事件番号・通称事件名 |
群馬県労委平成29年(不)第1号・29年(不)第2号・29年
(不)第4号
株式会社群馬バス不当労働行為審査事件 |
申立人 |
X組合 |
被申立人 |
Y会社 |
命令年月日 |
令和元年5月29日 |
命令区分 |
一部救済 |
重要度 |
|
事件概要 |
本件は、Y会社がX組合及びその組合員に対し行った次の(1)か
ら(7)までの行為が、それぞれ不当労働行為であるとして、X組合から当委員会に対し、救済申立てがあった事案である。
(1) 29年3月15日付けで組合の組合員であるA2を解雇したこと。
(2) 同年4月27日から同年9月14日までの間、組合の組合員であるA3に対して休日出勤差別をしたこと。
(3) A3に対して、同年6月23日付けで停職処分を行ったこと。
(4) 同年4月以降に従業員と締結した雇用契約書に誓約事項を追加したこと。
(5)
組合に対して、就業規則(賃金支給規程含む。)、三六協定(別添協定書含む。)、ダイヤグラム及びそれぞれのダイヤグラムのハンドル時間・中休時間を記した書類並びに
「中休時間における賃金の取扱いに関する事項」及び「正社員化に伴う労働条件に関する事項」
の申立外C労働組合との労使協定の写し(以下「就業規則等」という。)を交付しないこと。
(6) A3に対する不利益取扱いを議題とした団体交渉を拒否していること。
(7) X組合からの同年9月28日付け要求書に対して、回答していないこと。
群馬県労働委員会は、Y会社に対し、上記(2),(4),(5)及び(6)について不当労働行為とし、文書掲示及び文書交
付を命じ、その余の申立てを棄却した。 |
命令主文 |
1
被申立人は、申立人の組合員A3に対し、平成29年4月27日から同年9月14日までの間に、現に勤務をした日以外に、法定外休日に10日間勤務したものとして取り扱い、
同人に対し、その勤務があったならば支給されたであろう賃金に相当する額及びこれに対する同年9月度の給与支給日の翌日から
支払済みまで年6分を加算した額の金員を支払わなければならない。
2 被申立人は、本命令書受領の日以降、従業員との間で「日本国憲法施行の日以後において、
日本国憲法又はその下に成立した政府を暴力で破壊することを主張する政党その他団体を結成し、又はこれに加入いたしません。」及び「日本国憲法施行の日以後において、
日本国憲法又はその下に成立した政府を暴力で破壊することを主張する政党その他団体の傘下、下部組織又は影響下にある組織に
加入いたしません。またそれら組織の構成員又は支持者と契約行為はもとより、関与、接触いたしません。」という内容を含む雇
用契約を締結してはならない。
また、被申立人は、既に従業員との間で締結した雇用契約について、当該規定をなかったものとして扱わなければならない。
3 被申立人は本命令書受領の日から1週間以内に、
下記内容の文書を55センチメートルx80センチメートルの白紙に楷書で明瞭に記載し、
被申立人の全ての事業場の従業員が見やすい場所に、 10日間掲示しなければならない。
年 月 日
該当従業員各位
Y会社
代表取締役 B
当社が行つた雇用契約書に下記事項を記載し従業員と雇用契約を締結したことは、 群馬県労働委員会において、
労働組合法第7条第3号に該当する不当労働行為であると認定されましたので、
上記の雇用契約については下記事項をなかったものとして取扱います。
また、今後締結する雇用契約には下記事項を加えません。
記
(1)
日本国憲法施行の日以後において、日本国憲法又はその下に成立した政府を暴力で破壊することを主張する政党その他団体を結成し、
又はこれに加入いたしません。
(2)
日本国憲法施行の日以後において、日本国憲法又はその下に成立した政府を暴力で破壊することを主張する政党その他団体の傘下、
下部組織又は影響下にある組織に加入いたしません。
またそれら組織の構成員又は支持者と契約行為はもとより、関与、接触いたしません。
(注:年月日は文書を掲示した日を記載すること。)
4 被申立人は、申立人からその組合員の労働条件又は未払賃金の確認をするための団体交渉の申入れがあったときは、
就業規則、 三六協定等の当該団体交渉に必要な資料を交付するなどした上で、これに誠実に応じなければならない。
5 被申立人は本命令書受領の日から1週問以内に、 下記内容の文書をX組合に交付しなければならない。
年 月 日
X組合
執行委員長 A1様
Y会社
代表取締役 B
当社が行つた下記の行為は、群馬県労働委員会において、労働組合法第7条第1号から第3号までに該当する不当労働行為であ
ると認定されました。 今後、 このような行為を繰り返さないようにします。
記
(1) 貴組合の組合員A3氏に対し平成29年4月27日から同年9月14日までの間のうち10日間の法定外休日の勤務を指
定しなかったことにより給与を減額したこと。
(2) 雇用契約書に
「日本国憲法施行の日以後において、日本国憲法又はその下に成立した政府を暴力で破壊することを主張する政党その他団体を結成し、又はこれに加入いたしません。」及び「日
