労働委員会命令データベース

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概要情報
事件番号・通称事件名  東京都労委平成29年(不)第88号
スター・プロダクト不当労働行為審査事件 
申立人  X1組合(「組合」)・X2組合(「支部」) 
被申立人  Y会社(「会社」) 
命令年月日  令和2年3月17日 
命令区分  一部救済 
重要度   
事件概要   平成29年5月10日、会社の従業員らは、組合に加入するとともに、同支部を結成した。
 5月11日、支部執行委員長のA2外3名は、会社に対し、組合加入と支部結成を通知するため、当時、会社の代表取締役であったB2と面談した。その際、B2社長は、上記4名に対し、「個人的な意見を伝えると残念だな。」、「この規模の会社で(労働組合が)できてしまうことが残念。」などと述べたり、支部の副執行委員長のA3及び同書記長のA4に対し、両名が29年2月まで課長の役職にあったことを踏まえて「その二人が会社側でなく労働者側に付くと会社潰れるよ。」などと発言した。5月22日、組合らは、会社に対し、29年度(28年11月1日から29年10月31日まで)における定期昇給を一律2,000円とすること及び夏季賞与を前年度と同月数支給することを要求した。組合らと会社とは、上記要求事項を議題として、29年6月13日、20日、29日、7月5日、12日及び21日の計6回団体交渉を行った。
 本件は、①本件発言は、組合の運営に対する支配介入に当たるか否か(争点1)、②本件団体交渉における会社の対応は、不誠実な団体交渉に当たるか否か(争点2)が争われた事案である。
東京都労働委員会は、会社に対し、②について不誠実な団体交渉に当たるとして、誠実な団交応諾とともに、文書の手交を命じ、その他の申立てを棄却した。 
命令主文 
1 被申立人会社は、平成29年度における夏季賞与減額以外の経費の削減策について、申立人組合及び同支部が団体交渉を申し入れたときは、誠実に応じなければならない。
2 被申立人会社は、本命令書受領の日から1週間以内に、下記内容の文書を申立人組合らに交付しなければならない。

