労働委員会命令データベース

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概要情報
事件番号・通称事件名  神奈川県労委平成30年(不)第15号
信愛学園不当労働行為審査事件 
申立人  X組合(「組合」) 
被申立人  Y法人(「法人」) 
命令年月日  令和元年11月26日 
命令区分  全部救済 
重要度   
事件概要   本件は、法人が、組合の組合員であるA2の雇止めを交渉事項とす る団体交渉に1回は応じたものの、2回目以降は応じていないことが、労働組合法第7条第2号に該当する不当労働行為であると して、救済申立てのあった事件である。
 神奈川県労働委員会は、法人に対し、労働組合法第7条第2号に該当する不当労働行為であるとして、誠実な団体交渉ととも に、文書の交付・報告を命じた。 
命令主文  1 被申立人は、申立人組合員A2の労働契約更新問題に関する団体 交渉に誠実に応じなければならない。
2 被申立人は、本命令受領後、速やかに下記の文書を申立人に手交するとともに、文書の内容を理事会及び評議員会で報告しな ければならない。


 当法人が、貴組合の組合員であるA2氏に対して労働契約更新拒絶の予告を行った問題について、一回の団体交渉を行ったのみ で、合理的な理由なく貴組合との交渉を打ち切ったことが、労働組合法第7条第2号に該当する不当労働行為であると神奈川県労 働委員会において認定されました。
 当法人は、上記行為につき貴組合に謝罪するとともに、今後、このような行為を繰り返さないようにいたします。

令和元年 月 日
組合
執行委員長 A1 殿
法人         
理事長 B1  印
判断の要旨  1 A2は、労組法上の労働者に当たるか否か。(争点①)
 A2と法人との間の契約は、契約内容が記載された書面の標題が「雇用契約書」等となっている以上、形式的には雇用契約であ ると解されるが、法人は、実質的に当該契約は委任契約ないし業務委託契約であると主張するので、実質面からもこの契約の性質 を検討することとする。
 遅くとも平成23年度以降は契約書に勤務すべき時間が記載され、A2の勤務時間はタイムカードにより管理されるとともに、 残業を前提とした「固定残業代」が支給され、さらには社会保険料の控除や所得税の源泉徴収もなされていた。
 さらに、職務内容についても、法人幼稚園を運営していく上で必須のものが多くを占めているところ、これらの法人の業務につ いて、委任ないし委託を受けた者として、専らA2自らの責任において遂行することは、法人の体制からすると困難であった。
 加えて、法人は、評議員会において、A2の「雇用契約について」話し合っている点、弁護士からも、A2との「雇用契約上の こと」について、理事会を通じアドバイスを受けている点から判断すると、そもそもA2との間の契約について、法人自らも雇用 契約であったとの認識を持っていたと考えられる。
 これらの点を総合すると、A2と法人との間に締結された契約は、実質的にも法人が主張するような委任契約ないし業務委託契 約であるとは言えず、雇用契約であると解される。
 以上より、A2は労組法上の労働者にあたると認められる。

2 争点①でA2が労働者に当たるとした場合、同人は労組法第2条ただし書第1号に定める使用者の利益を代表する者に当たる か否か。(争点②)
 労組法第2条が、そのただし書第1号において「使用者の利益を代表する者の参加を許す」組合について、労組法上の組合では ないとしている趣旨は、使用者の利益代表者の参加を許す団体は、使用者に対する関係で自主性を喪失する恐れが高いため、その ような者を組合員から排除することを求めることにある。
 したがって、ある組合員が労組法第2条ただし書第1号に定める利益代表者に当たるか否かという点については、その者の参加 により組合の自主性が失われるような権限や地位をその者が有するか否かという観点から実質的に判断すべきであり、組織内にお ける職位や職務内容に応じて画一的に定まるものではない。
 本件について検討するに、法人幼稚園の園長であったA2は、確かに理事の地位にあり、理事会への出席を通じて法人の運営に 深く関与していたこと、職員との面接や、勤怠管理、給与案の作成、採用などの人事問題にかかわっていたことが認められる。ま た、かつては園長経験者が理事長に就任したり、理事長と園長を兼任した者がいたりするなど、園長は利益代表者である理事長と 近い関係にあったことも認められる。
 しかしながら、A2は理事長ではないため法人を代表することはない。
 また、A2が理事会に職員配置案を提出しているとの法人の主張からは、人事の決定権限は理事会にあることがうかがわれる以 上、A2は労組法第2条ただし書第1号がいう人事について直接の権限を持つ監督的地位にある労働者であると認定することはで きない。
 以上より、A2は労組法第2条ただし書第1号に定める使用者の利益を代表する者に当たるとは認められない。

3 争点①でA2が労働者に当たり、かつ、争点②で労組法第2条ただし書第1号に定める使用者の利益を代表する者に当たらな いとした場合、法人が、第1回団体交渉の後、団体交渉を拒否していることに正当な理由があるか否か。(争点③)
 本件について、法人は、①第1回目の団体交渉において議論が平行線をたどり、このまま議論を続けても平行線をたどることが 明らかであった点、②第1回団体交渉における組合の人格非難的発言、③1.30要請書における法人の宗教的人格権への無配慮 な非難及び威迫的表現から、組合との間に冷静な話合いを持つことが不可能と判断されたことを団体交渉拒否の正当な理由として 主張している。
 まず、①について検討するに、確かに使用者には労働組合の要求ないし主張を容れたり、それに対し譲歩をしたりする義務まで はないのであって、十分な討論ののち、双方の主張が対立し意見の一致を見ず、議論が平行線のまま交渉打切りとなることをもっ て、労組法第7条第2号に違反することはない。
 しかしながら、本件においては、議論が平行線をたどった責任の一端は、A2が理事であり労働者ではないとの主張に固執した 法人にも存することは明らかであるし、第1回団体交渉において、法人が具体的に説明したり、必要な資料を提示するなどして、 誠実に交渉を行い、合意達成の可能性を模索したとは認められない。そもそも、本件において、1回の交渉のみで、これ以上話し 合っても議論は平行線をたどるのみであるとまで判断することは困難である。
 したがって、①について、団体交渉を拒否する正当な理由とは認められない。
 次に、②及び③について検討するに、確かに第1回目の団体交渉の際の組合のB2理事に対する「牧師なのに嘘つきである。」 という発言及び1.30要請書における「キリストの教えに反する犯罪行為」等の記載について、キリスト教教団を母体とする法 人にとって看過しがたいものであったことは理解に難くない。
 しかしながら、発言内容や表現が、法人やその構成員への脅迫に当たるなど違法なものの恐れがある場合は格別、この発言及び 表現自体は違法なものとはいえず、冷静な話合いの余地がないとまで判断するのは行き過ぎであり、団体交渉拒否の正当な理由に なるとはいえない。
 また、威迫的であると法人が主張する表現について、この表現についても違法性があるとはいえない以上、冷静な話合いの余地 がないとまではいえない。
 よって、②及び③についても、団体交渉を拒否する正当な理由とは認められない。
 以上より、法人が、第1回団体交渉の後、団体交渉を拒否していることに正当な理由は認められない。 
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