労働委員会命令データベース

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概要情報
事件番号・通称事件名  東京都労委平成29年(不)第10号・29年(不)第12号
申立人  X組合(「組合」) 
被申立人  Y会社(「会社」) 
命令年月日  令和元年6月18日 
命令区分  一部救済 
重要度   
事件概要   A2は、出版社である会社において営業に従事していたが、組合に加入した後、解雇された。
 その後、和解が成立し、平成27年10月1日、A2は、会社に復職した。しかし、28年2月、A2は適応障害と診断され、会社を休職することとなった。29年2月、A2は、会社のB1社長らが実行不可能な業務命令を与えてA2を責め立てるなどした行為はパワーハラスメントに当たる等と主張し、B1社長らを被告とする訴訟(損害賠償等請求事件)を東京地方裁判所に提起した(本件結審日現在、東京地裁に係属中)。
 B2は、28年1月から組合との団体交渉に会社の顧問として出席するとともに、当委員会に係属していた、組合を申立人、会社を被申立人とする不当労働行為事件の調査に会社側補佐人として出席していた。28年9月10日頃、会社は、B2を著者とする『中小企業がユニオンに潰される日』(本件書籍)を出版した。本件書籍では、組合について、要旨、組合活動に対する批判的な主張が記載されている。
 10月から11月にかけて、会社は、A2に対し、組合を通さずに直接連絡しようと試み、組合はこれに抗議していた。その一方、組合と会社とは、9月30日に組合が申し入れていた団体交渉の開催条件につき書面でのやり取りを行っていたが、開催場所につき合意に至らないまま開催日時を迎え、結局、団体交渉は開催されなかった。12月7日、会社は、組合に対し、「今回の団体交渉における交渉は打ち切りとせぎるを得ない」と通知した。
 本件は、①組合の28年9月30日付団体交渉申入れに対する会社の対応は、正当な理由のない団体交渉拒否に当たるか否か、争点1)、②会社が、28年9月10日付けでB2著『中小企業がユニオンに潰される日』(本件書籍)を出版したことは、組合の運営に対する支配介入に当たるか否か、争点2)がそれぞれ争われた事案である。
 東京都労働委員会は、会社に対し、本件書籍を出版したことは組合の運営に対する支配介入に当たるとし、文書の手交を命じ、その余の申立てを棄却した。 
命令主文  1  被申立人会社は、本命令書受領の日から1週間以内に、下記内容の文書を申立人組合に交付しなければならない。

 年 月 日
組合
執行委員長 A1殿
会社        
代表取締役 B1

 当社が、平成28年9月10日付けで別紙各記述部分があるB2著『中小企業がユニオンに潰される日』を出版したことは、東京都労働委員会において不当労働行為であると認定されました。今後、このような行為を繰り返さないように留意します。
(注;年月日は、文書を交付した日を記載すること。)

別紙
(1)38ページの貴組合員A2氏の顔入り写真及び「団交に参加したA2氏」の説明文並びに42ページから45ページまでの「A2」の記載
(2)「組合は、経営者が身を削っていることを気にせずしっかりと手数料をもっていくようである」、「経営者だけでなく非組合員も不幸にしてしまうような実態を世に知らしめるべきだと感じた。」、「このままだと何も知らない経営者が組合に食い物にされると考えた。組合は常に労働争議という獲物を狙っている。最近は潜り込み自ら仕掛けるケースもあるのではないか。」(3ページ1行目から2行目まで、5行目から6行目まで、9行目から10行目まで)
(3)「このやりとりは興味深い。なぜなら、組合が周りの労働者のことを考えておらず、非組合員を下に見ていると捉えてよいからだ。普通なら非組合員も含めてとなるはずである。組合の馬脚が現れたと言って良い。」、「『社員が全員労働組合に入れば会社建てなおしますよ。』という発言は、明らかに組合が経営権まで最終的に狙っている証拠である。会社の乗っ取りを考えているのかと疑いたくなる。」(37ページ12行目から38ページ1行目まで、38ページ4行目から6行目まで)
(4)「本来退職等は本人と会社の話し合いで決めるべき事項であり、労働組合が本人を説得するのは筋違いである。本来の労働組合の役割は雇用を守ることである。組合は、自分たちの組織のことしか考えていない。即ち、「会社にいかにお金を支払わせ、組合に還元するか」この1点であると思われる。ここが既存の労働組合と組合の決定的な違いであると考えられる。」(39ページ12行目から40べージ3行目まで)
(5)本件書籍の表紙(別紙2、3)のうち、組合及び組合員を模して描いたイラスト(「〇〇組合」 と記載された白の横断幕の下、A1委員長やA2氏ら組合員3名を模したキャラクターと、一万円札が舞い散る様子が描かれたイラスト)

2 被申立人会社は、前項を履行したときは、速やかに当委員会に文書で報告しなければならない。
3 その余の申立てを棄却する。 
判断の要旨  1 団体交渉
 組合と会社とは、組合が申し入れた団体交渉開催に向けて、書面でのやり取りを行い、開催日時については、会社が提示した六つの候補日の中から12月4日とすることで合意に至った。しかし、開催場所につき、組合は組合会議室を、会社は会社会議室を主張し相互に讓らず、合意に至らぬまま開催日時である12月4日を迎えたため、団体交渉は行われなかった。団体交渉開催予定日の3日後、会社は、組合からの抗議に対し、「今回の団体交渉における交渉は打ち切りとせぎるをえないことを連絡する。」と通知した。
 これについて、①組合の対応は開催場所の変更に関する説明として不十分なものであったといわざるを得ず、開催場所について合意できなかった原因が会社の対応のみにあるということはできない。②会社が団体交渉の延引を目的として会社会議室での開催に固執したとみるのは相当ではない。③会社が打ち切ると表明したのは、12月4日に開催予定であった「今回の団体交渉」に関するやり取りとみるのが相当であり、会社が以後の団体交渉応諾を一切拒否したとまでいうことはできない。
 以上のとおりであるから、組合の9月30日付団体交渉申入れに対する会社の対応は、正当な理由のない団体交渉拒否に当たるとまではいえない。

2 本件書籍の出版
 本件書籍を出版した時点は、組合と会社との間は極めて緊迫した労使関係にあったものである。そして、本件書籍の出版準備を行っていた時期に、会社が、A2に対し、各言動により組合に対する誹謗中傷を繰り返していたこと、本件書籍出版後に会社が組合の頭越しにA2に対して直接和解の交渉を働き掛けていたこと等も踏まえると、この極めで緊迫した労使関係下において、会社が、組合とA2の組合活動に支障や萎縮を生じさせる別紙1各記述部分がある本件書籍を出版したことは、組合の運営に支配介入したものといわざるを得ない。
 以上のとおり、会社が、9月10日付けで、別紙1各記述部分がある本件書藉を出版したことは、組合の運営に対する支配介入に当たる。 
掲載文献   

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