事件番号・通称事件名 |
東京都労委平成29年(不)第71号 |
申立人 |
X組合(「組合」) |
被申立人 |
Y法人(「法人」) |
命令年月日 |
令和元年12月17日 |
命令区分 |
一部救済 |
重要度 |
|
事件概要 |
本件は、①法人が、A2を29年7月20日付けで普通解雇とした
ことは、同人が組合員であることを理由とした不利益取扱いに当たるか否か、②法人が、A2に対し、同人の勤務シフトについ
て、5月16日付けで、「話合いもなく契約の変更はできませんので4月1日付けの契約内容のとおりシフトを組むことといたし
ます。」と通知したり、6月2日付けで、「貴殿自身の勤務のことや再契約のことは組合との問題ではありません。」と通知した
りしたことは、組合運営に対する支配介入に当たるか否か、③法人が、組合からの団体交渉申入れに対し、6月15白付「回答
書」で、A2との個別的な雇用契約の問題について交渉事項から除外するよう求めたことは、正当な理由のない団体交渉拒否に当
たるか否かが争われた事案である。
東京都労働委員会は、法人に対し、②の一部について支配介入、③について正当な理由のない団交拒
否に当たる不当労働行為であるとして、文書の手交を命じ、その他の申立てを棄却した。 |
命令主文 |
1 被申立人法人は、本命令書受領の日から1週間以内に、下記内容
の文書を申立人組合に交付しなければならない。
記
年 月 日
組合
委員長 A1 殿
法人
理事長 B
当法人が、平成29年6月2日付けの文書で貴組合の組合員との雇用契約について貴組合との問題ではないと組合員に直接通知
したこと及び貴組合からの団体交渉申入れに対する同月15日付「回答書」において、組合員との雇用契約の間題について交渉事
項からの除外を求めたことは、東京都労働委員会において不当労働行為であると認定されました。
今後、このような行為を繰り返さないよう留意します。
(注:年月日は交付した日を記載すること。)
2 被申立人法人は、前項を履行したときは、速やかに当委員会に文書で報告しなければならない。
3 その余の申立てを棄却する。 |
判断の要旨 |
1
法人が、A2を平成29年7月20日付けで普通解雇としたことは、同人が組合員であることを理由とした不利益取扱いに当たるか否か(争点1)
法人がA2を7月20日付けで普通解雇とする過程において、法人には同人の勤務シフトの問題について、組合との話合いに
よって解決していくことを忌避したといえる対応があったといわざるを得ないが、そのことを考慮しても、法人が、連続夜勤を禁
止し、その方針に基づいて同人に対して金曜日を含む勤務シフトを指定したこと自体は、相当な対応であったというべきである。
本件解雇は、このような状況の下でのA2の対応を、連続夜勤に固執して法人が指定した勤務シフトに従わない姿勢を示すものと
みて、そのことを理由としてなされたものといわざるを得ない。
したがって、法人が、A2を7月20日付けで普通解雇としたことは、同人が組合員であることを理由とした不利益取扱いに当
たらない。
2 法人が、A2に対し、同人の勤務シフトについて、5月16日付けで、「話合いもなく契約の変更はできませんので4月1日
付けの契約内容のとおりシフトを組むことといたします。」と通知したり、6月2日付けで、「貴殿自身の勤務のことや再契約の
ことは組合との問題ではありません。」と通知したりしたことは、組合運営に対する支配介入に当たるか否か(争点2)
ア 5月16日付けの文書
法人が、5月16日付けの文書を発出した当時は、法人が連続夜勤を禁止するとともに、A2に対して毎週金曜日を含む夜勤日
を5月勤務シフトで指定し、これに対して同人及び組合が毎週金曜日は祖母の介護のため動務できないとして、金曜日を夜勤日と
することについて合意ができない状態であった。
こうした中で、法人は、5月16日付けの文書で、A2に来所するように依頼するとともに、来所しない場合は4月1日付けの
雇用契約内容のとおりシフトを組む旨を通知している。
組合は、5月16日付けの文書が、団体交渉事項について、組合の頭越しにA2本人の承諾を得ようとしたものであると主張す
る。
確かに、組合はA2の勤務シフトの問題について団体交渉を求めていたが、5月16日付けの文書は、同月14日に同人が直接
法人に対し、6月勤務シフトとして土曜日夜勤のみを希望するとともに同月以降の雇用契約の内容を毎週土曜日の夜勤1回に変更
するよう依頼したことを受けて発出されたものである。5月14日付けのA2の文書は、毎週2回の夜勤に加えて火曜日及び木曜
