労働委員会命令データベース

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概要情報
事件番号・通称事件名  栃木県労委平成30年(不)第1号
(有)パリエブティック不当労働行為審査事件 
申立人  X組合(「組合」) 
被申立人  Y1会社(「会社」) 
命令年月日  平成31年3月7日 
命令区分  全部救済 
重要度   
事件概要  本件は、店長降格問題等を議題とする平成29年9月29日に開催された第1回団体交渉(以下「第1回団交」という。)及び同年12月21日に開催された第2回団体交渉 (以下「第2回団交」という。)における会社の対応及び組合からの複数回にわたる団体交渉申入れに会社が応じなかったことが労働組合法第7条第2号に該当する不当労働行為であるとして、平成30年2月19日付けで組合から救済申立てがなされ、その後、同年9月25日付けで文書掲示の命令を求める旨の追加申立てがなされた事案である。
栃木県労働委員会は、団体交渉に応じ、議題に関する具体的な資料を提示し、回答の根拠を十分に説明するなど誠実な対応及び文書掲示を命じた。 
命令主文  1 Y1会社は、X組合からY2店のA2店長降格、Y3店のA3店長降格、Y2店の売却及び退職金の支給に関する団体交渉の申入れを受けた場合、当該団体交渉希望日時に沿うよう最大限の日程調整に努め、速やかにこれに応じなければならない。
 なお、申入れを受けた日時に応じられないことにつき正当な理由があるときは、速やかにその理由及び応じることができる日時を明らかにして期日の変更をX組合に申し入れ、電話連絡等迅速な意思疎通が図れる手法により、開催日時・場所を調整しなければならない。
2 次回以降の団体交渉においては、Y1会社は、X組合から申入れのあったY2店のA2店長降格、Y3店のA3店長降格、Y2店の売却及び退職金の支給に関する団体交渉において、当該議題に関する具体的な資料を提示して、回答の根拠を十分に説明するなど誠実に交渉に応じなければならない。
3 Y1会社は、速やかに下記内容の文書を日本工業規格A列2番の白紙に楷書にて読みやすい大きさで黒色で書き、Y1会社本店内で従業員の見やすい場所に10日間掲示しなければならない。


 当社が、 貴組合の申し入れたY2店のA2店長降格、Y3店のA3店長降格、Y2店の売却及び退職金の要求についての団体交渉に誠実に応じなかったことは、栃木県労働委員会において不当労働行為であると認定されました。
 今後、 このような行為を繰り返さないようにいたします。

