労働委員会命令データベース

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概要情報
事件番号・通称事件名  高知県労委平成30年(不)第1号
不当労働行為審査事件 
申立人  X組合(「組合」) 
被申立人  Y法人(「法人」) 
命令年月日  令和元年11月12日 
命令区分  一部救済 
重要度   
事件概要   A2は、平成28年6月24 日に法人に採用され、法人が運営するY病院で准看護師として業務に従事していたところ、平成30年9月26日、退職勧奨を受けたことから、同月27日に組合に加入した。
 組合は、同日中に、法人に対し、A2が組合に加入した旨を通知し、今後、A2の労働条件及び身分に関する一切の件については組合と話し合うよう求めるとともに、A2は今後も継続して働く意思があるとして、A2に対する退職勧奨の撤回等を議題とする団体交渉を申し入れた。
 当該申入れを受けた法人は、A2を看護補助者の業務に充てる方針を決定した。
 同月29日、第1回団体交渉が行われ、組合が、A2を准看護師の業務に戻すよう求めたところ、法人は、当面は医師と接触する職種には戻さず、看護補助者の業務をしてもらうこととし、今後については、法人内で話し合って結論を出す旨を回答した。
 その後、同年11月9日までに6回の団体交渉が実施されたが、A2は准看護師の業務に戻されることなく、その間、同年10月10日にA2に対しY病院の顧問B2から退職勧奨が行われ、同月17日に「A2看護師の処遇に関して」と題する文書(「処遇文書」)が掲示され、以降、処遇文書に基づきA2の患者等に対する不適切な接遇態度等について法人の職員に対する調査(「処遇文書に基づく調査」)が行われた。
 本件は、組合が、法人の団体交渉における対応が不誠実なものであることのほか、上記の法人の一連の行為は、労働組合法第7条第1号から第3号までに規定する不当労働行為に当たるとして、同年11月28日付けで本件救済申立てを行った事件である。
 高知県労働委員会は、法人に対し、労組法第7条第2号及び第3号の不当労働行為に該当するとして、誠実な団交とともに、文書の手交を命じ、その他の申立てを棄却した。 
命令主文  1 被申立人は、申立人組合の組合員であるA2の配置転換に関する団体交渉に誠意をもって応じなければならない。
2 被申立人は、申立人に対し、本命令交付後速やかに、下記の文書を手交しなけれぱならない。

 年 月 日
組合
組合長 A1 様
法人       
理事長 B1

 当法人が行った下記の行為は、高知県労働委員会において、労働組合法第7条第3号に該当する不当労働行為であると認められましたので、今後は、このような行為を繰り返さないようにします。


(1) 団体交渉が行われているにもかかわらず、平成30年10月10日、当法人が、貴組合員A2氏に対し、退職動奨を行ったこと。
(2) 団体交渉が行われているにもかかわらず、平成30年10月17日、当法人が、「A2看護師の処遇に関して」と題する文書を掲示し、同日以降、当該文書に基づき貴組合員A2氏について当法人の職員に対して調査を行ったこと。

3 申立人のその余の申立ては棄却する。 
判断の要旨  1 法人がA2を看護補助者の業務に配置転換し、現在も原職復帰させないことが法第7条第1号の不当労働行為に該当するか(争点①)
ア 組合は、A2が組合に加入したことを法人が知った上で配置転換をしたことは、法第7条第1号に該当する不利益取扱いであると主張する。
 しかしながら、法人としては、組合からの申入れに応じ、それまでのA2を排除したいとの方針を転換し、継続雇用を受け入れているのであって、このことは法人が議歩する姿勢を見せたものと評価することができる。
 その上で、法人としては、継続雇用に応ずる以上は、医療の安全及び患者処遇の適正を確保するため、医師の指示を受けて行う業務及び患者とじかに接する業務に従事させることはできないという法人の方針(「医療の安全等を確保するための方針」)に基づき配置転換をしたものと考えるのが自然である。
 したがって、法人が反組合的な意思を有していたとまではいえず、法第7条第1号の不当労働行為には該当しない。
イ また、組合は、再三にわたる要求にもかかわらず、A2を原職復帰させないことは、法第7条第1号に該当する不利益取扱いであるとも主張する。
 しかしながら、法人は、医療の安全等を確保するための方針に基づき配置転換をしたものであるとすると、医療の安全等を確保できると判断できるまでは、原職復帰させることはできないという考え方に基づいて原職復帰を拒んでいるものと考えられるのであって、組合員であるが故をもって原職復帰を拒んでいるとまではいえず、法第7条第1号の不当労働行為には該当しない。
ウ もっとも、医療機関における安全性の確保を踏まえた配置転換については、当該医療機関として責任ある判断が求められるところ、法人が今後のA2の業務態度等を評価することにより原職復帰させる考えがあったのか、原職復帰させる考えが全くなかったのかについては必ずしも明らかではない。
 いずれにせよ、原職復帰が団体交渉事項となっている状況にあっては、法人は、団体交渉において医療機関の立場から必要とされる原職復帰のための具体的な条件や今後の見通し等を明らかにする必要があると考えられるが、当該観点からの不当労働行為該当性については団体交渉に関わるものであるため、4の争点④で検討することとする。

2 10月10日退職勧奨が同条第1号又は第3号の不当労働行為に該当するか(争点②)
 10月10日退職勧奨は、組合員であるが故をもってなされたとまではいえず、法第7条第1号の不当労働行為には該当しない。
 しかしながら、雇用継続を求めて組合に加入し、原職復帰を求めた団体交渉も行われている最中の退職勧奨は、A2に、将来に対する不安感を持たせたことは想像に難くない。
 このように団体交渉が継続している最中に、団体交渉の経緯を無視した形で退職勧奨が行われたことは、組合の団体交渉権を形骸化させるだけでなく、A2の組合に対する期待を喪失させ、ひいては組合の弱体化を招くおそれがあるものといわざるを得ず、法第7条第3号の不当労働行為に該当する。

3 処遇文書の掲示及び処遇文書に基づく調査が同条第1号又は第3号の不当労働行為に該当するか(争点③)
 処遇文書の掲示及び処遇文書に基づく調査は、組合員であるが故をもってなされたとまではいえないことから、法第7条第1号の不当労働行為には該当しない。
 しかしながら、団体交渉が継続している最中に、団体交渉の経緯を無視した形で処遇文書の掲示及び処遇文書に基づく調査が行われたことは、組合の団体交渉権を形骸化させるだけでなく、A2の組合に対する期待を喪失させ、ひいては組合の弱体化を招くおそれがあるものといわざるを得ない。
 また、これまで法人において本件のような調査手法がとられたことがないにもかかわらず、A2を対象とした処遇文書の掲示及び処遇文書に基づく調査が行われたという事実は、他の職員にとって、組合に加入したり、組合活動をすることをちゅうちょさせる可能性があることは否定できない。
 これらの点を考慮すると、処遇文書の掲示及び処遇文書に基づく調査は、法第7条第3号の不当労働行為に該当する。

4 B1理事長、B2顧間及び看護師長の団体交渉への出席拒否をはじめとする法人の団体交渉における対応が不誠実であり、同条第2号の不当労働行為に該当するか(争点④)
 団体交渉にB1理事長等を出席させなかったことは不誠実とまではいえないものの、一旦了承した組合立会いの上でのB1理事長の出席によるA2に対する調査等を一方的に中止し、今後の調査方針等も示さず、また、A2の具体的な原職復帰の条件、今後の見通し等を一切明らかにしないなど、法人の対応は不誠実なものといわざるを得ず、法第7条第2号の不当労働行為に該当する。 
掲載文献   

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