労働委員会命令データベース

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概要情報
事件番号・通称事件名  長野県労委平成30年(不)第2-1号
申立人  X組合(「組合」) 
被申立人  Y1会社(「会社」)・Y2(個人) 
命令年月日  令和2年1月22日 
命令区分  一部救済 
重要度   
事件概要   本件は、次の1及び2等の事項が不当労働行為に該当するとして、 平成30年6月26日に救済申立てのあった事件である。
1 30年3月23日にY2及びB2取締役以下3名が組合員と面談を行い、その中で脱退強要あるいは脱退勧奨を行つたこと (労組法第7条第3号該当)。
2 会社が、30年2月7日以降、組合員らに対し配転や課長昇格等の人事異動(「本件各人事異動」)を行ったこと(労組法第 7条第1号及び第3号該当)。
 長野県労働委員会は、1及び2を分離し、その審査を先行させることとし、その分離部分に関し、会社に対し、不利益取扱い及 び支配介入に当たる不当労働行為であるとして、不利益取扱い・支配介入の禁止及び配転命令の撤回とともに、文書の手交・掲示 を命じ、その他の申立てを棄却した。 
命令主文  1 被申立人会社は、同社で勤務する申立人の組合員に対し組合脱退を強要、勧奨するなどして申立人の自主的運営に支配介入してはならない。また、被申立人会社は、被申立人Y2 及び第三者に同様の支配介入を行わせてはならない。
2 被申立人会社は、組合員A2に対して行った平成30年6月1日付けの人事異動を撤回し、同人を原職に復帰させなければならない。
3 被申立人会社は、今後、申立人のA2分会及びA3分会の役員を人事異動させる場合には申立人及びその所属分会と事前協議を行わなければならない。
4 被申立人会社は、本命令書写しの交付の日から1週間以内に、下記の文書(大きさはA4判とすること)を申立人に手交するとともに、これと同一の内容を縦55センチメート ル、横40センチメートル(新聞紙1頁大)の白紙に措書で読みやすい大きさにより明瞭に記載して、同社が経営する各自動車学 校において従業員の見やすい場所に、き損することなく1週間掲示しなければならない。(文書の年月日は手交又は掲示する日を それぞれ記載すること。)
令和 年 月 日
組合
 執行委員長 A1 様
会社             
代表取締役社長 B1

 当社が行った下記の行為は、この度、長野県労働委員会により不当労働行為と認定されました。今後、再びこのような行為を繰 り返さないようにいたします。
 1 平成30年3月23日にY2及び当社B2取締役らが組合員と面談を行い、その中で脱退強要あるいは脱退勧奨を行ったこ と。
 2 当社が平成30年2月7日以降、組合員らに対する配転や課長昇格の人事異動を行ったこと。
5 申立人のその余の申立ては、これを棄却する。 
判断の要旨  1 A3分会員は労働協約第4条により、組合の組合員であることを 否定されるか。(争点1)
(1)労働協約の文言からすれば、組合が労働協約の適用を受ける当事者であるとはいえないとも解釈できる。そして仮に、会社 の主張するとおり労働協約第4条が組合の非組合員の範囲を定めたものであるとした場合にも、会社発足時から、会社はA3分会 員を組合の組合員として取り扱ってきたことに加え、労働組合が労働協約で定める組合員の範囲外の者を加入させたとしても、そ の者の加入自体が無効となるわけではないことからすれば、労働協約第4条により、同分会員が組合の組合員であることを否定さ れるものではない。
(2)よって、A3分会員は組合の組合員であるといえる。
2 30年3月23日にY2及びB2取締役以下3名が組合員と面談したことについて(争点2)
ア Y2は労組法上の使用者に当たるか。(争点2-1)
(1)労組法第7条の「使用者」は、原則としては労働契約上の雇用主を意味するものであるが、雇用主以外の事業主であって も、団体的労使関係が労働契約又はそれに近似ないし隣接した関係を基盤として、労働者の労働関係上の諸利益についての交渉を 中心に展開されることからすれば、基本的な労働条件等について、雇用主と部分的とはいえ同視できる程度に現実的かつ具体的な 支配力を有している者、近い将来において当該労働者と労働契約関係が成立する現実的かつ具体的な可能性がある者、近い過去に 当該労働者と労働契約関係が存した者など、労働契約関係に近似あるいは隣接する関係を基盤とする団体的労使関係の一方当事者 もまた、「使用者」に該当するものと解される。
 Y2は組合員らとの間で、近い将来において労働契約が成立する現実的かつ具体的な可能性があるとはいえず、また近い過去に 労働契約が存していたともいえないから、組合員らの基本的な労働条件等について、雇用主と部分的とはいえ同視できる程度に現 実的かつ具体的な支配力を有しているかについて検討する。
(2)この点、組合の主張では、Y2は、親族を会社の代表や取締役に就けることにより会社への支配力を有しており、また会社 の経営のために、従業員らに対して基本的労働条件や業務内容について直接指揮命令し、現実的かつ具体的に支配・決定している から、労組法第7条の使用者に当たるとしている。しかし、会社の資本関係や意思決定過程、指揮命令系統などがどのようになっ ているのかについて具体的に明らかにされていない。
 したがって、実際に同人が組合員らの労働条件等について、雇用主と部分的とはいえ同視できる程度に現実的かつ具体的に支配 決 定していたと認めるに足りる十分な疎明はない。
(3)よって、Y2は労組法上の使用者とはいえない。
イ Y2の言動は、会社に帰責できるか。(争点2-2)
(1)社外の第三者の行為を支配介入として使用者に帰責させるためには、第三者と使用者との間に意思の連携があることが必要 とされる。
