労働委員会命令データベース

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概要情報
事件番号・通称事件名  東京都労委平成30年(不)第13号
食品新聞社不当労働行為審査事件 
申立人  X組合(「組合」) 
被申立人  Y会社(「会社」) 
命令年月日  令和元年11月19日 
命令区分  棄却 
重要度   
事件概要   組合は、平成29年6月15 日、会社と定期昇給を議題とする団体交渉を行った(「6月15日の団体交渉」)。しかし、組合は議題とは別の件に終始し、議題に入ることなく団体交渉は終了した。
 11月29日、組合と会社とは、冬季一時金、制作部(新聞の印刷などを行う部署)のマネジャーについて等を議題とする団体 交渉を行った(「11月29日の団体交渉」)。しかし、組合はこの日も議題とは別の件に終始し、議題に入ることなく団体交渉 は終了した。この団体交渉の終了間際に、会社は改めて団体交渉を行う旨を述べたが、29年冬季一時金が支給された12月22 日までに団体交渉は行われなかった。
 会社のマネジャ一制度及びその人事については、就業規則及び労使協定により毎年2月に組合と会社とで労使協議をすることと されていたが、少なくとも29年から、労使協議は行われていなかった。
 28年10月、会社は新聞を印刷する印刷所を変更し、この変更に伴い、隔日刊行している「食品新 聞」及びその他の特別号の印刷方法が変わった。組合委員長であるA1委員長は、会社に対し、自身が担当し毎年1月に発行する 塩業界を特集した「塩・新春号」と題する食品新聞の特別号について、紙質が悪くなったので印刷所変更前の紙質に戻してほしい 旨を繰り返し要望した。会社は、その要望には応じなかったものの、同要望を踏まえ、29年1月20日及び30年1月19日 に、通常よりは上質な紙を使用して塩・新春号を発行した。
 本件は、以下の点が争われた事案である。
(1)6月15日の団体交渉におけるB1常務取締役及びB2取締役の発言は、組合の運営に対する支配介入に当たるか否か。
(2)11月29日の団体交渉における会社の対応は、不誠実な団体交渉に当たるか否か。
(3)会社が11月29日の団体交渉において次回の団体交渉を約束しながら開催せず、29年冬季一時金を支給したことは、正 当な理由のない団体交渉の拒否に当たるか否か。
(4)会社が30年にマネジャー制度及びその人事について就業規則に定めのある労使協議を行わなかったことは、組合の運営に 対する支配介入に当たるか否か。
(5)会社が30年1月19日付塩・新春号に関する印刷対応について、印刷所変更前と同様の紙質に戻してほしいとするA1委 員長の要望を拒否したことは、組合員であるが故の不利益取扱いに当たるか否か。
 東京都労働委員会は、申立てを棄却した。 
命令主文  本件申立てを棄却する。 
判断の要旨  1 6月15日の団体交渉におけるB1常務取締役及びB2取締役の 発言は、組合の運営に対する支配介入に当たるか否か。
 B1常務及びB2取締役の発言は、A1委員長の長時間にわたる同取締役への個人攻撃ともいえる対応に対して反射的に出たも のであり、組合の弱体化を企図するものであったとはいえず、また、組合活動を妨害したものともいえないから、組合の運営に対 する支配介入には当たらない。
2 11月29日の団体交渉における会社の対応は、不誠実な団体交渉に当たるか否か。
ア 組合は、11月29日の団体交渉の議題について協議ができなかった理由として、①会社がCの出席を拒否しようとしたこ と、②会社がB2取締役を団体交渉に出席させ、同取締役の大麻使用疑惑等に対する会社の考え方を明らかにしなかったこと及び ③交渉時間が1時間という短い時間に決められていたことを挙げている。
イ しかし、Cの出席については、団体交渉の議題が冬季一時金や制作マネジャーなど会社内部の問題であることからすると、会 社が、会社の従業員ではない同人の出席について説明を求めるのは無理からぬことである。
