労働委員会命令データベース

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概要情報
事件番号・通称事件名  大阪府労委平成28年(不)第58号
不当労働行為審査事件 
申立人  X組合(「組合」) 
被申立人  Y会社(「会社」) 
命令年月日  平成30年8月31日 
命令区分  一部救済 
重要度   
事件概要   本件は、①被申立人が、被申立人会社の就業規則に定められた申立人との事前協議を行わず、印刷所移転及び新規従業員の採用を行ったこと、②被申立人が、申立人と印刷所移転について協議した団体交渉において、(i)虚偽の説明を繰り返した上、一方的に協議を打ち切り、(ii)不適任な被申立人取締役を団体交渉に出席させたこと、③組合員1名に対し、(i)被申立人が、勤務地変更の内示の際、就業規則の条項に反して返答を命じ、新勤務地での打合せ会への出席を命じる業務命令書を交付したこと、(ii)被申立人の代表取締役が、内示に対する返事がなかったとメールしたこと、(iii)被申立人の常務取締役が、新勤務地での打合せ会では組合問題を出さないようにと発言したこと、(iv)被申立人が、新勤務地での打合せ会において、新勤務地用の名刺を用意していなかったことが不当労働行為であるとして救済申立てがあった事件で、大阪府労働委員会は、被申立人に対し、文書手交を命じ、その余の申立てを棄却した。 
命令主文 
1 被申立人は、申立人に対し、下記の文書を速やかに交付しなければならない。
年   月   日
組合 
 執行委員長 A1様
会社
 代表取締役 B1
 当社と貴組合との間で行われた平成28年8月22日、同月25日及び同年9月8日の団体交渉における、印刷所移転問題についての当社の説明が不誠実であったことが、大阪府労働委員会において、労働組合法第7条第2号に該当する不当労働行為であると認められました。今後、このような行為を繰り返さないようにいたします。
2 その他の申立てをいずれも棄却する。
 
判断の要旨  1 争点1-(1)(会社が、組合との事前協議を行うことなく、印刷所移転を行ったことは、組合に対する支配介入に当たるか。)について及び争点1-2(会社が、組合との事前協議を行うことなく、C1従業員ら4名を採用したことは、組合に対する支配介入に当たるか。)について
(1)争点1―(1)について
ア 会社が印刷所を移転すること自体は、第一義的には会社の経営判断に属する事項であり、当該労働組合と事前に協議する旨の労働協約、いわゆる事前協議約款が締結されているのであればともかく、そうでない場合に、直ちに使用者が当該労働組合と事前協議を行わなければならないということはできない。
 事前約款の有無についてみるに、印刷所の移転及びこれに伴う労働条件の変更について事前協議約款が締結されていたと認めるに足る事実の疎明はなく、会社が、印刷所の移転について就業規則の定めにかかわらず、労働組合と事前協議すべきことは当然である旨の組合の主張は採用できない。
イ 勤務地の変更を伴う印刷所移転を問題とする本件において、就業規則第17条の規定により会社に求められている対応は、①賃金及び労働条件(勤務地、職制を含む)の変更を伴う人事異動を行う場合の発令前の本人及び組合への内示、②異議申立てがあった場合の、組合等と充分な協議を行った後の決定、発令などであり、人事異動を行う際の対応として組合と事前に協議を行わなければならないことを規定した文言は見受けられない。また、組合等が文書で異議申立てを行ったとの事実の疎明もない。
 したがって、会社が、就業規則に定められた組合との事前協議を無視し、印刷所移転問題について事前に協議を行わなかったとの組合の主張は採用できない。
ウ 組合の主張はいずれも採用できず、これらのことが組合を不当に軽視したものとはいえない。
(2)争点1-(2)について
 会社はA2従業員ら4名の採用に当たり事前に組合に対して通知し協議する義務が存した旨、この4名の採用が就業規則第12条違反である旨の組合の主張はいずれも採用できず、組合を不当に軽視したともいえない。

