労働委員会命令データベース

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概要情報
事件番号・通称事件名  福島県労委平成30年(不)第1号
申立人  X組合(「組合」) 
被申立人  Y法人(「法人」) 
命令年月日  令和元年10月16日 
命令区分  一部救済 
重要度   
事件概要   本件は、組合と法人との間で開催された7回の団体交渉における法 人の対応が不誠実なものであり、労働組合法第7条第2号の不当労働行為に当たるとして、組合から、平成30年3月27日に申 立てがあった事件である。
 福島県労働委員会は、会社に対し、一部の議題に係る対応について不当労働行為であるとして、誠実な団体交渉を命じ、その他 の申立てを却下・棄却した。 
命令主文  1 被申立人法人は、申立人組合が平成29年6月2日付けで申し入 れた団体交渉事項のうち次の事項及びこれらに関連する過去の団体交渉事項について、自らの見解の内容及びその根拠を具体的か つ明確に示して申立人の納得を得るよう努力するなど、誠実に団体交渉を行わなければならなぃ。
(1) 決算書の提示を求めるとともに、特に人件費に係る分かりやすい資料の提示を求める(別表の議題31及び議題38)。
(2) 平成29年度において、適正な定期昇給を行うこと及び給料表を策定すること(別表の議題26、議題31及び議題 41)。
(3) 平成28年年末賞与について、平成28年3月に採用されたことを根拠に給与月額の12分の9に相当する金額を支給さ れた従業員に対して給与1か月分の年末賞与を支給すること(別表の議題34及び議題43)。

2 被申立人法人は、前項を履行したときは、速やかに当委員会に文書で報告しなければならない。

3 第1回から第6回団体交渉のうち、別表の議題16、議題23、議題25、議題26、議題29、議題31、議題33、議題 34及び議題35以外の団体交渉についての申立ては却下する。

4 その余の申立ては棄却する。 
判断の要旨  1 争点1(第1回から第7回までの団体交渉は、労働組合法第27 条第2項に規定する「継続する行為」に当たるか否か)
 第1回(26年9月9日)から第6回(29年3月13日)までの各団体交渉は、本件申立日である30年3月27日から1年 以上遡るものであり、形式的には行為日から1年を経過した事件であることから、本件申立てが労働組合法第27条第2項に反す るものでないか検討する。
 本件において「継続する行為」の範囲を認定するに当たっては、同一議題の団交事項が複数回の団体交渉にわたって継続的に協 議されているかを一つの判断基準とし、同一議題の団交事項が労働組合法第27条第2項に定める除斥期問に該当しない第7回団 体交渉まで継続して協議されていると認められる場合、その議題に関する団体交渉を「継続する行為」に当たると認め、審査の対 象とするのが相当である。
 各団交事項のうち、第7回団体交渉まで継続して協議されていると認められるものは、以下のとおりである。

ア 賞与の査定及び人事考課チェック表に関する事項について、第3回から第7回団体交渉まで継続して協議されていることが認 められる。
イ 29年度における定期昇給等に関する事項について、第5回から第 7回団体交渉まで継続して協議されていることが認められる。また、決算資料等の提示に関する事項について、第6回から第7回団体交渉まで継続して協議されていることが認め られる。
ウ ドライブレコーダーに関する規程の作成に関する事項について、第6回から第7回団体交渉まで継続して協議されていること が認められる。
エ 28年年末賞与が28年3月に採用されたことを理由に減額支給された件に関する事項について、第6回から第7回団体交渉 まで継続して協議されていることが認められる。
オ 29年3月のA2に対する懲戒処分に関する事項について、第6回から第7回団体交渉まで継続して協議されていることが認 められる。
カ 第1回から第6回団体交渉までの各団交事項のうち、上記ア、イ、ウ、エ及びオ以外の団交事項については、第7回まで継続 して協議されている事実は認められない。
キ したがって、以上により、上記ア、イ、ウ、エ及びオの第7回団体交渉の団交事項及び第7回団体交渉への継続性が認められ る団交事項の範囲に限った各回の団体交渉を本件の審査対象とすることが相当であり、それ以外の団体交渉については、労働組合 法第27条第2項により審査の対象とすることはできない。

