労働委員会命令データベース

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概要情報
事件番号・通称事件名  兵庫県労委平成29年(不)第8号
不当労働行為審査事件 
申立人  X組合(「組合」) 
被申立人  Y法人(「法人」) 
命令年月日  令和元年12月24日 
命令区分  棄却 
重要度   
事件概要   本件は、法人が、法人の経営する病院に動務する組合の組合員A を、団体交渉での合意に反し正看護師として扱わなかったこと、及びAを病棟会議に出席させたうえ追い詰め、退職させる狙いで つるし上げたことが、労働組合法第7条第1号の不当労働行為に該当するとして、また、上記病院の職員に対し組合に加入するよ う勧誘していたAを病棟会議においてつるし上げたこと、及び組合のサポーターに対し組合の執行委員長のブログの関覧を制限し たり書き込みについて追及したりしたことが、労働組合法第7条第3号の不当労働行為に該当するとして、組合から不当労働行為 救済申立てがなされた事案である。
 兵庫県労働委員会は、申立てを棄却した。 
命令主文  本件申立てを棄却する。 
判断の要旨  1 法人が、平成28年12月26日開催の団体交渉で、その経営す るB病院において、組合の組合員であるAを正看護師として扱うことを受け入れていたにもかかわらず、Aを正看護師として取り 扱わなかったという事実は認められるか、この事実が認められる場合、それは法人による組合の組合員に対する不利益取扱いに該 当するか。(争点1)
ア 法人がA組合員を正看護師と取り扱うと決め、実施しようとしたことが認められ、法人がA組合員を正看護師として取り扱わ なかったという事実は認められない。
イ 法人は、A組合員を正看護師として取り扱うことを決め、実施しようとしており、それがA組合員の希望にかなった処遇で あったことからすると、法人がA組合員に不利益取扱いを行ったと認めることができない。
ウ 上記のとおり、法人が、A組合員を正看護師として取り扱わなかったという不利益取扱いを認めることができないことから、 法人の不当労働行為意思の存否を判断するまでもなく、労組法第7条第1号の不当労働行為は認められない。

2 A組合員が、同人と親しい約1 0人のB病院の職員に対して組合への加入を勧誘した事実、及びその事実を察知してB病院の看護部長のB2部長及び同看護師長のB3師長がA組合員に平成28年11月28日 頃退職を強要したという事実は認められるか、これらの事実が認められる場合、それは法人による組合に対する支配介入に該当す るか。(争点2)
ア 平成28年11月中旬、B3師長は、同年12月末で退職するため有給休暇を消化したいというA組合員の申出を受け入れ て、同月中に有給休暇表を消化できる同月の勤務予定表を作成していたところ、同年11月28日に至ってもA組合員から退職願 が提出されていなかったため、同日夕方、退職願の用紙を交付したこと、及び同日、A組合員がB2部長に退職の意思表示を撤回 したい旨伝えたことが認められるところ、A組合員が、B3師長から退職願の用紙を交付されるより前に、B3師長に退職の意思 表示の撤回を伝えていたものと認めることはできない。
 したがって、B3師長は、A組合員が退職の意思表示を撤回したことを知らないまま退職願の用紙を手渡したとみるのが相当で あり、B3師長がA組合員に退職願の用紙を交付することで退職を強要したという組合の主張を認めることはできない。
イ 上記のとおり、B2部長及びB3師長がA組合員に退職を強要したという事実を認めることができないことから、その他の事 実の存否を判断するまでもなく、労組法第7条第3号の不当労働行為は認められない。

