労働委員会命令データベース

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概要情報
事件番号・通称事件名  福岡県労委平成29年(不)第6号
日本セレモニー不当労働行為審査事件 
申立人  X組合(「組合」) 
被申立人  会社Y(「会社」) 
命令年月日  平成30年9月21日 
命令区分  一部救済 
重要度   
事件概要   本件は、①被申立人会社が、申立人組合の組合員A2を、平成29年8月25日付けで解雇したこと、②会社が、組合からの29年4月13日の団交での合意事項に係る会社代表者名での確認書締結要求に応じなかったこと、③会社が、組合による29年8月28日付け、同年9月8日付け及び同月28日付けの団交申入れに応じなかったことが不当労働行為であるとして救済申立てがあった事件で、福岡県労働委員会は、解雇の撤回、A2の原職相当職復帰、バックペイ及び文書交付を命じた。 
命令主文 
1 被申立人は、申立人組合員A2に対する平成29年8月25日付け解雇を撤回し、原職相当職に復帰させなければならない。

2 被申立人は、申立人組合員A2に対し、解雇の日の翌日から平成30年9月30日までの間については、同人の解雇がなければ得られたであろう賃金相当額の6割(解雇予告手当として支払った金員を差し引く。)を、同年10月1日から原職相当職復帰までの間については、同人の解雇がなければ得られたであろう賃金相当額を支払わなければならない。

3 被申立人は、本命令書写しの交付の日から10日以内に、下記内容の文書(A4判)を申立人に交付しなければならない。

平成  年  月  日
 組合
 執行委員長 A1 殿
 組合A3支部
 執行委員長 A4 殿
 
会社
代表取締役 B

 当社が行った下記の行為は、福岡県労働委員会によって労働組合法第7条第1号、第2号及び第3号に該当する不当労働行為と認定されました。
 今後はこのようなことを行わないよう留意します。



1 貴組合の組合員A2氏を、平成29年8月25日付けで解雇したこと。

2 貴組合が平成29年8月28日、同年9月8日及び同月28日に申し入れたA2氏の解雇を議題とした団体交渉に応じなかったこと。

4 その余の申立てを棄却する。 
判断の要旨  1 本件解雇について
(1)本件解雇の相当性について
ア 本件において、会社がA2に対し、本件解雇通知書で通知した解雇事由を時系列的に整理すると、①3月以降の行為(解雇事由4)、②8.16発言及び8.16行為(解雇事由1)、③8.18行為(解雇事由2)、及び④8.21行為(解雇事由3)に整理できる。
イ ①3月以降の行為は、A2が女性Cの身体に触ったものであり、また、他の女性従業員に対する性的な発言である。②8.16発言及び8.16行為は、A2が女性Cに対し、女性下着の話をしたこと及び女性Cの身体に触ったことである。
 ①3月以降の行為、②8.16発言及び8.16行為は、パートナ一就業規則第50条第1項第1号の「性的な冗談やからかい」、同項第2号の「必要なく身体に触ること」、同条第2項第2号の「他人の意に反する性的な言動により就業環境を不快なものと」することに該当する。しかしながら、その程度は後記エで検討するような強制わいせつ行為(刑法第176条)と比較すると、同程度に重大とはいえず、悪質性も高いとはいえない。
 ③8.18行為は、A2が、女性Cに「電話したのあんたやろ一。」などと話しかけ、さらに女性Cの右上腕をつかんだものである。③8.18行為は、通報者である女性Cから報復行為と受け取られても仕方のない行為であって、同行為には重大な問題がある。
 しかし、会社は、②8.16発言や8.16行為について、A2に対する直接の事情聴取を行わず、何ら注意や指導も行っていない。また、内部通報制度が設けられ、通報者が特定されないよう配慮するとされているにもかかわらず、会社は、第三者である組合に対し女性Cの氏名などの情報を漏らしている等、A2が③8.18行為に及ぶ事態となった原因は、適切な対応を行わなかった会社にもあったといえる。
 ④8.21行為は、音を立てた程度のことであって、本件解雇通知書記載の「職場の秩序を乱した」とは認められない。
ウ 被申立人は、A2の行為は懲戒解雇に相当すると主張するが、①3月以降の行為、②8.16発言及び8.16行為、並びに③8.18行為の各行為により、「相手を正常な業務に就けない状態に至らしめた」(パートナー就業規則第84条第2項第4号)、「会社の正常な運営を妨げた」(同項第5号)とは認められず、これらの行為が「服務規律に違反し、その事案は重大なもの」(同条第9項第10号)とまではいうことはできない。
 また、これらの行為により、組織目標の遂行に支障を与える、信頼関係を破壊するほどの事情は見当たらず、普通解雇にも当たらない。
エ 会社が当委員会に提出した過去5年間のセクハラ関係事案のうち、行為者と被害者が対等な職位である2件の事案についてみると、行為者が、「覆いかぶさり胸を触った」、「後ろから抱きつき、胸を触り、キスをした」という強制わいせつ行為(刑法第176条)に及んでいるかが問題となるような事案であるにもかかわらず、会社はいずれも懲戒処分を行わず、自主退職として取り扱っている。
 A2の行為は、両事案に比べると、そこまで重大なものとはいえない。また、会社は、両事案では懲戒処分を行わず自主退職として取り扱っており、このような穏便な対応に比較して、A2に対する解雇は重きに過ぎるものである。

