労働委員会命令データベース

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概要情報
事件番号・通称事件名  東京都労委平成30年(不)第24号 
申立人  X1組合(「組合」) 
被申立人  Y会社(「会社」) 
命令年月日  平成31年4月23日 
命令区分  全部救済 
重要度   
事件概要   本件は、①組合が、平成30年6月25日に組合掲示板の設置貸与及び18時以降の会議室の利用(以下「本件便宜供与」という。)を求めたことに対し、同年7月4日に会社がこれを拒否したことが、組合の運営に対する支配介入に当たるか否か、②組合が同年2月28日付けで要求した、会社所管の施設設備等の貸与、会議室の利用、社内便の利用等の便宜供与を議題とする、3月28日に開催された団体交渉(以下「本件団体交渉」という。)における会社の対応が、不誠実な団体交渉に当たるか否かが争われた事案である。
 東京都労働委員会は、会社に対し、団体交渉に応じること及び文書交付を命じた。 
命令主文  1 被申立人Y会社は、申立人X1組合が便宜供与を議題とする団体交渉を申し入れたときは、誠実に応じなければならない。
2 被申立人会社は、申立人組合に対し、本命令書受領の日から1週間以内に、下記内容の文書を交付しなければならない。

 年 月 日

X1組合
執行委員長 A 殿
Y会社       
代表取締役 B

①貴組合との間で平成30年3月28日に開催した便宜供与を議題とする団体交渉における当社の対応及び②当社が貴組合の6月25日付文書における便宜供与の要求に対し、合理的な理由を付さずにこれを拒否したことは、東京都労働委員会において不当労働行為であると認定されました。
今後、このような行為を繰り返さないよう留意します。
(注:年月日は、文書を交付した日を記載すること。)

3 被申立人会社は、前項を履行したときは、速やかに当委員会に文書で報告しなければならない。 
判断の要旨  1 本件団体交渉における対応について
 C組合に対して会社は一定の便宜供与を認めており、同一企業内に複数の労働組合が併存する場合、使用者には中立保持義務があるのであるから、会社は、組合に対する便宜供与について、できる限りC組合に対する便宜供与と均衡の取れた取扱いを模索すべきであったといえる。
 そして、組合は、本件団体交渉において、便宜供与には優先順序があるし、全部を求めているわけではなく、C組合との公平性から、労働組合の規模に比して、十分譲歩することはできるなどと述べて、優先順序や譲歩の余地があることを示しているのであるから、会社は、事前に検討して一定の結論を持っていたとしても、団体交渉で組合が示した内容を踏まえて再度検討したり、あるいは、組合に譲歩の余地等があってもなお応ずることができない合理的な理由を示して組合の理解を得るよう努力したりすべきであったといえる。
 しかしながら、会社は、組合が譲歩の余地を示したことを受けても、便宜供与を拒否する姿勢を変えず、持ち帰って検討することすら拒否したのであり、また、拒否の理由については、労使関係には歴史がある、長い長い歴史があって、その中で便宜供与を与えるなどと抽象的な説明を繰り返すだけで、便宜供与を拒否する具体的な事情を何ら説明していないのであるから、結局、会社は、組合の要求内容いかんにかかわらず、現段階では一切の便宜供与を行わないとの姿勢を示したものとみられてもやむを得ない。
 また、会社は、裁判例を示して説明を行っていると主張しているが、裁判所名、事件番号及び判決年月日に言及したにすぎない上、組合がその裁判例が今回の件に適用されるか分からないと反論しているにもかかわらず、何らの説明も行っていない。
 以上のような本件団体交渉における会社の対応は、自らの考えについて具体的に説明し組合の理解を得ようとする努力や、合意達成の可能性を模索する努力を欠いているものとみざるを得ず、不誠実な団体交渉に当たるというべきである。
2 本件便宜供与について
 同一企業内に複数の労働組合が併存する場合は、不当労働行為制度の趣旨に照らし、使用者は、各労働組合に対して中立的な態度を保持し、合理的な理由がない限り差別的な取扱いをすることは許されないといえる。
 一方、組織規模や会社との間で労使関係を構築してきた期間という点において、大きな差異が認められる場合にあっては、単に併存する労働組合との間で便宜供与に差があることのみをもって問題視することは適切ではなく、より具体的に、組合の求める便宜供与の内容、その必要性、便宜供与を行うに当たっての会社の負担、便宜供与をめぐる交渉の経緯、その他の事情を総合的に勘案して、便宜供与を行わないことが支配介入に当たるか否かを判断すべきものといえる。
 したがって、C組合に便宜供与を認めているからといって、X2支部に対して直ちにC組合と同等の便宜供与を認めるべきであるということはできない。しかしながら、組合は、当初、C組合と同等とも受け取れる便宜供与を要求していたが、本件団体交渉の席上において、C組合との労働組合の規模の差を踏まえて譲歩できる旨を表明し、6月25日の本件便宜供与の要求においては、本社食堂のある階の1か所にA3程度の大きさでの掲示板貸与と18時以降の会議室の利用という形でC組合との規模等の差を踏まえた要求を具体的に示している。
 組合が本件団体交渉において、会社の従業員が10名以上組合に加入している旨表明しており、組合活動の観点から本件便宜供与の要求をすること自体が必ずしも不合理であるとはいえないこと、上記のとおり、組合が労働組合間の規模の差を踏まえた具体的な要求をしていることを踏まえると、会社が、本件便宜供与の要求を拒否するのであれば、本件便宜供与に応ずることができない合理的な理由が必要というべきであり、そのような理由なくして本件便宜供与を拒否するのであれば、使用者として各労働組合を中立的に取り扱ったとは評価できないというべきである。
 この点について、会社は、食堂階の1か所へのA3程度の組合掲示板の貸与と18時以降の会社会議室の利用という組合の具体的な要求に対し、7月4日付「回答書」において、当該会社施設の状況や便宜供与を認めた場合の会社の負担、C組合に便宜供与を認めるに至った経緯などの具体的な事情を何ら説明せず、組合と会社との間に信頼関係がいまだ存在しないどいう抽象的な理由を述べるだけで拒否したのであるから、結局、会社は、組合の要求内容いかんにかかわらず、現段階では一切の便宜供与を行わないとの姿勢を示したものとみられてもやむを得ない。
 したがって、会社が本件便宜供与の要求について、合理的な理由を示さずにこれを拒否した対応は、中立保持義務に反し、支配介入に当たる。 
掲載文献   

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