。
 よって、会社が、組合からの同月15日付け団体交渉に応じなかったことに「正当な理由」がないとまではいえない。
 よって、労働組合法第7条第2号に該当しない。
(争点6)組合が平成29年11月21日に申し入れた団体交渉について、会社が「懲戒解雇の撤回」及び「業務場所変更の妥当性」に関する団体交渉を拒んだことに正当な理由がなかったか。
 本件議題につき、同月15日から同月22日までに、会社に団体交渉に応ずべき事情変更も認められないから、会社には、組合からの同月22日付け団体交渉の申入れに応じない「正当な理由」がないとまではいえない。よって、労働組合法第7条第2号に該当しない。
(争点7)A組合員の解雇について
ア A組合員の解雇は、組合の正当な組合活動等の故をもって行われたか。
 A組合員の懲戒解雇は、A組合員が組合に加入するまでの事実に基づくものであるから、不当労働行為意思を観念することはありえず、労働組合法第7条第1号には該当しえない。
イ A組合員の解雇は、組合の組合運営に対する介入にあたるか。
 会社のA組合員に対する懲戒解雇は、A組合員が組合に加入するまでの事実に基づきなされたものであり、当該懲戒解雇により組合人及び組合支部の運営に影響を生じさせているものではない。
 また、会社は、A組合員が組合に加入したことにより、団体交渉における組合の要求を踏まえA組合員の懲戒処分を再検討し、改めて賞罰委員会を開催するなど、A組合員の懲戒処分を慎重に検討しており、会社に、客観的にみて、組合を弱体化ないし反組合的な結果を生じ、又は生じるおそれがあることを認識していたとは認められない。
 よって、会社のA組合員の懲戒解雇は、労働組合法第7条第3号に規定する不当労働行為に該当しない。 
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