労働委員会命令データベース

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概要情報
事件番号・通称事件名  東京都労委平成28年(不)第90号
明治大学不当労働行為審査事件 
申立人  X1組合(「組合」) 
被申立人  Y1大学(「大学」) 
命令年月日  平成30年12月18日 
命令区分  全部救済 
重要度   
事件概要   平成28年5月19日、7月15日及び8月25日、A2の非常勤講師契約の更新に関する団体交渉(以下「本件団体交渉」という。)が開催された。組合は、同年4月17日付けの団体交渉要求書において、法学部執行部のB2教授及びB3教授の出席を求めたが、大学はこれに応じず、本件団体交渉には全てB4総務担当理事が出席した。
 組合は、同年9月19日付け及び11月11日付けで団体交渉を申し入れたが、大学は、組合が要求の趣旨や争点を明らかにせず、漫然と従前の要求を繰り返す限り応じない旨を回答した。
 本件は、①本件団体交渉における大学の対応が、不誠実な団体交渉に当たるか否か(争点1)、②大学は、組合の平成28年9月19日付け及び11月11日付け団体交渉申入れを拒否したといえるか、拒否したといえる場合、正当な理由のない団体交渉拒否に当たるか否か(争点2)が争われた事案であり、東京都労働委員会は、大学に対し、文書手交を命じた。 
命令主文  1 被申立人Y1大学は、本命令書受領の日から1週間以内に、下記内容の文書を申立人X1組合に交付しなければならない。

年 月 日
X1組合
委員長 A1 殿
Y1大学     
理事長 B1

当大学が、貴組合との間で平成28年5月19日、7月15日及び8月25日に行った A2 組合員の非常勤講師契約の更新等を議題とする団体交渉において、具体的な説明を行わなかったこと、並びに貴組合の同年9月19日付及び11月11日付団体交渉申入れに応じなかったことは、東京都労働委員会において、不当労働行為であると認定されました。
今後、このような行為を繰り返さないよう留意します。
(注:年月日は文書を交付した日を記載すること。)

