労働委員会命令データベース

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概要情報
事件番号・通称事件名  東京都労委平成27年(不)第54号
シャルレ(代理店)不当労働行為審査事件 
申立人  X組合(組合) 
被申立人  Y会社(会社) 
命令年月日  平成30年4月3日 
命令区分  却下 
重要度   
事件概要   平成27年4月頃から、会社は、年間仕入額が600万円未満となることが見込まれる代理店の契約解除を行った。
 同年5月27日及び6月8日、会社の商品を販売する代理店を営む者(以下「代理店主」という。)が結成した組合及びその上部団体が、会社に対し、契約解除の撒回を求めて、団体交渉を申し入れたところ、会社は、団体交渉としては応じないが、意見交換の機会として応じる旨を回答した。
 本件は、①本件における代理店主は、労組法上の労働者に当たるか否か、②労組法上の労働者に当たる場合、当該団体交渉の申入れに対して、会社が、意見交換の機会として応ずると回答したことは、正当な理由のない団体交渉拒否に当たるか否かが争われた事案である。
 東京都労働委員会は、申立てを却下した。


 
命令主文  本件申立てを却下する。 
判断の要旨  1 本件における代理店主は労組法上の労働者に当たるか否かについて(争点1)
 労組法は、使用者と経済的に対等な立場に立つとはいえない労務供給者について、労働組合を結成し使用者と団体交渉を行うことによって、労働条件等の対等決定を図ることを促進することを目的としており(同法第1条)、この労組法の趣旨及び性質からすれば、同法が適用される「賃金、給料その他これに準ずる収入によって生活する者」(同法第3条)に当たるか否かは、契約の名称等の形式のみにとらわれることなく、その実態に即して客観的に判断する必要がある。
 そして、その該当性の判断は、労組法の趣旨及び性質に照らし、実際の代理店主の業務実態に即して、事業組織への組入れ、契約内容の一方的・定型的決定、報酬の労務対価性、業務の依頼に応ずべき関係、広い意味での指揮監督下での労務提供、一定の時間的場所的拘束、顕著な事業者性の有無などの諸要素を総合的に考慮して判断すべきである。
(1) 事業組織への組入れについて
ア 本件代理店契約の目的について
 本件代理店契約では、代理店が、会社から商品を買い受けるとともに、その商品を販売することが契約の目的とされ、併せて、会社の定めたビジネスルールを遵守して業務を行うことや、傘下の下位販売者を支援、育成することが代理店の責務として定められている。
 会社は、売上げのほとんどを代理店への商品販売に依存しているのであるから、本件代理店契約は、単に会社と代理店との間の商品売買の条件等を定めたものにとどまらず、実質的には、会社が自社商品の販売組織を確保することを目的として締結されているとみるのが相当である。
イ 第三者に対する表示について
 代理店主が使用する名刺は、一般的には、会社が作成した会社の商標入りの様式を用いることとされており、また、商品を購入した消費者へ交付する「お申込書」、「納品・領収書」等には、「担当者」欄や「担当者コード」欄が設けられ、代理店等は、その欄に自己の屋号や氏名等を記載していることからすれば、会社は、代理店に対して、会社の販売担当者として対外的に表示することを求めているということができる。
ウ 専属性について
 代理店は、類似ビジネス以外の事業であれば、兼業することについての制限はなく、実際に兼業を営む代理店主も存在しているが、組合員である代理店主の業務の従事時間をみると、代理店主は、実態として、専属的に代理店業務に従事していることが窺われる。
エ 会社組織への組入れ状況について
 代理店は、会社が定めるビジネスルールに従って、会社の商品のみを扱う代理店を頂点とした販売組織を形成しており、また、下位販売者への支援、育成及び情報提供が義務づけられている。
 そして、本件代理店契約には、代理店主自らが業務を行わなければならない定めはないものの、販売業務及び支援・育成業務は手順化、定型化されておらず、また、代理店主には、上記契約の締結及び変更時の研修受講義務があることからすれば、代理店が行う販売業務及び支援・育成業務は、ある程度は代理店主自身が自己の商品知識や指導技術等を活用して行うことが予定された業務であるとみるべきである。
 さらに、代理店を含めたビジネスメンバーには、昇格や降格を伴うポジション制度が設けられ、代理店主の事業継承や法人の代理店の代表者変更時には会社の承認が必要とされることなどからすれば、代理店は、会社の販売組織として組み入れられて業務を行っているといえる。
オ 以上のとおり、本件代理店契約の実質的な目的、第三者への表示内容、専属的な業務実態が窺われること及び会社組織への組入れ状況からすれば、代理店は、会社の商品販売事業を遂行するために不可欠なものとして、会社の販売組織に組み入れられて業務を行っている。
(2) 契約内容の一方的・定型的決定について
 本件代理店契約は、会社が作成した.統一、共通の契約書様式が用いられ、また、代理店ボーナスの算出方法や支払要件などを定めたCBI等についても全代理店に共通であり、会社と代理店とが個別に交渉して、それらの内容を決定することは予定されていない。
