| 事件番号・通称事件名 | 大阪府労委平成30年(不)第24号 不当労働行為審査事件
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                    | 申立人 | X組合(「組合」) | 
                  
                    | 被申立人 | Y1会社・Y2会社 | 
                  
                    | 命令年月日 | 令和2年2月3日 | 
                  
                    | 命令区分 | 全部救済 | 
                  
                    | 重要度 |  | 
                  
                    | 事件概要 | 旧会社が、事業の一部について会社分割を行うこととし、その事業
                      に関して労働者派遣を受けていた派遺元との契約を打ち切ることにしたところ、派遺元の労働者は組合を結成し、旧会社に対し、
                      団体交渉を申し入れたが、旧会社は、これに応じなかった。 本件は、このような状況下で、この会社分割の分割会社(Y1会社)と承継会社(Y2会社)を被申立人として、組合からの団
                      体交渉申入れに応じないことが不当労働行為であるとして申し立てられた事件である。
 大阪府労働委員会は、Y1会社及びY2会社に対し、労働組合法第7条第2号に該当する不当労働行為であるとして、誠実な団
                      体交渉とともに、文書の交付を命じた。
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                    | 命令主文 | 1
                      被申立人Y1会社及び同Y2会社は、申立人が、平成30年3月22日付けで旧会社に対して申し入れた団体交渉に応じなければならない。 2 被申立人Y1会社は、申立人に対し、下記の文書を速やかに手交しなければならない。
 記
  年 月 日組合 執行委員長 A1様
 
 Y1会社     代表取締役 B1平成30年4月1日の会社分割及び商号変更前に、旧会社が、貴組合からの同年3月22日付けの団体交渉申入れに応じなかっ
                      たことは、大阪府労働委員会において、労働組合法第7条第2号に該当する不当労働行為であると認められました。今後、当社
                      は、このような行為を繰り返さないようにいたします。 3 被申立人Y2会社は、申立人に対し、下記の文書を速やかに手交しなければならない。
 記
  年 月 日組合 執行委員長 A1様
 
 Y2会社     代表取締役 B2平成30年4月1日の会社分割前に、旧会社が、貴組合からの同年3月22
                      日付けの団体交渉申入れに応じなかったことは、大阪府労働委員会において、労働組合法第7条第2号に該当する不当労働行為であると認められました。今後、当社は、このよう
                      な行為をいたしません。 | 
                  
