労働委員会命令データベース

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概要情報
事件番号・通称事件名  大分県労委平成29年(不)第1号
保険審査サービス不当労働行為審査事件 
申立人  X組合(「組合」) 
被申立人  Y会社(「会社」) 
命令年月日  令和元年7月16日 
命令区分  全部救済 
重要度   
事件概要  1 本件は、会社が、組合及びその組合員であるA2(「組合員」)に対して、以下アないしウの行為が労働組合法第7条各号所定の不当労働行為に当たるとして、平成29年8月9日に、当委員会に対し救済を申し立てられた事案である。
ア 当時の代表取締役B2が平成29年1月4日付け「新年の御挨拶」という全従業員に向けた回覧文の中で、「会社に敵対する社員」と表現したこと。(労組法第7条第3号)
イ 平成29年1月16日付けで会社に対し、組合員の賃金に関する3回目となる団体交渉を申し入れたところ、会社は、組合員及び組合が会社の提案を受け入れなければ団体交渉に応じられないとして、団体交渉を拒否したこと。(労組法第7条第2号)
ウ 会社が、組合員に対し、所長としての業績不振と職務上の義務違反、依頼保険会社からの受注案件に係る不祥事、経営改善策に対する消極的な姿勢、当時事務員のB3の人格及び尊厳の侵害、一般調査員としての成績不振、B3の業務命令に対する服務規律違反、面談調査の録音不実施、聴取書の未完成及びストライキに続く年休取得による業務妨害等を理由として、平成29年2月17日付け内容証明郵便により解雇したこと。(労組法第7条第1号、第3号)
 大分件労働委員会は、会社に対し、誠実な団交応諾及び不利益取扱い・支配介入による解雇として原職相当職への復帰・バックペイとともに、文書の手交を命じた。  
命令主文  1 被申立人は、平成29年1月16日付け文書で申立人が申し入れた団体交渉に、誠実に応じなければならない。
2 被申立人は、申立人組合員に対する平成29年2月17日付け内容証明郵便により通知した解雇がなかったものとして以下のとおり取り扱わなければならない。
(1)組合員を原職又は原職相当職に復帰させること。
(2)組合員に対して解雇の翌日から復帰させるまでの間の賃金相当額と既に支払われている金員との差額を支払うこと。
3 被申立人及び申立人は、第2項の原職又は原職相当職への復帰に伴う動務地等労働条件及び賃金相当額について、速やかに団体交渉を開催し、決定しなければならない。
4 被申立人は、本命令書写しを受領後、速やかに下記の文書を申立人に手交しなければならない。

 年 月 日
組合
執行委員長 A1殿
会社           
代表取締役 B1  印

 当社が行った下記の行為は、大分県労働委員会において、労働組合法第7条第1号、第2号及び第3号に該当する不当労働行為であると認定されました。今後、このような行為を繰り返さないようにいたします。

(1)平成29年1月4日付け「新年の御挨拶」という全従業員へ向けた回覧文の中で、組合員を暗示して、「会社に敵対する社員」と表現したこと。
(2)組合の同年1月16日付け文書での団体交渉申入れに対し、当社の主張「固定給207,000円十歩合給」の根拠となる資料を示すことなく、組合がこれを受け入れないことを理由に、団体交渉に応じなかったこと。
(3)組合員に対し、同年2月17日付け内容証明郵便による解雇通知書をもって解雇したこと。
(注:年月日は文書を手交した日を記載すること。) 
判断の要旨  1 組合員が、その妻の経営するC会社の取締役であることは、労組法第2条第1号の「使用者の利益を代表する者」に該当し、組合員の参加を許している組合は同条に適合する労働組合ではなく、申立人適格性を有しないといえるか(争点1)
 組合員がC会社の取締役であっても、そのことにより組合の自主性が失われることはなく、組合における組合員は、労組法第2条第1号に規定する使用者の利益代表者に該当するとはいえない。
 よって、組合は、本件において、法適用組合についての自主性の要件を満たしており、申立人適格を有すると判断される。

2 平成29年1月4日付け「新年の御挨拶」という全従業員に向けた回覧文(「新年の御挨拶」の回覧文)で、B2社長が「会社に敵対する社員」と表現したことは、労組法第7条第3号の支配介入に当たるか。(争点2)
 「新年の御挨拶」の回覧文には組合活動について述べられた箇所は存しないものの、「会社に敵対する社員」が組合員を指していること、時期、状況及びB2社長からの「会社に敵対する社員」という強い敵意を示す文言から、「新年の御挨拶」の回覧文で「会社に敵対する社員」と表現したことは反組合的なものといえる。
 また、各団体交渉での発言から、B2社長には組合及び団体交渉に対する嫌悪の意思が推認される。そして、近接した時期であることや組合の回答を待っている状況下であったことから、「新年の御挨拶」の回覧文がかかる嫌悪の意思によって作成、回覧されたものといえ、B2社長の反組合的な意思が存することが推認される。
 以上のことから、「新年の御挨拶」の回覧文で「会社に敵対する社員」と表現したことは、労組法第7条第3号の支配介入に当たる。

3 平成29年1月16日付け文書での組合による団体交渉申入れに対する会社の対応は、不誠実団交として労組法第7条第2号の団体交渉拒否に当たるか。(争点3)
 本件の場合をみると、平成29年1月17日、会社は、第2回団体交渉における会社の最終提案「固定給 207,000円十歩合給」を組合が受け入れない以上、今後の話合いの余地はないとして、団体交渉を拒否した。しかし、会社は、一部歩合給制となった組合員の基本給の額が賃金規程のどこに該当するかを明示できていないなど具体的に根拠を示し説明できているとはいえず、組合の納得を求める努力をするなど、まだ、交渉の余地はあり、誠実交渉義務を果たしているとはいえない。
 以上のことから、会社が組合の平成29年1月16日付けの団体交渉申入れを拒否し、交渉を打ち切ったことは、誠実な交渉を行った上での行き詰まりによる打切りとはいえず、不誠実団交として労組法第7条第2号の団体交渉拒否に当たる。

4 組合による団体交渉申入れや組合員がストライキを実施したこと等を理由として、会社が組合員を解雇したことは、組合員であること又は正当な組合活動を理由として行われた労組法第7条第1号の不利益取扱い及び同条第3号の支配介入に当たるか。(争点4)
 B2社長は、組合及び組合員の組合活動を嫌悪し、組合員を排除するために行ったものであると推認せざるを得ない。
 また、就業規則第34条第2号又は第6号に規定する解雇事由に該当するものとはいえない。したがって、本件解雇は客観的合理性を欠くものといわざるを得ない。
 さらに、一般的に解雇処分は、まず、識責等の処分を重ね、弁明の機会を与えた上で、処すべきであるところ、会社は、本件解雇についても一般的な解雇処分と同様な手続を経るべきものであったが、その手続を行ったという主張や立証もなく、当該手続を経ていないものと認められるため、本件解雇は社会通念上の相当性を欠くものであるといわざるを得ない。
 以上、B2社長は、組合及び組合員の組合活動を嫌悪し、組合員を排除するために組合員を解雇したこと、また、本件解雇は客観的合理性を欠き、社会通念上の相当性を欠くことが認められる。
 したがって、労働組合の組合員でなければ、解雇されなかったであろうと認められ、会社の不当労働行為意思が推認されることから、本件解雇は、不当労働行為意思に基づく不利益取扱い及び支配介入に当たる。 
掲載文献   

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