2 被申立人大学は、前項を履行したときは、速やかに当委員会に文書で報告しなければならない。 
判断の要旨  1 本件団体交渉における大学の対応について(争点1)
① 大学においては、授業計画の策定やカリキュラムの編成等の権限は学部の教授会にあるものの、非常勤講師の雇用の最終決定権限は理事会にあり、その理事会のメンバーである理事が団体交渉に出席していたのであるから、法学部執行部の教授が出席しなかったとしても、出席者を理由に、大学の対応が不誠実な団体交渉に当たるとの組合の主張は採用することができない。
② 団体交渉の出席者については、以上のように考えるとしても、本件にあっては、団体交渉に先立って、大学として法学部執行部の教授が出席する本件事務折衝が行われ、第2回事務折衝では、組合が謝罪文の提出をもって平成28年度の雇用を認めるよう求めたのに対して、大学が謝罪文の内容は信頼回復には不十分であり、今後信頼回復の措置が執られるのであれば、28年度の雇用は無理であるが、29年度の雇用を検討する余地はある旨を説明したこと、組合が交渉の継続を求めたのに対して、大学が団体交渉による交渉を求めたという経緯があることを十分に考慮する必要がある。大学には、このような経緯を踏まえた上で交渉が継続できるような対応が求められていたものというべきであり、この点から、本件団体交渉における大学の対応を検討する。
③ 大学は、第1回及び第2回の団体交渉では、A2の雇止め理由について、法学部の判断を支持するという結論を述べるだけで、教育機関として妥当と判断した、一連の総合的な判断を支持した等の抽象的な説明を繰り返し、法学部が、本件事務折衝の経過を踏まえた上で、A2との信頼関係を回復できず、同人を雇止めにすると判断するに至った具体的な根拠等について、何ら回答していない。また、大学は、第3回の団体交渉において、A2の雇止めの理由と謝罪文の評価について回答したものの、雇止め決定プロセスや29年度のA2の雇用に係る組合の質問には明確な回答をしておらず、信頼関係の回復についての議論になることもなかった。
本件事務折衝において、大学が、今後信頼回復の措置が執られるのであれば、29年度の雇用を検討する余地がある旨説明していたことからすれば、A2の29年度の雇用に向けた適時の交渉が必要であったにもかかわらず、本件団体交渉における大学の上記対応は、組合と法学部が事務折衝を重ねて詰めてきた議論を後戻りさせるものといえ、事務折衝の経緯を踏まえた上で交渉が継続できるような対応であったとは到底いうことができない。大学は、法学部の教授を出席させるか、又は、法学部から十分な説明を受けた理事を出席させ、事務折衝の経緯を踏まえた上での交渉に努めるべきであったといえる。
 したがって、本件団体交渉における大学の対応は、不誠実な団体交渉であったといわざるを得ない。
④ 大学は、信頼関係の回復が必要であることを本件事務折衝の時点で既に伝えており、謝罪文自体の評価を議論したところで、交渉については何の発展もないと主張する。しかし、信頼関係の回復の考え方や謝罪文の評価については、本件事務折衝を経て、労使双方の認識に大きな隔たりが生じていたところであり、組合は、本件団体交渉において、本件事務折衝における法学部の対応への疑義等を具体的に指摘した上で説明を求めていたのであるから、大学は、信頼回復に必要なのは謝罪文だけではないことなど事務折衝における大学の立場を説明し、双方の認識の隔たりを解消して組合の理解を得るように努める必要があったというべきである。よって、信頼関係の回復の考え方や謝罪文の評価等について説明する必要がなかったという大学の主張は採用することができない。
 このことは、本件申立て後の第4回及び第5回団体交渉において、B3教授が出席して信頼関係の回復や謝罪文の評価等に係る法学部の考え方を説明したことにより、組合が、本件事務折衝から第1回団体交渉までの間の双方の認識をある程度客観的に判断できるところまでは来ていると述べるに至ったことからも明らかである。
⑤ なお、大学は、罵声や暴言を発し大学側を中傷する等の組合の悪質な交渉態度も勘案すべきであると主張するが、これらの発言によって、交渉の場が紛糾することはあっても、団体交渉の実質が妨げられたとまではいえず、交渉自体は行われていたことからすれば、組合の交渉態度に問題があったことを考慮しても、上記判断が左右されることはない。
2 大学は、組合の28年9月19日付及び11月11日付団体交渉申入れを拒否したか、拒否したといえる場合に正当な理由があったか否かについて(争点2)
① 大学は、28年10月3日付け及び11月28日付けの回答書において、1)第2回及び第3回団体交渉において、法学部教授会決定に至るまでのプロセスを十分説明しており、これ以上団体交渉を重ねても、大学の回答に変化はないこと、2)大学としては、組合が今後の要求の趣旨や争点を明らかにせず、漫然と従前の要求を繰り返す限り、当面団体交渉に応じるつもりはないことを回答している。これは、要求事項について交渉の余地はなく、団体交渉が行き詰まっていることを理由に、組合が従前の要求事項を繰り返す限り、団体交渉に応じる必要がないとの意思を示したものと解釈するほかなく、団体交渉を拒否したものといえる。
 なお、大学は、組合が何を知りたいのか明らかにすれば交渉を継続する余地があるという趣旨の文面と主張する。しかし、上記で検討したとおり、文書全体から判断すれば、団体交渉が行き詰まっているとして拒否したものとみざるを得ず、この主張は採用できない。
② そして、前記1で判断したとおり、本件団体交渉において、大学は誠実交渉義務を尽くしておらず、団体交渉が行き詰まりの状態に達していたとは認められないから、大学が組合の28年9月19日付及び11月11日付団体交渉申入れに応じなかったことは、正当な理由のない団体交渉拒否に当たる。
3 結論
以上の次第であるから、本件団体交渉における大学の対応、並びに大学が組合の平成28年9月19日付及び11月11日付団体交渉申入れに応じなかったことは、労働組合法第7条第2号に該当する。 
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