労働委員会命令データベース

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概要情報
事件番号・通称事件名  北海道労委平成29年(不)第10号
申立人  X組合(「組合」) 
被申立人  会社Y(「会社」) 
命令年月日  平成30年11月12日 
命令区分  一部救済 
重要度   
事件概要   本件は、申立人組合が、平成29年7月26日付け文書をもって、 被申立人会社に対し、当時組合員であったA2の退職に関わる諸問題等を議題として団体交渉を申し入れたところ、会社がこれに 応じなかったことが労働組合法(以下「法」という。)第7条第2号及び第3号に該当する不当労働行為であるとして救済申立て のあった事件で、北海道労働委員会は、会社に対し、文書手交を命じ、その余の申立てを棄却した。 
命令主文 
1 申立人は、次の内容の文を、日本工業規格A4 判縦長白紙にかい書で明瞭に記載して、申立人に対し、本命令書写しの交付の日から10日以内に手交しなけれ ばならない。

 貴組合が平成29年7月26日付け文書で申し入れた団体交渉に当社が応じなかった行為は、北海道労働委員 会において、労働組合法第7条第2号及び第3号に該当する不当労働行為であると認定されました。今後このよ うな行為を繰り返さないようにします。

  平成 年 月 日(手交する日を記載すること)

 組合
  執行委員長 A1様

会社
 代表取締役 B1

2 申立人のその余の申立てを棄却する。 
判断の要旨  1 組合は、法第5条に規定する労働組合としての申立適格を有するか(争点1)。
 組合は、当委員会が実施した資格審査において法第2条及び第5条第2項に規定する労働組合資格要件に適合するものと認めら れ、その旨決定された。よって、申立適格を有するものと認められる。
 なお、会社は、法第5条第2項第7号の会計報告及び会計報告に添付されるべき職業的会計監査人の証明書が存在するはずであ るから、同監査人の住所氏名を明らかにし、同証明書が証拠として提出されない限り、本件申立ては却下されるべきであると主張 する。しかし、法第5条第2項は、「労働組合の規約には、(同項)各号に掲げる規定を含まなければならない」ことを求めてい るにすぎず、実際に規約に従って労働組合の運営が行われているかどうかに関しては、労働組合の自治に委ねられているというべ きである。そして、当委員会は、組合が法第5条第2項各号に規定する内容を含む組合規約を制定していることを確認して適格と 決定したのであるから、かかる会社の主張は採用できない。

2 会社が団体交渉に応じなかったことは、正当な理由のない団交拒否に当たるか(争点2)。
 会社は、①団体交渉申入れがあった29年7月26日の時点では、すでにA2組合員は休職期間満了によって退職していたか ら、法7条第2号に定める「雇用する労働者」に該当しない、②使用者が団体交渉応諾義務を負う義務的団交事項とは、使用者の 権限が及ぶ事項に限られるところ、本件は、休職期間満了による退職という就業規則上の根拠に基づき自動的に退職の効力が発生 したという事案であるから、使用者である会社の権限が及ばない、③A2組合員はC組合の組合員でもあり、C組合は、A2組合 員に関する団交権を放棄していないから、労働組合の二重加盟による二重交渉のおそれが存在するところ、このような場合には会 社に団交応諾義務がない、との主張を行っている。
 ①について
 法第7条第2号に定める、「雇用する労働者」とは、現に労働契約上の雇用関係がある者に限られず、解雇され又は退職した者 の解雇・退職の是非、効力やそれらに関係する条件などの問題が雇用関係の終了に際して提起された場合は、雇用関係は確定的に 終了していないと解するのが相当であり、その者も「雇用する労働者」に該当すると考えることができる。本件では、A2元組合 員が29年7月14日退職したという会社の主張を前提としたとしても、組合による団体交渉申入れの直前の時期まで会社との労 働契約関係を有しており、組合は業務に起因した疾病であるとして退職の効力を争う意向を示していたのであるから、A2組合員 は、法第7条第2号の「雇用する労働者」といえる。
 ②について
 休職期間の満了によって自動的に退職の効力が生じるとされていても休職自体は会社が命じるものであること、休職事由の消滅 の有無も含めて復職についての最終的な判断は会社が行うことなどからすると、A2組合員の退職問題について会社の権限が及ば ないとの主張には理由がない。
 ③について
 労働者が組織を異にする二つの労働組合に加入している場合、使用者が、当該労働者の労働条件等に関する同一の事項につい て、両労働組合から別々に団体交渉を申し入れられたときは、両労働組合間の調整を求める等を理由に団体交渉を拒否することが 認められることもあり得るが、単に労働者が労働組合に二重加盟していることのみをもって、一方の労働組合からの団体交渉申入 れを拒否することは、正当な理由のある団体交渉拒否ということはできない。本件では、C組合がA2元組合員の退職問題につい て団体交渉を申し入れた事実はなく、また、申入れをするようなことをうかがわせるような具体的な事情も認められない。
 いずれの会社の主張についても理由はなく、会社による団体交渉拒否に正当な理由は認められず、法第7条第2号の不当労働行 為に該当する。

3 会社の前記2の行為は、組合の運営に対する支配介入として法第7条第3号の不当労働行為に該当するか(争点3)。
 会社は、正当な理由なく団体交渉を拒否することにより、組合の運営に対する支配介入を行ったといえるから、当該団体交渉拒 否は、法第7条第3号の不当労働行為に該当する。

4 組合がA2元組合員を除名したことによって組合の被救済利益は失われたか(争点4)。
 会社は、組合が30年6月4日付けでA2元組合員を除名処分としたことにより、命令発令の要件である被救済利益は消滅した 旨主張する。
 組合が会社に対し、29年7月26日付け文書をもって行った団体交渉の申入れは、A2元組合員の退職に関する問題を議題と するものであり、実質的にはA2元組合員個人の権利実現を目的とした側面が認められる。しかし、組合が申し入れた義務的団交 事項を議題とする団体交渉について、正当な理由なく会社がこれを拒否することは、組合活動一般を制圧ないし制約し、かつ、組 合の運営について支配介入するという効果を伴い、組合には、個人の利益とは別に固有の救済を受けるべき利益が存在するという べきである。また、法人は、A3組合員、A4組合員、A5組合員の職場復帰を議題とする団体交渉申入れに対して、いずれも他 の労働組合への二重加盟等を理由として団体交渉を拒否しており、将来、同種事案が発生した場合に、同様の正当な理由のない団 交拒否に及ぶ可能性は払拭されていない。
 したがって、組合固有の被救済利益は消滅していないというべきである。 
掲載文献   

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