2 争点2(一連の団体交渉における法人の対応は、不誠実なものであったか)
(1) 29年3月のA2に対する懲戒処分の撤回を求めることについて
 A2の解雇の問題については、第7回団体交渉以降に控訴審で和解が成立し、解雇が撤回されて解雇期間中の給与が支払われた 上で同人が職場復帰していることから、当該議題に係る組合の目的は既に達成され、解決したものと見ることができる。
 したがって、組合が求める救済の利益は失われているものと判断し、この点については救済命令を発する必要はない。
(2) 法人の決算書及び特に人件費に係る分かりやすい資料の提示を求めることについて
 組合からの賃上げ要求に対する回答の根拠となる資料の提示を拒否し、具体的な説明を尽くそうとしなかった法人の交渉態度 は、自己の立場を相手方に説明し、理解を得ようとする姿勢に欠ける不識実なものといわざるを得ない。
 よって、当該議題に係る法人の対応は、労働組合法第7条第2号に該当する不当労働行為である。
(3) 29年夏季賞与について査定による減額を行わないこと。また、人事考課チェック表の見直しを求めることについて
 法人は、組合の要求に対し論拠を示しながら自己の見解を具体的に説明するとともに、一定程度議歩するなどして組合との合意 形成に向けて相応の努力をしたものといえるから、裁量を理由に実質的な交渉に入ることを拒否したとはいえず、当該議題に係る 法人の対応が不識実な団体交渉に該当するとまではいえない。
(4) 29年度において、適正な定期昇給を行うこと及び給料表を策定することについて
 本件では、法人が団体交渉において具体的な昇給額を提示せずに、法人の裁量で賃上げを行う旨の回答しかしていないため、昇 給額についての実質的な協議が行われていない。
 このような法人の対応は、昇給額について団体交渉において組合と協議して妥結しようとする意思がないことを示したにも等し いものであり、その後、従業員に対して別途昇給を行ったことは、組合の団体交渉権をないがしろにしたにも等しいものである。 さらに、賃上げの可否や賃上げ額の妥当性を検証するための具体的資料も一切提示せず、十分な説明を行わなかったことは、組合 の主張に対し、誠実に対応することを通じて合意形成の可能性を模索する義務を果たしているものと見ることはできない。
 法人は、29年に一律1,000円の昇給を行っていることから組合の要求を最初から全て拒否している等とはいえないと主張 するが、団体交渉では金額を一切提示していないのであるから、誠実な対応とはいえない。
 よって、当該議題に係る法人の対応は、労働組合法第7条第2号に該当する不当労働行為である。
(5) 業務用車両に搭載されているドライブレコーダーについて、車内の音声録音及び従業員を撮影する機能の閲覧に関する規 程を作成することについて
 法人は、「従業員代表の意見を尊重して、我々独自の運用、適宜の運用をします」と回答しているものの、従業員個人のプライ バシー侵害を問題視する組合に対し、危険防止などの管理責任上の必要性があることを具体的に説明した上で、過去の団体交渉の 経過を踏まえ、ドライプレコーダーの閲覧を限定してプライバシーに一定の配慮をした運用を行うことを説明していることから、 組合の要求に対し一定の議歩を行っているといえる。よって、当該議題に係る法人の対応が不誠実な団体交渉に該当するとまでは いえない。
(6) 28年年末賞与について、28年3月に採用されたことを根拠に給与月額の12分の9に相当する金額を支給された従業 員に対して給与1か月分の年末賞与を支給することについて
 結果的に継続協議となった事実があったとしても、第7回団体交渉までの対応状況を見る限りにおいて、法人では理事長、理事 及び代理人として交渉権限を持つ者が複数名団体交渉に出席しているのであるから、各人が交渉担当者としての責任を果たすべき である。それにもかかわらず、第6回団体交渉で持ち帰り検討するとした結果について具体的に説明せず、12分の9に減額した 根拠を明確に説明していないことは、使用者として誠実に交渉に応じる義務を果たしているということはできない。
 法人は、12分の9 とする根拠については就業規則や人事考課基準等に基づいた明確な説明をしておらず、裁量に基づいて適正な査定を行った旨の説明しかしていないのであるから、自己の主張を相 手方が理解し、納得することを目指して、組合の要求や主張に対する回答や自己の主張の根拠を具体的に説明するなどして誠意を もって団体交渉に当たっているということはできない。
 よって、当該議題に係る法人の対応は、労働組合法第7条第2号に該当する不当労働行為である。 
掲載文献   

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