事件番号・通称事件名 |
大阪府労委平成30年(不)第56号
不当労働行為審査事件 |
申立人 |
X組合(「組合」) |
被申立人 |
Y会社(「会社」) |
命令年月日 |
令和2年4月6日 |
命令区分 |
一部救済 |
重要度 |
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事件概要 |
本件は、会社が、2回の団体交渉の後に組合が申し入れた団体交渉
に、組合員名簿の事前提出等条件を付けて応じなかったことが不当労働行為であるとして申し立てられた事件である。
大阪府労働委員会は、会社に対し、一部について労組法第7条2号及び第3号に該当する不当労働行為であるとして、団交応諾
とともに、文書の手交を命じ、その他の申立てを却下した。 |
命令主文 |
1 被申立人は、申立人が平成30年2月6日付け、同月20日付け、同年3月7日付け、同年4月11日付け、同年5月25日付け及び同年7月7日付けで申し入れた団体交渉に、
議題に係る被申立人の質問に対する事前回答及び組合員名簿の事前提出を求めることなく、応じなければならな
い。
2 被申立人は、申立人に対し、下記の文書を速やかに手交しなければならない。 |
記 |
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年 月 日
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組合
執行委員長 A 様
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会社
代表取締役 B
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当社が、貴組合が平成30年2月6日付け、同月20日付け、同年3月7日付け、同年4月11日付け、同年5月25日付け及
び同年7月7日付けで申し入れた団体交渉に、貴組合が議題に係る当社の質問に対し事前に回答しないこと及び組合員名簿を事前
に提出しないことを理由に応じなかったことは、大阪府労働委員会において、労働組合法第7条第2号及び第3号に該当する不当
労働行為であると認められました。今後、このような行為を繰り返さないようにいたします。
3 申立人の平成29年8月21日付け団体交渉申入れに係る申立てを却下する。 |
判断の要旨 |
1 争点1 (組合は、申立人適格を有するか。)について
組合は、当委員会が実施した資格審査において労働組合法第2条及び第5条第2項に規定する労働組合資格要件に適合するもの
と認められ、その旨決定された。
したがって、組合が申立人適格を有することは明らかである。
2 争点2
(29.8.21団交申入れ、30.2.6団交申入れ、30.2.20団交申入れ、30.3.7団交申入れ、30.4.11団交申入れ、30.5.25団交申入れ及び
30.7.7団交申入れに対する会社の対応は、正当な理由のない団交拒否及び組合に対する支配介入に当たるか。ただし、
29.8.21団交申入れについては、申立期間を徒過していないといえるか。)について
ア 29.8.21団交申入れに係る申立てについて、申立期間を徒過していないといえるか。
(ア)労働組合法第27条第2項が規定する「継続する行為」とは、一個の行為自体が現に継続して実行されてきた場合のほか、
個々の行為自体は複数であっても全体として一個とみることができる不当労働行為が継続している場合、すなわち、継続して行わ
れる一括して一個の行為と評価できる場合をいうと解される。
(イ)これを本件についてみると、団交議題は、
29.8.21団交申入れが大阪事業所での事故及び安全問題である一方、30.2.6団交申入れから30.7.7団交申入れまでの6回の団交申入れは、無期雇用及び就業規
則に係る事項を共通の議題とし、途中で賃上げ、組合員の名簿提出及び兵庫工場又は兵庫事業所の事故が議題として追加されたも
のであることが認められる。このことからすると、29.8.21団交申入れは、30.2.6団交申入れから30.7.7団交
申入れまでの6回の団交申入れと団交議題が明らかに異なり、これら6回の団交申入れとの関係で継続して行われる一括して一個
の行為と評価することはできない。
したがって、29.8.21団交申入れは、30.2.6団交申入れ以降の6回の団交申入れと継続する行為とはいえない。
(ウ)一方、29.8.21団交申入れについての組合と会社とのやり取りは、平成29年9月8日付けで会社が組合に
29.9.8通知書を提出したのが最後であったことが認められ、このことからすると、29.8.21団交申入れは、遅くとも
同日の時点において、行為として完結したものとみるのが相当である。
(エ)そして、本件申立ては平成30年9月12日になされているのであるから、29.8.21団交申入れに係る申立ては、行
為の時から1年を過ぎてなされたものと言わざるを得ず、申立期間を徒過したものとして、労働組合法第27条第2項及び労働委