本国憲法施行の日以後において、
日本国憲法又はその下に成立した政府を暴力で破壊することを主張する政党その他団体の傘下、下部組織又は影響下にある組織に加入いたしません。またそれら組織の構成員又は
支持者と契約行為はもとより、関与、接触いたしません。」と記載して従業員と雇用契約を締結したこと。
(3) 労働条件や未払賃金の確認のための団体交渉に当たって、当該団体交渉に必要な就業規則(賃金支給規程含む。)、三六
協定(別添協定書含む。)、ダイヤグラム及びそれぞれのダイヤグラムのハンドル時間・中休時間を記した書類並びに
「中休時間における賃金の取扱いに関する事項」 及び 「正社員化に伴う労働条件に関する事項」
のC労働組合との労使協定書の写しを交付しなかったこと。
(4) 貴組合の組合員A3氏に対する不利益取扱いを議題とした団体交渉を拒否したこと。
(注:年月日は文書を交付した日を記載すること。)
6 被申立人は前各項を履行したときは、 速やかに当委員会に文書で報告しなければならない。
7 申立人のその余の申立てを棄却する。 |
判断の要旨 |
1
会社が、29年3月15日付けでA2を解雇したことが、労組法第7条第1号の不利益取扱いに該当するか(争点1)。
本件解雇の決定的な動機は、A2が勤務開始前8時間以内の飲酒のため酒気を帯びて出動したことであると認められ、
会社の組合に対する嫌悪感であるとはいえない。
したがって、本件解雇は労組法第7条第1号の不当労働行為には該当しないと判断する。
2 会社が、 A3に対して休日出勤差別をしたとされることが、 労組法第7条第1号の不利益取扱いに該当するか(争点2)
。
会社がA3を休日動務指定の対象から除いた目的は、
会社と激しい対立関係にあった組合の分会副分会長であるA3に対し経済的不利益を与え、組合の活動を牽制しようとすることにあったと認めざるを得ない。
したがって、 会社がA3に対して休日動務指定をしなかったことは、労組法第7条第1号の不当労働行為に該当する。
3
会社が、A3に対して29年6月23日付けで停職処分を行つたことが、労組法第7条第1号の不利益取扱いに該当するか(争点3)
。
過去の処分例等との比較をすると、本件停職処分が不当に重い差別的な処分であったとまでは認められず、たとえA3が組合員
でなかったとしても、 会社は、本件停職処分と同様の懲戒処分を課したものと推認される。
したがって、会社が組合に対し嫌悪感を有していたとしても、これが本件停職処分の決定的動機であるとは認められない。
本件停職処分は、 労組法第7条第1号の不当労働行為には該当しないと判断する。
4 会社が、 29年4月以降に従業員と締結した雇用契約書に誓約事項を追加したことが、
労組法第7条第3号の支配介入に該当するか (争点4) 。
本件誓約事項は、
会社が新たに雇用される従業員が組合に加入することを躊購させ、本件組合の組織拡大を阻止し、現時点における組合の影響力を削ごうとする意図を持って、
あるいは、 少なくともこのような効果を視野に入れて敢えて追加したと推認されることから、
会社が雇用契約書に本件誓約事項を追加したことは、 組合の運営に対する支配介入であって、
労組法第7条第3号の不当労働行為に該当する。
5 会社が、 組合に対して就業規則等を交付しないことが、
労組法第7条第2号の団体交渉拒否及び同条第3号の支配介入に該当するか (争点5) 。
会社は、団体交渉において、組合員の労働条件に関する事項の確認に必要な資料を提供するなどし、
組合の理解を得る努力をする必要があったのに、これを怠ったといわざるを得ず、誠実交渉義務を果たしていたとはいえない。よって、会社が就業規則等を交付しないことは、
労組法第7条第2号の不当労働行為に該当する。一方、就業規則等を交付しないことが他の組合に比べ差別的な取扱いであったと
は認められず、労組法第7条第3号の支配介入に該当するとはいえない。
したがって、会社が、組合に対して就業規則等を交付しないことは、労組法第7条第2号に該当する不当労働行為であると判断
する。
6 会社が、A3に対する不利益取扱いを議題とした団体交渉を拒否しているとされることが、
労組法第7条第2号の団体交渉拒否に該当するか (争点6) 。
会社の対応は、 A3の不利益取扱いを議題とする団交を正当な理由なく拒否していると評価でき、
労組法第7条第2号の不当労働行為に該当する。
7
会社が、組合からの29年9月28日付け要求書に対して、回答していないとされることが、労組法第7条第2号の団体交渉拒否に該当するか(争点7)。
団体交渉を行うに当たっては、 労使双方とも誠実な態度で臨むべきであることは当然であるが、
要求書が団体交渉の開催と直接関係するものでない以上、当該要求書への回答を行わないことをのみをもって,
団体交渉を拒否したということはできない。
よって、 会社が要求書に対して回答していないとされることは、労組法第7条第2与の不当労働行為に該当しない。 |
掲載文献 |
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