 そして、本件代理店契約は自動更新されており、本件代理店契約書やCBI等の改定内容についても会社が決定しているのであるから、本件代理店契約の締結、更新及び変更のいずれにおいても、会社がその内容を一方的、定型的に決定しているといえる。
(3) 報酬の労務対価性について
ア 代理店の主な収入は、下位販売者への卸売による販売差益と代理店ボーナスであるといえる。
イ 卸売による販売差益は、代理店が下位販売者から発注を受けて商品を卸売販売することにより生じる利益であるところ、下位販売者が代理店に行う発注は、下位販売者が営業活動を行い顧客から成約を得て.販売に必要な商品を調達するものであるから、代理店が行った支援・育成業務が下位販売者の営業成果等に寄与することはあるとしても、直接的には、下位販売者自身による営業成果や販売力に依存しているといえる。
 また、代理店が下位販売者から受注する数量の多寡は、一定の販売力を備えた傘下の下位販売者の数に大きく左右されるとみるのが相当であるから、代理店が得る販売差益は、代理店主自身の労務に対して会社から支払われる報酬とみることはできない。
ウ 代理店ボーナスには、代理店が一定額以上の商品仕入れを行うこと等の支払要件が設けられ、代理店ボーナスが支払われている代理店は限られている。また、育成料の支払は、育成代理店への支援活動の継続が前提とされているものの、会社は代理店の支援活動の有無等を確認していない。
 全ての代理店が下位販売者への支援・育成業務を行っている一方で、多くの代理店には代理店ボーナスが支払われておらず、また、会社は、代理店の支援活動の有無や内容を確認することなく、代理店ボーナスを支払っているのであるから、代理店ボーナスが、代理店主の労務に対して計算されたものとみることは困難である。
 さらに、代理店ボーナスは、代理店や育成代理店の会社からの商品の仕入れ金額に応じて支払われているところ、代理店が行う商品仕入れは、下位販売者の数や販売力等に依存したものである等、代理店が得る代理店ボーナスは、代理店主の労務に対して会社から支払われる報酬とみることはできない。
エ したがって、代理店の得る収入は、代理店主の労務提供に対する対価又はそれに類する収入であるということはできない。
(4) 業務の依頼に応ずべき関係について
 代理店は、年間600万円分の商品仕入れや下位販売者への支援・育成業務等を契約上の義務として負っているとはいえるが、それらは包括的なものであり、また、会社から、小売業務、卸売業務、支援・育成業務及び付随的業務に係る具体的ないし個別の依頼を受けずに業務を行っているのであるから、会社からの個別の業務の依頼に対して応ずべき関係にあるということはできない。
(5) 広い意味での指揮監督下の労務提供、一定の時間的場所的拘束について
 代理店は、自己の裁量にて、具体的な業務内容、時間、場所などを決定しており、会社から、マニュアル等を通じて具体的な業務上の指示を受けているとも、時間的、場所的な制限を受けて業務を行っているともいえない。よって、代理店は、会社から広い意味での指揮監督下に置かれているとも、一定の時間的場所的拘束を受けているともいえない。
(6) 顕著な事業者性について
 代理店は、本件代理店契約上の一定の制約事項等の下で業務を行っているものの、業務を行うに当たって、自らの裁量に基づいて業務内容を差配し、自己の才覚にて利益を増加させる機会が現実に存在しており、一方で自らが損失を被る営業上のリスクを全て負担している。
 また、代理店は、代理店業務を行うために他人労働力を自由に使用しており、個人と同じ契約内容で業務を営む法人も一定数存在しているのであるから、代理店には、強い事業者性を認めることができる。
(7) 結論
 本件における代理店は、①会社の事業遂行に不可欠な販売組織として組み入れられており、②会社が本件代理店契約の内容を一方的・定型的に決定しているということができるが、③代理店が得る収入に労務対価性は認められず、④会社からの個別の業務の依頼に応ずべき関係にあるということもできず、⑤業務の遂行に当たり会社の指揮監督下に置かれているとも、時間的場所的な拘束を受けているともいえない一方、⑥強い事業者性を認めることができる。
 以上の事情を総合的に勘案すれば、本件代理店主は、自己の裁量にて、傘下の下位販売者により形成される組織の維持及び拡大を図りつつ、本件代理店契約や会社のビジネスルールに従って商品を販売する会社の事業取引の相手方とみるほかなく、会社との関係において、労組法上の労働者であると認めることはできない。
2 労組法上の労働者に当たる場合、27年5月27日及び6月8日付けの組合の団体交渉の申入れに対して、会社が、意見交換の機会として応ずると回答したことは、正当な理由のない団体交渉拒否に当たるか否かについて(争点2)
 本件における代理店主が労組法上の労働者に当たらないことは上記判断のとおりであるから、争点2については判断を要しない。
 
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