概要情報
事件番号・通称事件名 |
大阪府労委平成29年(不)第48号
不当労働行為審査事件 |
申立人 |
X組合(「組合」) |
被申立人 |
Y法人(「法人」) |
命令年月日 |
令和2年4月13日 |
命令区分 |
棄却 |
重要度 |
|
事件概要 |
本件は、法人が、①組合員1名への退職勧奨中に、同組合員の処分
歴や指導歴を記載した文書を回覧して、同組合員を誹諾中傷し、退職を強要したこと、②朝礼において組合役員の発言を妨害した
こと、③朝礼での組合の発言を制限し禁止する旨の文書を送付したこと、④同組合員の処遇をめぐる団体交渉で協議の継続を確認
していたにもかかわらず、同組合員を解雇したこと、がそれぞれ不当労働行為に当たるとして申し立てられた事件である。
大阪府労働委員会は、申立てを棄却した。 |
命令主文 |
本件申立てをいずれも棄却する。 |
判断の要旨 |
1
法人が、施設長名の29.7.10文書を法人の職員に回覧したことは、組合に対する支配介入に当たるか。
(1)まず、法人が、29.7.10文書を法人の職員に回覧した経緯及び日的についてみる。
法人が、29.7.3朝礼での組合発言や29.7.8組合機関紙の記載を、誤った事実であると受け止めたことは無理からぬ
ことといえるところ、そのようなことを、法人の職員全体に向けて発信されたのであるから、法人が、29.7.3朝礼発言及び
29.7.8組合機関紙により、本件施設全体に誤った事実が一方的に流布されたと受け止めたことはやむを得ないというべきで
ある。そうであれば、法人が、かかる状況を是正する目的で、29.7.10文書を職員に回覧したことを不当とはいえない。
(2)次に、29.7.10文書の記載内容及び職員への回覧という手法が、上記の経緯及び目的に照らし、妥当なものであった
かについてみる。
ア 29.7.10文書の記載内容についてみる。
(ア)29.7.10文書において、A1組合員の氏名は記載されておらず、「A職員」とされていることを考慮しても、
29.7.10文書には、法人が利用者等から聴取した内容や過去のセクハラの件、組合員の指導事例等が詳細に記載されてお
り、個人情報保護の観点から、やや慎重さを欠く部分がなかったとはいえない。
しかしながら、
29.7.8組合機関紙に、「法人でまた退職強要」、「Aさんに確認も行わない事実で『出勤禁止』」、「すべての職員が、ある日突然根拠なく処分されてしまうような職場に
なってしまいました」との記載があったことからすると、これに対する反論として、「Aさん」に対する退職勧奨や出勤停止指示
に、根拠があることを示すために、その理由や経緯について詳細に記載したことは、理解できるところである。
(イ)また、29.7.10文書は、組合や組合活動そのものについては言及しておらず、組合や組合の活動を批判したものとは
いえないことからすると、支配介入につながる内容であったとは言い難い。
(ウ)したがって、
29.7.10文書の記載内容に慎重さを欠く部分がなかったとはいえないものの、支配介入につながる内容であったとは言い難い。
イ 次に、法人が、法人の職員を対象として29.7.10文書を回覧したことの妥当性についてみる。
まず、法人が行った書面の回覧自体は、組合機関紙の記載内容に対する反論の手法として、直ちに相当性を欠くものとはいえな
い。
続いて、29.7.10文書の回覧先についてみる。
29.7,10文書の内容は、本件施設職員のみならず、法人職員全体にも広く知られる可能性があったことは否定できない。
しかしながら、法人が積極的に29.7.10文書を法人職員全体に知らせようとしたものではなかったことが窺える。
また、29.7,8組合機関紙は法人職員全体のみならず、法人以外の医療・福祉関連法人の職員に対しても、発信されたもの
といえる。
そうすると、29.7.10文書の回覧先は、29.7.8組合機関紙に対する反論として逸脱したものとも、不当なものとも
いえない。
(3)以上のとおり、29.7.10文書の内容には、慎重さを欠く部分がなかったとはいえないものの、支配介入につながる内
容であったとは言い難く、また、回覧先についても、29.7.8組合機関紙に対する反論として逸脱したものともいえず、これ
らのことを総合して判断すると、法人が、29.7.10文書を法人の職員に回覧したことは、29.7.3朝礼での組合発言や
29.7.8組合機関紙に対する反論の範囲を逸脱し、組合活動を妨害するものであったとまでいうことはできない。
