労働委員会命令データベース

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概要情報
事件番号・通称事件名  北海道労委平成28年(不)第15号
不当労働行為審査事件 
申立人  X組合(「組合」) 
被申立人  法人Y(「法人」) 
命令年月日  平成30年8月2日 
命令区分  一部救済 
重要度   
事件概要   本件は、①平成27年12月の冬期手当に係る法人の対応、②28年3月期の期末手当の支給に係る法人の対応、③組合のA2委員長に対する懲戒解雇処分を議題とする団体交渉拒否、④1年単位の変形労働時間制に関する労使協定が有効期間の経過により失効しているにもかかわらず、28年4月1日以降、組合と協議することなく、法人が引き続き同制度を実施したこと、⑤組合が労働者過半数代表を選出した旨を伝えたにもかかわらず、法人が同代表を選出するための選挙を実施し、同選挙によって信任されたとする者との間で、36協定及び変形労働時間制に係る協定を締結したこと、⑥法人が教員の平均持ち時間等の労働協約を一方的に解約したことが不当労働行為であるとして救済申立てのあった事件である。
 北海道労働委員会は、法人に対し、文書配布、特別手当の支給者による組合への支配介入の禁止、誠実団交応諾、①~⑤についての文書掲示を命じ、その余の申立てを棄却した。 
命令主文 
1 被申立人は、申立人との間で平成27年度の期末手当に関する団体交渉を重ねる中、平成27年12月の冬期手当を支給するに当たって、その支給率を定めた理由として、申立人から財政再建に係る何らの有効な提案もなされなかった旨を記載した文書を教職員らに配布するなどして、申立人の運営に支配介入してはならない。
2 被申立人は、申立人との間で団体交渉を行うことなく、被申立人の判断で対象者を選定し、教職員の一部の者に対して、平成28年3月に特別手当を支給するなどして、申立人の運営に支配介入してはならない。
3 被申立人は、A2教諭の懲戒解雇問題を交渉事項として申立人が申し入れた団体交渉を拒否してはならない。
4 被申立人は、A2教諭の懲戒解雇問題を交渉事項として申立人が申し入れた団体交渉を拒否するなどして、申立人の運営に支配介入してはならない。
5 被申立人は、次の内容の文書を縦1メー-トル、横1・5メートルの白紙にかい書で明瞭に記載して、被申立人が運営するB2中学校・高等学校の正面玄関の見やすい場所に、本命令書写し交付の日から7日以内に掲示し、10日間掲示を継続しなければならない。

 当法人が、貴組合に対して行った次の行為は、北海道労働委員会において、労働組合法第7条第2号及び第3号に該当する不当労働行為であると認定されました。今後、このような行為を繰り返さないようにします。

1 貴組合との間で平成27年度の期末手当に関する団体交渉を重ねる中、平成27年12月の冬期手当を支給するに当たって、その支給率を定めた理由として、貴組合から財政再建に係る何らの有効な提案もなされなかった旨を記載した文書を教職員らに配布するなどして、貴組合の運営に支配介入したこと。
2 貴組合との間で団体交渉を行うことなく、当法人の判断で対象者を選定し、教職員の一部の者に対して、平成28年3月に特別手当を支給するなどして、貴組合の運営に支配介入したこと。
3 A2教諭の懲戒解雇問題を交渉事項として貴組合が申し入れた団体交渉を拒否したこと及びこれにより貴組合の運営に支配介入したこと。
4 貴組合を協定当事者として締結した平成27年4月1日を起算日とする1年単位の変形労働時間制に関する労使協定が1年の有効期間の経過により失効したにもかかわらず、平成27年12月以降貴組合と協議することなく、平成28年4月1日以降も引き続き1年単位の変形労働時間制を実施するなどして、貴組合の運営に支配介入したこと。
5 貴組合執行委員長が労働者過半数代表として選任された旨の通告を受けているにもかかわらず、時間外及び休日の労働に関する協定及び1年単位の変形労働時間制に関する協定の締結のために、棄権した無投票を信任とみなす方法によって労働者過半数代表を選任するための選挙を実施し、同選挙で信任を受けたとされる者との間で、各協定を締結するなどして、貴組合の運営に支配介入したこと。
 平成  年  月   日(掲示する日を記載すること。)

 組合
  執行委員長 A1様
法人
 理事長 B1 
6 申立人のその余の申立てを棄去する。
判断の要旨  1 争点1(27年12月の冬期手当の支給に係る法人の対応が法第7条第3号の不当労働行為に当たるか。)について
 前年に比して1.3か月分もの期末手当の減額は、教職員の生活に大きな影響を与えることは容易に推測できるところであり、かかる減額をあたかも全て組合の責任に帰するがごとき内容の通知が組合活動に与える影響には少なからぬものがあり、組合の弱体化を招くものといわざるを得ず、法人が同文書を発出したことは法第7条第3号の支配介入に該当し、法第7条第3号に定める不当労働行為である。

