労働委員会命令データベース

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概要情報
事件番号・通称事件名  愛媛県労委平成30年(不)第1号
日本郵政外1社不当労働行為審査事件 
申立人  組合員X1~X6 
被申立人  Y1会社、Y2会社 
命令年月日  平成31年3月8日 
命令区分  却下、棄却 
重要度   
事件概要  本件は、6名の申立人(以下「申立人ら」という。)が、被申立人Y2会社とその持株会社である被申立人Y1会社(以下Y2会社及びY1会社を併せて「被申立人ら」という。)による次の(1)から(6)の各行為が、労働組合法(以下「労組法」という。)第7条第3号の不当労働行為に当たるとして、平成30年2月14日、救済申立てを行った事案である。
(1) 平成16年4月1日に、スキル評価制度を導入したこと。
(2) 平成26年4月1日に、新人事・給与制度を導入したこと。
(3) 平成28年10月1日に、無期転換制度を導入したこと ((1)から(3)までの三つの制度をまとめて以下「三制度」という。)。
(4) スキル評価制度の具体的な運用として、組合員である正規社員に対し、組合員である時給制契約社員のスキル評価を行わせ、スキル評価により時給制契約社員の賃金を決定しているこ と。
(5) 新人事・給与制度の具体的な運用として、役職者の組合員に対し、組合員である正規社員の人事評価を行わせること。
(6) 無期転換制度の具体的な運用として、スキル評価の結果によっては、雇止めにすること。
愛媛県労働委員会は、(1)ないし(3)及び(5)の一部について却下し、その余の申立てを棄却した。 
命令主文  1 申立人らの申立てのうち、被申立人Y1会社及び同Y2会社に対する労働組合への支配介入(労働組合法第7条第3号)に係る次の救済申立てを却下する。
(1) 平成16年4月1日に、スキル評価制度を導入した.こと。
(2) 平成26年4月1日に、新人事・給与制度を導入したこと。
(3) 平成28年10月1日に、無期転換制度を導入したこと。
(4) 新人事・給与制度の具体的な運用として、申立人X4に対して、平成27年6月23日付け及び平成28年6月29日付けの人事評価結果のフイードバックシートにより人事評価を行ったこと。
2 申立人らのその余の申立てを棄却する。 
判断の要旨  1 争点1(申立人らの申立ては、労組法第27条第2項に規定する「行為の日(継続する行為にあってはその終了した日)から1年を経過した事件に係るもの」に当たるものではないか。)について
ア 労組法第27条第2項は、「労働委員会は、前項の申立てが、行為の日(継続する行為にあってはその終了した日)から1年を経過した事件に係るものであるときは、これを受けることができない。」と規定して、労働委員会に対する不当労働行為の審査事件の申立期間を1年と定めており、そこに労働委員会の裁量の余地はない。この労組法第27条第2項の規定の趣旨は、不当労働行為として申し立てられる事件が1年以上経過している場合には、事実認定等が困難となり、かつ1年以上経過した後に命令を出すこ とはかえって労使関係の安定を阻害するおそれがあり、又は命令を出す実益がない場合があるので、かかる制限を設けたと解される。
 労組法第27条第2項は、不当労働行為を「一回限りの行為」と「継続する行為」に区別して起算日を定めるが、後者の「継続する行為」であれば、基本的には「継続する行為」が「終了した日」を起算日としても、その間不当労働行為が継続しているので労使関係の安定は中断されており、また、継続する行為全体を審査の対象としても、事実認定等の困難さはそれほど大きくなく、救済の実益もあるといえるので、前記申立期間を限定した趣旨に反しないからである。
イ 三制度は本件申立てより1年以上前に導入されていることから、これに係る申立ては、労組法第27条第2項に定める申立期間を経過してなされたものである。また、三制度の導入は、「継続する行為」には当たらない。さらに、三制度の具体的な運用をしたことは「継続する行為」には当たらず、新人事・給与制度の具体的運用は、本件申立より1年以上前に行われていることから、労組法第27条第2項に定める申立期間を経過してなされたものである。
ウ 以上のとおり、申立人らの申立てのうち、被申立人らの命令主文(1)から(4)までの行為は、 申立期間を経過してなされたものであるから、 却下する。
2 争点2(Y1会社は、Y2会社の従業員の労組法上の使用者といえるか。)について
ア Y2会社の従業員である申立人らとY1会社との間で雇用契約は、締結されていない。
イ Y1会社が、Y2会社の従業員の基本的な労働条件に関して直接関与したと認めるに足る事実の疎明もない。
ウ Y1会社が、Y2会社の従業員の基本的な労働条件について、部分的にも雇用主であるY2会社と同視できる程度に現実的かつ具体的に支配、決定できる地位にあったとはいえない。
 したがって、Y1会社は、Y2会社の従業員の労組法上の使用者に当たるとはいえない。
3 争点3(X7組合の組合員である申立人らは、後記争点4から7までに係る不当労働行為の救済を求める申立適格を有するといえるか。)について