したがって、法人が、29.7.10文書を法人の職員に回覧したことは、組合に対する支配介入に当たるということはでき
ず、この点に関する組合の申立てを棄却する。
2
①29.8.7朝礼時のB1事務局長の発言、②29.8.7朝礼時のB2院長の発言は、法人の組合に対する支配介入に当たるか。
(1)29.8.7朝礼時の組合発言機会におけるA2書記長の発言の際に、①B1事務局長が、業務中であり、発言は、スケ
ジュールの確認のような内容の発言にするよう述べたこと、②B2院長が、A2書記長が発言しているときに、ここは法人朝礼で
業務の時間であり、組合活動を行う場ではないので、組合はスケジュールや伝達事項をすることにとどめるよう述べたこと、が認
められ、また、29.8.7朝礼時のA2書記長の発言内容が事務連絡の範囲を超えていた。これらのことからすると、B1事務
局長の発言及びB2院長の発言は、いずれも、法人朝礼の組合発言機会における組合の発言を事務連絡の範囲内にとどめるよう求
めるものであって、組合活動を誹謗中傷するものではなく、相当性を欠くものともいえない。
(2)以上のとおりであるから、
29.8.7朝礼時のB1事務局長の発言及びB2院長の発言は、法人の組合に対する支配介入に当たるということはできず、この点に関する組合の申立ては棄却する。
3 法人が組合に対し、29.7,10照会書及び29.8.25申入書を送付したことは、組合に対する支配介入に当たるか。
(1)29.7.10照会書には、①29.7.3朝礼におけるA2書記長の発言は、法人に対する名誉毀損、信用毀損に当たる
ものである旨、②29,7.3朝礼におけるA2書記長の発言が、組合書記長としての発言であるのか組合とは無関係の職員個人
としての発言であるのか、どちらであるかについて本書により照会する旨の記載があることが認められる。
法人が、29.7.3朝礼におけるA2書記長の発言を、本件施設全体に誤った事実を一方的に流布したものと受け止めたこと
はやむを得ないというべきであり、これを前提とすると、法人が、A2書記長の発言が名誉毀損に当たるとの見解を記載すること
は、同発言に対する抗議として相当性を欠くものとまではいえず、また、組合活動に対する攻撃とまではいえない。
次に、組合は、そもそも朝礼発言で、「組合とは無関係の職員個人としての発言」というのはあり得ず、A2書記長の発言に対
してわざわざ執行委員長に問い合わせること自体、A2書記長と他の執行部の間に意図的に分断を持ち込むものである旨主張す
る。
A2書記長は、組合発言機会の場で発言したことからすると、組合書記長としての発言であったとみるのが自然であるが、法人
が、A2書記長の発言に対し抗議を行うに当たり、労使紛争の拡大にもつながりかねないとして、慎重を期して抗議の対象を事前
に確認することに理由がないとはいえない。
また、29.7.10照会書によって、組合内部でA2書記長の発言が問題となったり、組合活動が影響を受けたとの疎明はな
い。
以上のとおりであるから、法人が組合に対し、29.7.10照会書を送付したことは、組合に対する支配介入に当たるという
ことはできない。
(2)29,8.25申入書には、29.7.3朝礼におけるA2書記長の発言は事実誤認であり、法人に対する名誉毀損、信用
毀損に当たる旨、組合に対し抗議し、謝罪と撤回を求める旨の記載があることが認められるところ、かかる記載が、A2書記長の
発言に対する抗議として相当性を欠くものとまではいえず、また、組合活動に対する攻撃とまではいえないことは、前記判断のと
おりである。
次に、29.8.25申入書第2項の記載についてみる。
29.8.25申入書には、法人朝礼での組合発言は、組合員に対する諸日程の伝達など事務連絡に用いる場として許容してき
たにすぎない旨、今後事務連絡の域を超えた発言を法人朝礼で行うことを禁止するので、組合員に対する周知をお願いする旨、今
後そのような発言がなされた場合には、就業規則に沿った措置をとらざるを得ない旨の記載があることが認められる。
しかしながら、法人朝礼において、組合は、法人が許容していたとする事務連絡の範囲内で、発言することが認められていたこ
とは、前記判断のとおりであり、第2項の記載は、法人が組合に対し、今後法人朝礼における組合発言を、本来の範囲内にとどめ
るよう求めるとともに、その旨を組合員に周知するよう求めたものにすぎず、法人朝礼での組合発言を不当に制限するものとはい
えない。
また、法人朝礼は、法人の業務の一環であるのだから、法人が許容していない行動をとった場合に就業規則に沿った措置を取る