3 B3師長が、平成28年12月28日に病棟会議(A組合員が配属されていた3階病棟を担当する看護師の会議)を開確し、 A組合員をつるし上げた、すなわちB3師長が出席した職員をしてA組合員に、味方はおらず、孤立無援であることを思い知ら せ、退職に追い込む狙いで言葉による精神的暴力をしかけたという事実は認められるか、この事実が認められる場合、それは法人 による組合の組合員に対する不利益取扱い又は組合に対する支配介入に該当するか。(争点3)
ア A組合員に行わせるシャドー勤務は、他の看護師に同行し、1日の終わりに自己の立てた行動計画やアセスメントと当該看護 師の行動とを比較し、当該看護師の意図や考えを振り返るという形態であることから、当該看護師の負担となることは推認でき、 また、病棟会議における看護師の「シャド一付くのも、もう期間を決めて」、「ずっとだと、本当に療養の人の負担が」という発 言はそれを証するものといえる。
 このように、A組合員にシャド一勤務を行わせることは、他の看護師の業務に影響を及ぼすこととなり、他の看護師の理解と協 力は必須であると考えられることから、そのために説明を行ったことには合理性がある。
イ 平成28年12月26日開催の団体交渉で、組合からA組合員に正看護師の業務を行わせることとする要求があり、法人は、 翌27日にその方法をシャド一勤務と決定し、平成29年1月から動務を開始させなければならないこと、また、それが年末年始 の時期であることを考えると、団体交渉が実施される前から開催を予定していた平成28年12月28日の病棟会議の機会を利用 して、B3師長がA組合員のシャドー勤務について説明を行ったことには合理性がある。
ウ 上記のとおり、法人が、A組合員にシャドー勤務を行わせることを病棟会議で他の看護師に説明を行ったことには合理性があ り、仮にA組合員が組合の組合員でなかったとしても、シャド一勤務を行わせるためには、法人は同様の説明を行ったものと認め られることから、A組合員が組合員であることを理由として、病棟会議での説明が行われたものとはいえない。
 また、病棟会議における他の看護師の発言の内容は前述のとおりであり、その口調からしてもA看護師に対する攻撃的なものと は認められず、3階病棟の看護師らが多大な負担を感じながらA組合員を指導してきたにもかかわらず、A組合員が看護師として 自立できなかったことに対する率直な意見とみることができ、B3師長が発言を制止すれば、逆に、他の看護師の協力を得ること が難しくなる可能性が考えられることから、その点を配慮してB3師長が、他の看護師の発言を許したことは不合理であるとはい えない。
 したがって、法人が、A組合員に対する不当労働行為意思をもって、病棟会議を開催し、A組合員のシャド一勤務について説明 したとはいえない。
エ 上記のとおり、法人の不当労働行為意思が認められないことから労組法第7条第1号の不当労働行為は認められず、また、同 条第3号の不当労働行為も認められない。

4 平成29年2月頃、B2部長及びB3師長が、組合の執行委員長のブログ(「ユニオンブログ」)を見ないようB病院の職員 に周知した事実、及び組合のサポーターを呼び出し同喝したという事実は認められるか、これらの事実が認められる場合、それは 法人による組合に対する支配介入に該当するか。(争点4)
ア 平成29年1月17日頃の夕方、B2部長が3階病棟の職員に対し、ユニオンブログに、B病院の看護師及びB病院に関して 事実に反する内容が記載されているとの認識の下に、ユニオンブログを閲覧しないほうがよいと伝えたことが認められる。
イ B2部長の上記アの発言は、B病院の3階病棟の職員に対し、「皆さんが不愉快な気分になると思いますので、私としては見 ない方が良いと思います。」「ユニオンブログを閲覧すると、検索回数が上昇する。」というものである。このときB2部長は、 A組合員の母親から、A組合員と先ほど会った、元気にしていると聞いたことも併せて伝えており、さらに3階病棟の看護師のみ に伝えていることからは、病棟会議をつるし上げであったとユニオンブログに書き込まれ、つるし上げの加害者のように書かれて いる3階病棟の看護師に対して、その動揺を抑える目的で発言したものと認められ、組合の活動を妨害する目的でなされたもので はないと判断する。
ウ 組合は、ラダー面接(目標管理面接)に関するユ二オンブログへの書き込みを根拠として、組合のサポーターに対する追及が なされたと主張するものと認められる。
 これは、B3師長がラダー面接において、1名の看護師に対しA組合員について意見を求めたことに対応するものと推測される ものの、当該面接においてB3師長は、A組合員についてどう思うかと意見を求めたというのであり、このことから当該看護師が 組合の組合員又はサポーターであることをB3師長が知っていたという事実は認定できないし、組合に対する言及があったとも認 められないことから、B3師長の発言は、組合の活動を妨害する目的でなされたものとはいえない。
エ このように、ユニオンブログに関する3階病棟の職員に対するB2部長の発言は、組合の活動に支配介入するものと認められ ず、また、組合が主張するサポーターへの追及、呼出し、恫喝については事実として認められないことから、労組法第7条第3号 の不当労働行為は認められない。 
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