労働委員会命令データベース

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概要情報
事件番号・通称事件名  神奈川県労委平成30年(不)第13号
グランデ等不当労働行為審査事件 
申立人  X組合(「組合」) 
被申立人  Y1会社・Y2会社 
命令年月日  令和2年1月8日 
命令区分  一部救済 
重要度   
事件概要   本件は、組合が、組合員A2の雇用問題等について、平成30年7 月1日付けでY1会社及びY2会社に団体交渉を申し入れたところ、両者がこれに応じなかったことが、労働組合法第7条第2号 に該当する不当労働行為であるとして、同月24日に救済申立てのあった事件である。
 その後、組合は、平成31年3月27日の団体交渉におけるY1会社の回答と、同日に行われた本件申立てに係る調査における Y1会社の回答が異なっていたことが、労組法第7条第2号及び第3号に該当する不当労働行為であるとして、令和元年5月15 日に追加申立てを行った。
 神奈川県労働委員会は、Y2会社に対し、正当な理由のない団交拒否に当たる不当労働行為であるとして、文書の手交を命じ、 その他の申立てを棄却した。 
命令主文  1 被申立人Y2会社は、本命令受領後、速やかに下記の文書を申立 人に手交しなければならない。


 今般、神奈川県労働委員会より、当Y2会社が平成30年7月1日付けで貴組合の申し入れた団体交渉に応じなかったことは、 労働組合法第7条第2号に該当する不当労働行為であると認定されました。
 今後このようなことがないようにいたします。

令和 年 月 日
組合
執行委員長 A1 殿
Y2会社      
代表取締役 B1
2 その余の申立てを棄却する。 
判断の要旨  1 Y1会社が平成30年7月1日付けで組合の申し入れた団体交渉 に応じなかったことは、正当な理由のない団体交渉の拒否に当たるか否か。(争点1)
 平成30年7月12日までの文書回答及び同月18日午後3時30分からの団体交渉の出席を求める旨記載された30.7.1 要求書に対し、B2弁護士は、組合のA3宛に事実経過、A2の就労、団体交渉日の提案を記載した30.7.12付け回答を FAX送信した。通信結果も良好であったことが確認されていることから、組合に対し、B2弁護士から30.7.12付け FAXにより回答が送信されたことは明らかである。
 また、A2が組合に送信したFAXには、A2の思いどおりの職場を用意することは不可能であることを前提に、組合として具 体的にどのような対応を求めているか明らかにして欲しい旨、及び団体交渉については、組合が指定した日は差し支えるため、別 の日に代理人の事務所での開催を提案する旨が記載されている。さらに、30.7.12付け回答のFAX送信後、組合から連絡 がないことから、B2弁護士は組合に架電し、担当者から連絡してほしい旨伝えた。この点に関し、組合は、平成30年7月12 日の電話受付帳には、B2弁護士からの伝言は記載されていないと主張するが、組合へのFAX送信後に返答がないとすれば、 B2弁護士側から問い合わせをするのは自然なことであり、組合の電話受付帳に記載がないことは、同弁護士の組合への間い合わ せの事実を否定するものではない。
 以上の経過からすれば、Y1会社は、平成30年7月1日付けで組合から申入れのあった団体交渉に正当な理由なく応じなかっ た事実は認められず、団体交渉を拒否したとはいえない。

