労働委員会命令データベース

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概要情報
事件番号・通称事件名  広島県労委平成30年(不)第3号
中亜国際協同組合外1社不当労働行為審査事件 
申立人  X組合(「組合」) 
被申立人  Y1協同組合(「協同組合」)・Y2(個人) 
命令年月日  令和2年3月13日 
命令区分  棄却 
重要度   
事件概要   本件は、協同組合について、①組合が申し入れた平成30年2月9 日及び同月22日の団交要求に応じなかったこと、②同月1日に組合のA組合員をC国に帰国させ、帰国後に組合脱退届を提出さ せたことは、それぞれ不当労働行為に該当するとして、同年6月27日、救済申立てがなされた事件である。
 広島県労働委員会は、申立てを棄却した。 
命令主文  本件申立てを棄却する。 
判断の要旨  1 争点1(協同組合は、労働組合法第7条の使用者に当たるか。)
(1) A組合員の労働組合法第3条の労働者性について
 A組合員とY2は、技能実習制度の下、入国前に雇用契約を締結しており、座学講習期間終了後に、A組合員は、Y2でマガキ 養殖の仕事に従事し、その対価としてY2から賃金が支払われることとされていたことが認められる。そうすると、A組合員は同 条の労働者に該当するといえる。なお、本件雇用契約上、A組合員が座学講習期間中にY2から賃金を得るものとされていないこ とは以上の判断を妨げない。また、A組合員が座学講習期間中、Y2に労務を提供していないことは、技能実習制度上の結果にす きず、以上の判断を妨げるものではない。
(2) 協同組合の労働組合法第7条の使用者性について
 組合は雇用主ではない協同組合に対して不当労働行為責任を追及しているため、協同組合が同条の使用者に該当するかについ て、以下判断する。
 本件団体交渉事項は、A組合員が入国当初に受講する座学講習の適正な実施及びA組合員の一時帰国における協同組合の対応に 関する事項であると推認される。
 そこで、これらの団体交渉事項について、協同組合が雇用主と部分的とはいえ同視できる程度に、その労働者の基本的な労働条 件等について現実的かつ具体的に支配、決定することができる地位にあるといえるかが問題となるため、この点について、以下検 討する。
(ア) A組合員が入国当初に受講する座学講習の適正な実施について
 技能実習制度においては、監理団体は、技能実習生が技能等の修得活動を実施する前に、日本語等の座学講習を一定時間以上実 施することを義務づけられており、本件においても協同組合がA組合員に対し、これを実施したことが認められる。他方、座学講 習期間中、実習実施機関が技能実習生に対して指揮命令を行うことは認められていない。
 そうすると、協同組合はA組合員の座学講習の適正な実施について、技能実習制度の範囲内ではあるが、現実的かつ具体的に決 定することができる地位にあったものと認められる。したがって、組合が、A組合員の座学講習の適正な実施のために、協同組合 に対して話合いを求めたことには相応の理由があると解される。
 もっとも、協同組合のA組合員に対する座学講習は、監理団体の業務として行われたものと解される。そして、座学講習は雇用 契約の効力の発生の前提として密接に関連するものの、座学講習の受講は労務の提供ではないことから、協同組合における座学講 習の適正な実施に関する事項は、A組合員の基本的な労働条件等に当たらないと解するのが相当である。
(イ)A組合員の一時帰国における協同組合の対応について
 一時帰国の判断は、監理団体及び実習実施機関が相当と認めた場合に行われるものである。
 協同組合は、C国の送り出し機関であるC2の日本担当者との話合いの上で、A組合員の本件一時帰国を決定したことが認めら れるが、Y2が話合いに参加した事実は認められない。他方で、協同組合は、Y2に対して、座学講習期間中のA組合員の日本語 学習状況について随時報告し、本件一時帰国決定についても決定当日ないし翌日には報告していることが認められる。そうする と、協同組合が一時帰国を単独で決定することができたとまでは認められない。
 もっとも、本件一時帰国の決定は、協同組合の監理団体の業務として行われたものと解される。そして、本件一時帰国は、座学 講習の中断を意味するものであり、座学講習の受講は労務の提供ではないことから、A組合員の一時帰国における協同組合の対応 に関する事項は、A組合員の基本的な労働条件等に当たらないと解するのが相当である。
 以上のとおりであるから、本件の団体交渉事項について、協同組合に労働組合法第7条第2号の使用者性を認めることはできな い。
2 争点2(使用者に当たる場合、30年2月9日及び同月22日の団交要求に応じなかったことは、労働組合法第7条第2号の不当労働行為に該当するか。)及び争点3(使用者に 当たる場合、30年2月1日にA組合員を帰国させ、帰国後に組合脱退届を提出させたことは、労働組合法第7条第3号の不当労 働行為に該当するか。)について
 協同組合は労働組合法第7条第2号及び第3号の使用者に当たらないため、判断を要しない。
3 争点4(Y2が、30年2月16日の団交要求に応じなかったことは、労働組合法第7条第2号の不当労働行為に該当する か。)
 A組合員とY2との間で雇用契約が成立した上で、本件座学講習が行われていること、本件団体交渉を申し入れた時点において は、同契約関係が解消されていないことから、Y2は労働組合法上の使用者に当たると解される。
 そこで、Y2が団交要求に応じないことは、同法第7条第2号の不当労働行為に該当する旨の組合の主張について、以下検討す る。
 本件では、組合はY2に対して、30年2月16日に、同月23日を団交開催日とし、「1,Aさんの件について」等を議題と する団交要求書を提出したこと、同月22日、Y2は、協同組合から、A組合員が一時帰国中であること、労働組合に加入したが 即時脱退意思表示をしたとの報告があったことを理由に、本件団交要求に応じなかったことが認められる。
 組合が団体交渉を求めた事項は、A組合員の座学講習の適正な実施及び一時帰国に関する事項であると推認され、これらの事項 は、座学講習終了後のY2での就労可否に密接に関係するものといえる。また、協定書第17条に記載のとおり、一時帰国は、監 理団体及び実習実施機関が相当と認めた場合に実施され、同協定書第16条に記載のとおり、技能実習の中止は、送出し機関、監 理団体及び実習実施機関が協議して決定するものとされる。技能実習制度上,座学識習の適正な実施が一時帰国や実習中止の決定 に影響を及ほすと解されることを踏まえると、本件各事項は、A組合員の労働条件その他の待遇に関するものであり、かつ、Y2 の処分可能なものと解される。よって、Y2は本件各事項について団交要求に応ずべき義務があったとするのが相当である。
 しかし、A組合員の技能実習第1号ロの在留資格による在留期間は、30年1月9日から31年1月9日までとなっており、本 命令交付時点においては同期間が満了していることが認められる。
 そうすると、A組合員の座学講習の適正な実施及び一時帰国に関連する事項について、Y2の処分可能性は失われたと解され る。よって、Y2に対する申立てにつき、本命令交付時点においては、組合の救済の利益は失われたものといえるから、組合の Y2に対する本件救済申立てには理由はない。 
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