労働委員会命令データベース

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概要情報
事件番号・通称事件名  神奈川県労委平成29年(不)第22号
大京建機等不当労働行為審査事件 
申立人  X組合(「組合」) 
被申立人  Y1会社・Y2会社 
命令年月日  令和元年8月19日 
命令区分  一部救済 
重要度   
事件概要   本件は、組合が、組合員A2の労働災害(本件労災)の補償、社会保険未加入等を交渉事項とする団体交渉を申し入れたところ、①Y1会社が、団体交渉において、本件労災に関して要求した資料を提出せず、実質的な協議に応じなかったこと、②Y2会社が正当な理由なく団体交渉に応じなかったことは、いずれも労働組合法に該当する不当労働行為であるとして、平成29年8月30日に救済申立てのあった事件である。
 また、組合は、③Y1会社が同社従業員に対して組合を誹謗中傷するような発言をしたことは、労組法第7条第3号に該当する不当労働行為であるとして、平成29年10月23日、申立事実及び請求する救済内容を追加した。
 神奈川県労働委員会は、Y1会社に対し、組合に対する不誠実な団交応諾にあたる不当労働行為として、誠実団交とともに、文書の手交を命じ、その余の申立てを棄却した。  
命令主文  1 被申立人Y1会社は、申立人が平成29年8月2日付けで申し入れた団体交渉に誠実に応じなければならない。
2 被申立人Y1会社は、本命令受領後、速やかに下記の文害を申立人に交付しなければならない。


 当社が、貴組合との間で平成29年8月28日に開催した団体交渉における当社の対応は、労働組合法第7条第2号に該当する不当労働行為であると神奈川県労働委員会において認定されました。
 今後、このような行為を繰り返さないようにいたします。
令和 年 月 日
組合
執行委員長 A1殿
Y1会社      
代表取締役 B
3 その余の申立てを棄却する。 
判断の要旨  1 A2は、Y1会社との関係において労組法第7条第2号の「雇用する労働者」に当たるか否か。(争点①)
 A2は、Y1会社の事業組織に組み入れられ、同社による時間的場所的拘束の下、作業に従事していたといえる。また、本件請負契約の内容はY1契約により定型的かつ一方的に決定され、A2が受けていた報酬は、労務提供の対価とみるのが相当である一方、A2の顕著な事業者性を基確付ける事情はない。
したがって、A2は、「賃金、給料又はこれに準ずる収入によって生活する者」として、労組法第7条第2号にいう「労働者」に該当する。

2 A2がY1会社との関係において「雇用する労働者」に当たる場合、平成29年8月28日に開催された団体交渉におけるY1会社の対応は、不誠実な団体交渉に当たるか否か。(争点②)
 Y1会社は、そもそもA2の労働者性を否定して、組合の団体交渉権の主体たる地位を否認している上、団体交渉による自主的解決の機会を放棄しており、団体交渉の拒否と同視しうるものといえる。したがって、組合が交渉の打切りを宣言したこともやむを得ないものといえ、本件団交におけるY1会社の対応は、不誠実な団体交渉応諾として、労組法第7条第2号の不当労働行為に該当する。

3 Y1会社の同社従業員に対する発言、文書周知等が組合の運営に対する支配介入に当たるか否か。(争点③)
 確かに、Y1会社が、本件安全会議において、組合を暗に示唆した上で、「過激な団体」であり、事務所を占拠する等の行動に及んだことがある旨を周知したことは、適切であったとはいえない。
 しかしながら、本件発言は、具体的な組合名を挙げてされたものではない上、A2の加入した団体が労働組合であることの明示もなされていない。そして、本件発言の内容は、組合やその活動について言及するものというよりは、事故発生の報告や施錠管理の徹底といった一般的な危機管理を強調するものであり、組合を直接誹謗中傷したものとは認められない。さらに、Y1会社には、本件発言がされた約3年前の平成26年7月31日に退職したA2を除き、組合に所属する従業員は存在しなかった上、本件発言に組合活動を抑制するような内容は認められない。そうであるとすれば、組合が一定の地域の労働者で組織する合同労働組合であることを考慮しても、本件発言はその活動に影響を生じさせるものとまではいえない。もっとも、A2は、Y1会社の作業員であった当時の同僚を介して本件安全会議の内容を知ったたものであるが、そのことによって、組合活動に影響が生じたとする事実は窺えない。
 以上のことからすると、本件発言は、組合の活動に影響を及ぼすおそれがあるとはいえず、労組法第7条第3号に該当する不当労働行為とまではいえない。