2 争点2―(1)(8.22団交、8.25団交及び9.8団交における会社の対応は、不誠実団交又は組合に対する支配介入に当たるか。)及び争点2―(2)(会社が、B3取締役を団交に出席させたこと。)について
(1) 争点2-(1)について
ア 会社は、8.22団交では役員会で印刷所移転を検討する旨述べ、8.25団交では印刷所移転によるコストダウンの額を過大に説明し、9.8団交でも改めてもう一回移転すべきかどうか考える旨述べることで、会社の予定する移転期日を目前に控えた中、計画どおりに移転を実行するため、組合に期待を抱かせるような発言を行うことにより組合の追及を回避しようとしたものとみざるを得ず、こうした3回の団交における会社の説明は、不誠実であったといわざるを得ない。
イ 9.8団交以降団交が行われなかった原因は、団交開催よりも印刷所の移転や役員解任要求にこだわった組合の態度にあったとみるのが相当である。
ウ 8.22団交、8.25団交及び9.8団交における印刷所移転問題についての会社の説明は、不誠実であったといわざるを得ず、かかる会社の対応は労組法第7条第2号に該当する不当労働行為であるが、9.8団交において、会社が一方的に協議を打ち切ったとまではいうことはできない。

(2) 争点2―(2)について
 団交の使用者側窓口を誰にするか、団交の交渉担当者として誰を出席させ、労働組合からの要求事項に対し回答ないし説明を行う者を誰にするかについては、いずれも使用者の判断に属するものであり、労働協約等で団交ルールを定めている等の特段の事情がない限り、他方の当事者である労働組合が関与し得る事項ではないといえる。
 組合が、会社の団交出席者についての判断に関与し得る特段の事情はなく、会社が、B3取締役を団交に出席させたことは、労組法第7条第3号に該当する不当労働行為であると認めることはできない。
3 争点3(A2組合員に対する会社の一連の対応は、不利益取扱い又は組合に対する支配介入に当たるか。)について
(1) 争点3-(1)(平成28年9月l4日、会社が、A2組合員に対し、同年10月1日からの勤務地変更の内示を通知し、同年9月17日までに返答するよう命じるとともに、9.20打合せ会への出席を命じる9.14業務命令書を交付したこと。)について
ア 就業規則第17条に定められているのは、異動の内示から1週問以内に異議申立てができるという内容であって、B3取締役がA2組合員に対して同月17日までの返答を命じたことが、異議申立書の提出を制限するものであったとみることはできない。
イ 9.14業務命令書について、その文面にはいささか穏当を欠く面があるといえなくはないものの、同年10月1日に移転を控えていたことを考慮すると、9.20打合せ会への出席を命じるものとして、当該労使関係において許容され得る業務命令の範囲を超えるものであったとまではいえない。

(2)争点3-(2)(平成28年9月18日、B2社長がA2組合員に対し、同月17日までに内示に対する返事がなかったとメールしたこと。)について
 B2社長がA2組合員に発したメールの内容に事実誤認があったことは明らかであり、これによってA2組合員が精神的苦痛を受けたとする組合の主要には一定の理由がある。
 しかしながら、B2社長は、平成28年9月19日、「昨日のメールは撤回します。全くの私の聞き間違いでした。申し訳ございません。(略)」とのメールを送付し、訂正・謝罪していることが明らかであり、A2組合員が、8月18日のメールを受けて不快に感じたことはあったにせよ、一定の受忍限度を越える不利益を被ったとまではみることはできない。

(3) 争点3-(3)(平成28年9月20日の朝、B2常務がA2組合員に対し、9.20打合せ会で組合問題を出さないようにと発言したこと。)について
 9.20やりとりの内容について、B2常務の証言は、A2組合員の証言と異なり、仮にA2組合員の陳述したとおりのB2常務の発言があったとしても、その発言の態様が、A2組合員に対し不当な圧力を加えるものであったと認めるに足る事実の疎明はなく、9.20やりとりにおけるB1常務のA2組合員に対する発言をもって、A2組合員への退職強要又は解雇を想定した支配介入であるとの組合の主張は採用できない。

(4) 争点3―(4)(9.20打合せ会において、A2組合員の新勤務地用の名剌を会社が用意していなかったこと。)について
 A2組合員に対しては、9.20打合せ会の場で、B1常務から新しい名刺の準備が間に合わなかった旨の説明がなされ、同月30日には新しい名刺が配付されていることから、自分にだけ新しい名刺が用意されていなかったことでA2組合員が不快に感じたことはあったにせよ、このことをもってA2組合員に一定の受忍限度を越える不利益があったと認めることはできない。

(5) 結論
  A2組合員に対する一連の対応は、いずれも不利益取扱い又は支配介入であったと認めることはできない。
 
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