労働委員会命令データベース

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概要情報
事件番号・通称事件名  福岡県労委平成30年(不)第2号
上智学院不当労働行為審査事件 
申立人  X組合(「組合」) 
被申立人  法人Y(「法人」) 
命令年月日  令和元年8月20日 
命令区分  一部救済 
重要度   
事件概要   本件は、法人の次の①から④までの行為が労働組合法7条2号に、⑤から⑦までの行為が労組法7条3号にそれぞれ該当するとして、組合が救済を申し立てたものである。
① 組合からの平成29年9月17日付け及び30年1月10日付けの団体交渉申入れに対し、30年4月17日の団交に至るまでの間、開催に応じなかったこと。
② 組合からの30年9月10日付けの団交申入れに応じなかったこと。
③ 30年4月17日の団交において、ハラスメント防止規程の改正案及び29年度の給与改定に関して十分な説明や協議を行わなかったこと。
④ 同団交において、管理職らの懲戒について協議に応じなかったこと。
⑤ 同団交の開催にっいて、「標記のことについて、下記のとおり実施いたします」と記載した文書を組合に交付したこと、及び当該文書に記載していた会場を開催直前に変更したこと。
⑥ 就業規則46条3項1号に定められた組合への諮問を行うことなく、懲戒審査規程を制定したこと。
⑦ 就業規則46条3項1号に反し、組合への諮問の4日後(29年12月8日)に29年度の給与改定案を公表したこと。

 福岡県労働委員会は、法人に対し、①の団交申入れに対する不誠実な対応が不当労働行為に該当するとして、文書の手交を命じ、その余の申立てを棄却した。  
命令主文  1 被申立人法人は、本命令書写しの交付の日から10日以内に、次の文書を申立人組合に手交しなければならない。

令和 年 月 日
組合
執行委員長 A殿
法人       
理事長 B1

 当法人が、組合からの平成29年9月17日付け及び平成30年1月10日付け団体交渉申入れに対し、平成30年4月17日の団体交渉に至るまでの間、開催に応じなかったことは、福岡県労働委員会によって労働組合法第7条第2号に該当する不当労働行為と認定されました。
 今後このようなことを行わないよう留意します。

2 その余の申立てを棄却する。  
判断の要旨  1 平成29年9月17日付け及び30年1月10日付けの団体交渉申入れに対する法人の対応について
 法人が、B2理事の体調不良を理由として、組合からの9月17日の団交申入れに即座に応じることができず、12月6日に第1回事務折衝を実施したことはやむを得ない対応であったとしても、その第1回事務折衝から更に約3か月もの間、団交が開催できない理由についても何ら説明せず、結果として団交申入れから4.17団交の開催までに7か月もの期間を要することとなった法人の対応は、不誠実なものであったといわざるを得ない。
 よって、29年9月17日付け及び30年1月10日付け団交申入れに対する法人の対応は、労組法7条2号に該当する。

2 30年9月10日付けの団交申入れに対する法人の対応について
 法人は、組合からの30年9月10日の団交申入れ後、9月26日及び10月10日に組合に対して適切な団交の候補日を示して、団交に応じる旨回答しているのであって、団交を拒否しているとはいえない。

3 30年4月17日の団交におけるハラスメント防止規程の改正案及び29年度の給与改定案に係る協議について
 法人はハラスメント防止規程改正案の趣旨を十分説明し、組合の意見についても今後検討する旨述べているのであるから、法人が合意を模索していないとの申立人の主張には、理由がない。
 29年度給与改定案に係る協議をみると、法人は、給与改定の趣旨、経緯、根拠について説明していると認められ、組合からの意見についても検討し、改定案を変更する可能性もある旨述べ、今後も協議を継続する意向を示しているのであるから、法人の対応が不誠実であったとはいえない。
 以上のとおり、 4.17団交におけるハラスメント防止規程改正案及び29年度給与改定案に係る法人の対応は、労組法7条2号には該当しない。

