概要情報
事件番号・通称事件名 |
福岡県労委平成29年(不)第3号
ケミサプライ・アマックス(第2)不当労働行為審査事件 |
申立人 |
X組合(「組合」) |
被申立人 |
会社Y(「会社」) |
命令年月日 |
平成30年7月30日 |
命令区分 |
一部救済 |
重要度 |
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事件概要 |
本件は、会社が申立人組合の組合員であるA2に対し、①平成28年6月以降、残業指示について非組合員と差別する取扱いを行い、同人の給与を減少させたこと、②29年5月分以降の給与支給に当たって、業績時間外手当4万円の支給を停止したことが、不当労働行為であるとして救済申立てがあった事件で、福岡県労働委員会は、会社に対し、A2に対する残業指示について、非組合員との差別的な取扱いの禁止、バックペイ並びに文書の交付及び掲示を命じ、その余の申立てを却下した。 |
命令主文 |
1 被申立人は、申立人の組合員A2に対する残業指示について、非組合員と差別する取扱いをしてはならない。
2 被申立人は、申立人の組合員A2に対し、平成29年6月から平成30年8月までの業績時間外手当相当額60万円を支払わなければならない。
3 被申立人は、本命令書写しの交付の日から10日以内に、代表者印を押印した下記内容の文書(A4判)を申立人に交付するとともに、A1判の大きさの白紙(縦約84センチメートル、横約60センチメートル)全面に下記内容を明瞭に記載し、被申立人本社食堂内の見やすい場所に30日間掲示しなければならない。
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平成 年 月 日 |
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(交付の日を記載すること) |
組合
代表執行委員長 A1殿
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会社 |
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代表取締役 B1 ? |
当社が行った下記の行為は、福岡県労働委員会によって労働組合法第7条第1号及び第3号に該当する不当労働行為と認定されました。
今後はこのようなことを行わないよう留意します。
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記 |
1 貴組合の組合員A2氏に対し、平成28年7月以降、残業指示について、非組合員と差別する取扱いを行ったこと。
2 貴組合の組合員A2氏に対し、平成29年5月分給与(同年6月22日支給)以降、業績時間外手当4万円を支給しなかったこと。
4 申立人組合員A2に関する平成28年6月の残業指示に係る救済申立てを却下する。 |
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判断の要旨 |
1 争点1(除斥期間について)
労働委員会は、不当労働行為救済命令の申立てが、行為の日(継続する行為にあってはその終了した日)から1年を経過した事件に係るものであるときは、これを受けることができない(労組法27条2項)。
残業に係る差別は、現実に残業手当が支給される段階で実現されるものであり、残業の割当てがされずに残業手当の支給がされないという一連の行為が不当労働行為と評価されるのであるから、除斥期間の起算日は、残業手当の支給日と解するのが相当である(東急バス事件東京高裁判決平成29年9月20日)。
2 争点2(残業指示の差別的取扱いについて)
ア 残業指示に関し非組合員と異なる差別的な取扱いが行われたかについて
被申立人は、A2のみならず、他の従業員の残業量も抑制しており、28年6月以降、A2以外の従業員で残業が減少した者も多数いる旨主張する。
しかし、28年6月当時、A2が作業をしていた工場内にシフト表等は存在せず、それ以降、会社は工場内の従業員全員を対象に、シフト表を作成するなどして全員の出退勤時刻や、残業時間を管理したり、全員の残業量を減らすような取組を示したりするなどの具体的な動きがあったとは認められない。
また、28年7月頃、A2は業務の状況にかかわらず18時までには退勤するように指示されただけでなく、29年5月頃からは、残業を一切しないように指示されたが、他の従業員はそのような指示を受けておらず、A2が退勤する際にも業務を続けていたことが認められる。
したがって、会社はA2に対し、残業指示について非組合員と異なる差別的取扱いを行ったものといえる。
イ 不利益取扱いについて
① 「不利益な取扱い」の存否について
A2の給与額は大幅に減少しており、残業時間の減少は労組法7条1号にいう「不利益な取扱い」であったと認められる。
② 「不利益取な扱い」を行った理由について
第2回団交とその後の経緯からは、会社の組合に対する強い嫌悪の意思が認められるものであり、A2に対する残業指示の差別的取扱いとこれによる残業の減少は、同人が組合員であること、及び組合が正当な組合活動をしたことを理由とした不利益取扱いというべきである。
③ 不利益取扱いの成否について
A2に対する残業指示の差別的取扱いとこれによる残業の減少は、同人が組合員であること故の不利益取扱いであり、労組法7条1号の不当労動行為に該当する。
ウ 支配介入について
A2の残業の減少は、同人が組合員であることを嫌悪して行われた不利益取扱いであり、組合員を経済的に.圧迫することにより組合内部の動揺や組合員の脱退等による組織の弱体化を図るものとして、労組法7条3号の不当労働行為にも該当する。
3 争点3(業績時間外手当の支給停止について)
ア 不利益取扱いについて
① 「不利益取扱い」の存否について
会社はA2に対し、残業指指示について差別的取扱いを行い、残業を減少させ、29年5月頃からは、残業を一切しないよう度々指示していた。
加えて、会社が29年5月分給与から(支給日は6月22日)業績時間外手当4万円の支給を停止したことにより、基本給と残業代を合わせた額について、それまで、A2が働いていた時期と比較すると、A2の28年4月分給与(支給日は5月20日)では、およそ半減している。
そもそも「業績時間外手当」は、賃金規程で定められ、A2の賃金の一部を構成するものであり、その支給を一方的に停止することは、労組法7条1号にいう「不利益な取扱い」であったと認められる。
② 「不利益な取扱い」を行った理由について
会社は、A2に対する29年5月分給与(6月22日支給分)以降の「業績時間外手当」の支給を停止したが、この会社の行為は、団交に出席し、当労働委員会への救済申立てにも関わり、さらに、自身についての時間外手当に係る本件労働審判を申し立てるなどの組合活動を行うA2に対して、それまでは行っていた残業指示をしないことで「普通残業手当」の支給を受けられないという経済的不利益を与えることに加え、さらに「業績時間外手当」を支給しないことで困窮させようとする意図で行われたものと解さざるを得ないのであり、会社は、A2のこのような組合活動を嫌悪した上で「不利益取扱い」を行ったものといえる。
③ 不利益取扱いの存否について
A2に対する業績時間外手当の支給停止は、同人の正当な組合活動を理由とする不利益取扱いであり、労組法7条1号の不当労働行為に該当する。
ウ 支配介入について
A2に対する業績時間外手当の支給停止は、同人が組合員であり、本件労働審判の申立等の組合活動を行っていることを理由とした不利益取扱いであり、このような組合活動に対する意趣返しによって、組合員の組合活動を萎縮させる効果を与えるものであり、労組法7条3号の不当労働行為にも該当する。 |
掲載文献 |
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