 Y2は会社が属するC1グループの創業者であること、現在もグループの相談役という位置付けであること、周囲からオーナー と呼ばれていること、会社を含むグループ企業の多くは同人の親族が代表や取締役に就いており、会社の代表取締役は同人の子 で、B2取締役は同人の甥に当たること、同人自身もグループの中心的企業であるC2会社の代表者であること、面談はB2取締 役が同人に出席を要請した上で幹部社員の同席のもと開催され、面談では主に同人が話をしたこと、同人が若手指導員の出向を提 案し、かつC2会社からの出向を決定していることなどからすれば、同人が会社に対し、一定の影響力を有していたものと推認す るに難くない。
 このことからすると、同人が完全に社外の第三者であるといえるかは疑問のあるところではある。仮に社外の第三者であるとし ても、同人はB2取締役の要請を受けて、グループの「相談役」として面談を行い、面談においては主として同人が発言し、同席 したB2取締役らは同人に発言を促したり、制止したりしていなかったことからすれば、少なくとも会社は同人の発言を容認して いたと考えられる。さらに、会社からC2会社への転籍の決定はB2取締役が行い、C2会社から会社への出向の提案及び決定は 同人が行ったのであるから、この面談については、まさしく会社と同人との間には意思の連携があったといえる。
(3)よって、面談におけるY2の言動は会社に帰責できる。
ウ Y2の言動は、組合に対する支配介入か。(争点2-3)
(1)会社が面談の翌日に脱退届や退職届の提出を指示していること、面談を受けた組合員らが転籍や退職について非常に短期間 のうちに結論を出し、面談直後に全員が組合員ではなくなっていること、組合は面談が行われた翌日には聴取り調査を行っており 直後に行動を起こしていること、面談当時の労使関係やB3GMの発言等からY2には組合脱退を勧奨する十分な動機があったと 推察されることからすれば、Y2から組合員に対し、何らかの脱退を勧奨する発言があったものと推認できる。
(2)なお、支配介入の成立には、組合に対する何らかの嫌悪や反感等に基づき反組合的行為をなそうとする意思があれば足り、 具体的に組合の弱体化をなそうとの積極的な意思までは要しない。
 そして、本件面談では組合員らに対し脱退を勧奨する発言があったものと推認され、そのような発言は、それ自体に反組合的意 思が内在していると評価されるべきであって、仮にY2や会社に組合を積極的に弱体化させようとする意思まではなかったとして も、不当労働行為の成立が否定されるものではない。
(3)以上のとおりであるから、本件面談におけるY2の言動は、労組法第7条第3号の支配介入に当たる。
3 本件各人事異動は、組合員であるが故の不利益取扱いか。また、組合に対する支配介入か。(争点3)
(1)本件各人事異動の不利益性についてまとめると、配転後に指導員に選任されなかった者や、営業所へ配転された者について は、個人の経済的不利益及び精神的不利益が認められる。また、課長昇格者については、個人の組合活動上の不利益が生じたと認 められる。しかし、これらの者以外については、個人の権利利益について、社会通念上容認し得ないほどの不利益が生じていたと はいい難い。一方で、A2分会の組合員は皆無となった上、A3分会も残り1名となり、組合の会社における活動はまさに壊滅的 状態に追い込まれており、これは一連の人事異動の影響によるところが大きく、組合活動一般に対する大きな侵害が生じていたと 認められるから、本件各人事異動は不利益であったといえる。
(2)本件各人事異動が行われた当時は、労使関係が相当程度緊追しており、会社の人事異動は従前例のない短期間に集中的に行 われ、かつその対象は組合員に偏っていた。しかも不当労働行為と認められるY2らによる面談と、時期を同じくして行われてい る。
 これらのことからすれば、本件各人事異動が、組合員に対して差別的に行われたものと推認できるので、本件各人事異動は組合 員であることの「故をもって」行われたといえる。
(3)本件各人事異動には(2)で示した推認を覆すに足りる業務上の必要性や人選の合理性があったとまでは認められないの で、本件各人事異動は、組合員であることの故をもって行われたものといわざるを得ない。
(4) 結論
 営業所への配転及び課長昇格には組合員個人の権利利益の侵害や組合活動一般に対する侵害がともに認められる。一方で、事業 所間の配転の中には、組合員個人の権利利益の侵害という観点から個々に見た場合、必ずしも大きな不利益が生じなかったと思わ れるものが含まれていることも事実である。しかしながら、組合活動一般に対する侵書という面からとらえた場合、前述のとおり 組合は壊減的な状況にあり、組合活動意思は大いに萎縮し、組合活動は抑圧されたといわざるを得ず、組合は大きな不利益を被っ たものといえる。
 さらに、本件各人事異動は、組合員であるが故をもって行われたものとみるのが相当である。
 よって、本件各人事異動は、労組法第7条第1号の不利益取扱いに当たる。
 また、前述のとおり本件各人事異動は組合員の組合活動意思を萎縮させ、組合活動を抑圧するものであるから、同条第3号の支 配介入にも当たる。
4 救済利益及び救済方法について
 30年3月23日の面談におけるY2の言動及び本件各人事異動が不当労働行為に当たるのは前記判 断のとおりであるが、 A4(A3分会)書記長以外の組合員らは既に組合を脱退ないし会社を退職している。
 しかしながら、上記の行為は、組合活動一般を抑圧し、かつ、組合の運営について支配介入するという効果を伴うものであるか ら、組合には、組合員個人の利益とは別に固有の救済を受けるべき利益が存在するというべきでる。そして、当該組合員が組合員 資格を喪失したからといって、上記のような組合活動一般に対する侵害的効果が消失するものではないから、組合員が脱退や退職 により組合員資格を喪失したとしても、組合固有の救済利益に消長を来すものではない。
 したがって、主文第1項から第4項のとおり命ずることとする。 
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