2 Y2会社は、A2との関係において労組法第7条の使用者に当たるか否か。また、使用者に当たる場合、Y2会社が平成30 年7月1日付けで組合の申し入れた団体交渉に応じなかったことは、正当な理由のない団体交渉の拒否に当たるか否か。(争点 2)
ア Y2会社は労組法第7条の使用者に当たるか.
(ア) 労組法上の使用者は、労働契約上の使用者に限らず、それ以外の事業主であっても、当該交渉事項に関する限り雇用主と 部分的とはいえ同視できる程度に現実的かつ具体的に支配、決定することができる立場にある者も含むと解すべきである。した がって、Y2会社が、組合から申入れのあった団体交渉事項に関して、雇用主であるY1会社と部分的とはいえ同視できる程度に 現実的かつ具体的に支配、決定できる地位にあったか否かが間題となる。
 組合の30.7.1要求書に記載された団体交渉事項は、A2が妊娠したことに伴い、同人の身体的負担が軽減される業務への 転換と雇用の継続を求めるものであった。
 この団体交渉事項に関し、Y2会社がどのように関与していたのかを以下で検討する。
(イ) A2がY2会社のB3に対し、妊娠したこと、医師から重い物を持つことを避けること等を言われた旨を連絡したとこ ろ、B3は直ちにY2会社のB4との間でA2の配置転換の可能性について協議した。
 B4はB3に対し、A2の現在の就労部署が最も軽量の部品を扱っている部署であることから、配置転換は困難であると回答し た。また、B3は、A2が医師から受けた職場での具体的な注意事項をB4に報告している。その後も、B4とB3は、A2の Y2会社C工場内での配置転換や、就労可否について話し合ったが、最終的に両名はY2会社での就労の継続は難しいと判断し た。
 このような経緯からすると、A2のY2会社への派遣を継続するには、Y2会社の受け入れ体制が不可欠であるという状況の 下、A2の配置転換と就労継続の可否については、Y2会社が深く関わり、決定に関与してきたと言える。
(ウ)こうしたことから、Y2会社は、30.7.1要求書に記載された団体交渉事項に関し、雇用主であるY1会社と部分的と はいえ同視できる程度に現実的かつ具体的に支配、決定することができる地位にあったといえ、Y2会社は、その限りにおいて労 組法上の使用者に当たる。
(エ) なお、男女雇用機会均等法第9条第3項によると、事業主がその雇用する女性労働者が妊娠したことを理由として、当該 女性労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをすることは禁止されているところ、同項は、派遣法第47条の2により、派遣に より役務の提供を受ける者、すなわち派遣先の事業所にも適用されることから、こうした点からも、Y2会社を雇用契約上の使用 者であるY1会社と同様の地位にあるものと解するのが妥当である。
イ 団体交渉の拒否に当たるか
(ア) Y2会社は、組合からの30.7.1要求書に対する文書回答をせず、平成30年7月18日の団体交渉に出席しなかっ た。
(イ) この点Y2会社は、派遣先は、労基法第65条第3項に規定する妊娠中の労働者による軽易な業務への転換請求の相手方 でなく、労働者からの軽減業務の転換.の請求に応じる法的義務がないことを理由に、団体交渉に応諾する義務がないと主張して いる。
 しかし、転換請求の相手方であるかどうかと、団体交渉に応じる義務があるかどうかは別の問題である。アで述べた通り、Y2 会社は、労組法第7条の使用者に当たることから、組合との間で団体交渉に応じる義務がある。仮に、Y2会社が、A2の当時の 業務内容から軽易な業務への転換が不可能であったとしても、団体交渉に応じた上で、事情を説明することはできたはずである。
(ウ) したがって、Y2会社が団体交渉に応じなかったことに正当な理由があるとは認められない。
 以上のことから、Y2会社はA2との関係において、労組法第7条の使用者に当たり、Y2会社が平成30年7月1日付けで組 合の申し入れた団体交渉に応じなかったことは、正当な理由のない団体交渉の拒否に当たる。

3 平成31年3月27日に行われた団体交渉における、A2の労働問題に対するY1会社の回答と、同日に行われた第4回調査 の期日における同社の回答が異なることが、不誠実な団体交渉に当たるか否か。また、そのことが組合の運営に対する支配介入に 当たるか否か。(争点3)
 平成31年3月27日に開催された団体交渉では、約1時間の交渉時間の間に、組合から和解案が3つ提示されたが、説明は口 頭のみで行われ、それぞれの和解案を記載した資料等の配付、組合の要求する具体的な補償の計算式や金額の提示はなく、和解案 の概要説明にとどまっていた。
 組合は、31.3.27和解案を提案し、内容を説明したと主張しているが、その内容自体、Y1会社の賃金の支払の必要性な どの重要な点までが明確に主張されたとは言い難い。また、組合は、31.3.27団体交渉と第4回審査期日におけるY1会社 の回答が異なることが、不誠実な団体交渉であり、支配介入であると主張するが、異なる回答をしたことがいかなる意味で不誠実 な団体交渉に当たり、さらには支配介入にも当たるのかについて、具体的な主張・立証を一切していない。
 以上のことから、平成31年3月27日に行われた団体交渉におけるA2の労働問題に対するY1会社の回答と、同日に行われ た第4回調査の期日における同社の回答が異なることは不誠実な団体交渉に当たらず、組合の運営に対する支配介入にも当たらな い。 
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