労働委員会命令データベース

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概要情報
事件番号・通称事件名  群馬県労委令和元年(不)第1号
鴻池運輸株式会社不当労働行為審査事件 
申立人  X組合(「組合」) 
被申立人  Y会社(「会社」) 
命令年月日  令和2年2月13日 
命令区分  棄却 
重要度   
事件概要   本件は、組合が、平成30年12月22日付けの団体交渉申入書に よって、会社に対し、会社が雇用していた組合員Aに係るパワーハラスメントや労働条件等を交渉事項とする団体交渉の開催を申 し入れたにもかかわらず、会社がこれに応じなかったことが、労働組合法第7条第2号に該当する不当労働行為であるとして、令 和元年5月15日、当委員会に救済申立てがなされた事案である。 
 群馬県労働委員会は、申立てを棄却した。 
命令主文  本件申立てを棄却する。 
判断の要旨  (争点)会社が、本件団交申入れに応じなかったことが労組法第7条 第2号の不当労働行為に該当するか。
1 使用者が雇用する労働者の範囲
 団体交渉制度の趣旨及び労組法第7条第2号の解釈を前提とした上で、現に雇用関係にない者に関する団体交渉の必要性を踏ま えれば、①当該紛争が雇用関係と密接に関連して発生し、②使用者において、当該紛争を処理することが可能かつ適切であり、③ 雇用関係終了後、社会通念上合理的期間内に団体交渉が申し入れられたという場合においては、元従業員たる組合員を「使用者が 雇用する労働者」と認め、使用者に団交応諾義務を負わせるのが相当というべきである。 
 本件においては、未払の時間外手当や在職中のパワーハラスメント行為(本件髪切り行為)について間題とされていることか ら、上記①及び②の判断基準には該当しているものと考えられる。そこで、以下では、上記③の判断基準に基づき、Aが「使用者 が雇用する労働者」であったといえるかについて検討する。
2 Aの労働者性
 本件団交申入れは、平成30年12月22日に行われたのであるから、Aが平成29年7月30日に退職してから約1年5ケ月 経過後になされたものと認められる。この期間は、社会通念上合理的期間を大きく逸脱したものとまではいえないものの、同期間 内であるとにわかには判断できない。
 そこで、仮にAについて「使用者が雇用する労働者」であると認めた場合でも、なお会社が団交に応じなかったことに正当な理 由があるかどうかについて検討することとする。
3 団交に応じなかった理由の正当性
 会社は、現に雇用関係にない労働者の労働条件についての申入れであったことを理由に本件団交申入れに応じなかったため、当 該理由が正当であるか否かについて、以下検討する。
ア 時間外手当に関する部分
 まず、時間外手当を含む賃金は雇用契約の基本的要素であり、労働者にとって大きな関心を持つべきものであるのだから、当該 紛争は、組合若しくはAが会社に対し何らかの請求ができる状態になった後又は退職後遅滞なく解決されるべき紛争といえる。
 そこで、「時間外手当を支払わない強制的労働」が平成28年12月28日から平成29年6月末頃まで行われたとの組合の主 張に基づくと、平成29年6月分賃金の支給日が平成29年7月28日なのだから、Aは、遅くとも退職前に、時間外手当に関し 何らかの請求ができる状態になっていたといえる。
 一方で、勤務記録等の開示請求が本件団交申入れ以前の平成30年10月29日に行われたことが認められる。しかし、何らか の請求ができる状態になってから本件開示請求までの1年3ヶ月の間に、Aと会社関係者との間で何らかの話合いや請求がなされ たとの主張はなく、Aは、少なくとも1年3ケ月の間、会社に対し何ら解決のための行動を起こしていなかったといえる。
 さらに、Aは、自主的に退職しており、組合が主張するとおり、それが穏当なものでなかったとしても、突如として解雇された ものではなく、Aが、会社との間で、退職までに時間外手当に係る請求をすることができない特段の事情があったとも認められな い。
 これらのことに鑑みると、本件団交申入れのうち、時間外手当に関する部分については、Aが会社に請求等をすることなく、こ れを放置していたと評価されてもやむを得ない状況にあったといえる。
 以上のことや上記2で述べたことから総合的に判断すると、本件団交申入れのうち、時間外手当に関する部分については、時機 を失しており、もはや団体交渉で解決すべき紛争はないものと会社が認識していたとしてもやむを得ない客観的状況が存在してい たといえる。
 そうすると、当該部分が現に雇用関係にない労働者の労働条件に係るものであることを理由に会社がこれを拒んだとしても、正 当な理由がなかったとまでは認められない。
イ 本件髪切り行為に関する部分
 まず、本件髪切り行為について、会社が「Aの了解のもとに行われており、ハラスメント行為とは認識していない」と組合に回 答していることから、会社は、本件髪切り行為そのものは認識していたといえる。
 一方で、Aが、退職後、会社の上司B1が作成した反省文を受領しているとの事情や、本件髪切り行為を行ったB1がC地方検 察庁において不起訴処分となった事実を会社が認識していることも認められる。
 これらのことに鑑みると、会社が、本件髪切り行為について、本件団交申入れ時点においては、AとB1の私人間の問題として 既に解決済みの間題であり、その団交申入れが時機を失していると判断したとしても、無理からぬことと思料される。
 なお、組合は、Aが本件髪切り行為について退職前にB2営業所長に訴え出た旨を主張するが、その事実が存したとしても、A がそれ以降同所長に対する請求等をしたことはなく、会社代表や苦情窓口等へは直接抗議・協議を申入れたことはないと組合は述 べている。したがって、本件団交申入れの時点では、本件髪切り行為についての紛争は、少なくとも退職から約1年5ケ月の間は 問題とされていなかったと認められる。
 以上のことや上記2で述べたことから総合的に判断すると、本件団交申入れのうち、本件髪切り行為に関する部分については、 個人間で解決済みの問題であり、もはや団体交渉で解決すべき紛争はないものと会社が認識していたとしてもやむを得ない客観的 状況が存在していたといえる。
 そうすると、当該部分についても、それが現に雇用関係にない労働者の労働条件に係るものであることを理由に会社がこれを拒 んだことに、正当な理由がなかったとまでは認められない。
ウ 小括
 上記ア及びイで述べたことからすると、本件団交申入れは、会社がもはやこれに応じる必要がないと認識していたとしてもやむ を得ない客観的状況下でなされたものであったと認められ、現に雇用関係にない労働者の労働条件についてなされたことを理由に 会社がこれを拒んだことには正当な理由がなかったとはいえない。
4 結論
 以上のとおり、本件団交申入れの時点でAが会社との関係において「使用者の雇用する労働者」であったといえるかについて は、なお検討の余地があるが、仮にAが「使用者の雇用する労働者」に該当していたとしても、本件団交申入れを会社が拒んだこ とには正当な理由がなかったとはいえず、会社が本件団交申入れに応じなかったことは労組法第7条第2号の不当労働行為に該当 しない。
 
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