旨を記載したことが、正当な組合活動に対して処分を公言してきたものとはいえない。
以上のとおりであるから、法人が、組合に対し、
29.8.25申入書を送付したことは、組合に対する支配介入に当たるということはできない。
(3)したがって、法人が、29.7.10照会書及び29.8.25申入書を送付したことは、組合に対する支配介入に当たら
ず、この点に関する組合の申立ては棄却する。
4
法人が、平成29年8月24日をもってA1組合員を解雇したことは、組合員であるが故の不利益取扱いに当たるとともに、不誠実団交及び組合に対する支配介入に当たるか。
(1)解雇が組合員であるが故の不利益取扱いに当たるかについて
ア 法人がB利用者への虐待行為があったと判断したことには理由があり、かつ、法人が虐待行為を重視し、虐待行為を行った職
員を解雇することが不合理であるとはいえないことからすると、29.7.18通知書等に記載されたもののうち、B利用者への
虐待の件だけを取り上げてみても、解雇には相応の理由があったというべきである。
イ 法人はA1組合員を解雇するに当たり、相応の手続を踏んでいるとみるのが相当である。
ウ A1組合員が、組合活動の中心人物であったとは言い難く、また、組合が主張する代休未消化問題についても、A1組合員が
組合活動として取り組んでいたと法人が認識していたとまでいえない上、解雇との関連性を見出すことも難しい。そうすると、ユ
ニオン・ショップ協定により非管理職の職員全員が組合員である中で、法人がA1組合員の組合活動を取り立てて嫌悪していたと
はいえない。
オ
以上を総合すると、法人がA1組合員を解雇したことには相応の理由があったといえ、また、解雇するに当たり、相応の手続を踏んでおり、さらに、A1組合員の組合活動を嫌悪
したとはいえないのであるから、法人が、A1組合員を解雇したのは、組合員であることを理由にしたものとはいえない。
したがって、法人が、平成29年8月24日をもってA1組合員を解雇したことは、組合員であるが故の不利益取扱いには当た
らない。
(2)解雇が不誠実団交に当たるかについて
ア 組合は、①本件団交では、要求内容の協議に入ることすらできず、団交の要求内容の3項目については、本件団交では協議は
まったく終わっていない旨、②本件団交において、法人は団交が継続中であることを確認していたにもかかわらず、第2回の団交
を待たず、解雇通知を送付した旨、本件団交から2日後の解雇は、解雇の前提となる事実認定の機会を奪ったものであり、団交の
打切りそのものである旨主張する。
(ア)組合の認識はともかく、両者の間で団交が継続中であるとの確認がなされていたとまではいえない。
(イ)法人は、本件団交の2日後に、29.8.23解雇通知書を送付しているが、法人が、A1組合員の処遇についての結論を
急いだことに、理由がなかったわけではないといえ、また、組合が、29.7.26団交要求書の要求内容について継続して協議
する意向を持っていたかについて疑念が残るといわざるを得ず、これらのことを考え合わせると、法人が、本件団交の2日後に
29.8.23解雇通知書を送付したことをもって、団交を一方的に打ち切ったとまではいえない。
イ
以上のとおり、本件団交が不誠実団交に当たる旨の組合主張はいずれも採用できず、法人が、A1組合員を解雇したことは、不誠実団交に当たるとはいえない。
(3)解雇が支配介入に当たるかについて
組合は、A1組合員の解雇は、同組合員に対する退職勧奨の取消しを求める組合の取組に対する妨害である旨主張するが、ユニ
オン・ショップ協定により非管理職の職員全員が組合員である中で、法人がA1組合員の組合活動を取り立てて嫌悪していたとは
いえないこと、A1組合員の解雇は、組合員であるが故の不利益取扱いに当たらず、不誠実団交にも当たらないことは、前記判断
のとおりであり、また、上記以外に、A1組合員が解雇されたことにより、組合活動に影響があったと認めるに足る疎明はない。
したがって、法人が、A1組合員を解雇したことは、組合に対する支配介入に当たるとはいえない。
(4)以上のとおり、法人が、平成29年8月24日をもってA1組合員を解雇したことは、組合員であるが故の不利益取扱いに
当たらず、不誠実団交にも、組合に対する支配介入にも当たらないことから、この点に関する組合の申立てを棄却する。
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