4 4.17団交における管理職らの懲戒に係る協議について
 組合が、4.17団交の席上で、組合が懲戒審査規程に基づき調査委員会の設置等を求めていることは明らかであるものの、懲戒事由に該当するおそれのある行為として記載されている各項目はいずれも具体性に欠けており、それらが団交事項として掲げられたものかも判然としない。
 また、同団交において、法人が、管理職らの懲戒については、懲戒審査規程の手続によるべきものであり、団交で取り扱うべきことではない旨述べていることが認められるが、組合も、報告書を理事長宛てに提出してほしいとの法人の求めに応じて、団交で協議すべきであると主張することもないまま同報告書を理事長宛てに提出することを了承している。
 これらの事実からすると、同団交において、法人が管理職らの懲戒に係る協議に応じなかったことを直ちに団交拒否であると評価することはできず、法人の対応は労組法7条2号に該当するとまではいえない。

5 4.17団交の開催について、「下記のとおり実施いたします」と記載した文書の組合への交付及び当該文書に記載していた会場の変更について
 法人は、4.17団交に際し、「下記のとおり実施いたします。」と記載した本件回答書を組合に交付している。
 しかし、この文言からは、法人が、団交に応諾する旨回答しているとしか解することはできず、さらに本件回答書が、組合の活動に具体的に支障を与えるものではないことから、労組法7条3号には該当しない。
 また、本件回答書には、会場を応接室と記載していたが、実際に団交が行われたのは、隣の会議室であったことが認められる。しかし、団交の会場が隣の部屋に変更となっただけであり、団交の時間が短くなったなど具体的支障はないことから、労組法7条3号には該当しない。

6 懲戒審査規程の制定について
ア 本件においては、次の事実が認められる。
(ア)26年度から28年度までの給与改定の際、組合は、諮問規定に違反している旨指摘したことはなかった。
(イ)法人がハラスメント防止規程を制定した際、組合は諮問がなかったことについて特段の抗議もしなかった。
(ウ)法人が懲戒審査規程を制定した際、組合は諮間がなかったことについて特段抗議もせず、その後、諮問がないまま制定された懲戒審査規程に基づき、管理職らへの懲戒を求めた。
(エ)組合は、36協定について、諮問規定を適用すべきではないかと抗議し、法人はこれに対し、36協定の締結を見合わせる対応を行った。
イ 上記アの各事実、及び組合は懲戒審査規程の制定そのものについては、一定の評価をする旨表明していることから、組合は、懲戒審査規程制定当時、諮問がないまま同規程が制定されたことについて、特段に問題視していなかったものと認められる。
 また、上記ア(エ)のとおり、法人は、諮問規定を無視するような態度をとっていない。
ウ 以上を総合して判断すると、今回、法人が、諮問規定に基づく組合に対する諮問を行わずに懲戒審査規程を制定したことは、組合の活動を阻害するものではなく、支配介入には該当しない。

7 29年度給与改定案の公表について
 給与改定は、諮問規定の「労働条件を変更するとき」に該当するから、当然に諮問規定の適用を受ける。法人は、29年度結与改定案を29年12月4日に組合に提示し、その4日後である同月8日に教職員に公表しているのであるから、諮間規定に反していることは明らかである。
 一方で、法人の給与改定の手順を考えると、教職員への公表の60日前に組合に給与改定案を提示することは、諮問規定制定当初から相当に困難であったことがうかがわれ、実際、26年度、27年度及び28年度の給与改定においても、諮問規定どおりに教職員への公表の60日以上前に組合に提示されたことはなかったものである。
 次に、組合は、26年6月に諮問規定が制定された後、26年度、27年度及び28年度の給与改定に際して、諮問規定が遵守されていない状況であったにもかかわらず、特段抗議しておらず、さらに組合は、法人が、4.17団交及び同年6月18日の第2回事務折衝の際にも、諮問規定に反している旨の抗議を行っていない。
 これらから、組合は、給与改定に諮問規定を厳密に適用しない法人の対応を特段問題視していなかったと認められる。
 また、法人については、その当否はともかく、29年度も例年どおりに給与改定手続を行っていたに過ぎず、また、法人は4.17団交での協議を経て、第2回事務折衝において、29年度給与改定案の修正案を提案し、団交で協議したい旨述べ、本件結審時においても組合と協議中であることを理由に改定を保留している。
 このように、法人は、29年度給与改定案については、諮問規定に留意する姿勢を見せていたと認められる。
 これらを総合して判断すると、今回、法人が諮問規定の手続に則らず、29年度給与改定案を公表したことは、法人が自ら定めた諮問規定に反するものではあるが、組合の活動を阻害するものとはいえず、支配介入に該当するとまではいえない。 
掲載文献   

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