 争点4から7までについては、X7組合に対する支配介入であるか否かを検討すべきところ、本件審問終結時、X3元組合員を除く申立人5名は、X7組合の組合員であることから、争点4から7までに係る不当労働行為の救済を求める申立適格について、申立適格を有すると解するのが相当である。
 また、本件審問終結時、X3元組合員は、X7組合の組合員資格を喪失していたことから、争点4から7までに係る不当労働行為の救済を求める正当なる利益(被救済利益)がなく、申立適格を有しなくなったと解する。
4 争点4(Y2会社において、時給制契約社員への半年ごとのスキル評価により向こう半年間の時間賃金を決めることは、被申立人らによる労組法第7条第3号に該当する不当労働行為といえるか。)について
ア Y1会社に対する申立てについて
 Y1会社はY2会社の従業員の労組法上の使用者には当たらないので、その余を判断するまでもなく、Y1会社に対する申立ては棄却する。(以下、争点5から7まで同じ)
イ Y2会社に対する申立てについて
(ア) X3元組合員の申立て
 X7組合の組合員資格を喪失したX3元組合員は、不当労働行為の救済を求める申立適格を有すると解することはできないので、その余を判断するまでもなく、Y2会社に対するX3元組合員の申立ては棄却する。(以下、争点5から7まで同じ)
(イ) X3元組合員を除く申立人5名の申立て
 Y2会社において、時給制契約社員に対してスキル評価を実施し、時間賃金を決定するに当たり、X7組合の運営に介入する意図があったことを推認させる事実の疎明はなく、また、そのような運用があったと認めるに足る事実の疎明もない。
 以上のとおりであるから、Y2会社において、時給制契約社員への半年ごとのスキル評価により向こう半年間の時間賃金を決めることは、Y2会社による労組法第7条第3号に該当する不当労働行為とはいえず、この点に関する申立ては棄却する。
5 争点5(Y2会社において、X7組合の組合員に対して、同じくX7組合の組合員である時給制契約社員のスキル評価をさせることは、被申立人らによる労組法第7条第3号に該当する不当労働行為といえるか。)について
ア X3元組合員を除く申立人5名の申立て
 Y2会社において、X7組合の組合員に対して、同じくX7組合の組合員である時給制契約社員のスキル評価をさせることにより、X7組合の運営に介入する意図があったことを推認させる事実の疎明はなく、また、Y2会社が、組合内の対立や不信を煽り立て、組合員間の分断を図ろうとしたと認めるに足る事実の疎明もない。
 以上のとおりであるから、Y2会社において、X7組合の組合員に対して、同じくX7組合の組合員である時給制契約社員のスキル評価をさせることは、Y2会社による労組法第7条第3号に該当する不当労働行為とはいえず、この点に関する申立ては棄却する。
6 争点6(Y2会社において、新人事・給与制度の導入により、X7組合の組合員に対して、同じくX7組合の組合員である正規社員の人事評価をさせることは、被申立人らによる労組法第7条第3号に該当する不当労働行為といえるか)について
ア X3元組合員を除く申立人5名の申立て
 Y2会社において、新人事・給与制度の導入により、X7組合の組合員に対して、同じくX7組合の組合員である正規社員の人事評価をさせることで、 X7組合の運営に介入する意図があったことを推認させる事実の疎明はなく、Y2会社が、組合員間の分断を図ろうとしたと認めるに足る事実の疎明もない。
 以上のとおりであるから、Y2会社において、新人事・給与制度の導入により、X7組合の組合員に対して、同じくX7組合の組合員である正規社員の人事評価をさせることは、Y2会社による労組法第7条第3号に該当する不当労働行為とはいえず、この点に関する申立ては棄却する。
7 争点7(Y2会社において、無期転換制度の導入により実施される「契約更新要件制度」により、スキル評価の結果によっては、時給制契約社員を雇止めにしようとすることは、被申立人らによる労組法第7条第3号に該当する不当労働行為といえるか。)について
ア X3元組合員を除く申立人5名の申立て
 「契約更新要件制度」を含む無期転換制度は、Y2会社とX7組合との間の協約により導入されたものである上、一定の要件のすべてに該当しなければ、雇用契約を更新しないことが予定されており、申立人らが主張する無期転換制度の具体的な運用は、未だ発生していないことから、不当労働行為と認定することはできない。
 以上のとおりであるから、Y2会社において、無期転換制度の導入により実施される「契約更新要件制度」により、スキル評価の結果によっては、時給制契約社員を雇止めにしようとすることは、Y2会社による労組法第7条第3号に該当する不当労働行為とはいえず、この点に関する申立ては棄却する。
8 争点8(仮に争点3で申立適格を有する場合であっても、本件審査中に組合員資格を喪失した申立人に、被救済利益はあるか。)について
 X3元組合員の申立てについては、前記1から7までのとおり、不当労働行為を構成する具体的事実の存在がいずれも認められないため、被救済利益の有無について、改めて判断するまでもないところである。 
掲載文献   

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