 加えて、①これまで社外の人物が団体交渉に参加したことがなかったこと、②組合は事前にCの参加を会社に連絡していないこ と及び③同人は名前を述べる以外には自己紹介をしておらず、組合も同人と組合との関係に係る説明をしていないことをも考慮す ると、同人の出席に対する会社の反応は不自然なものとはいえず、結局は会社も同人の出席の下で交渉に応じていることをも併せ 考えれば、会社の対応に問題があったとはいえない。
ウ Cの出席に係るやり取りの後、組合はB2取締役の退席を要求しているが、その理由として、①同取締役が労使協議に違反し た場合は退任又は退職する約束となっていること及び②同取締役の大麻使用等疑惑が企業倫理に反することを挙げている。
 確かに、この理由①については、組合が主張する約束の存在自体は認められるが、組合が、会社に対し、B2取締役が具体的に どのような会社の方針や労使協定に反しているのか、また、同人の出席により具体的にどのような支障が生じるのかについて説明 した事実は認められない。理由②については、会社は組合に対して何十年も昔の話で現在において対処を要する問題はないと説明 をしており、同取締役の出席が団体交渉の支障になるとみることもできない。
 それにもかかわらず、組合は大半の時間をB2取締役の団体交渉への出席を巡る話題に費やし、会社が議題に話題を戻そうとし て同取締役が何も発言しないことでどうかとの提案をしたにもかかわらず、議題について話をすることはなかった。
エ また、組合は、会社が一方的に1時間という短い交渉時間を決めた旨を主張するが、組合は団体交渉開催前の段階で交渉時間 に異議を唱えておらず、そもそも組合は上記ウのとおり議題に入ろうとしなかったのであるから、かかる主張は採用することがで きない。
オ 以上の事情を考慮すると、11月29日の団体交渉において冬季一時金等の議題について全く協議に入ることができなかった 原因は、組合による団体交渉の進め方にあったといわざるを得ず、同団体交渉における会社の対応が不誠実であったということは できない。
3 会社が11月29日の団体交渉において次回の団体交渉を約束しながら開催せず、29年冬季一時金を支給したことは、正当 な理由のない団体交渉の拒否に当たるか否か。
ア 11月29日の団体交渉において、冬季一時金を含む議題について全く協議に入ることができなかった原因が組合による団体 交渉の進め方にあり、会社の不誠実な対応によるもの でなかったことは、前記2で判断したとおりである。
イ そして、B3社長は、議題とされていた冬季一時金等の協議に入れないまま交渉予定時間が経過し、また、自身も取材の予定 が入っていたことから、冬季一時金の件については書面で回答する旨を伝えた。しかし、組合が「そんなのは交渉じゃありませ ん。」と述べたため、B3社長は「じゃ団交やりましょう。」と応じた。
 こうした経緯に加え、冬季一時金の支給等を議題としていた11月29日の団体交渉の状況も併せ考えると、このB3社長の発 言は、会社が議題について協議しようとしても応じず、会社が提案した書面回答も即座に拒否した組合の姿勢に鑑み、冬季一時金 等の議題について協議すべく組合から改めて団体交渉の申入れがあれば、それに応じるしかないだろうと考えての対応であったと 考えられる。
ウ しかしながら、組合は、その後10日余りの間団体交渉の申入れをしておらず、冬季一時金の支給時期が迫っている12月中 旬である12月12日及び同月15日に至ってようやく会社に対して冬季一時金に係る議題を含む団体交渉を申し入れた上、その 申入れにおいては、大阪での開催を求めるのみで、その開催候補日については提示しなかった。この申入れに対し、会社は、次回 の開催候補日の提示はしていないものの、一時金支給内容の概要をまず組合に説明するなど、組合に対して一定の配慮をしている といえる。
エ 以上の事情を総合考慮すると、会社が11月29日の団体交渉の終了段階で団体交渉を再度行う旨の発言をしていたことは認 められるものの、それが冬季一時金の支給までの間に開催されなかったのは、結局のところ、組合の団体交渉の申入れが、例年の 一時金の支給時期が迫る、年末の諸事多忙な時期に開催候補日を示さずにされたことに起因しているといわざるを得ず、会社が 29年冬季一時金の支給前に団体交渉を行うことを避けていたとみることはできない。
