労働委員会命令データベース

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概要情報
事件番号・通称事件名  大阪府労委平成29年(不)第6号
不当労働行為審査事件 
申立人  X組合(「組合」) 
被申立人  法人Y(「法人」) 
命令年月日  平成30年8月17日 
命令区分  全部救済 
重要度   
事件概要   本件は、被申立人が、中央労働委員会において成立した和解内容に違反し、団体交渉で申立人が求める財務資料を示さず、賃上げのできない理由を説明しないなど、組合員の賃金改定及び平成28年冬季一時金に係る団体交渉に誠実に応じないことが不当労働行為であるとして救済申立てがあった事件で、大阪府労働委員会は、会社に対し、文書手交を命じた。 
命令主文 
 被申立人は、申立人に対し、下記の文書を速やかに手交しなければならない。
年  月  日
組合
 執行委員長 A1様
法人
 代表理事 B1
 平成28年11月21日に開催された団体交渉における、貴組合員A2氏の賃金改定に係る議題についての当法人の対応は、大阪府労働委員会において、労働組合法第7条第2号に該当する不当労働行為であると認められました。今後、このような行為を繰り返さないようにいたします。 
判断の要旨  争点 28.6.13団交及び28.11.21団交における法人の対応が不誠実団交に当たるかについて
1 28.6.13団交について
(1) 和解条項第1項で法人が行うとした説明に対する法人の対応について
ア 資料の提示について
 法人は、和解条項第1項にある給与制度に関する資料としては給与体系表を、財務状況等に関する資料としては、平成25年4月の直近の年度である平成24年度の貸借対照表を提示している。
 この点について、組合は、組合が求める「収支の資料」と和解条項第1項の「財務状況等に関する資料」が別物であるとの理解は承認できない旨、中労委は、貸借対照表や損益計算書そのものの提出を義務づけるような表現を避け、「財務状況等に関する資料」という表現となった旨等主張する。
 しかしながら、中労委が貸借対照表等の提出を義務づける表現を避けたとの上記の組合主張を認めるに足る事実の疎明はない。また、25.3.31貸借対照表には、法人の財務状況が一定、記されており、さらに、和解条項には、それ以上に収支に関する資料、財務諸表、あるいはこれに類するもの、といった文言はない。
 加えて、28.6.13団交において、組合が、和解条項第1項は収支に関する資料を提示することを求めたものであるとする根拠を、法人に説明したと認めるに足る事実の疎明はなく、さらに、和解条項第1項で説明すべきとされた、平成25年4月のA2組合員の賃金改定に係る法人の回答額の具体的理由について、組合が、収支に関する、いかなる資料が、いかなる根拠で必要であるかを明らかにしたと認めるに足る事実の疎明もない。そうすると、法人が収支の資料を提示しなかったことをもって、和解条項第1項に反しているとまではいえないというべきである。
イ 平成25年4月の賃金改定に関する法人の説明について
 法人は、賃金改定に関する法人の基本方針を示し、A2組合員については法人の基本方針を変更する特段の事情が認められなかったことから、従来の方針どおりの賃金改定としたことを説明しており、また、他団体のベースアップの状況として、法人が基本給の設定において参考にしているC庁を挙げて説明しているのであるから、法人は、A2組合員の平成25年4月の賃金改定について、組合要求の5,000円に対し、1か月2,225円増額すると回答した理由について一定説明したものといえる。
ウ したがって、法人は、和解条項第1項で法人が行うとした説明について、和解条項の趣旨に反する対応を行ったとまではいえない。
(2)当日行われたA2組合員の賃金改定に係る交渉の法人の対応について
 組合は、28.6.13団交時における法人発言を挙げ、法人発言は、合意達成の可能性を模索する義務を放棄するものである旨主張する。
 組合が挙げる法人の発言は、いずれも、組合要求を受け入れられないことや、 自らの主張が正当であることを表明した発言であるとはいえるものの、 法人には組合の要求ないし主張を容れる義務まではないのだから、 組合が挙げる法人の発言のみをもって、 法人が、 合意達可能性を模索する義務を放棄したとはいえない。
 もっとも、組合からの追求の程度に応じた回答を行わないなど、組合の発言に対する法人の対応如何によっては、 法人の発言が、 合意達成の可能性を模索する義務を放棄するものと解されることもある。