4 Y2会社は、A2との関係において労組法第7条第2号の「使用者」に当たるか否か。(争点④)
 組合は、Y2会社に対し、29.8.2申入書により団体交渉を申し入れているところ、本件団体交渉事項のうち、組合が主張しているとみられるY2会社との関係での主な交渉事項は、24年事故について、①Y1会社が労働基準監督署に虚偽の報告をした問題、②A2の損害賠償請求についてであった。
 もっとも、本件において、Y2会社は、A2との関係で労働契約上の雇用主に当たるものでないから、直ちに団体交渉応諾義務を負うものではない。しかしながら、雇用主以外の事業主であっても、当該労働者の基本的な労働条件等について、雇用主と部分的とはいえ同視できる程度に現実的かつ具体的に支配、決定することができる地位にあると認められる場合には、その限りにおいて労組法第7条第2号にいう「使用者」に当たるものと解される。
 団体交渉事項①は、A2の労災保険給付の申請に関するものであるところ、そのことについてY2会社が支配力を及ぼしうる立場になく、Y1会社が24年事故の発生場所等を偽ったことについてY2会社が関与したとの事情を認めるに足る疎明もないから、同団体交渉事項について、Y2会社はA2の「使用者」には当たらない。
 団体交渉事項②について、本件作業はY2会社の指示のもと遂行されるものとされ、安全衛生や労災防止に関して、Y2会社は、計画の策定を主導したり、Y1会社及びその作業員に対して安全指導を直接ないし間接に行っていたことが認められるから、Y2会社は、A2の作業環境を現実的かつ具体的に支配、決定できる地位にあったものとして、団体交渉義務を負うべき「使用者」に当たる。

5 Y2会社が労組法上の使用者に当たる場合、組合の団体交渉申入れに対するY2会社の対応は、正当な理由のない団体交渉拒否に当たるか否か。(争点⑤)
 組合は、Y2会社に対し、29.8.2申入書により、本件工事の元請けとして、主に24年事故によるA2の損害賠償請求問題について、平成29年8月28日午前10時30分から組合事務所において団体交渉を開催するよう求めるとともに、29.8.20要求書により、A2の損害賠償請求の根拠として、労働安全衛生法及び同規則の定めから、24年事故についてY1会社及びY2会社の安全配慮義務違反を指摘し、Y1会社及びY2会社に対して損害賠償金の支払いを要求した。
 これに対し、Y2会社は、組合に対し、平成29年8月21日付けY2会社回答書により、最高裁判決(朝日放送事件・最三小判平成7年2月28日)の判旨を指摘した上で、Y2会社はA2との関係で「使用者」であるとは考えておらず、組合が「使用者」と主張するのであれば、そのことを裏付ける具体的な事情を示すよう求め、その内容を踏まえて団体交渉に応じるか否かを再検討する旨回答した。
 その後、組合とY2会社との間で何らやり取りすることがないまま、組合により指定された前記開催日時に団体交渉は実施されず、組合はその2日後の平成29年8月30日に本件申立てをした。
 組合は、Y2会社が団体交渉を拒否したものと主張するが、Y2会社は、Y2会社回答書において「貴組合からお示しいただいた事情をふまえ、申入れに応じるべき立場にあるかどうかを再度検討したいと存じます。」と述べており、組合の団体交渉申入れを拒否したものとまではいえない。
 また、A2とY2会社は雇用関係になく、A2は、24年事故当時、Y1会社の依頼により本件作業に従事していたにすぎないところ、24年事故の発生から本件団交の申入れまで約5年が経過していることからすれば、Y2会社が、組合に対し、使用者性を基礎付ける事情の回答を要求したことには相応の理由が認められる。
 さらに、組合が、Y2会社の上記回答要求に対し、29.8.2申入書や29.8.20要求書の記載内容から、Y2会社の使用者性が基礎付けられるとの認識であったとしても、かかる認識を伝えることもないまま、Y2会社が本件団交に出席しなかったことをもって、直ちに本件申立てに至っている経緯からすれば、Y2会社は、組合との団体交渉を拒否したとまではいえず、労組法第7条第2号にいう不当労働行為には該当しない。 
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