労働委員会命令データベース

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概要情報
事件番号・通称事件名  神奈川県労委平成29年(不)第20号
GIFT等不当労働行為審査事件 
申立人  X組合(「組合」) 
被申立人  Y1会社・Y2会社 
命令年月日  令和元年10月11日 
命令区分  棄却 
重要度   
事件概要   本件は、組合が、平成28年7月10日付けで組合員A1及び同月22日付けでA2の解雇撤回や社会保険への遡及加入等に係る団体交渉をY1会社及びY2会社に対し申し入れたところ、①Y1会社が社会保険に遡及加入する前提として、社会保険料本人負担分を即時払いすることをA1らに求めたことが、労働組合法第7条第1号及び第3号に、②平成28年12月7日に開確された団体交渉(「本件団体交渉」)におけるY1会社の対応が不誠実であること及び③Y2会社が、組合の団体交渉申入れに応じなかったことが同条第2号に該当する不当労働行為であるとして、平成29年2月7日に救済申立てのあった事件である。
 神奈川県労働委員会は、申立てを棄却した。 
命令主文  本件申立てを棄却する。 
判断の要旨  1 争点①(Y1会社の、A1らに対する社会保険遡及加入に関する一連の対応は、組合員に対する不利益取扱い及び支配介入に当たるか否か。)
 Y1会社は、組合の求めに応じて社会保険の遡及加入に関する手続を行い、それに伴い法令上必要となる本人負担を求めただけであり、また、組合の求めに応じて一旦本人負担分を立て替えることとし、返済計画書の提出を依頼したにすぎない。したがって、Y1会社が、A1らに殊更不利益を与えた事実は認められないことから、Y1会社の対応は、労組法第7条第1号の不当労働行為には当たらない。
 また、Y1会社の上記対応が、組合の弱体化を図るなど組合の運営に対する支配介入を行ったと認められる事情もないことから、労組法第7条第3号の不当労働行為にも当たらない。

2 争点②(平成28年12月7日に開確された団体交渉におけるY1会社の対応は、不誠実な交渉態度に当たるか否か。)
 Y1会社は、解雇撤回を求める組合の要求には応じなかったものの、その理由について根拠となる資料を提示して組合の理解を得ようと努めており、また、社会保険の遡及加入については、組合の要求を組み入れて讓歩し、合意達成の可能性を模索していると評価することができる。
 一方、組合は、本件団体交渉で回答できなかったことについて、その後応答することなく、そのほかの議題についてもそれ以上の追及をすることなく、本件申立てに至っている。
 以上のことからすると、Y1会社は、本件団体交渉において組合の要求に対し真摯に対応しており、不誠実な交渉態度であったとは認められない。したがって、Y1会社の対応は、労組法第7条第2号の不当労働行為に当たらない。

3 争点③(Y2会社は、A1らとの関係において、労組法第7条の使用者に当たるか否か。)
ア 労組法上の使用者とは、原則として、労働契約上の雇用主をいうところ、A1らはY1会社からY2会社に派遣されて同社で就労していたのであり、A1らとY2会社の間に直接の雇用関係はないことから、Y2会社は労働契約上の雇用主には当たらない。
イ もっとも、労組法第7条が、団結権の侵害に当たる一定の行為を排除、是正して、正常な労使関係秩序の回復を目的としていることからすれば、一定の条件の下、雇用主以外の者であっても、労働者との関係において「使用者」に当たると解する余地はある。すなわち、当該労働者の労働条件等について、雇用主と部分的とはいえ同視できる程度に現実的かつ具体的に支配、決定することができる地位にある場合には、当該労働条件等に係る交渉事項の限りにおいて、労組法第7条の「使用者」に当たると解される。
ウ まず、組合は、28.7.10要求書及び28.7.24要求書においてA1の解雇撤回や社会保険遡及加入等を求めて、Y1会社及びY2会社に団体交渉を要求している。これらのA1の労働条件に係る交渉事項は、雇用主であるY1会社が対応すべき事項であって、Y2会社が対応すべき事項は存在しない。したがって、これらの交渉事項に関して、Y2会社が、雇用主であるY1会社と部分的とはいえ同視できる程度に現実的かつ具体的に支配、決定することができる地位にあると解することはできず、労組法第7条の「使用者」に当たるとは認められない。
エ 次に、組合は、28.7.22要求書により、A2の解雇問題や社会保険未加入問題についてY1会社及びY2会社に団体交渉を要求している。これらのA2の労働条件に係る交渉事項についても上記と同様、雇用主であるY1会社が対応すべき事項であるが、28.7.22要求書には、A2の本件事故についての記載があり、組合は、このことについて、Y2会社に安全配慮義務があることを理由に、労組法第7条の使用者性があると主張する。しかしながら、28.7.22要求書には、本件事故の経過が簡単に記載されているのみで、組合から、本件事故によってA2の労働条件にどのような影響があったか、影響があったとして組合が交渉事項としてY2会社に対して何を具体的に求めているかの記載は一切なかった。
オ そうすると、28.7.22要求書は、団体交渉の申入れとして不十分というべきであり、組合がY2会社との間で何を交渉事項として申し入れているのか判然としていないため、Y2会社の使用者性を判断することはできない。
カ 一方で、組合は、A1らがY2会社に直接連絡していた事実を使用者性の根拠の一因として主張しているが、派遣先事業主が派遣労働者の勤怠を管理することは、派遣法の定めからしても、当然に行うべき業務の一環であり、そのことをもってY2会社の使用者性を基確付ける事実とはいえないため、組合の主張は採用できない。
キ 以上のことからすると、Y2会社に使用者性があるとする組合の主張は採用できず、A1らとの関係においてY2会社は労組法第7条の「使用者」に当たるということはできない。

 よって、その余については検討するまでもなく、組合のY2会社に係る主張には理由がない。 
掲載文献   

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