労働委員会命令データベース

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概要情報
事件番号・通称事件名  東京都労委平成28年(不)第17号
申立人  X組合(「組合」) 
被申立人  Y会社(「会社」) 
命令年月日  平成30年7月23日 
命令区分  一部救済 
重要度   
事件概要   会社は、東京地裁が別件訴訟の判決(別件①東京地裁判決)において労働基準法第37条の趣旨に反し、無効であるとした申立外C2社と同じ内容のタクシー乗務員賃金規則(旧賃金規則)を採用していたが、旧規則改定に同意する旨の申立外C2組合の同意を得た上で、同規則改定を組合に通知し、改定後のタクシー乗務員賃金規則(本件賃金規則)を施行した。
 組合は、会社と旧賃金規則の改定や上記判決に関し、本件賃金規則における改定内容の変更や未払賃金の支払い等について数度にわたって団体交渉を行ったが合意に至らなかった。
組合は、未払賃金の消滅時効を中断すべく、上記判決と争点を同じくする未払賃金請求訴訟を提起することを決議し、提訴者を募ったところ、平成28年1月12日、組合員を含む会社従業員ら58名が、当該訴訟を提起した。
 会社は、27年12月以降、本件訴訟の原告である組合員A2ら12名が定年や契約期間満了を迎える際に、組合に対して労働者供給基本契約に基づく労働者供給契約の申込みを行わず、同人らとの間で定年後の雇用契約を締結しなかった(以下「本件再雇用拒否」という)。
2 本件は、組合の主張する以下の(1)ないし(4)の事実が認められるか、認められるとして不当労働行為に該当するか否かが争われた事案である。
(1) A2以下12名(以下「A2ら」という。)について、A2らが未払賃金請求訴訟を提起すること又は提起したことを理由に、組合に対して本件再雇用拒否をしたこと(労働組合法第7条第1号及び第3号)(争点1)
(2) 旧賃金規則改定に関して、本件多数組合と協議する一方で、申立人との間で旧賃金規則改定の提案をせず、団体交渉の機会を持たなかった等、本件多数組合と比して取扱いが異なること(労働組合法第7条第3号)(争点2)
(3) 平成27年5月26日以降に実施された旧賃金規則改定を議題とする団体渉における以下の対応
① 組合に対し、旧賃金規則改定により組合員が受ける不利益の程度等を把握するためのフォーマットを平成27年7月7日まで交付しなかったこと(労働組合法第7条第2号)(争点3①)。
② 旧賃金規則改定を実施し、本件多数組合との合意内容を既定路線として組合に押し付けるだけの不誠実な対応に終始したこと(労働組合法第7条第2号)(争点3②)。
(4) 平成27年5月26日以降に実施された未払賃金を議題とする団体交渉において、具体的な回答や紛争解決手段の提示を行わなかったこと(労働組合法第7条第2号)(争点4)。
3 東京都労働委員会は、会社に対し、①A2らのうち9名について、労働者供給契約に基づく1年間の有期契約での再雇用したものとしての取扱い、タクシー乗務員への復帰、75歳までの契約更新及びバックペイ、②従業員の労働条件を変更するに当たって申立外C1組合との差別取扱いの禁止、③それらについて文書掲示等を命じ、その余の申立てを棄却した。 
命令主文 
1 被申立人会社は、別紙1一覧表1「組合員」欄記載の申立人組合の組合員らを、同表「定年退職日」欄記載の日の翌日に労働者供給契約に基づく1年間の有期雇用契約で再雇用したものとし、同人らをタクシ一乗務員に復帰させるまで(ただし、同人らが復帰前に75歳で同表の「契約更新日」欄記載の日の前日を迎えたときは、同日まで)の間、同表の「契約更新日」欄記載の日付けで労働者供給契約に基づく雇用契約を更新したものとして取り扱うとともに、同表「定年退職日」欄記載の日の翌日以降、タクシー乗務員に復帰させるまで(ただし、同人らが復帰前に75歳で同表の「契約更新日」欄記載の日の前日を迎えたときは、同日まで)の間の賃金相当額を支払わなければならない。
2 被申立人会社は、別紙1一覧表2「組合員」欄記載の申立入組合の組合員らとの労働者供給契約に基づく1年間の有期雇用契約が同表の「契約更新年月日」欄記載の日付けで更新されたものとし、同人らをタクシー乗務員に復帰させるまで(ただし、同人らが復帰前に75歳で同表の「契約更新日」欄記載の日の前日を迎えたときは、同日まで)の間、同表の「契約更新日」欄記載の日付けで労働者供給契約に基づく雇用契約を更新したものとして取り扱うとともに、同表の「契約更新年月日」欄記載の日からタクシー乗務員に復帰させるまで(ただし、同人らが復帰前に75歳で同表の「契約更新日」欄記載の日の前日を.迎えたときは、同日まで)の間の賃金相当額を支払わなければならない。
3 被申立人会社は、今後、被申立人会社従業員の労働条件を変更するに当たり、申立外C1組合が同変更に同意してから申立人組合に当該労働条件の変更を提案するなどして、申立外C1組合と申立人組合とを差別して取り扱つてはならない。
4 被申立人会社は、本命令書受領の日から1週間以内に、下記内容の文書を55センチメートル×80センチメートル(新聞紙2頁大)の白紙に、楷書で明瞭に墨書して、被申立人会社従業員の見やすい場所に、10日間掲示しなければならない。
記.