(2)不当労働行為意思について
ア 本件解雇に至る経緯等
 A2に対する解雇は、相当性に欠けるものであり、他の懲戒処分を選択することも十分考えられたにもかかわらず、会社は、A2への直接の事情聴取も行わず、また、他の懲戒処分を検討することもないまま短期間に重い処分である解雇を選択して本件解雇を行ったものであり、このような会社の態度は、当初からA2については解雇しか検討していなかったのではないかと考えざるを得ない。
イ 労使関係
① A2の勤務時間について両者の間に大きな対立があり、第2回団交以降、会社は、A2に勤務時間調整のための指示を出したいと考えていたが、それができない状況になっていた。
② 第1回団交、第2回団交の開催について、会社は、最終的に団交に応じているものの、組合の団交申し入れに対し、文書による回答で済ませようという姿勢がみられた。
 第2回団交後は、A2の勤務条件に関する対立や確認書の問題が生じており、組合は、29年5月25日、賃金保障と確認書締結を要求し、これに対し、会社は、団交ではない話合いを求めたが、その際もこれらの問題について回答せず、その後の同年8月4日の話合いでも回答しないなど、会社にこれらの問題を誠実に解決しようとする姿勢が見られなかった。
③ A2が、各団交において積極的に発言していることが認められるとともに、会社は、A2が会社のパート従業員らに対して、何か困ったことがあったら自分が強い人を紹介する、などと話していることを認識していた。
④ 会社は、A2の解雇後、同人の解雇に係る本件団体交渉申入れに一切応じようとしなかった。
ウ 小括
  本件解雇に至る経緯、これまでの労使関係及び本件解雇が相当性に欠けることを併せ考慮すると、本件解雇は、会社が、労働条件の交渉において容易に譲歩しようとしない組合を嫌悪して行ったものといえる。
(3) 結論
 本件解雇は、労組法7条1号に該当する。また、本件解雇によって、会社は唯一の組合員を排除したのであるから併せて労組法7条3号にも該当する。

2 会社が、確認書締結に応じなかったことについて
 「確認書案」第1項、第3項及び第5項について、労使間で合意に至っていたとはいえないから、会社が、確認書の締結に応じなかったことは、労組法第7条第2号に該当するとはいえない。

3 本件団交申入れに対する会社の対応について
 本件解雇通知書に記載している解雇事由について争いはないはずであり、よって本件解雇の妥当性を団交で検証するまでもない旨等の会社の主張は、正当な拒否理由とは認められないから、会社が本件団交申入れに応じなかったことは、労組法7条2号に該当する。 
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