労働委員会命令データベース

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概要情報
事件番号・通称事件名  宮城県労委平成30年(不)第1号
東北大学不当労働行為審査事件 
申立人  X組合(「組合」) 
被申立人  Y法人(「法人」) 
命令年月日  令和元年11月14日 
命令区分  一部救済 
重要度   
事件概要   本件は、組合と法人との間で行われた団体交渉において、①組合が法人に対し要求した財務状況等の資料を提供しなかったこと、②法人と組合が締結した確認書に関して法人が団体交渉で組合の質間に誠実に回答しなかったこと、③組合の団体交渉申入れに対して法人が組合の希望する日程で応じなかったこと、④組合が提出した質問要求書に対して法人が団体交渉等で誠実に対応しなかったことなどが、労働組合法第7条第2号の不当労働行為に該当するとして、平成30年2月20日に当委員会に対して、救済が申し立てられた事件である。
 宮城県労働委員会は、法人に対し、①の一部の資料の不提出及び④について不当労働行為に当たるとして、誠実な対応とともに、文書の交付を命じ、その他の申立てを棄却した。 
命令主文  1 被申立人は、申立人との間で准職員及び時間雇用職員の無期転換に関する団体交渉を行う場合において、希望者全員を無期転換した場合の財務の見通しなどに関する質間に対して、無期転換を希望する人数を踏まえるなどした資料を提示した上で、人件費や財務への影響について具体的に説明し、誠実に対応しなければならない。
2 被申立人は、本命令書写しの交付の日から10日以内に、申立人に対して、下記の文書を交付しなければならない。

 年 月 日
組合
執行委員長 A 殿
法人     
総長 B

 当法人が行った下記の行為は、宮城県労働委員会によって労働組合法第7条第2号に該当する不当労働行為と認定されました。当法人はこのことを誠実に受け止め、今後、このような行為を繰り返さないようにします。


(1) 貴組合に対して准職員及び時間雇用職員の希望者全員を無期転換した場合の財務の見通しについて十分に説明しなかったこと
(2) 貴組合が平成30年1月5日に当法人に提出した質問要求書に対して、同年2月7日の団体交渉で誠実に対応せず、同年3月7日にも不十分な回答をしたこと
(注:年月日は、文書の交付の日を記載すること。)