 よって、11月29日の団体交渉以降に団体交渉が行われていない状況の下で、会社が12月22日に冬季一時金を支給したこ とをもって、正当な理由なく団体交渉を拒否したと評価することはできない。
4 会社が30年にマネジャー制度及びその人事について就業規則に定めのある労使協議を行わなかったことは、組合の運営に対 する支配介入に当たるか否か。
ア 就業規則には、マネジャー制度及びその人事については毎年労使協議をして見直すことが定められており、29年11月29 日、それを議題の一つとする団体交渉が行われたが、 上記2で判断したとおり、組合は予定されていた議題に入ろうとしなかった。
イ その後、組合は上記アの件について団体交渉を何度か申し入れたが、団体交渉の開催地や出席人数、交渉時間などで合意がさ れず、開催には至らなかった。
 会社の対応をみてみると、会社は組合の団体交渉申入れに対して具体的な交渉日時を提案するなど、マネジャー制度及びその大 事に係る労使協議をしようとする姿勢を示していた。また、双方の主張の隔たりが大きい開催地について、会社は、従来は東京で 行われてきたことや交渉の主要な出席者が東京にいることなどを理由に東京での開催を主張しており、当時、大阪にいるのはA2 のみであり、A1委員長のほか、B3社長、B2取締役ら会社役員も東京にいる状況からすると、このような会社の説明が一概に 不合理なものであるということはできないから、合意に至らなかった原因が専ら会社の対応にあるとはいえない。
ウ また、会社はマネジャー制度の見直しを検討していたことから、29年10月に欠員となった大阪本社の制作マネジャーにつ いては任命しなかったものの、労使協議が行われていない間、マネジャー制度を組合との協議なしに変更するような強硬姿勢はみ せておらず、就業規則に定められた労使協議を軽視してマネジャー制度及びその人事の運営をしていたとまではいえない。
エ 以上の事情を考慮すると、会社が30年にマネジャー人事について労使協議を行わなかったことが、組合の存在を軽視したも のとまではいえないから、組合の運営に対する支配介入には当たらない。
5 会社が30年1月19日付塩・新春号に関する印刷対応について、印刷所変更前と同様の紙質に戻してほしいとするA1委員 長の要望を拒否したことは、組合員であるが故の不利益取扱いに当たるか否か。
ア 組合は、A1委員長が個人的に要望していた紙質の改善に会社が応じない理由は、同委員長個人を組合と同視し、同委員長に 不利益を与えるためであると主張する。
 確かに、印刷所の変更に伴い新聞の紙質が変わっているが、そもそも印刷所の変更は経費削減を主な目的としたものであり、経 費が掛かる印刷方法の変更や紙質の向上に応じることができないとする会社の説明には、相応の理由があるといえる。また、会社 が、A1委員長と他の従業員とで、紙質について異なる対応をしたとの疎明もない。
イ そして、会社は、A1委員長の紙質改善の要望を受け、塩・新春号については印刷所変更前と同質ではないが、会社が使用し ている通常の紙質よりも上質なもので発行するなど、A1委員長の要望に対して一定の配慮をしているといえる。
 また、B3社長は、A1委員長に対し、紙質について問題が生じたら会社から相手方担当者に説明する用意がある旨を伝えるな どして、問題が生じた場合に担当記者の責任にならないように対応する考えを示している。
ウ 以上の事情を考慮すると、A1委員長の個人名で出された紙質改善の要望に係る文書に対し、会社が組合宛てに回答したとい う一事をもって、会社が同委員長個人と組合とを同視し、それ故に会社が同委員長の要望を拒否し、組合に不利益を与える意図を 持っていたと認めることはできない。むしろ会社は同委員長の要望に一定の配慮をしており、会社の対応が組合員であるが故の不 利益取扱いに当たるということはできない。 
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