概要情報
事件番号・通称事件名 |
岡山県労委平成30年(不)第1号
山陽新聞社外1社不当労働行為審査事件 |
申立人 |
X1組合・X2組合・X3組合 |
被申立人 |
Y1会社・Y2会社 |
命令年月日 |
令和元年11月7日 |
命令区分 |
一部救済 |
重要度 |
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事件概要 |
本件は、X3組合が、①C工場を含む印刷工場の別会社化に反対しY1会社による直営化を要求する主張等をしていること、②時間外勤務の際の休憩時間について定めた労働協約(第43条)を維持していることを理由として、Y1会社が、X3組合の組合員であるA1及び同A2をY2会社に出向させずY1会社の編集局工程管理部へ配置転換することは、労働組合法第7条第1号及び第3号の不当労働行為に該当するとして、X1組合、X2組合及びX3組合が、平成30年4月24日に救済を申し立てた事件である。
なお、本件救済申立て後、Y1会社がA1らを30年5月7日付けで同社の編集局工程管理部へ配置転換したため、申立人らは30年7月18日に請求する救済の内容の変更を申し立てている。
岡山県労働委員会は、Y1会社に対し、Y2会社に出向させずC工場にA1らを従事させなかったことについて不利益取扱い及び支配介入の不当労働行為に当たるとして、配転命令・不利益取扱いの撤回とともに、文書の手交を命じ、その他の申立てを棄却した。 |
命令主文 |
1 被申立人Y1会社は、申立人X3組合の組合員A1及び同A2に対して平成30年5月7日付けで発令した編集局工程管理部への配置転換命令がなかったものとして取り扱い、被申立人Y2会社に対して同人らの出向を申し入れ、被申立人Y1会社から被申立人Y2会社への出向命令を受けて現にC工場で印刷業務に従事している他の労働者と同人らを差別するとなく処遇しなければならない。
2 被申立人Y1会社は、申立人X3組合に対し、次の文書を速やかに手交しなければならない。
年 月 日
X3労働組合
執行委員長 A1 殿
Y1会社
代表取締役社長 B
当社が、貴組合の組合員A1及び同A2をY2会社への出向対象者から除外し、C工場での印刷業務に従事させず、平成30年5月7日付けで当社の編集局工程管理部へ配置転換したことは、労働組合法第7条第1号及び第3号に該当する不当労働行為であると、岡山県労働委員会において認定されました。
今後このような行為を繰り返さないようにいたします。
(注:年月日は文書を手交した日を記載すること。)
3 申立人らのその余の申立てを棄却する。 |
判断の要旨 |
1 Y1会社が、A1らをY2会社へ出向させることを拒否し、C工場での印刷業務に従事させなかったといえるか。そのようにいえる場合には、かかる行為及び本件配置転換は、労働組合の正当な行為をしたことを理由としてなされた不利益取扱い及び労働組合に対する支配介入といえるか。(争点1)
(1) A1組合員らをY2会社へ出向させることを拒否し、C工場での印刷業務に従事させなかったといえるか
A1組合員らは、意向調査や個人面談においてY2会社への出向を希望する旨述べ、その後の団体交渉において、X3組合は、A1組合員らをY2会社へ出向させるよう要求していたのであるから、従前のX3組合の主張とは異なるものの、A1組合員らのY2会社への出向の希望はY1会社に対し明確に示されていた。そして、Y1会社は、かかる出向希望を認識していたが、X3組合を通じてA1組合員らに対し出向させない旨連絡し、出向の希望を受け入れないことを回答しているのであるから、A1組合員らをY2会社への出向対象者から除外し、C工場での印刷業務に従事させなかった(「本件異動等」)ものと認められる。
(2) 本件異動等は、労働組合の正当な行為を理由とするものといえるか
本件異動等は、X3組合の組合方針及びX3組合とY1会社との間に労働協約第43条が存在することを理由としてなされたものと判断せざるを得ず、ほかに本件異動等の動機は見当たらない。
(3) 本件異動等は不利益取扱い及び支配介入といえるか
ア 不利益取扱いといえるか
本件配置転換には業務上の必要性があり、本件異動等によってA1組合員らが経済上、通勤上、組合活動上の不利益を被ったとまではいえないが、同組合員らが人事において差別的な取扱いを受けたと認められること、精神上の不利益を被ったと認められることからすると、本件異動等によって不利益が生じたというべきである。
そして、本件異動等は、Y1会社の不当労働行為意思に基づくものであると認められることから、労働組合法第7条第1号の不当労働行為に該当する。
イ 支配介入といえるか
Y1会社は、X3組合の組合方針及びX3組合が労働協約第43条の権利を保持していることを理由として、Y2会社への出向者選定に当たって、X3組合の組合員であるが故にA1組合員らを差別的に取り扱い、本社工場で印刷業務に従事していた出向を希望する従業員のうち両名のみをC工場に出向させないという、いわゆる見せしめ人事を行ったものと認められる。かかる人事を行うことは正当な組合活動を阻害し、さらに、X3組合組合員の組合活動意思を萎縮させX3組合の組合活動を抑制することによりX3組合の弱体化を図るものであるから、労働組合法第7条第3号の不当労働行為に該当する。
2 Y2会社は、労働組合法第7条に規定する使用者に該当するか。(争点2)これに該当する場合、Y2会社が、A1らの出向受入れを拒否し、同組合員らをC工場での印刷業務に従事させなかったといえるか。そのようにいえる場合には、かかる行為は労働組合の正当な行為をしたことを理由としてなされた不利益取扱い及び労働組合に対する支配介入といえるか。(争点3)
労働組合法第7条にいう「使用者」は、労働契約上の雇用主が基本的にこれに該当するものの、必ずしも同雇用主に限定されるものではなく、雇用主以外の者であっても、当該労働者の基本的な労働条件等に対して、雇用主と部分的とはいえ同視できる程度に現実的かつ具体的な支配力を有しているといえる者は、その限りにおいて同条にいう「使用者」に当たると解される。
そして、ある事業をその労働者の大部分(ないし主要部分)を引き継いで譲り受ける過程で、事業譲受企業が組合員を採用から排除した、ないしは採用後の労働条件について組合との団交を拒否した、という場合にも、事業譲受企業は、当該事業に従事してきた労働者に対して近い将来の労働契約関係成立の可能性が現実的・具体的に存在するものとして、使用者性を認められることがあるものと解される。
これを本件についてみると、Y2会社がA1組合員らの出向受入れを拒否したとは認められず、Y2会社が出向対象者の選定について積極的な行為を行ったとも認められないのであるから、事業譲受企業が組合員を採用から排除した場合のように不当労働行為の対象となるY2会社の行為を認定できない以上、事業譲渡の際の事業譲受企業と同視してY2会社の使用者性を認めることはできない。 |
掲載文献 |
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