                    | 判断の要旨 | 1 Y1会社は、A2組合員ら5名との関係において労働組合法第7
                      条第2号の使用者に当たるか。当たるとすれば、組合からの平成30年3月22日付け団体交渉申入れに対する同社の対応は、正
                      当な理由のない団交拒否に当たるか。 ア
                      ①組合は、C会社からの派遣労働者として旧会社の業務である当該リライト業務(当該ラジオ放送のニュース原稿を製作する業務)等を行っていた者により組織されていること、
                      ②平成30年3月22日、組合は本件部長に対し、同日付けの旧会社あて文書を提出し、本件団交申入れを行ったこと、③本件団
                      交申入れの議題は、本件組合員らの雇用等に関するものであること、がそれぞれ認められる。
 そこで、Y1会社と旧会社とは同一の法人格が継続したものであるから、まず、本件組合員らの雇用問題に関して、旧会社が使
                      用者に当たるか否かを検討する。
 イ 旧会社の使用者性について
 (ア)組合が、組合員の雇用主以外に対して団交を申し入れた場合、この相手方が労働組合法上の使用者に該当するか否かについ
                      ては、同法第7条が団結権の侵害に当たる一定の行為を不当労働行為としてこれを排除し、是正して正常な労使関係を回復するこ
                      とを目的にしていることに鑑みると、雇用主以外の事業主であっても、当該交渉事項に関して、雇用主と部分的とはいえ同視でき
                      る程度に現実的かつ具体的に支配、決定することができる地位にあれば、使用者に該当すると判断される。
 ところで、派遣法上の派遣先は、派遣労働者の所属する労働組合との関係では原則として労働組合法上の使用者に該当しない。
                      しかし、派遣法の枠組みや労働者派遣契約で定められた基本的事項を逸脱して労働者派遣が行われてい
                      る場合、具体的には、派遣法の趣旨や厚生労働省告示である派遣先が講ずべき措置に関する指針に反して、労働者を特定ないしは
                      指定して労働者派遣が行われるなどし、派遣先が派遣労働者の労働条件等を現実的かつ具体的に支配・決定するに至っているとい
                      えるならば、派遣先が労働組合法上の使用者に該当し得るというべきである。
 (イ)派遣法第26条第6項は、派遣先は、労働者派遣契約の締結に際し、当該労働者派遣契約に基づく労働者派遣に係る派遣労
                      働者を特定することを目的とする行為をしないように努めなければならない旨定め、厚生労働省による派遣先が講ずべき措置に関
                      する指針は、労働者派遺に先立っての面接や履歴書の送付等を例示し、契約前に派遣労働者を特定することを目的とする行為を禁
                      止している。
 しかし、旧会社は、予め労働者を特定ないしは指定して派遣を受け、しかも、各人のキャリアや能力を評価して、これを労働の
                      対価に反映させていたというべきであって、派遣法や派遣先が講ずべき措置に関する指針の定めを逸脱し、本件組合員らの採用や
                      雇用に関して、派遣先である旧会社が、事実上、雇用主と同視できる程度に、現実的かつ具体的に支配・決定するに至っていると
                      いうのが相当である。
 以上のとおりであるから、旧会社は、本件組合員らの雇用等に関する本件団交申入れに関して、労働組合法第7条の使用者の地
                      位にあると判断される。
 ウ 次に、旧会社の本件団交申入れへの対応についてみる。
 本件団交申入れの議題は、本件組合員らの雇用等に関するものであるから、本件団交申入れが、義務的団交事項について、使用
                      者の地位にあると判断される者に対して行われたものであることは明らかである。
 これに対する旧会社の対応をみると、同日、本件部長は組合執行委員長に電話をかけ、本件団交申入れについて、団交を開催す
                      る必要はない旨返答し、本件申立てに至るまで、組合と旧会社及びY1会社らとの間で団交が開催されていないことが認められ
                      る。
 確かに、組合が、本件団交申入れの文書を提出した際の労使間のやりとりについての疎明はなく、本件団交申入れの後、本件申
                      立てに至るまで、組合は、旧会社及びY1会社らに対し、団交を申し入れていないことが認められる。
 しかし、これらのことをもってしても、旧会社が本件団交申入れに応じないことに正当な理由があるといえるものではない。こ
                      れらの他、旧会社が本件団交申入れに応じない正当な理由があると認めるに足る疎明はない。
 以上のとおりであるから、旧会社の本件団交申入れへの対応は、正当な理由なく団交に応じなかったものと判断され、かかる行
                      為は、労働組合法第7条第2号の不当労働行為に該当する。
 エ Y1会社の被申立人適格について
 Y1会社と旧会社とは同一の法人格が継続したものであって、本件会社分割による法律関係の変動をもって、Y1会社が本件会
                      社分割前の不当労働行為責任を免じられたとみることはできず、依然として、本件団交申入れについては、本件組合員らとの関係
                      において、使用者の地位にあるというのが相当である。
 Y1会社らは、Y1会社は、(i)旧会社の従業員との間に雇用関係はなく、旧会社のラジオ事業に由来する間題について何ら
                      権利義務を承継していない、(ii)本件申立ての時点で、本件組合員らとは、何らの雇用関係にもないとした上で、Y1会社は
                      使用者の立場に立つものではない旨主張する。
 しかし、原則として、解雇や期限満了により労働契約が終了しても、当該組合員がこれについて争っている場合には、その限り
                      においては、当該組合員と雇用主との間の雇用関係が消滅したとは解されず、かかる法理は、雇用主以外の労働組合法上の使用者
                      の地位にある者にも当てはまるというべきであって、本件において、本件組合員らの雇用等に関する問題は労使間の未解決問題と
                      いうべきであり、旧会社は、本件団交申入れに関し使用者の地位にあったこと、旧会社とY1会社は同一の法人格が継続したもの
                      であることを考慮すれば、かかるY1会社らの主張は採用できない。
 以上のとおりであるから、本件において、Y1会社は本件団交申入れに対する団交拒否について、使用者としての責任を有する
                      と判断される。
 2 Y2会社は、A2組合員ら5名との関係において労働組合法第7条第2号の使用者に当たるか。当たるとすれば、組合からの
                      平成30年3月22日付け団体交渉申入れに対する同社の対応は、正当な理由のない団交拒否に当たるか。
 ア
                      旧会社の本件団交申入れへの対応が、正当な理由のない団交拒否であって、不当労働行為に当たると判断される一方、本件団交申入れは、Y2会社に対して行われたものではな
                      い。
 しかし、本件は、本件組合員らの雇用問題等についての団交での協議を求めてY1会社らに対し、申し立てられたものであっ
                      て、①本件団交申入れの直後に本件会社分割が行われたこと、②本件会社分割により、Y2会社は、旧会社からラジオ放送事業を
                      承継したことが認められ、当該ラジオ放送の運営に必要な人員の配置を検討し、決定する権限は、本件会社分割により、旧会社か
                      らY2会社に承継されたとみるべきであって、本件の不当労働行為が当該ラジオ放送事業の運営及びそれに関する業務への就労に
                      おいて発生したものである以上、本件組合員らの雇用等という未解決問題について団交において協議すべき地位についても、本件
                      会社分割により、Y2会社に承継され、Y2会社が使用者性を有するとみるのが相当である。
 イ ところで、本件会社分割により、それまで旧会社の従業員であった者はB3会社の従業員になることとされていたことが認め
                      られるが、このことと、Y2会社が旧会社からラジオ放送事業を承継することは別のことであって、このことにより、Y2会社
                      が、当該ラジオ放送の運営に必要な人員の配置を検討し、決定する権限を有していないということはできない。
 また、Y1会社らは、Y2会社に関しては、C会社との派遣契約に基づく権利義務は一切承継しておらず、また、C会社との間
                      で、新たな労働者派遣契約を締結していないのであるから、Y2会社は使用者の立場に立つものではない旨主張するが、原則とし
                      て、解雇や期限満了により労働契約が終了しても、当該組合員がこれについて争っている場合には、その限りにおいては、当該組
                      合員と雇用主との間の雇用関係が消減したとは解されず、かかる法理は、雇用主以外の労働組合法上の使用者の地位にある者にも
                      当てはまると判断され、また、本件組合員らの雇用等という未解決問題について団交において協議すべき地位は、本件会社分割に
                      より、Y2会社に承継されるというべきであるのだから、かかる被申立人らの主張は採用できない。
 ウ 以上のとおりであるから、本件において、Y2会社は本件団交申入れに対する団交拒否について、Y1会社とともに使用者と
                      して責任を有すると判断される。
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                    | 掲載文献 |  |