平成 年 月 日

X組合
執行委員長 A1 様

Y1会社      
代表取締役 B1
 
判断の要旨  1 判断
(1) 誠実な団体交渉について
 労働組合法7条2号は、使用者が団体交渉をすることを正当な理由がなくて拒むことを不当労働行為として禁止しているが、使用者が労働者の団体交渉権を尊重して誠意をもって団体交渉に当たったとは認められないような場合も、上記規定により団体交渉の拒否として不当労働行為となると解するのが相当である。このように、使用者は、自己の主張を相手方が理解し、納得することを目指して、誠意をもって団体交渉に当たらなければならず、労働組合の要求や主張に対する回答や自己の主張の根拠を具体的に説明したり、必要な資料を提示するなどし、また、結局において労働組合の要求に対し譲歩することができないとしてもその論拠を示して反論するなどの努力をすべき義務があるのであって、合意を求める労働組合の努力に対しては、上記のような誠実な対応を通じて合意達成の可能性を模索する義務があるものと解すべきである(東京地方裁判所平成元年9月22日判決同旨)。
ア 店長降格問題について、会社は、店長降格の理由に関する十分な説明をしたか。 (争点1)
 使用者は、自己の主張を相手方が理解し、納得することを目指して、誠意をもって団体交渉に当たらなければならず、店長降格の理由について、組合の納得が得られるよう十分説明を尽くすべきであり、資料を提示しないことについても、その論拠を示すなどして組合の納得が得られるよう努力すべきであるところ、第1回団交以降、一貫して、B1社長の態度にこうした努力は見られず、十分な説明をしたともいえない。店長降格問題に関する社長の態度は、誠実性を欠くものといわざるを得ない。
イ Y2店の売却の必要性について、会社は、資料を提示して十分な説明をしたか。 (争点2)
 店舗売却という、店舗で就業する従業員の労働条件に関して重大な影響を及ぼしうる事柄について、労働組合が大きな関心を示すのは当然のことといえる。使用者は、自己の主張を相手方が理解し、納得することを目指して、誠意をもって団体交渉に当たらなければならないところ、本件において、社長は、Y2店の売却の必要性について、単に、取引銀行から借入金の返済に充当するため売却を求められた旨の口頭での表面的な説明に終始し、売却の必要性を示す根拠となる資料についても「ない」と回答するのみである。また、社長は、組合が求めるY2店等の赤字を示す資料について、資料の復元など、代替措置をとることもなく、遺失した資料の発見にのみこだわり、結局のところ、当該資料も提示していない。社長のこれらの説明及び行為には、Y2店の売却の理由について、組合の納得を得ようとする姿勢は見られず、社長が、十分な説明をしたと認めることはできない。Y2店の売却の必要性の説明に関する社長の態度は、誠実性を欠くものといわざるを得ない。
ウ 退職金支払要求について、会社は、退職金を支払えない理由に関する十分な説明をしたか。 (争点3)
 本件における、組合からの退職金の要求についても、社長の、退職金制度が存在しないので退職金を支給しないという回答は、組合の要求が可能であるか具体的に検討した様子が窺えず、組合との合意達成の可能性を模索した結果導き出された回答とは到底認められないものであり、誠実な態度とはいえない。また、使用者は、結局において労働組合の要求に対し譲歩することができないとしても、その論拠を示して反論するなどの努力をすべきであるところ、社長は、制度が存在しないので資料も存在しないとして、関係資料を一切提示せず、口頭での説明に終始しており、十分な説明をしたとはいえない。
 退職金支払要求に関する社長の態度は、誠実性を欠くものといわざるを得ない。
(2) 団体交渉の日程の調整について
 団体交渉の日程の調整については、「一般に、使用者は、団交の申入れを受けたときは、速やかに諾否の返答をすべきであり、申し入れられた日が都合が悪ければ、速やかに、理由を示して応じられない旨を説明し、応じられる日時を回答して日程調整するのが誠実な対応というべきである」 (愛知県労委命令平成14年(不)第5号栗本学園事件)と考える。
ア 第1回団交後、第2回団交まで団体交渉を開催しなかったことが、労働組合法第7条第2号の不当労働行為に該当するか。(争点4)
 使用者は、団体交渉の申入れを受けたときは、速やかに諾否の返答をすべきであり、申し入れられた日が都合が悪ければ、速やかに、理由を示して応じられない旨を説明し、応じられる日時を回答して日程調整するべきであるところ、一連の経過の中で、社長がこのような対応をとったとは到底認められず、誠実な対応をしたとは認められないものであり、第1回団交開催後、第2回団交まで団体交渉を開催しなかったことは、労働組合法第7条第2号の不当労働行為に該当するといわざるを得ない。
イ 第2回団交後、団体交渉が開催されていないことが労働組合法第7条第2号の不当労働行為に該当するか。(争点5)
 社長の対応からは、団体交渉の申入れを受けて、速やかに諾否の返答をし、申し入れられた日が都合が悪ければ、速やかに、理由を示して応じられない旨を説明し、応じられる日時を回答し日程調整をしているものとは認められず、第2回団交後、団体交渉が開催されていないことは、労働組合法第7条第2号の不当労働行為に該当するものといわざるを得ない。
2 結論
 以上のとおり、店長降格問題、Y2店等の売却の必要性及び退職金支払要求を議題とする第1回団交及び第2回団交における社長の態度、会社が第1回団交後、第2回団交まで団体交渉を開催しなかったこと及び第2回団交開催後、団体交渉が開催されていないことは労働組合法第7条第2号の不当労働行為に該当する。 
掲載文献   

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