概要情報
事件番号・通称事件名 |
東京都労委平成27年(不)第38号
日本空手協会不当労働行為審査事件 |
申立人 |
X組合(「組合」) |
被申立人 |
法人Y(「法人」) |
命令年月日 |
平成30年10月2日 |
命令区分 |
全部救済 |
重要度 |
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事件概要 |
本件は、法人が、組合の執行委員長であるA1に対し、同人が、「法人の現状について」及び宣言文(以下「本件文書」という。)において法人の運営に対する誹謗中傷行為行ったなどとして懲戒解雇したことが不当労働行為に当たるか否かが争われた事件である。
東京都労働委員会は、法人に対し、A1に対する懲戒解雇がなかったものとしての取扱い、バックペイ、文書の交付及び掲示等を命じた。 |
命令主文 |
1 被申立人法人は、申立人組合の組合員A1に対し、平成27年2月17日付懲戒解雇をなかったものとして取り扱い、同人を原職に復帰させるとともに、懲戒解雇の翌日から原職に復帰するまでの間の賃金相当額を支払わなければならない。
2 被申立人法人は、本命令書受領の日から1週間以内に、下記内容の文書を申立人組合に交付するとともに、同一内容の文書を55センチメートルX80センチメートル(新聞紙2頁大)の白紙に、楷書で明瞭に墨書して、法人内の従業員の見やすい場所に、10日間掲示しなければならない。
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記
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年 月 日
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組合
執行委員長 A1殿
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法人
代表理事 B1
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当法人が、貴組合の組合員A1氏を平成27年2月17日付けで懲戒解雇したことは、東京都労働委員会において不当労働行為であると認定されました。
今後、このような行為を繰り返さないよう留意します。
(注:年月日は文書を交付又は掲示した日を記載すること。)
3 被申立人法人は、前各項を履行したときは、当委員会に速やかに文書で報告しなければならない。 |
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判断の要旨 |
1 組合と法人の労使関係について
法人は、組合結成通知後、組合からの質問や要求に対して応答すらしないという、組合を軽視ないし無視する態度で臨んでいた。こうした法人の態度は、組合の設立目的が現経営陣から経営権を奪取することであるとした上で、組合の活動がおよそ労働組合の正当な活動には当たらないと決め付けているところから来ていることは明らかであり、組合の委員長であるA1の組合活動を嫌悪.していたことを推認するに十分なものがある
2 法人の主張する各懲戒解雇事由の存否について
(1) 解雇事由1「法人の運営に関する各種の誹謗中傷行為」について
本件文書について、法人が指摘する部分は、おおむね事実あるいは事実と信ずるに足りる相応の事由に基づいて記載されたものである。
B3会長の行為についての指摘など、法人に対し批判的な見解が記載されているものの、(B3会長がC連の意向に反して天皇賜杯の下賜請願行ったことを契機として、C連は法人を除名処分としたことにより、法人の会員が大会に出られるか、法人の段位がC連でも認められるか不透明になるという)会員らの置かれた状況を踏まえれば、このような記載をしたことにも相応の理由があり、さらに、配布先も代議員に限られていたのであるから、これらの配布をもって直ちに法人の社会的評価を低下させるものとはいえないから、これら本件文書の記載内容が法人に対する誹謗中傷に当たるとはいえない。
したがって、A1が本件文書の作成及び配布に一定程度関与していたことをもって、就業規則31条2項5号、6号及び8号のいずれかに該当し懲戒解雇という重大な処分へ結びつけるのが相当であると言うことは到底できない。
(2) 解雇事由2「法人の正常な運営を阻害しようとする行為」について
ア A1らは、臨時総会が開催されるホテルに赴いたが、総会会場内には立ち入らず、代議員らに圧力をかけていない。このことにより、法人の運営が阻害された事実は認められず、また、阻害される蓋然性が高いとはいえないから、就業規則(31条2項5号、6号及び8号)の懲戒解雇事由に該当するとはいえない。
イ 組合が、総本部指導員の正会員資格を復活させるよう定款変更を要求したことについても、上記アと同様に、A1に対する懲戒解雇事由に該当するとはいえない。
(3) 解雇事由3「パワハラ行為」について
ア B5理事が述べたA1のC6~C9に対するパワハラについて
C7~C9はパワハラを否定しているから、これら3名に対する暴行があったとは認定できない。
C6とA1の間の出来事については、法人がB5理事からの伝聞のみで判断したものであり、直ちに事実であると認定することはできない。また、そのことを措くとしても、法人がそれまで問題になったことのない平成23年秋頃の出来事を3年以上経過した27年2月になってから問題として、懲戒解雇の事由としており、唐突かつ不自然であり、A1を懲戒処分に処する目的をもって、同人を狙い撃ちにして過去の行動を敢えて挙げたものとみざるを得ない。
イ C7が証言したA1のC11~C13に対する稽古中の暴行について
A1がこれらを否定し、C13も否定しているから、C13に対する暴行は認定できない。
A1からC11及びC12に対する暴行が実際にあったかどうかは定かではないが、法人は、A1の懲戒解雇以前には、C10が目撃したとするこれらA1の行為について把握していなかったにもかかわらず、本件審査において、いわば後付けでこれら具体的な暴行の事実の主張をしたといえるから、C11及びC12に対する暴行の事実の有無を判断するまでもなく、これら暴行が、本件懲戒解雇当時、その理由とされていたとは認められない。
(4) 解雇事由3「複数の指導員に対して自由意思を無視する態様にて労働組合への加入を勧誘した」及び解雇事由4「労働組合を脱退した、又は脱退しようとした指導員に対して恫喝した」も、A1に対する懲戒解雇の根拠としては薄弱である。
3 結論
法人が、組合の執行委員長であるA1を狙い撃ちにしたことは、正当な組合活動の抑制を企図し、正当な組合活動を理由に不利益取扱いをしたものと評価せざるを得ない。
法人が、27年2月17日付けでA1を懲戒解雇したことは、同人が組合員であること及び正当な組合活動をしたことを理由とする不利益取扱いに該当するとともに、組合の運営に対する支配介入にも該当する。 |
掲載文献 |
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