3 申立人のその余の申立てを棄却する。 
判断の要旨  1 平成29年12月25日に開催された団体交渉に関連し、法人の以下の対応は、労働組合法第7条第2号の不当労働行為に該当するか。(争点1)
(1) 組合の要求した他大学と異なる法人の財務状況に関する資料を、平成30年6月15日時点においても提供していないこと。(争点1(1))
 他大学の財務状況に関しては、財務諸表や決算報告書などに記載されている概括的な情報は公開されているとしても、職員の雇用管理に関する情報や財源の具体的な使途等、比較分析を行うために必要な情報まで公開されているものではない。また、組合が法人に対して、他大学の情報を入手するよう求めていることからも、それらの情報が一般に公開されているとは言い難い。さらに、組合もそれらの情報の入手方法について具体的な主張をしておらず、法人が入手可能であったとする特段の事情も認められない。よって、法人が、他大学と異なる財務状況を説明することが可能であったとは認められない。
 このような状況において、他大学との比較資料を提供しなかったとしても、誠実交渉義務に違反する対応であるとまではいえず、労働組合法第7条第2号の不当労働行為に該当するとはいえない。
(2) 組合の要求した有期雇用職員を無期転換できない理由についての資料を、平成30年6月15日時点においても提供していないこと。(争点1(2))
(ア) 法人は、希望者全員の無期転換という組合の要求を受け入れられない理由として、正職員の人件費が逼迫した財務状態にあることや運営費交付金が減少していることなどの一般的・抽象的な理由を説明したにすぎず、有期雇用職員の現時点における人件費の額は明らかにしているものの、希望者全員を無期転換した場合に増加する将来の人件費の額、法人の予算に占める増加額の割合(影響度)といった事項については明らかにしておらず、これらの事項を具体的に検討したことは窺えない。仮にこれらの事項について、法人が具体的に検討し、組合に情報を提供していれば、組合は、それを前提に自身の要求の実現可能性を判断し、他の財源を割り当てるあるいは無期転換の要求を一定程度縮小するといった対案を検討するなどして法人と交渉することも可能であった。すなわち、法人が、組合の要求を具体的に検討していないことにより、組合に対して労使対等交渉に必要な情報が開示されず、労使対等交渉が妨げられていたことが認められる。
(イ) また、法人は、組合の要求を受け入れた場合のシミュレーションとして、平成29年2月13日の団体交渉及び平成30年2月7日の団体交渉において、有期雇用職員の全員を無期転換し、一人も退職せずに勤務し続け、定年後も再雇用されるというシミュレーションを資料によって示し、人件費が増大する旨を説明しているが、このシミュレーションは、平成29年2月13日の団体交渉で組合が指摘したように、有期雇用職員のうち実際に無期転換を希望する者の割合や退職者等が発生することを全く考慮しておらず、シミュレーションとして不十分なものである。確かに、法人が平成29年3月23日の団体交渉において述べたように、現状の雇用継続のデータを基準にシミュレーションを行うと誤りが発生することは否定できないが、そのように考えていたのであれば、組合が平成29年2月13日の団体交渉で要求したように、実際にどの程度の有期雇用職員が5年を超える雇用や無期転換を希望しているのかを調査するなどして、より精度の高いシミュレーションを行うことも可能であったと考えられる。しかし、法人は、同団体交渉で、資料の提供については検討させてほしい旨回答したにもかかわらず、以降の団体交渉でそのような資料を提供することもなく、平成30年2月7日の団体交渉においては、平成29年2月13日の団体交渉で配付した資料と同一の資料に基づき説明を行うという対応を取っており、希望者全員を無期転換できないことを示す資料を提供したとはいえず、財務の見通しを誠実に説明しているとは認められない。このような法人の対応は、労働組合法第7条第2号の不当労働行為に当たる。
(3) 平成28年2月18日付けで法人と組合が締結した確認書に関する組合からの質問に対して、平成29年12月25日の団体交渉において、法人が、「弁護士と相談する」と述べ、回答を拒否したこと。(争点1(3))
 法人は、同じ団体交渉の場で、弁護士と相談する旨の発言に先立って、確認書の内容は限定正職員制度で実現している旨回答しており、団体交渉終了後においては、年末年始を挟んで2週間程度で、弁護士と相談した結果について、メールにより組合に伝えていることから、回答を拒否したとはいえない。
 また、限定正職員制度は、動続期間が3年以上となる有期雇用職員の一部を限定正職員として登用するものであり、限定正職員として採用された職員のうち、少なくとも、業務限定職員(一般)及び業務限定職員(特殊)については無期転換が行われていること、採用手続において有期雇用職員の所属部局の推薦や人事評価が考慮されていることから、法人が確認書を無視しているとまではいえない。
 よって、平成29年12月25日の団体交渉における確認書に関する法人の対応は、誠実交渉義務に違反するものとはいえず、労働組合法第7条第2号の不当労働行為に該当するとはいえない。

2 平成30年3月末に雇止めが発生するため、同年1月12日に組合が、同年1月22日又は1月23日に緊急の団体交渉を行うよう法人に求めたのに対して、法人が同年2月7日又は2月8日であれば応じると回答したことは、労働組合法第7条第2号の不当労働行為に該当するか。(争点2)
 組合の申入れ日から組合の希望日までは休日も含めて10日程度しかなかったこと、法人には他の業務があったこと、組合の希望日から2週間程度の近接した日程を代替日程として提示していること、他の団体交渉開催までの日数と比較して遅延しているとまでは認められないことから、法人の対応が明白な引き延ばしであるという組合の主張は採用できない。よって、組合の希望する日程で団体交渉に応じなかった法人の対応は、応じられない具体的理由を説明しなかった点で不十分ではあるものの、労働組合法第7条第2号の不当労働行為に該当するとはいえない。

