労働委員会命令データベース

(この命令は、労組法に基づく和解の認定により失効しています。)
(この事件の全文情報は、このページの最後でご覧いただけます。)


[命令一覧に戻る]
概要情報
事件番号・通称事件名  長崎県労委平成28年(不)第3号
申立人  X組合 
被申立人  Y会社(「会社」) 
命令年月日  令和元年10月21日 
命令区分  一部救済 
重要度   
事件概要   本件は、会社において、大多数の運転士が所属しているC組合から脱退した一部の運転士らによって結成されたX組合が、会社による以下の各行為が労働組合法所定の不当労働行為に該当すると主張して、平成28年12月27日、当委員会に救済申立てを行った事案である。
①組合事務所の貸与、②組合掲示板の貸与及び掲示場所の提供、③団体交渉時の賃金の保障、④車両配分、⑤各種委員会等への出席、⑥新入社員への説明・勧誘の機会の付与、⑦Y1営業所のB2所長のX組合のA2組合員に対する発言、⑧B3マネージャーのX組合のA3組合員に対する発言
 長崎県労働委員会は、会社に対し、労組法第7条第1号及び第3号の不当労働行為に当たるとして、組合事務所の貸与、団交時の賃金の保障及び車両配分に関する誠実協議とともに、文書の交付を命じ、その他の申立てを棄却した。 
命令主文  1 被申立人は、申立人に対して、C組合と差別することなく、組合事務所を貸与しなければならない。
 また、被申立人は、組合事務所の貸与にあたり、申立人と場所、広さ、賃料等の具体的な条件について速やかに協議し、合理的な取決めをしなければならない。
2 被申立人は、団体交渉時の申立人の組合員らの賃金保障について、C組合の組合員と差別することなく取り扱わなければならない。
 なお、被申立人は、平成28年2月23日以降、団体交渉のために職場を離れた時間に対応する賃金を控除された申立人の組合員らに対し、控除した賃金相当額を支払わなければならない。
3 被申立人は、車両配分に関する合理的な方法及び運用について、申立人と誠実に協議し、合意しなければならない。なお、上記協議及び合意が成立する間は、平成28年3月24日付け文書「車両配分について」における2項及び3項の規定の運用は停止すること。
4 被申立人は、本命令書受領の日から 2週間以内に、下記の文書を申立人に交付しなければならない。

X組合
執行委員長 A1 様
会社           
代表取締役社長 B1

 当社が、貴組合に対し、組合事務所の貸与、団体交渉時の賃金保障、車両配分及び新入社員への説明・勧誘の機会の付与について、C組合と差別して取り扱ったことは、長崎県労働委員会において、不当労働行為であると認定されました。
 今後、このような行為を繰り返さないよう留意します。

5 申立人のその余の請求を棄却する。 
判断の要旨  1 争点1(会社が組合に対し組合事務所を貸与していないことは、労組法第7条第3号に該当するか。)
 C組合には組合事務所を貸与する一方で、X組合には貸与しないことについて、合理的な理由があるとは認められず、組合嫌悪の意思も推認されることから、中立保持義務に違反し、労組法第7条第3号に該当すると判断するのが相当である。

2 争点2(会社が、X組合に対し組合掲示板を貸与することなく、掲示場所のみ提供し、その提供された場所がC組合とは異なる状況であることは、労組法第7条第3号に該当するか。)
 本件においては、各支部長と各営業所長との協議により掲示スペースが決定され、当該決定には、一定の合理性が認められる。
 そうすると、X組合としては、当該決定場所がC組合と比べて同等ではなく不満があるとしても、そのことのみをもって中立保持義務違反と評価するのは相当ではない。
 以上のことから、労組法第7条第3号に該当すると判断するのは相当でない。

3 争点3(会社が、X組合との団体交渉時において組合員らの賃金を控除することは、労組法第7条第1号及び同条第3号に該当するか。)
 賃金は労働者にとって重要な労働条件であることを踏まえると、C組合の組合員らに対する賃金控除が明らかとなっていない以上、X組合の組合員らに対する賃金控除には不利益性が認められるといわざるをえない。
 以上に加え、組合嫌悪意思も推認されることから、X組合との団交時において組合員らの賃金を控除する会社の行為は、労組法第7条第1号及び第3号に該当すると判断するのが相当である。