員会規則第34条第1項第3号により却下する。
イ
30.2.6団交申入れ、30,2.20団交申入れ、30.3.7団交申入れ、30.4.11団交申入れ、30.5.25団交申入れ及び30.7.7団交申入れの議題が義
務的団交事項であるかについて
30.2.6団交申入れが無期雇用及び就業規則、30.2.20団交申入れが5年を超える労働者から無期転換への申入れが
あった場合の無条件雇用、雇止めをしないこと及び就業規則に関連する事項、
30.3.7団交申入れが就業規則、無期転換及び賃上げ、30.4.11団交申入れが賃上げ、無期雇用転換、就業規則等、30.5.25団交申入れが賃上げ、無期雇用転
換、就業規則、兵庫工場の事故等、30.7.7団交申入れが賃上げ、無期雇用転換、就業規則及び兵庫事業所の事故をそれぞれ
議題とする団交申入れであったことが認められる。
そして、委員長が大阪事業所に動務するパート従業員であることが認められ、会社の従業員に組合員がいることは明らかなので
あるから、上記諸議題は、会社の従業員である組合員の労働条件及び労働環境に直接関わる事項、将来にわたり組合員の労働条件
等に影響を及ぼす可能性が大きく、組合員の労働条件等との関わりが強い事項、又は、労使関係の運営に関する事項のいずれかで
あるといえ、義務的団交事項である。
ウ そこで、30,2.6団交申入れ、30.2.20団交申入れ、30,3.7団交申入れ、30.4.11団交申入れ、
30.5.25団交申入れ及び30.7,7団交申入れに対する会社の対応は、正当な理由のない団交拒否に当たるかについて検
討する。
(ア)組合の上記6回の団交申入れの実質的な団交議題は、①無期雇用転換に関する事項、②就業規則に関する事項、③雇止めに
関する事項、④賃上げに関する事項、⑤兵庫事業所の事故に関する事項、の5つであったことが認められる。そして、組合の
30.2.6団交申入れ、30.2.20団交申入れ、30.3.7団交申入れ、30.4.11団交申入れ、30.5.25団
交申入れ及び30.7.7団交申入れに対して、労使間で団交が一度も行われていないことについて、当事者間に争いはない。
(イ)会社は、30.2.6団交申入れ、30.2.20団交申入れ、30.3.7団交申入れ、30.4.11団交申入れ、
30.5.25団交申入れ及び30.7.7団交申入れについて団交に応じられない事情があったとはいえない。
それにもかかわらず、会社は、雇止めの議題については、組合がもはや議題としなくなった状況においても議題としての説明を
求め続け、賃上げ及び兵庫事業所における事故の議題については、団交の開催に支障がないことが明らかになった段階においても
なお、組合員名簿の事前提出及び議題の対象となる組合員の明示を求め続けたり、交渉申入れ事項の書面による明確化を求めたり
したものといえる。
上記6回の団交申入れに対する会社のこのような対応は、本来、必要のない要求を組合に対し執拗に繰り返すことで、団交開催
を引き延ばしたものとみるほかない。
(ウ)ここで、組合の法適合性をめぐる会社の態度についてみる。
会社は、組合との団交が行われていた時点において、既に組合の労働組合法第2条及び第5条への適合性を問題にしていたとい
うことができる。
しかしながら、労働組合法第7条は、使用者に対し、その雇用する労働者の代表者との団交応諾義務を課しているのであり、労
働組合法第2条及び第5条は、不当労働行為救済制度の保護を受けるに際して、これに適合することが要件となることを規定する
のみで、団交応諾義務の存否自体に関わるものではない。
そうすると、組合との団交において、当事者間での団交応諾義務の存否と無関係な労働組合法の規定への適合性を問題視する会
社の態度は、組合活動の一部を殊更強調して、労働組合法第2条及び第5条を曲解し、それをロ実に、団交を回避しようとしたも
のと評価せざるを得ない。
(エ)以上のことを併せ考えると、30.2.6団交申入れ、30.2.20団交申入れ、30.3.7団交申入れ、
30.4.11団交申入れ、30.5.25団交申入れ及び30.7.7団交申入れに対する会社の対応は、正当な理由のない団
交拒否と言わざるを得ない。
エ
以上のとおりであるから、30.2.6団交申入れ、30.2.20団交申入れ、30.3.7団交申入れ、30.4.11団交申入れ、30.5.25団交申入れ及び
30.7.7団交申入れに対する会社の対応は、労働組合法第7条第2号に該当する不当労働行為である。
また、かかる会社の対応は、組合の申し入れた団交を正当な理由なく拒否することにより、組合員の組合に対する信頼を失墜さ
せるものであるから、組合に対する支配介入にも当たり、労働組合法第7条第3号に該当する不当労働行為である。
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掲載文献 |
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