3(1) 組合が平成30年1月5日付けで提出した本件質問要求書に関し、同年2月7日に開催された団体交渉において、法人がその一部に回答したのみで、質問・要求に対する新たな資料を提供しなかった対応は、労働組合法第7条第2号の不当労働行為に該当するか。(争点3(1))
(ア) 本件質問要求書の「Ⅰ-1」(限定正職員の採用状況に関する質問)に関しては、法人は、平成30年2月7日の団体交渉で同年3月末をもって通算雇用期間が満5年となる人数、限定正職員採用試験の受験者数及び合格者数を、組合に説明していることが認められるが、限定正職員採用試験の応募者数については、受験者数と同一であると考えられると回答しているだけである。
 組合が、受験者数とは別に応募者数について、法人に質問している趣旨は、平成29年12月25日の団体交渉における組合の発言から、業務限定職員(特殊)及び目的限定職員の採用試験に応募したにもかかわらず、担当教授や所属部局からの推薦が得られずに受験できなかった人数を確かめる必要があったためであると認められる。そして、法人は、そのような質問の趣旨については認識可能であったといえる。それにもかかわらず、単純に受験者数と同一であると考えられるという回答をすることは、組合の質問に十分に対応しているとはいえない。
(イ) 他方、法人には、本件質問要求書の「I-2」(限定正職員採用試験の合格の基準及び運用に関する質問)や「I-3」(限定正職員に採用することによる処遇の改善に関する質問)について、質問の意図が不明なものや回答できないものがあったことが認められる。
 しかし、法人は、同年1月5日に本件質問要求書が提出されてから団体交渉が開催されるまでの約1か月の間、同年1月15日、17日及び23日に組合と日程調整を行う機会などを利用して、質問の趣旨を確認することや回答できない事項がある旨伝達し、同年2月7日の団体交渉までの間に団体交渉を円滑に行うための事前調整が可能であったにもかかわらず、これらのことを行っていない。また、同年2月7日の団体交渉においても、本件質問要求書に対してまだ用意している回答があるのかという質問が組合からなされているのだから、法人は、用意していた回答があればその場で回答すること、また質問の趣旨が不明なものがあればその機会に質問の趣旨を確認すること、若しくは回答できない質問があれば回答できない旨伝達することが可能であったにもかかわらず、これらのことを行っていない。
(ウ) さらに、本件質問要求書の「Ⅳ-(1)」(大規模な無期転換ができない財務状況に関する質間)に対しては、法人は十分に説明しておらず、資料提供も十分に行ったとは認められない。
(エ) 以上のとおり、法人は、本件質問要求書のうち質問として合理性を有する事項に対して、適切かつ誠実に対応しているとは認め難く、また新たな資料として提供したものは、限定正職員採用試験の受験者数及び合格者数にすぎないことから、本件質問要求書に対する平成30年2月7日の団体交渉における法人の対応は、労働組合法第7条第2号の不当労働行為に当たる。

(2) 本件質問要求書に関し、同年3月7日付けで法人が書面(「本件文書」)により行った回答は、労働組合法第7条第2号の不当労働行為に該当するか。(争点3(2))
(ア) 本件文書の内容について検討すると、例えば、法人は、本件質問要求書の「I-1-(3)」(限定正職員採用試験の応募者数)に関しては、十分に説明していないにもかかわらず説明済みであると回答し、本件質間要求書の「I-2-(4)」(限定正職員採用試験を受験できなかった有期雇用職員がいる旨の記載)に関しては、平成29年12月25日の団体交渉において組合がその状況を説明しているにもかかわらず、状況を確認していないと回答している。
(イ) 確かに、組合は法人iこ対し、回答できない理由を検討中であることを記載する程度で良い旨述べるとともに、速やかに回答するよう求めていることから、簡易なものでも良いから、ともかく回答することを優先するよう求められていると法人が理解した可能性がある。しかし、そのことを前提にしたとしても、法人は、本件質問要求書に対して、平成30年2月7日の団体交渉で十分に対応していないし、その1か月後(本件質問要求書提出から約2か月後)の同年3月7日においても、法人は、本件文書により、何ら具体的な情報提供を行っていない。
(ウ) これらの経緯を考慮すると、本件文書による回答だけでは、本件質問要求書に対する回答として不十分であり、不誠実なものであるといわざるを得ない。よって、法人の本件文書による回答は、組合の本件質問要求書に対して誠意をもって対応したとはいえず、労働組合法第7条第2号の不当労働行為に当たる。 
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