事件番号・通称事件名 |
神奈川県労委平成28年(不)第18号
ほうび等(その2)不当労働行為審査事件 |
申立人 |
X組合(「組合」) |
被申立人 |
Y1会社、Y2会社、Y3会社 |
命令年月日 |
平成30年7月2日 |
命令区分 |
棄却 |
重要度 |
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事件概要 |
本件は、被申立人Y1会社で雇用され、被申立人Y2会社に派遣さ
れて、被申立人Y3会社埼玉工場内で軽量コンクリートパネルの梱包作業に従事していた申立人組合の組合員であるA2の労働問
題等に係る団体交渉について、①Y1会社が、団体交渉において組合に事前の承諾を得ることなく、団体交渉の様子を録音したこ
と及び②団体交渉に形式的には応じるものの、具体的な解決案を提示しなかったこと、③Y2会社及びY3会社が、組合の申し入
れた団体交渉に使用者性がないとして応じなかったことが不当労働行為であるとして救済申立てのあった事件で、神奈川県労働委
員会は申立てを棄却した。 |
命令主文 |
本件申立てをいずれも棄却する。 |
判断の要旨 |
1 争点①(平成28年7月11日に開催された団体交渉における
Y1会社の対応が、不誠実な交渉態度及び支配介入に当たるか否か。また、その後の組合に対するY1会社の対応が、不誠実な交
渉態度に当たるか否か。)
組合とY1会社は、平成28年7月11日、本件解雇問題等を議題として第1回団体交渉を行っており、同交渉で、Y1会社は
冒頭から組合に承諾を得ず交渉を録音した。しかし、録音の目的は議事録の作成であること、Y1会社は録音自体をICレコー
ダーを机上に置いて行っており組合に隠れて録音するという意思は認められないこと、Y1会社は組合の指摘を受けて録音を中止
していることからすると、組合の承諾を得ずに録音したことのみを捉えて団体交渉を軽視した態度ということはできない。
Y1会社は、同交渉において、組合に対し、本件解雇問題等に係る回答を記載したY1会社28.7.11回答書を交付した。
そして、労使間で同文書に関するやり取りが行われた。このように、Y1会社は、A2の雇用契約上の使用者として、組合から申
し入れられた団体交渉に応じるとともに、組合が回答要求した事項に対するY1会社の見解を文書で提示しており、団体交渉にお
ける使用者の対応として問題があるとはいえない。また、Y1会社は組合の提示した解決金に対して回答の猶予を求めたが、解決
金の提示が第1回団体交渉であったことからすると、Y1会社の対応は当然であり、非難すべき点はない。
以上のことから、第1回団体交渉におけるY1会社の対応に不誠実な点は認められない。
Y1会社28.7.21連絡書は、第1回団体交渉で回答猶予を求めたY1会社が、同交渉の結果を踏まえ、Y1会社の考えを
組合に対して伝えるために作成したものである。さらに、同文書には、A2が要求した離職票の交付に係るY1会社の具体的な対
応及び団体交渉の議題として組合が当初より掲げていた年次有給休暇問題に係るY1会社の解決案が記載されており、その内容を
みても、Y1会社は、A2の離職理由について、会社都合退職ではなく「労働者の判断によるもの」とする一方で、会社都合によ
る退職が認められる余地があることについても説明する記載をしている。
これらのことからすると、Y1会社は、組合員の要求事項と組合が回答要求した事項について、組合に対し、一定の見解を提示
したということができ、その対応に何ら問題はない。
よって、第1回団体交渉以降のY1会社の対応に不誠実な点は認められない。
以上のことからすれば、平成28年7月1l日に開催された団体交渉におけるY1会社の対応は、不誠実な交渉態度にも支配介
入にも当たらない。また、その後の組合に対するY1会社の対応も、不誠実な交渉態度には当たらない。
2 争点②(Y2会社は、A2との関係で、労組法第7条の使用者に当たるか否か。また、Y2会社が使用者に当たる場合、同社
が、組合の団体交渉申入れに応じなかったことは、正当な理由のない団体交渉拒否に当たるか否か。)
平成28年6月3日、B4とA2が同日の残業を巡ってやり取りをした後、Y2会社のB5は、A2に対し帰宅するよう述べた
に過ぎない。また、Y2会社は、Y1会社を通じてA2にY2会社に戻るよう伝えている。さらに、Y2会社が労働契約上の雇用
主であるY1会社に対し、A2を解雇するよう働きかけたという事情も認められない。
これらの事実からすると、Y2会社が「A2に対する不当解雇」について関係がなく、処分可能な立場にはないことは明らかで
ある。
派遣元会社と派遣先会社との間で締結される労働者派遣契約と、派遣元会社と派遣労働者との間で締結される雇用契約は、それ
ぞれ当該契約の当事者間で任意に締結されるものであるから、組合が主張するように、Y2会社からY1会社に対して支払われる
派遣料額では、Y1会社がA2との関係で支払うべき法定福利費をまかなうことが困難であるとしても、それはY1会社が責任を
負うべきことである。また、Y1会社に支払うべき派遣料額を低くすることによって、Y2会社がY1会社のA2に係る法定福利
費の負担を困難にしていたという事情も認められない。
そうすると、本件の団体交渉議題である本件解雇問題等のうち、社会保険未加入、雇用保険未加入について、Y2会社が処分可
能な立場にはないことは明らかである。
さらに、本件の団体交渉議題である本件解雇問題等のうち、年次有給休暇未交付については、雇用主であるY1会社とA2との
間の問題であることは明らかである。また、組合からは、年次有給休暇未交付についてY2会社が処分可能な立場にあったという
立証もされていない。
以上の判断からすると、Y2会社は、雇用主であるY1会社と部分的とはいえ、同視できる程度に現実的かつ具体的に支配、決
定できる地位にあったとはいえず、本件解雇問題等について、労組法第7条の使用者には当たらない。
3 争点③(Y3会社は、A2との関係で、労組法第7条の使用者に当たるか否か。また、Y3会社が使用者に当たる場合、同社
が、組合の団体交渉申入れに応じなかったことは、正当な理由のない団体交渉拒否に当たるか否か。)
B4が、平成28年6月3日、A2に対して帰るよう述べたことには争いはないものの、Y3会社はA2の雇用主ではない以
上、そもそも同人を解雇する権限を有していない。加えて、B4がY3会社埼玉工場の生産部品質保証課の一従業員に過ぎないこ
と、Y1会社はA2を解雇していないことからすると、B4がA2に対して帰るよう述べたことが、解雇に当たるという組合の主
張はその前提を欠き、失当である。
さらに、B4がA2に対して梱包の補助や梱包の方法についてアドバイスしたことはあっても、日常的にA2に対して作業指示
や残業指示をしていたという事実は認められない。
これらのことからすると、Y3会社がA2の労働条件等について、雇用主であるY1会社と部分的とはいえ、同視できる程度に
現実的かつ具体的に支配、決定できる地位にあったとは認められない。
以上のことから、Y3会社は、本件解雇問題等について、労組法第7条の使用者には当たらない。 |
掲載文献 |
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