労働委員会命令データベース

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概要情報
事件番号・通称事件名  東京都労委平成29年(不)第17号
東大和市不当労働行為審査事件 
申立人  X組合(「組合」) 
被申立人  Y市(「市」) 
命令年月日  平成30年7月17日 
命令区分  棄却 
重要度   
事件概要   被申立人市の消費生活相談員(委嘱期間1年の嘱託員)であるA2は、申立人組合に加入し、労働条件に関する団体交渉、ビラ配布などの組合活動を行っていた。組合は、市が申立外C組合に便宜供与を行っていることを踏まえて、平成29年1月13日付けの要求書により、市に対し、組合掲示板設置、組合事務所貸与、内線電話の設置・利用、郵便物取次ぎ、就業時間内の短時間組合用務の黙認などの便宜供与(以下「本件便宜供与一式」という。)を行うよう要求した。
 本件は、組合が本件便宜供与一式を要求したことに対し、組合員が1名であることなどを理由として、市がこれを拒否したことが、組合の運営に対する支配介入に当たるか否かが争われた事案で、東京都労働委員会は、申立てを棄却した。 
命令主文   本件申立てを棄却する。 
判断の要旨  1 組合は、C組合が組合掲示板設置等の便宜供与を受けていることから、使用者の中立保持義務により、合理的な理由がない限り、組合にも組合掲示板設置等の使宜供与が認められるべきであるという前提に立った上で、第6回団体交渉において、市が本件便宜供与一式を拒否したことに合理的な理由がないから、市の行為は支配介入に当たると主張する。
 確かに、同一企業内に複数の労働組合が併存する場合は、不当労働行為制度の趣旨に照らし、使用者は、各労働組合に対して中立的な態度を保持し、合理的な理由がない限り、労働組合の性格、傾向等によって差別的な取扱いをすることは許されないといえる。これを本件についてみるに、正規職員の約6割を組織するC組合と、非正規職員1名のみを組識する組合とでは、組織規模に大きな違いがあり、市の施設を利用する必要性等の事情も異なるであろうことなどを考慮すれば、併存組合であるC組合が組合掲示板設置等の便宜供与を受けているとしても、そのことから、直ちに組合に本件便宜供与一式が認められるべきであるとまでいうことはできない。そして、第6回団体交渉において、市が本件便宜供与一式の拒否理由として説明した、組合掲示板設置については、組合員が1名であり必要性がないこと、組合事務所貸与については、物理的にスペースがないことなどについても、一概に不合理な理由であると断ずることはできない。
 このことについて、組合は、組合員が1名であっても団結権は尊重されるべきであるとして、非正規公務員問題は重要であり、組合掲示板を利用した情宣活動は組合活動に不可欠であるなどと主張する。
 確かに、非正規公務員問題を重視する組合の立場からみて、情宣活動の重要性は理解できるところではあるものの、情宣活動の手段には、ビラの配布や直接口頭で呼び掛けるなど様々なものがあり、情宣活動のために組合掲示板設置が不可欠であるとまではいうことができない。そして、市が、本件申立て後の団体交渉において、組合掲示板設置の代替案として置きビラの提案を行い、これを認めるための具体的な条件について協議に応じていることを考慮すると、組合掲示板設置を拒否することによって、市が殊更に組合の情宣活動を制約しようとしているとか、組合の団結権を軽視しているなどとみることもできない。
2 本件便宜供与一式の具体的内容は、組合掲示板設置のほか、組合事務所貸与、内線電話の設置・利用、郵便物取次ぎ、就業時間内の短時間組合用務の黙認などを含んだ多様なものであったところ、市は、比較的軽易で使用者の負担も軽いと思われる事項についても、一律に拒否する旨を回答している。こうした事項について、C組合への便宜供与を認める一方で、組合に対しては一切認めない市の対応には疑問がないではない。
 しかしながら、組合は、C組合が市から多様な便宜供与を受けていることを踏まえて、C組合に認めて組合に認めないのは差別的取扱いであるなどとして、C組合と同じ扱いにするよう求めており、本件便宜供与一式を一括して要求していることから、市の回答は、こうした組合の要求方式に対応したものとみることができる。そして、組合は、団体交渉において、組合が最重要視していた組合掲示板設置以外の個別の事項について、切り離して要求する姿勢をみせてはいないのであり、組合掲示板設置の代替案として市が置きビラの提案を行い、それについての協議が行われたことは上記判断のとおりである。
 そうすると、組合が29年1月13日に初めて本件便宜供与一式を要求した後の最初の交渉となる第6回団体交渉において、具体的な交渉に入る前の段階の回答で、市が、本件便宜供与一式の一切を拒否し、その回答を変えていないことをもって、支配介入に当たるとまではいえない。
3 組合は、市の対応について、労使間の交渉の場で解決していこうという姿勢のないものとも主張するが、本件申立て前に行われた団体交渉では、市と組合がA2の勤務シフトについて「確認書」を締結し、市が嘱託員報酬を引き上げるなどしていることから、市と組合との団体交渉は、話合いにより相互に歩み寄り、合意可能な事項から順次解決するなど、一定の成果を上げていたものとみることができる。さらに、上記1で述べたとおり、市は、組合掲示板設置の代替案として、置きビラを提案して具体的条件の協議に応じているのであるから、およそ市に労使間の交渉の場で解決していこうという姿勢がなかったとまではいうことができない。
4 以上のことから、市が本件便宜供与一式の組合要求を拒否したことは、C組合と比べて組合を差別的に取り扱ったものとまではいえず、支配介入に当たるということはできない。 
掲載文献   

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