日をP遅番動務とする4月1日付けの雇用契約の内容を大きく変更するように依頼するものであったと認められる。これに対して
法人が「話合いもなく契約の変更はできません」としたことに不自然さはないし、話合いができない場合には、「4月1日付けの
契約内容のとおりシフトを組む」としたことも無理からぬ対応である。また、5月14日付けのA2の文書は、法人に対し、同人
自身が法人に直接発出したのであり、この文書自体には組合に連絡するよう求める文言はなかったのであり、これに回答する法人
の5月16日付けの文書には殊更に組合の関与を排除する文言はない。
そうすると、法人が、A2に対し、5月16日付けの文書で同人の勤務シフトについて直接通知したことは、組合の運営に対す
る支配介入に当たるとまではいえない。
イ 6月2日付けの文書
6月2日付けの文書は、A2が、法人に対し、6月1日付けで団体交渉に応ずるよう依頼するとともに、法人との話合いには組
合の立会いがあれば応ずるとの意向を文書で通知したことを受けて発出されたものである。
そうすると、法人は、組合が団体交渉を求めており、A2自身もそのような意向を示している勤務シフトの問題等について、
「組合との問題ではありません。」と応じたものといえる。組合が交渉を求めたA2の勤務シフト等が同人の労働条件に関する事
項として義務的団交事項に当たることは明らかであり、法人の対応は、組合が団体交渉を求めている義務的団交事項について、組
合の関与の下に解決を図るべき問題であることを否定し、同人と直接交渉することで合意を図ろうとしたものとみざるを得ないか
ら、組合を無視ないし軽視することで組合の影響力の排除を企図した支配介入に当たる。
ウ 結論
以上のとおり、5月16日付けの文書は、組合運営に対する支配介入には当たらないが、6月2日付けの文書は、組合運営に対
する支配介入に当たる。
3 法人が、組合からの団体交渉申入れに対し、6月15日付「回答書」で、A2との個別的な雇用契約の問題について交渉事項
から除外するよう求めたことは、正当な理由のない団体交渉拒否に当たるか否か(争点3)
ア 6月15日付「回答書」は、法人とA2との間の雇用契約の問題について、およそ団体交渉の対象としては前提を欠き、交渉
事項の対象とはいたしかねるという、一般的かつ強い表現で団体交渉の対象となることを否定し、交渉事項からの除外を求めるも
のであって、その文言からすれば、これを単なる希望の表明や提案とみることはできず、同人との雇用契約の問題を団体交渉から
除外する法人の確たる意向を示したものといわざるを得ない。
6月15日付「回答書」が発せられた経緯を見ると、同月1日にA2が雇用契約の問題について組合と団体交渉を行うことなど
を求めたのに対し、法人は、同月2日付けで「貴殿自身の勤務のことや再契約のことは組合との問題ではありません。」などと回
答しており、また、同月5日の組合の団体交渉申入れ及び同月9日に同人自身が自らの雇用契約の問題は団体交渉事項であり、連
絡は組合にするよう求めたことを受けて、法人は、6月15日付「回答書」を出している。法人は、6月15日付「回答書」だけ
でなく、これに先立つ同月2日付けの回答においても、A2との雇用契約の問題を団体交渉の対象とすることに対する否定的な見
解を示しているものといえる。
また、法人は、6月15日付「回答書」と同日に、A2に対し、雇用契約に基づいた勤務シフトに従わず欠勤を続けているとし
て7月20日付けで普通解雇する旨の解雇予告を行っており、これによって、同人の雇用契約の問題は、同人の勤務シフトを巡る
問題から解雇間題へと発展したものといえる。6月15日付「回答書」に係る法人の対応は、組合が従前から団体交渉を求めてい
たA2との雇用契約に関する問題が解雇予告という重大な事態に発展したことにより、問題の迅速かつ円滑な解決のために団体交
渉を行う必要性が特に大きくなったといえる時期における団体交渉の可能性を著しく損なうものであったといわざるを得ない。
以上のことからすれば、6月15日付「回答書」は、法人とA2との間の雇用契約の問題を団体交渉から除外することによる、
この問題についての団体交渉の拒否に当たるというべきである。
イ そして、法人とA2との間の雇用契約の問題を団体交渉から除外することについての正当な理由の存在をうかがわせる事情は
認められない。
ウ したがって、法人が、A2との雇用契約の問題について団体交渉事項からの除外を求めたことは、正当な理由のない団体交渉
拒否に当たる。 |
掲載文献 |
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