 そこで、28.6.13団交における組合の発言をみると、組合は、法人の説明では中労委和解の意図が反映されていない、これ以上出さない、では中労委和解に違反である、とは述べているものの、どのような点がどのような理由で和解条項に違反しているのか、法人の説明のどのような部分が不十分であるのかを指摘したものとはいえない。このことに加え、法人は、和解条項第1項で法人が行うとした説明について、和解条項の趣旨に反する対応を行ったとまではいえず、また、平成25年4月及び同26年4月のA2組合員の賃金改定に関して、一定の説明を行ったといえることを併せ考えると、組合が挙げる法人の発言をもって、合意達成の可能性を模索する義務を放棄するものとまではいえないことから、この点に関する組合の主張は採用できない。

2 28.11.21団交について
(1)資料の提示について
 A2組合員の賃金改定を協議するに当たり、収支の内容が必要不可欠であったとまではいえず、また、組合は法人の収支の内容が必要である理由を28.11.21団交までに明らかにしていないのだから、28.11.21団交において、法人が組合に対し、組合が求める、過去の損益計算書、キャッシュフロー等の資料を提示しなかったことのみをもって、不誠実団交に当たるとまではいえない。
(2)賃金改定に関する法人の対応について
 法人は、組合からの質問に対し、回答する必要はない旨、複数回発言しており、このような発言は、説明を尽くそうとする意思を欠いたものといわざるを得ず、組合が、法人は給与表による額の改定しかできない理由を具体的に説明する努力をせず、合意達成の可能性を模索する義務を放棄していると捉えても、無理からぬところである。
 また、2,225円以上の賃上げには応じられない理由として、法人は、規則を変える理由がないことを挙げ、これに対し組合は、その理由について説明するよう求めているところ、法人は、当初、その理由として、3人のうち2人は納得している旨述べているが、これは、非組合員との合意内容を組合及び組合員に強いるものともいえ、かかる説明をもって合理的な説明をしたとはいい難い。加えて、上記法人の発言を受け、組合が、B2主事は制度として昇給はない旨指摘すると、法人は1人は納得している旨述べ、さらに組合が、その1人も60歳を超えた嘱託職員である、法人には賃金規定も就業規則もない、給与体系表だけで決まっているわけではない旨述べると、法人は、A2組合員はそれで納得して就職した旨述べており、規則を変える理由がないことに関する法人の説明は一貫していないとみざるを得ない。そうすると、説明を求める組合に対し、法人は、未だ合理的な理由の説明を行ったとはいえず、誠実に回答しているともいい難い。
 以上のことからすると、法人は、A2組合員の賃金改定について、説明を尽くそうとする意思を欠いたものといわざるを得ない発言を複数回行い、さらに、組合の質問に対しても合理的な理由の説明を行ったとはいい難いのであるから、かかる法人の対応は、不誠実であるといわざるを得ない。
 したがって、A2組合員の賃金改定についての法人の対応は、不誠実団交に当たると言わざるを得ない。
(2)平成28年度冬季一時金に関する法人の対応について
 組合は、平成28年度冬季一時金における法人の対応は、それまでの賃金改定における姿勢と全く同様であり、不誠実であった旨、法人の「方針」「原則」「妥当」「世間相場」「讓歩する必要はない」との回答について、納得のしようがない旨、場当たり的な回答である旨、協議が進まない旨主張する。
 28.11.21団交において、①組合が、冬季一時金を2か月分とした理由を説明するよう求めたのに対し、 法人は、 それが妥当であるとの法人の決定である旨、 基本的に年間4か月分とし、 12月に2か月分を支払う方針を決定している旨、それを変更する理由がない旨述べたこと、②組合が、年間4か月分とした理由を尋ねたところ、 法人は、 3か月のところもあり、5か月のところもある中で、4か月とするのが妥当であると判断した旨、 特にA2組合員については、 法人が仕事の内容を配慮しており、 特に賞与をもって報いなければならないことはない旨述べたことが認められる。
 これらのことからすると、 法人は、 平成28年度冬季一時金を2か月分としたのは、一時金を年間4か月分としているためであると説明した上で、年間4か月とした理由について、法人が認識している世間の状況やA2組合員の状況に言及して説明しているといえるのだから、法人は、平成28年度冬季一時金を2か月分とした理由について、一定説明をしたといえる。
 したがって、この点に関する組合の主張は採用できない。
3 結論
 28.6.13団交における法人の対応及び28.11.21団交における資料の提示及び平成28年度冬季一時金に関する法人の対応は、不誠実団交に当たらない。一方、28.11.21団交における、A2組合員の賃金改定についての法人の対応は、不誠実団交に当たる。 
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