労働委員会命令データベース

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概要情報
事件番号・通称事件名  大阪府労委平成30年(不)第46号
不当労働行為審査事件 
申立人  X組合(「組合」) 
被申立人  Y1会社・Y2会社 
命令年月日  令和2年1月7日 
命令区分  一部救済 
重要度   
事件概要   本件は、Y1会社の代表取締役とY2会社の代表取締役が、事前の連絡なく、組合員の住居を訪問して行った言動が不当労働行為であるとして申し立てられた事件である。
 大阪府労働委員会は、Y1会社に対し、支配介入に該当する不当労働行為であるとして、文書の手交を命じ、その他の申立てを棄却した。 
命令主文  1 被申立人Y1会社は、申立人に対し、下記の文書を速やかに手交しなければならない。

 年 月 日
組合
執行委員長 A1 様
Y1会社      
代表取締役 B

 当社が行った下記の行為は、大阪府労働委員会において、労働組合法第7条第3号に該当する不当労働行為であると認められました。今後、このような行為を繰り返さないようにいたします。

 平成30年7月10日及び同月11日、当社代表取締役Bが同行者とともに、貴組合員A2氏の住居と同A3氏の住居を訪問し、同人らに対し退職勧奨したこと。

2 申立人のその他の申立てを棄却する。 
判断の要旨  1 争点1(Y2会社は、労働組合法上の使用者に当たるか。当たるとすれば、平成30年7月10日及び同月11日、Y2会社が、A2組合員及びA3組合員に対して行った対応は、組合に対する支配介入に当たるか。)
ア 組合は、その下部組織として、Y1会社の従業員からなる分会を置いているが、Y2会社に雇用されている組合員はいないことについては、争いはない。
 しかしながら、労働組合法第7条にいう「使用者」については、労働契約上の雇用主以外の事業主であっても、労働者の基本的な労働条件等について、雇用主と部分的とはいえ同視できる程度に現実的かつ具体的に支配、決定することができる地位にある場合には、その限りにおいて、当該事業主は同条の使用者に当たるものと解するのが相当であるから、本件言動に関して、Y2会社が、本件組合員らの基本的な労働条件等について、雇用主と部分的とはいえ同視できる程度に現実的かつ具体的に支配、決定することができる地位にあるか否かについて、検討する。
イ 本件言動において、Y2会社社長は、Y1会社B社長から依頼を受けて同行しており、7.11言動においては、B社長とともに発言したこと、が認められる。
 しかし、本件言動は、本件組合員らに対し、社会保険料の本人負担分の支払を求め、これに応じると返答しない本件組合員らに対し、退職に言及したものというべきところ、Y1会社における本件組合員らの社会保険料の本人負担分の支払問題に関し、Y2会社が、何らかの影響力を有していると認めるに足る疎明はない。
 また、Y2会社社長は、7.10言動では発言していないことが認められる。
 7,11言動についても、この時点で、A3組合員はY2会社社長とは面識がないことが認められ、7.11言動において、B社長らがA3組合員に対して、Y2会社社長の地位を明かしたとする疎明もなく、Y2会社社長の発言内容をみても、Y2会社を代表する者としての発言は見当たらず、B社長の同行者として、B社長に同調して発言するのにとどまっていたとみるのが相当である。
 したがって、本件言動に関して、Y2会社が、本件組合員らの基本的な労働条件等について、雇用主と同視できる程度に現実的かつ具体的に支配、決定することができる地位にあるということはできない。
ウ ところで、組合は、Y1会社は、B社長ないしその家族の出資により設立されたY2会社に対し、事業や取引先を形式的に承継させ、Y2会社は、Y1会社の事業を事実上代行することによって、B社長による組合嫌悪、排斥のために機能しているとし、Y1会社とY2会社は、実質上同一の企業の関係にある旨主張するとともに、使用者性の判断に関して、親会社が子会社の業務運営等の支配力を有し、子会社の従業員の待遇を左右し得る場合で、親会社が、子会社に存在する労働組合を排除するとの不当な目的を達するため、子会社を解散させ、子会社従業員を解雇させた事例を挙げる。
 そこで、Y2会社の設立や業務内容についてみると、①平成29年7月、Y2会社は、B社長の息子が全額出資して設立されたこと、②会社が業務に使用していた車両の一部がY2会社で使用されるようになったこと、③Y2会社が運送業務を開始した際の顧客は、全てY1会社からの引継ぎによるものであったこと、④Y1会社の従業員であった者で、Y2会社の従業員として勤務するようになった者がいること、⑤Y1会社の取引先であった運送会社Cは、Y1会社との取引を打ち切ったが、Y2会社が運送会社Cからの仕事を受注し、Y1会社はY2会社とともにこの仕事を行ったこと、がそれぞれ認められ、両社は密接な関係にあり、Y1会社がY2会社の業務運営等について、一定の影響力を有しているということはできる。
 しかし、組合が挙げる事例は、親会社が、組合員の雇用主である子会社に対して支配力を有しているか否か、また、その支配力により不当労働行為を行ったか否かが問題となったものであるところ、本件では、組合員の雇用主であるY1会社が、Y2会社の業務運営に対して一定の影響力を有しているのであって、この事例を本件と同一視することはできない。また、本件言動において、Y2会社がY1会社と密接な関係にあることに関連した発言はなく、本件言動をY1会社とY2会社の密接な関係を利用した言動とみることもできない。
エ 以上のとおりであるから、Y1会社とY2会社の密接な関係を勘案しても、Y2会社が、本件組合員らに対する本件言動に関して、労働組合法上の使用者に当たるということはできず、その余を判断するまでもなく、組合のY2会社に対する本件申立てを棄却する。