 年 月 日
 組合
 中央執行委員長 A1 殿
 支部
 執行委員長   A2 殿

 会社
代表取締役 B1
 当社が、平成29年7月21日の第6回団体交渉において、夏季賞与減額以外の経費の削減策について説明しなかったことは、東京都労働委員会において不当労動行為であると認定されました。
 今後、このような行為を繰り返さないよう留意します。
 (注:年月日は交付した日を記載すること。)
3 被申立人会社は、前項を履行したときは、速やかに当委員会に文書で報告しなければならない。
4 その余の申立てを棄却する。  
判断の要旨  1 本件発言は、組合の運営に対する支配介入に当たるか否か(争点1)。
ア 本件発言のうち「(労働組合が)できてしまうことが残念。」という発言は、B2社長が支部の結成を残念と表現していることが明らかであり、この発言だけをみれば、同社長が組合嫌悪の感情を抱いていたものと捉えられかねない。
 しかし、B2社長は、「個人的な意見」と断った上で「残念だな。」と発言するとともに、「(こうなる)前に私の思いを理解していただけなかったこと。」と発言した直後に「(労働組合が)できてしまうことが残念。」と発言しており、支部結成だけではなく、従業員に自らの思いを理解してもらえなかったことに対して残念と発言しているようにも受け取ることができる。
 その後、B2社長は、支部に対し、「B3前社長の時、みんな不満があって、解決して良くしようと考えてきたのに何でそうなってしまったの。」と支部結成ないしそれにつながった従業員の不満の原因を尋ねるとともに、支部が給与体系の改定と従業員代表の選出方法に関する会社の提案に賛同できなかったと回答したことについて、B2社長は、「僕はみんなと合意を取ってやろうとして」いた、「誰一人何も言ってこなかった。それで上部団体に入りましたはショックだね。いきなり決まりましたから、はショックだな。」と述べている。
 これらの一連の発言の全体の趣旨を踏まえると、B2社長が「残念」と表現したことは、支部が結成されたことを指す面も含んでいるにせよ、むしろその重心は支部結成にまで至った従業員の不満を同社長自身が酌み取れなかったことにあるとみることができる。
イ B2社長は、A3副委員長及びA4書記長に対し、「A4さん、A3さん幹部職になっていかなくてはいけない。」、「今期はそうしたいと思っていたのに、そういう人たちが中心となってやると非常に厳しい。」、「二人が労働組合やるとなると話が別。本来会社を経営していかなくてはならない立場の人がそうなると大変になる。」、「その二人が会社側でなく労働者側に付くと会社漬れるよ。」と発言している。これらの発言は、支部結成に加わった二人を非難し、翻意を促すものと受け取られかねない面がある。
 しかし、これらの発言後、B2社長は、「会社の状況がともあれ君たちの生活保障となると話が変わってくる。」、「言いたいのは労働組合とかやってる場合ではない。ボーナス出せる状況ではないが昨年同様出すように掛け合っている。社員との距離が離れている中で、出せと言われても厳しい状況を分かってもらえる人がどのくらいいますか。」と発言しており、会社の経営が厳しい状況にある中で自らと従業員との間の心理的な隔たりに危機感を示している。さらに、B2社長は、「会社を良くしようとしているのが裏目に出て自分自身が情けない。ここまで来るのに労力をかけさせて情けない。コミュニケーションができてなかったことが反省」と発言することで、従業員に対する自らのコミュニケーション不足を反省している。
 このようにB2社長のA3副執行委員長及びA4書記長を名指しした発言後の同社長の発言の全体の趣旨は、自らの従業員とのコミュニケーション不足への反省であり、同社長から強い反組合的な姿勢をうかがうことはできない。
ウ その後、B2社長は、組合からの不当労働行為の説明があった後ではあるが、社長室に残った支部に対して、「反省することが大きくて、労働組合を作ることは悪いとは思っていない。僕もやっていたしね。労働組合みたいな組織があればそこで話せるからね。労働組合をやるといろいろと勉強になるしね。協力してやりましょう。」と発言しており、同社長は、最終的には、上記ア及びイのうちの反組合的と受け取られかねない発言を打ち消す趣旨の発言をその面談の中で行っている。
 そして、B2社長がその面談後に反組合的な発言を行った事実は認められない。
エ 加えて、平成29年5月11日の面談は、A3副委員長が、当日朝、B2社長に用件を伝えずに同日昼頃に面談したい旨を電話で申し入れ、同社長が承諾することで設定されたものである。B2社長は、突然の支部結成の通知に一人で応対したのであって、その場における同社長の発言の一部に誤解を招きかねない面があったとしても無理からぬことでもあり、そこだけを殊更に強調することは相当ではない。
オ 以上を踏まえると、B2社長の本件発言はその全体の趣旨を踏まえれば、組合の運営に対する支配介入に当たるとまでみることはできない。
2 本件団体交渉における会社の対応は、不誠実な団体交渉に当たるか否か(争点2)。
ア 夏季賞与一律20パーセント減額以外の経費削減策について
(ア) 組合らは、第5回団体交渉において、一般的に会社の業績が悪い場合には、会社は細かな状況を説明した上で、会社として身を切るような改革を行う、例えば、節約や役員報酬の大幅カットがまず行われ、その後に従業員の賃金カットの話が出てくる、会社が今そういう危機にあることを説明してほしい、夏季賞与一律20パーセント減額だけでは、経費削減策として銀行が納得しないのではないか、それ以外に会社は何をしているのか、まず役員の報酬カットを行い、更に経費削減をどのように行っているのか説明してほしいなどと業績悪化に対する経費削減策について、夏季賞与一律20バーセント減額以外の方策について説明を求めている。これに対して、会社は、銀行から運転資金の借入れが難しく、親会社等の保証を得て借入れできている状態である、会社の姿勢を示せないと銀行の愛想が尽きる状態である、人件費以外の営業における会議費、交際費、交通費、また旅費の宿泊費の精算といったものが就業規則のとおりなされていないなど切り詰める余地がある、日当も一泊二日で重複しており就業規則にのっとっていない、今の役員の報酬は以前の報酬と比べると大幅に低い報酬である、それ以外の説明も必要という組合らの認識は分かったなどと応じた。
 しかし、会社は、第6回団体交渉において、賞与は利益が超過した場合に支給されるものであるため、固定支給とは考えていないなどと述べ、第5回団体交渉から一転して、これ以上経費について細かな説明をする必要はないと回答し、組合らからの人件費以外の削減について説明はないのかとの質問に対しても、同様の理由で、説明はないと回答したのである。
(イ) 組合らが夏季賞与一律20バーセント減額以外の経費削減策はないのかを質問したのは、夏季賞与一律20パーセント減額による経費削減効果350万円が、29年度の税引前純利益の赤字見込額3,500万円に比べて少額なことからであるとうかがえる。これに対して、会社は、第5回団体交渉において、人件費以外の営業における会議費、交際費等の精算について切り詰める余地があるなどと回答するとともに、それ以外の説明も必要という組合らの認識は分かったと応じていた。
 こうした経緯をたどったにもかかわらず、会社は、第6回団体交渉では、上記のとおりこれ以上経費について細かな説明をする必要はない、その理由は、賞与が固定的に支払われていた場合であれば説明が必要であるがそうではないので説明はないと回答したのである。
 しかし、B3前社長就任当時に決定された会社の夏季賞与の支給の方針においては、会社の業績が下がり最終的に赤字見込みである場合の夏季賞与の支給については明示的に決定されていないのであるから、会社がこれまでとは違って夏季賞与を一律20バーセント減額する以上、組合らの質問した人件費以外の経費削減策についても具体的に説明することで本件回答について理解を得るべく努めることが求められていたというべきである。したがって、会社が夏季賞与一律20パーセント減額以外の経費削減策について説明しないこととしたことは不誠実であるといわざるを得ない。
(ウ) 会社は、経費削減策について、今の役員の報酬は以前の報酬と比べると大幅に低いものであること、会社単独の決算内容では銀行から運転資金の借入れができず、親会社等の保証を受けて借入れをしている状態であること、会議費等の精算方法の適正化を図っていること等を説明したと主張するが、いずれも経費削減策の説明としては具体性に欠け、組合らの質問に対する回答として不十分であるといわざるを得ない。
 したがって、会社がこのような説明をしているからといって上記判断を覆すには足りない。
イ 結 論
 以上のとおり、本件団体交渉のうち第6回団体交渉において、会社が、組合らに対し、夏季賞与一律20バーセント減額以外の経費削減策について説明しなかったことは、不誠実な団体交渉に当たる。 
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