労働委員会命令データベース

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概要情報
事件番号・通称事件名  秋田県労委平成29年(不)第2号
公益財団法人秋田市総合振興公社不当労働行為審査事件 
申立人  X組合(「組合」) 
被申立人  Y公社(「公社」) 
命令年月日  平成31年3月26日 
命令区分  棄却 
重要度   
事件概要   本件は、被申立人公社が、①申立人組合との平成29年5月12日の第1回団交及び同年7月28日の第2回団交において、A委員長の給与を昇格させなかった理由などを明らかにしなかったこと、②同年4月1日にA委員長を昇格させなかった決定は、組合嫌悪と弱体化を企図した不当労働行為であるとして、同年9月28日に、組合が救済申立てを行った事件であり、秋田県労働委員会は申立てを棄却した。 
命令主文  本件申立てを棄却する。 
判断の要旨  1 組合に申立資格はあるか。(争点1)
 公社は、組合が労働組合法第2条及び第5条第2項の規定に適合することの立証をしたとはいえないと主張するが、組合の規約は、同項に適合する規定を具備しており、当委員会は労働組合の資格審査において、この点を含め、組合を同法第2条及び第5条第2項に適合する労働組合であると認め、その旨を決定したところであり、公社の主張は認められない。
2 公社が、団体交渉において、A委員長を、平成29年4月1日付けで昇格させなかった理由等を明らかにしなかったことは、不誠実な団体交渉か。(争点2)
(1) 義務的な団体交渉事項について
 人事考課は、その最終的段階において、使用者の主観が入ることは肯認しなければならないものの、原則として義務的な団体交渉事項に当たるものと考えられる。
(2) 人事考課の非開示について
 人事権の行使は、使用者の裁量的判断に委ねられるものであり、人事考課に係る情報の開示についても、人事権の適正な行使の見地から、一定の制約を設けることが許されるというべきである。
 したがって、公社が、仮にA委員長に人事考課の情報を開示した場合には、A委員長はいうに及ばず、その他職員に関する人事考課や労務管理についても、将来にわたって適正に行うことが困難になると予見されることから、本件人事考課について、非開示情報と判断し、本人及び組合に開示しなかったことは不当とはいえない。
(3) 公社の団体交渉に臨む態度について
 団体交渉の開催に当たっては、公社が開催を拒否したり、意図的に引き延ばしたりした、というような事実はなく、また、団体交渉中に、公社側に格別に不誠実な態度があったとも見受けられない。
 もとより、団体交渉において使用者は組合の要求事項に対し、その全てに応える必要はなく、誠実な態度をとり続けている限りにおいては譲歩や合意をしなくても誠実交渉義務違反とはされないと考えられる。前記(2)で判断したとおり、公社が、A委員長が昇格しなかった理由は、公社の人事権が及ぶ事項に該当し、団体交渉には応じるが、その内容については明らかにできないものの一つであるとして開示しなかったことは、不当とはいえない。
(4) 小括
 前記(1)から(3)についてみると、公社は、義務的な団体交渉事項にあたる人事考課をテーマとする団体交渉に応じており、人事考課の内容については、人事管理上の理由により開示できないとする姿勢を貫いているだけに過ぎない。
 以上のことから、第1回団交と第2回団交の各団体交渉における公社の一連の対応は、不誠実な団体交渉であるとはいえず、労働組合法第7条第2号の不当労働行為に該当しない。
3 公社が、A委員長について、平成29年4月1日付けで昇格させなかった不利益な取扱いは、同人が組合の役員であること及びその組合活動が理由か。(争点3)
(1) A委員長の組合活動等について
 A委員長を昇格させないことは、平成29年4月の人事異動の際に決定したものであるが、B2前理事長就任後は、公社幹部による組合を批判する発言や、公社理事による組合幹部へのパワーハラスメントなどの組合敵視ともとれる行動があったことから、 組合と公社の労使関係は必ずしも良好とはいえないものであったことが認められる。
(2) A委員長の勤務態度、勤務成績等について
 作業慣行以外の方法によってコンベアを緊急停止させた事案はA委員長による二事案しかなく、公社がA委員長の勤務態度を消極的に評価したとしても、あながち不当とはいえない。
(3) 上申書、昇格基準等について
 昇格の上申を受けた者全員が昇格するわけではない。
 また、初任給、昇格、昇給等に関する規程で昇格基準となる経験年数及び在級年数を満たしていることも、昇格を保証するものでない。何れも、昇格の必要条件ではあるが、十分条件とはなっていない。
 結局は、昇格は、所属長からの上申があり、昇格基準となる経験年数及び在級年数を満たした者の中から、理事長ら4名が勤務態度、自己研さん、協調性、責任感、服務規律等を総合的に判断した上で決定しているのであるから、A委員長だけが例外的に昇格しなかったとはいえない。
(4) 不当労働行為意思について
 確かに、B2前理事長が就任した頃から、組合に対する風当りが強くなり、元副委員長に対するパワーハラスメントや、管理職手当のカットなどの問題について、A委員長は、書記長就任時から今日に至るまで、一貫して、組合の中心となって公社に対峙してきたことが認められる。
 また、B2前理事長が組合嫌悪とも受け取れる発言をしたことや、公社がA委員長を煙たがっていたのではないかという証言があること、A委員長自身の業務に関して公社と組合の間に争いがあったことなどからも、公社がA委員長の組合活動に対して、多少なりとも嫌悪の感情があったと思われなくもない。
 しかしながら、組合役員経験者でも、公社の管理職になる者もおり、組合活動をしたことを理由に不利益な取扱いを受けた組合員は見受けられないとの証言もある。
 また、昇格については、上申があった昇格者と未昇格者における組合員の比率を比較してみても明確な差異が見られないことに加え、A委員長と同期職員との比較においても、全員が組合員であるにもかかわらず、3 級昇格に要した勤続年数には差が見られることから、昇格できない原因が、組合加入の有無と強い相関関係があるとも認められない。本件で見受けられる組合嫌悪の感情は、どちらかといえば使用者の一般的な組合嫌悪の範囲にとどまるものであり、不当労働行為意思があったとまで認めることはできない。
(5) 公社の裁量的判断について
 公社における昇格は、勤務態度、勤務成績等も重要な判断要素となるところ、公社が、A委員長の勤務態度、勤務成績等に間題があったとみなしていたことが認められるほか、A委員長の勤務態度は協調性がなく独善的であることを、少なくともB2前理事長とB3課長は問題視していたことは明らかである。最終的に理事長ら4名がこの上申を踏まえて議論した結果、昇格を否決したとも考えられる。
 また、A委員長は勤続年数24年で3級に昇格したが、このことは、3級への昇格に要した経験年数及び在級年数が全員一律でないことに照らせば、公社が裁量的判断の範囲を逸脱した人事権の行使をしたとまではいえない。
(6) 小括
 前記(1)から(5)についてみると、公社において、これまで組合員であることを理由に明らかに昇格の不利益を受けた者は認められず、また、公社が明確な不当労働行為意思をもって組合を嫌悪した事例も見当たらない。そもそも公社の昇格におけるプロセスを踏まえてA委員長の未昇格について考えたとき、他の職員と比べて例外的であったとは判断できない。
 以上のとおり、A委員長を昇格させないことは、必ずしもA委員長が組合の役員であること及びその組合活動が理由とはいえず、公社の不当労働行為意思も推認できないことから、労働組合法第7条第1号の不利益取扱いに該当しない。
4 結論
 以上、本件に関する公社の一連の措置が、不当労働行為であると判断することはできない。よって、本件申立てには理由がないから、これを棄却するのが相当である。 
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