労働委員会命令データベース

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概要情報
事件番号・通称事件名  徳労委平成29年(不)第1号
ユーセイホールディングス不当労働行為審査事件 
申立人  X組合(「組合」) 
被申立人  Y会社(「会社」) 
命令年月日  平成30年4月12日 
命令区分  一部救済 
重要度   
事件概要   本件は、会社が、申立人組合の組合員であるA2に対し、①平成27年及び平成28年の夏・冬賞与の支給に当たり、平成26年の夏・冬賞与額を下回る額を支給したこと、②平成26年7月を最後に、昇給を凍結(停止)していること、③マイナンバーの未提出を理由に、平成28年分の年末調整手続を行わなかったこと、④平成28年2月18日及び平成29年2月21日付けの組合からの団体交渉申入れに会社が応じなかったこと、が不当労働行為であるとして救済申立てのあった事件で、徳島県労働委員会は、会社に対し、誠実団交応諾、④について文書の交付及び履行報告を命じ、平成27年夏・冬賞与の減額に関する申立ては却下し、その余の申立てを棄却した。 
命令主文  1 被申立人株式会社は、申立人組合から、平成28年2月18日及び平成29年2月21日付けで申入れのあった事項を議題とする団体交渉に、速やかにかつ誠実に応じなければならない。
2 被申立人は、本命令交付後10日以内に、申立人に対し、次の文書を交付しなければならない。
 平成 年 月 日(注 文書を交付した日を記載すること)
 組合
  執行委員長 A1 様
会社           
代表取締役 B1

 当社が、組合から、平成28年2月18日及び平成29年2月21日付けで申入れのあった団体交渉に応じなかったことは、徳島県労働委員会において、労働組合法第7条第2号に該当する不当労働行為であると認められました。
 今後は、このような行為を繰り返さないようにいたします。
3 平成27年夏・冬賞与の減額に関する申立ては却下する。
4 その余の申立てを棄却する。
5 被申立人は、第1項及び第2項を履行したときは、当委員会に速やかに文書で報告しなければならない。 
判断の要旨  1 平成27年夏・冬賞与に関する救済申立期間について(争点1)
 会社の従業員への賞与に係る考課は、夏賞与、冬賞与ごとに、それぞれ独立して行われ、その考課に基づく一時金の支給行為は、1回限りのものであると認められる。
 したがって、平成29年4月5日になされた救済申立てのうち、平成27年6月30日に支給された夏賞与及び平成27年12月30日に支給された冬賞与に係る格差の是正に関する申立ては、それぞれ支給の日から1年を過ぎており、救済申立期間を徒過した不適法なものと言わざるを得ず、これを却下するのが相当である。
2 平成27年及び平成28年の夏・冬賞与の支給について(争点2)
 会社の人事考課制度は、従業員の業務成績等を評価し、賞与や昇給等の実施に際し、その基礎資料として活用するもので、その制度自体は、分会結成通告前の平成22年4月1日に、全従業員を対象に導入されたものである。
 また、会社が人事考課の際に用いる人事考課表について見ると、評価すべき項目が具体的に示されており、さらに、被考課者自身も自己評価を行い、反省や今後の課題を記載する様式となっているなど、一定の客観性、合理性を保つよう配慮されていることが認められる。
 以上のことから、会社の人事考課制度は、労働者を分断し、団結権を破壊するものであるとの組合の主張を採用することはできない。
 平成27年夏賞与に係る人事考課は、平成26年10月1日から平成27年3月31日までの考課対象期間についてなされたものであり、また会社が分会結成を知ったのは、組合から分会結成通告を受けた平成27年6月30日であることから、A2組合員の平成27年夏賞与額の決定・支給については、不当労働行為意思がなく、労働組合法第7条第1号に規定する不利益取扱いであるとは認められない。
 平成27年冬賞与に係る考課対象期間中のA2組合員の勤務状況は良好といえるものではなかった。
 一方、会社は、A2組合員に対し、同年冬賞与として、同年夏賞与と同額を支給しているが、A2組合員の勤務状況が改善していないことから、同年夏賞与と同様、同年冬賞与に係る人事考課も不合理とまでは認められず、不当労働行為意思を推認することはできない。
 以上のことから、A2組合員に対する、平成27年冬賞与額の決定・支給については、労働組合法第7条第1号に規定する不利益取扱いとは認められない。
 指導の結果が勤務状況の改善に繋がっていない以上、「指導を活かして改善する態度がなかった。」として、過去に同じ評価点数であったときの賞与算定評価率より10%低くしたことは、あながち不合理とまでは認められない。
 また、平成27年の会社の指導が十分に活かされていないことを踏まえての評価ということを勘案すると、平成27年夏賞与に係る評価点数24点、及び同年冬賞与に係る評価点数26点と比較しても、平成28年の夏賞与に係る施設長の評価点数24点が、特に不自然とまではいえず、そのほかに反組合的意図を認めるに足る証拠もない。
 以上のことから、平成28年夏賞与額の決定・支給については、会社の不当労働行為意思を推認することはできず、労働組合法第7条第1号に規定する不利益取扱いとは認められない。