2 争点2(平成30年7月10日及び同月11日、Y1会社が、A2組合員及びA3組合員に対して行った対応は、組合に対する支配介入に当たるか。)
ア ①平成30年7月10日、B社長らは、事前の連絡なく、A2組合員の住居とA3組合員の住居を訪間したこと、②同月11日には、B社長らは、再度、A3組合員の住居を訪問したこと、③これらの訪間の時点では、分会は、本件ストを行っており、本件組合員らは本件ストに参加していること、が認められ、B社長らは、事前の連絡なく、スト中の組合員の住居を訪問し、面談を求めたものである。
イ これについて、Y1会社らは、B社長が本件組合員らの住居を訪問したのは、社会保険料の本人負担分の立替金の支払を求め、支払わない時にはY1会社を退職することを勧奨するためであり、退職を強要することを目的としていたのではない旨主張する。
 確かに、本件言動のきっかけは社会保険料の支払にあるといえ、①Y1会社は、本件組合員らの賃金から社会保険料の本人負担分を源泉控除していたこと、②Y1会社は、本件ストの間、本件組合員らに賃金を支払っていないこと、が認められる。
ウ 本件言動までの社会保険料の立替についてのやりとりをみると、①平成30年4月l7日頃、Y1会社は本件組合員らに対し、同28年12月分から同30年3月分の社会保険料の立替分についての請求書を送付したこと、②同年6月19日、本件組合員らは、それぞれ代理人名の請求書兼相殺通知書と題する文書をY1会社に送付したこと、③この文書には、(i)本件ストにより賃金を受領できないことによる本件組合員らの損害は全てY1会社の責任であって、本件組合員らは同28年12月から同30年3月までの賃金について、不法行為に基づく損害賠償請求を行う権利を有する、(ii)Y1会社は本件組合員らに対し、社会保険料立替分を請求しているが、本件組合員らは、損害賠償請求権と社会保険料立替分支払債務を対当額で相殺することをこの文書で通知する旨の記載があること、が認められる。そうすると、本件組合員らは、Y1会社からの社会保険料の立替分についての請求に対し、代理人を通じて、一定の意思表示をしていたというべきところ、これ以降本件言動までの間に、Y1会社が、上記の請求書兼相殺通知書に対し、直接、異を唱えたり、訴訟を提起するなどしたとする疎明はない。
 さらに、平成30年5月29日の団交において、組合の役員と分会長は、立替分の分会員の社会保険料を支払う意思がある旨発言したこと、が認められるが、この団交以降本件言動までの間に、Y1会社が組合に対し、未だに社会保険料が支払われないとして問い質したとする疎明はない。
エ また、①7.10言動において、B社長は、Y1会社を退職してほしい旨述べたこと、②7.11言動において、B社長らは、Y1会社からの退職に数回にわたり言及していること、が認められ、本件言動において、B社長らは、本件組合員らに対し、追職を勧奨したものである。
 そして、7.11言動でのB社長の退職勧奨についてみると、社会保険を払わないのならば会社を退職してほしい、滞納がなくなるから、できれば、Y1会社を辞めてほしいといった発言を繰り返していることから、社会保険料の本人負担分についての立替額がこれ以上増えることを防ぐ趣旨であったとも考えられる。
 しかし、そうだとしても、B社長は、スト中であった組合員個人の住居を訪問して退職勧奨を行っており、また、請求書兼相殺通知書に記載されていた損害賠償請求権と社会保険料立替分支払債務の対当額での相殺について、送付元の代理人に直接、異を唱えたり、訴訟を提起するといった対応をしないまま、かかる言動を行っていることから、本件言動における退職勧奨は、組合員の動揺を誘い、組合活動に悪影響を及ぼす支配介入に当たるとみるのが相当である。
 さらに、7.11言動において、B社長は、これ以上言われても、とりあえず組合に確認する旨述べたA3組合員に対し、「これ言うてもわからんのか。自分も大の大人やろ。子どもも嫁はんもおって、確認するって自分らあんなアホに確認して何すんねん。お前、おかしいやろ。あんなアホみたいなやくざみたいな。」と言ったことが認められ、A3組合員が組合に確認しようとしたことを非難し、組合を侮辱する発言をしたと判断することができる。
オ 以上のとおりであるから、B社長らが、事前の連絡なく、スト中の本件組合員らの住居を訪問し、本件組合員らに対し、退職を勧奨する発言をしたことは、Y1会社による組合に対する支配介入であって、労働組合法第7条第3号に該当する不当労働行為である。 
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