4 争点4(会社が車両の配置配分について、裁定文(平成28年3月24日付けの文書「車両配分について」)により裁定したこと及び当該裁定のとおり運用したことは、労組法第7条第3号に該当するか。)
 裁定文の策定及び運用につき、合理的な理由があるとは認められない、組合嫌悪意思も認められる。
 したがって、会社が、裁定文を策定し、そのとおりに運用したことは、中立保持義務に違反し、労組法第7条第3号に該当すると判断するのが相当である。

5 争点5(会社が、各種委員会等(被服委員会、車両委員会、ダイヤ委員会、各営業所における労使協議会、入社式、共済組合の総会、安全運輸審議会、安全衛生委員会、従業員個人表彰式、事故削減対策会議)にX組合の組合員を出席させないことは、労組法第7条第3号に該当するか。)
 入社式、従業員個人表彰式を除く各種委員会等の出席については、いずれも労働協約事項と考えられる。労働協約事項である、とすれば、会社とX組合に労働協約が締結されていない本件において、X組合の出席を認めないという一事をもって、組合差別と判断することはできない。
 また、X組合は、各種委員会等に出席できないことの不利益の主張・立証が不十分であり、一方、団交においても、中心的議題として交渉した事実も認められない。
 したがって、本件については、各種委員会等にX組合が出席していないことのみをもって、労組法第7条第3号に該当すると判断するのは相当でない。
 なお、労働協約に基づかない入社式、従業員個人表彰式については、後述する新入社員に対する教宣活動とは異なり、入社式への出席と組合活動における重要性等について判然としておらず、また、C組合の出席が認められるのが3回に過ぎないことからすると、このことのみをもって不当労働行為と評価するのは相当ではない。
 したがって、X組合の主張は採用できず、判断は左右されない。

6 争点6(会社が、X組合に対し新入社員への説明や勧誘の機会を与えていないことは、労組法第7条第3号に該当するか。)
 会社はX組合に対しては教宣活動及び実技試験への立会いを認めない一方で、28年7月25日以前においては、会社はC組合に対して容認していたことが認められ、中立保持義務に違反し、労組法第7条3号に該当すると判断するのが相当である。
 しかし、その後については、同様に容認し続けていたと認めることは困難であり、労組法第7条第3号に該当すると判断するのは相当ではない。

7 争点7(B2営業所長のA2組合員に対する平成28年2月15日の発言は労組法第7条第3号に該当するか。)
 X組合は、B2営業所長がA2組合員に対して行った発言は「同組合員のC組合からX組合へ移動した理由を問い質し、X組合に所属すれば評価が下がることを示唆しており、X組合への加入を抑圧・妨害しようとするもの」、「(労組の)移動を萎縮させるもの」、「C組合に留まってほしい、X組合に移動してほしくないという意図に基づくもの」であり、支配介入の不当労働行為である旨主張するので、以下検討する。
 結局のところ、B2営業所長には従業員の行動や気持ちの変化に関心を寄せていた管理者としての姿勢があり、高く評価していたA2組合員が従業員の過半数で組織された労組を脱退し、結成間もない組合に加入することを知って、何か大きな問題が発生しているのではないかと不安を感じ、事実の確認を行ったものといえ、その言動は組織マネジメントの範囲に留まるものと評価できる。
 以上のことから、発言の内容、程度、その発言のなされた状況、目的及び影響を総合的に考慮すると、上記X組合の主張は採用できない。
 したがって、本件については、労組法第7条第3号に該当すると判断するのは相当ではない。

8 争点8(B3マネージャーのA3組合員に対する平成28年9月7日の発言は労組法第7条第3号に該当するか。)
 B3マネージャーの発言は使用者の意を受けて又は黙示の承認の下になされた行為と捉えることができる。
 そこで、X組合は、A3組合員に対する本社指導のB3マネージャーの発言はパワーハラスメントであり、かつ、A3組合員がX組合に所属していることと関連付けてかかる発言がなされており、組合活動を萎縮させ、X組合を弱体化させようとする支配介入の不当労働行為である旨主張するので、以下検討する。
 B3マネージャーの発言は、バワーハラスメントにあたり、それ自体に問題があったとしても、事故の再発防止のための指導としてなされたもので、客観的に組合嫌悪意思を推認させるまでの行為とはいえない。
 したがって、本件については、労組法第7条第3号に該当すると判断するのは相当ではない。 
掲載文献   

[先頭に戻る]
 
[全文情報] この事件の全文情報は約1580KByteあります。 また、PDF形式になっていますので、ご覧になるにはAdobe Reader(無料)のダウンロードが必要です。