 平成28年冬賞与の考課対象期間中においても、同年夏賞与の考課対象期間中と比べてもより多くの指導がなされているにもかかわらず、A2組合員の勤務状況は改善していないことから、同年夏賞与時より施設長の評価点数を6点低くし、賞与算定評価率を30%とした平成28年冬賞与に係る人事考課は、不合理とまでは認められない。
 施設長評価について、反組合的意図を認めるに足る証拠もない。
 以上のことから、平成28年冬賞与額の決定・支給については、会社の不当労働行為意思を推認することはできず、労働組合法第7条第1号に規定する不利益取扱いとは認められない。
3 昇給停止について(争点3)
 A2組合員の職務手当(昇給)は、同人の昇給月である平成27年7月に昇給をしないことが決定されており、この決定によるA2組合員の職務手当の最後の支払月が、平成28年6月であることから、平成29年4月5日になされた本件救済申立ては適法である。
 平成27年夏・冬賞与に係る人事考課は、不合理とまでは認められないことから、考課対象期間がほぼ重なる平成27年7月度の昇給に係る人事考課にも一定の合理性が認められること、また、考課対象期間が重ならない期間についても、A2組合員自身が、その間も勤務状況に変わりがない旨証言していること等から、A2組合員の昇給を停止したことは、特に不自然とまではいえず、そのほかに会社の反組合的意図を認めるに足る証拠もない。
 以上のことから、A2組合員の平成27年7月度の昇給停止については、会社の不当労働行為意思を推認することはできず、労働組合法第7条第1号に規定する不利益取扱いであるとは認められない。
 平成28年夏・冬賞与に係る人事考課は不合理とまでは認められないことから、考課対象期間がほぼ重なる平成28年7月度の昇給に係る人事考課にも一定の合理性が認められること、また、考課対象期間が重ならない期間についても、A2組合員自身が、その間も勤務状況に変わりがない旨証言していること、加えて、平成28年7月度の昇給に係る考課対象期間におけるA2組合員の勤務状況については、書証として提出されたA2組合員に対する指導メモに詳しく記載されており、それによると、利用状況報告書や退所時連絡表等の作成状況は決して良好なものとはいえず、平成27年7月度昇給に係る考課対象期間中の動務状況と比較して、改善しているとは考えられないこと等から、A2組合員の昇給を停止したことは、特に不自然とまではいえず、そのほかに会社の反組合的意図を認めるに足る証拠もない。
 以上のことから、この期間における、A2組合員の組合活動が、A2組合員の昇給を停止した決定的な動機であるとはいえないことから、平成28年7月度においてA2組合員の昇給を停止したことについても、会社の不当労働行為意思を推認することはできず、労働組合法第7条第1号に規定する不利益取扱いとは認められない。
4 年末調整手続について(争点4)
 単にマイナンバーの提出がなかった事実に起因して、会社の誤った認識によりA2組合員の年末調整手続が行われなかったという結果を惹起したものと判断するのが相当である。
 したがって、A2組合員の平成28年分の年末調整手続を行わなかったことに反組合的意図は認められず、労働組合法第7条第1号に規定する不利益取扱いとは認められない。
5 団体交渉に関する救済申立期間について(争点5)
 会社の団体交渉拒否が明らかとなったのは、早くても、平成28年4月9日であり、平成29年4月5日になされた本件救済申立ては適法となる。
6 団体交渉に応じなかったことについて(争点6)
 会社側の証人で本件の補佐人ともなっているB10は、過去の団体交渉以降、団体交渉を行わなかったのは、日程調整ができなかったためである旨証言している。
 また、過去の団体交渉の議事録を見ると、組合の主な交渉事項として、A2組合員の賞与減額理由を明らかにするよう求めているが、会社は、介護報酬用の減額という理由以外は、経営権に関することとして、一切の回答をしなかったことから、組合は、平成28年2月18日及び平成29年2月21日付けで、賞与の減額問題や基本給のアップ等を求めて団体交渉の申入れを行った。
 なお、賞与の支給は、労働者にとって、重大な労働条件の一つであり、その減額理由についても、いわゆる義務的団体交渉事項に当たることから、会社は、可能な限り関係資料を提示して、その理由を具体的に説明する必要があり、経営権を理由に一切の回答をせず、これ以上、団体交渉を継続することは困難であるというようなことは許されないのであって、ましてや日程調整ができなかったという理由は到底許されない。
 また、賞与の減額問題以外の議題についても、会社は、組合と対面の上、交渉議題に応じた適切な資料により、具体的に説明すべきであったところ、そのような説明も行っていない。
 以上のことから、会社が、平成28年2月18日及び平成29年2月21日付けで、組合から申入れのあった事項を議題とする団体交渉に応じなかったことに正当な理由はなく、労働組合法第7条第2号に規定する不当労働行為であると認められ、会社は速やかにかつ誠実に団体交渉に応じなければならない。 
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