2 争点2(28年3月の期末手当の支給に当たって、法人が組合との協議を経ることなく、また、法人の給与規定上の定めがないにもかかわらず、一部の専任教員に対して、特別手当を支給したことが法第7条第3号の不当労働行為に当たるか。)について
 一律支給とするか、方法論はともかく勤務状況等に基づく差異を設けるかは、期末手当の団体交渉における重要な論点であり、かつ、これまでに特定の教職員のみに手当を支給した実績がないにもかかわらず、組合が法人の善処を受けて団体交渉による協議を進めたいという意図のもとであえて団体交渉を「凍結」している状況に乗じて、何らの協議も行うことなく、一部の教職員に対し、0.3か月分の年度未手当を支給することは、それまでの組合との団体交渉の経過を蔑ろにするばかりか、支給される教職員と支給されない教職員との間に分断をも生じさせるおそれがあり、組合の弱体化を招くものであるから、組合の運営に対する支配介入に該当するといわざるを得ず、法第7条第3号の不当労働行為である。

3 争点3(法人がA2教諭の懲戒解雇問題に関する団体交渉に応じなかったことが法第7条第2号及び第3号の不当労働行為に当たるか。)について
 団体交渉は、当事者間の自主的な解決を目的とするものであるから、団体交渉における解決は、労使間にとって望ましいものであり、裁判所において係争中であることが、団交拒否の正当な理由に該当しないことは自明の理といってよい。
 したがって、法人による団交拒否は、法第7条第2号の不当労働行為である。

4 争点4(27年4月1日を起算日とする1年単位の変形労働時間制に関する労使協定の有効期間が経過したにもかかわらず、28年4月1日以降、組合と協議することなく、法人が1年単位の変形労働時間制を実施することが法第7条第3号の不当労働行為に当たるか。)について
 27年1月27日付けで締結された1年単位の変形労働時間制に関する労使協定に向けた協議を積極的に推進したA6執行部の3名が、同年4月以降、立場を変えて法人の管理職に就任し、A6執行部のうちA4教諭、A5教諭が法人側の団体交渉要員となった経過に鑑みると、組合が、変形労働時間制の導入の当否自体に改めて疑問を抱くことは自然であり、かかる意味でも、法人にはより丁寧な対応が求められていたというべきである。
 にもかかわらず、法人は、同年12月以降、一切団体交渉を行うことなく、労基法が要求する労使協定の締結がないまま、28年4月1日以降も変形労働時間制の運用を継続した。かかる法人の行為は、それまでの団体交渉の中で組合が呈した疑問を解消することなく、労使協定の締結に向けた努力を怠ったものと評価せざるを得ず、組合を軽視するものであって、組合の運営に対する支配介入に該当し、法第7条第3号に定める不当労働行為に当たるものといえる。

5 争点5(組合から執行委員長であるA3(現在の執行委員長ではないが以下「A3委員長」という。)が労働者過半数代表として選出された旨を伝えたにもかかわらず、法人が労働者過半数代表を選出するための選挙を実施し、同選挙によって信任されたとする者との間で、36協定及び変形労働時間制に係る協定を締結したことが法第7条第3号の不当労働行為に当たるか。)について
 労働者過半数代表は、労働者の意向によって選任されるべきものであり、組合が、法人に対して、同年8月30日付け書面をもって、労働者100名の信任を得て、A3委員長が労働者過半数代表に選出されたことを通告したのであるから、法人は、選挙実施の当否について改めて検討すべきであったといえる。にもかかわらず、法人は、この点の再検討を行うことなく、職員会議において、選挙を敢行する旨を教職員に伝え、実際にこれを実行した。
 のみならず、A3委員長が教職員宛に自身を労働者過半数代表として信任してほしい旨を呼び掛けた翌日に、法人が職員会議において選挙を行うことを告知し、さらに、A3委員長が法人に対し自身が労働者過半数代表として信任された旨を通告した翌日に、法人が職員会議において選挙の具体的な予定などを公表していることからすると、客観的な事実経過としては、法人は、組合の動向を封ずるかのような対応を行ってきたと言わざるを得ない。
 加えて、法人は、棄権票を信任票とみなすという選挙手法を採用したが、かかる方法は、多数決原理の一般論としても、原則的な手法とは言い難い。
 以上の経過を総合考慮すると、あえて選挙を敢行し、C教諭が信任されたものとして、同教諭との間で36協定、変形労働時間制に関する労使協定を締結したことに、組合の意向を排斥する意図があったことを否定することはできず、かかる法人の対応は、組合の運営に対する支配介入と評価せざるを得ず、法第7条第3号の不当労働行為に該当するものといえる。

6 争点6(組合との団体交渉中に組合がその主張の根拠とした4つの労働協約ないし労使慣行について、法人が学校長名義の文書で無効である旨述べた上で、4つの労働協約として一方的に解約を申し入れたことが法第7条第3号の不当労働行為に当たるか。)について
 法人は、労働協約は、特段の理由なく90日の予告期間を設けて労使いずれからでも解約できるものであり、同通知を発出したことは、不当労働行為に該当するものではないとの趣旨を主張する。
 しかし、私法上、労働協約を有効に解約することができるとしても、当該解約行為が、組合の運営に対する支配介入と評価されるときには、私法上の効果とは別に不当労働行為に該当することもあり得る。また、労働協約が締結されていないとしても、法人が、長期間反復されてきた労使慣行を破棄した場合も、不当労働行為になり得る。
 本件では、組合が主張する4項目について、労働協約ないし労使慣行の存在を認定することができないから、これらを解約する旨通知した法人の行為が不当労働行為に該当するということはできない。 
掲載文献   

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