年 月 日
 組合
 執行委員長 A1殿
会社
代表取締役 B1

 当社が貴組合の組合員A2氏、同A3氏、同A4氏、同A5氏、同A6氏、同A7氏、同A8氏、同A1氏及び同A9氏について、労働者供給契約の申込みをせず、同人らとの間で雇用契約を締結しなかったこと及びタクシ一乗務員賃金規則改定に関して、平成27年4月にC1組合と協議する一方で、貴組合に対しては同規則の改定を決定した5月12日に同規則を通知したことは、東京都労働委員会において不当労働行為であると認定されました。
 今後、このような行為を繰り返さないよう留意します。
(注:年月日は文書を掲示した日を記載すること。)
5 被申立人会社は、第1項、第2項及び前項を履行したときは、当委員会に速やかに文書で報告しなければならない。
6 その余の申立てを葉却する。

 別紙1一覧表1及び別紙1一覧表2 略 
判断の要旨  1 争点1について
 一般的には、労働者供給契約の申込みをするか否かは、使用者の裁量に委ねられているということができるが、既に雇用関係のある組合員が雇用契約の継続を期待することも無理からぬ事情がある場合には、労働者供給契約の申込みをするか否かに関する使用者の裁量はこの点において制約を受けるものであるから、当該組合員の組合活動を理由に本件再雇用拒否という不利益な取扱いを行ったような場合にあっては、本件再雇用拒否は、不当労働行為に当たるというべきである。
 会社は、19年7月24日以降、タクシー運転手として健康上等の問題がなければ、定年後も雇用継続を希望する従業員に対し、75歳まで雇用を継続すると表明し、これに従った運用を行ってきたところである。そして、このような雇用継続の運用実態は、労働者供給基本契約の採用によっても変更されたとは認められないのであるから、会社における労働者供給契約の申込みは、純然たる新規採用ではなく、既に雇用関係にある者の定年後の継続雇用とみるべきであり、A2らにおいても、健康面等やタクシー乗務員としての資質に格別の支障がなければ75歳まで雇用契約が継続されることを期特することも無理からぬ事情があったと認められる
 会社は、組合との団体交渉の場で、組合に提訴をやめることを求める発言をし、提訴後に一部の組合員に対して、本件出訴確認書を交付したことを踏まえると、本件訴訟の提起は、会社にとって重大な関心事であったと認められる。
 会社は、A14について、労働者供給契約の申込みをしないと通知したが、A14が訴えを取り下げると同通知を撒回した。この点につき、B3執行役員は、訴えの取下げも考慮して撤回したと証言しているが、その撤回時期からして、本件訴訟の原告であるか否かが労働者供給契約の申込みの最も重要な要素となっていたことが認められる。
 上記の事実に加え、B2社長が会社を提訴するような人と雇用契約を締結するつもりはない旨を公言し、B3執行役員も提訴したら敵対組合とみなさざるを得ない旨述べるなど、本件訴訟を提起したことにより本件再雇用拒否をしたと認める発言をしていることを踏まえると、他にこれを覆す特段の事情がない限り、会社は、A2らが本件訴訟を提起したことを理由として本件再雇用拒否をしたと認めるのが相当である。
(3) 会社が、A2~A8、A1委員長及びA9について本件再雇用拒否をしたことに合理的な理由があるとする会社の主張は、いずれも採用することができないのであるから、同人らの組合活動として行った本件訴訟を理由としたものであるといわざるを得ない。
 したがって、会社の上記行為は、組合活動を理由とした不利益取扱いに当たるとともに、組合活動の意欲を削ぐことを企図した組合の運営に対する支配介入にも当たる。
 他方、会社がA10について本件再雇用拒否をしたことは、同人が1年間の契約期間のうち、契約期間満了時を含む約8か月間出動しなかったためであると認められるので、不利益取扱い及び支配介入には当たらない。
 同じく、会社が、A11及びA12について本件再雇用拒否をしたことは、同人らが75歳以上であったためであると認められるので、不利益取扱い及び支配介入には当たらない。
2 争点2について
 複数の労働組合が併存している状況では、使用者は各労働組合に対して中立的態度を保持しなければならず、差別的な取扱いをすることは支配介入に当たる。会社は、本件多数組合に本件賃金規則を提案し、協議を行う一方で、組合に対しては、何ら提案をせず、協議も一切しないまま本件賃金規則に改定し、同規則の内容及び施行日が5月18日であることだけを通知している。このような会社の対応は、労働組合間の取扱いの中立性を欠き、本件多数組合と比較して少数組合である申立人組合を差別的に取り扱ったものといわざるを得ず、支配介入に当たる。
3 争点3①及び3②について
ア 争点3①について
 組合は、平成27年5月26日の第1回団体交渉及び同年7月2日の第2回の団体交渉で会社に対して本件フォーマットの提出を求め、会社は、同年7月7日に本件フォーマットを組合に交付したことについて、会社の対応は、不誠実であったとまでいえない。
イ 争点3②について
 会社が旧賃金規則の改定に関する団体交渉について、本件多数組合との合意内容を既定路線として押し付けるだけの不誠実な対応に終始したということはできず、会社の対応は、不誠実な団体交渉には当たらない。
4 争点4について
 本件結審日(30年2月19日)現在において、本件訴訟及び別件訴訟はいずれも確定していないのであるから、本件訴訟及び別件訴訟が議題になった第1回団体交渉ないし第3回団体交渉及び第6回団体交渉ないし第8回団体交渉において、会社が具体的な回答や紛争解決策を提示しなかったとしても、会社の対応が不誠実であるということはできない。 
掲載文献   

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